交通事故損害賠償請求額の計算の仕方
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
Ⅰ.保険会社から損害賠償額の提示があったら、弁護士基準で請求できる損害賠償額を、図書館から「赤い本」(「民事交通訴訟損害賠償額算定基準」)を借りるなどして調べてみましょう
1.入通院慰謝料
①入院期間・通院期間を基礎として算定します(赤い本 別表Ⅰ)
②むち打ち症で他覚所見がない場合等は(赤い本 別表Ⅱ)
*考慮すべき特例があります。
*あなたに過失(落ち度)がある場合は過失割合分を引いて算出します。※下記Ⅱ-4⃣参照
2.「後遺症慰謝料」
■「後遺障害等級認定票」の等級を基礎として算定します(赤い本)
*あなたに過失(落ち度)がある場合は過失割合分を引いて算出します。※下記Ⅱ-4⃣参照
3.「後遺症による逸失利益」
■基礎となる年収額(※1)に、後遺障害により失われた労働力の割合(労働能力喪失率(※2)と、労働能力喪失期間(※3)に対応した「中間利息控除係数(※4)」を掛けて算出します。
※1 基礎となる年収額:給与所得者は、原則として、事故の前年1年間の現実の収入額とされます。
※2 労働能力喪失率:労働能力喪失表(「自動車損害賠償責任保険の保険金等及び自動車損害賠償責任共済の共済金等の支払基準」の別表)で調べます。
・後遺障害等級表右端の数値を参照
・労働能力喪失率は、個々の被害者によって異なります。上記は一応の基準であり、職業、年齢、性別、障害の部位・程度、事故の前と後との稼働状況等によって決められます。
※3 労働能力喪失期間:原則として、症状固定日から67歳迄の期間とされます。
※4 中間利息控除係数:ライプニッツ係数表で調べます。
4.「過失割合」による減額分
□保険会社の提示した「過失割合」をチェックするときは、「赤い本」・「民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準」(判例タイムズ社刊)を参照して「類型」の選択と「修正要素」の判断が妥当であるか否かを調べます。
Ⅱ.損害項目別の損害賠償請求額の計算 ※ 金額は弁護士基準(赤い本)による
1⃣ 傷害事故の場合
1.治療費関係費
■治療費、施術費、入院費。診断書作成料など文書料。後遺障害が認定された場合は後遺障害診断書作成料
■治療費は、健康保険を使った場合、支払済みの本人負担分も請求できます。
■入院中の特別室料や差額ベッド代は、原則認められません。(医師の指示等特別な理由があれば認められます)
2.付添費用
■医師の指示がある場合等、請求できます。
(1)入院付添費
①職業付添人(実費)
②近親者付添1日6,500円×入院付添日数
(2)通院付添費
■1日3,300円×通院付添日数
3.雑費
(1)入院雑費(入院中に必要になった日用雑貨や電話代など)
■1日1,500円×入院日数
4.通院交通費(実費)
■タクシー、ハイヤーは傷害の部位・程度、年齢、交通の便等により相当性が認められる限度内です。領収書を保存しておきます。
■電車・バスは、通院日・運賃を記録しておきます。
■自家用車は、ガソリン代、高速代、駐車料金の実費です。
5.休業損害
□給与所得者の場合
■「休業損害証明書」に基づき算定
■算定基礎日額×実休業日数(実際に休んだ日数)
・治療期間の範囲内で認められます。長管骨骨折、脊柱の骨折・変形によるギプス装着期間については、治療日数と同様に取り扱われます。
■1日当り賃金(算定基礎日額)は、事故前3ヶ月間の基本給+付加給の合計を90で割り日額を出します。
□日雇・非常傭日給者の場合
・日給が一定の場合 日給×(事故前3ヶ月間の就労日数÷90)×休業日数
・日給が定まっていない場合 (事故前3ヶ月間の総収入金額÷90)×休業日数
□会社の役員の場合
・役員報酬の労働対価部分(利益配当部分は認められません)
※この金額が5,700円を下回る場合は5,700円で認定されます。(自賠責支払い基準)
※上記の金額が5,700円よりも高く、給料明細等で証明できる場合はその金額。上限は19,000円(自賠責支払い基準)
□事業所得者の場合
■商業、鉱工業、農林水産業、その他の自由業者
・自由業者とは、報酬、料金または謝金で生計を営む者のことです。開業医、弁護士、著述業、プロスポーツ選手、芸能人、芸術家、保険代理店、歩合制の外交員などがあります。
■事故前年の申告所得額÷365×休業日数
※事案によっては、家賃、従業員の給与、租税公課、減価償却費、利子割引料など固定経費を申告所得に加算します
□主婦の場合
■全女性の平均賃金から算出される算定基礎日額(「賃金センサス」)
※自賠責保険の場合は5,700円
□休業補償はいつまでもらえるか
■軽症の場合やむち打ち症で事故から3か月以上経過している場合などは休業の必要性の証明が必要です。
■医師に仕事内容をお話しし、現在の症状からして仕事を休んだり制限したりしなければならない旨の診断書を作成してもらいます。
6.その他
■重度の後遺障害のため、将来にわたって付添看護を要する場合は、将来の付添看護費(介護費)を、原則平均余命までの分、前払いしてもらえます。(中間利息分控除)
■装具購入費 義肢・義歯・義眼・眼鏡・補聴器・松葉杖等、医師が必要と認めた場合の実費。
■ケガのため進級が遅れた場合の学費
■弁護士費用
7.傷害慰謝料
■慰謝料の算定は定型化・定額化されています。
■入院期間・通院期間を基礎として算定します(赤い本 別表Ⅰ、別表Ⅱ)
※むち打ち症で他覚所見がない場合(症状を裏付けるMRI等の画像所見がない場合等)は 別表Ⅱ
■計算方法
・1か月単位(30日扱い)の別表の金額+端数月分です。
※端数月分は(「整数月数+1の月数」の別表Ⅰ又は別表Ⅱの金額)-(1か月単位(30日扱い)の別表Ⅰ又は別表Ⅱの金額)×端数日数/30日
■増額されるケース
①頭部などケガをした箇所やその程度から重篤なケースといえる場合
②加害者に無免許、ひき逃げ、酒酔い運転、赤信号無視などがある場合
③著しく不誠実な態度(虚偽の供述を繰り返すなど)がある場合
8.後遺症慰謝料
①被害者本人の後遺症慰謝料
②近親者の慰謝料
■認定された「後遺障害等級」に基づき、「赤い本」の後遺障害等級表を参照算定します。
9.後遺症による逸失利益
■認定された「後遺障害等級」、「事故前年度の年収」、「症状固定時の年齢」に基づき算定します。
■逸失利益の計算式(ライプニッツ式)
・「事故前年度の年収」×「労働能力喪失率」×「ライプニッツ係数」
※後遺障害等級表で等級が分かります。
※労働能力喪失率:後遺障害等級表右端の数値を参照
・労働能力喪失率は、個々の被害者によって異なります。上記は一応の基準であり、職業、年齢、性別、障害の部位・程度、事故の前と後との稼働状況等によって決められます。
※ ライプニッツ係数:ライプニッツ係数表を参照
2⃣ 死亡事故の場合
1.~5. 上記 1⃣ 傷害事故の場合に同じ ※事故後入院治療等を行った場合です。
6.葬儀関係費用
■戒名・読経料、葬儀社に支払う費用。
■原則150万円、これを下回る場合は実費
7.死亡慰謝料
■一家の支柱の場合 2,800万円
■母親・配偶者の場合 2,500万円
■その他の場合 2,000万円~2,200万円
8.死亡による逸失利益(亡くならなければ将来得られていたはずの利益)
■逸失利益の計算の仕方
◇「事故前年度の年収(※1)」×(1-「生活費控除率(※2)」)×就労可能年数に対応する「ライプニッツ係数(※3)」
(※1)「事故前年度の年収」
①給与所得者・・・現実の収入額
②事業所得者・・・申告所得
③家事従事者、求職者、無職者(幼児、18歳未満の学生、高齢者)・・・「賃金センサス」の平均賃金
*「症状固定時の年齢」に基づき算定します
(※2)生活費控除率
①一家の支柱(被扶養者1人)の場合 40%
②一家の支柱(被扶養者2人以上)の場合 30%
③女性 30%
④男性 50%
*「赤い本」に基づき算定します
(※3) 就労可能年数に対応する「ライプニッツ係数」
①「ライプニッツ係数表」で、「就労可能年数」に対応する係数を見ます
※「ライプニッツ係数」は複利計算で中間利息を控除する方法です。逸失利益の請求は、将来の損害を請求するものであることから、これを控除するのです。
・「就労可能年数」=67歳ー死亡時の年齢
・原則として18~67歳の49年間です。
・67歳以上の高齢者は、平均余命の1/2を就労可能年数として算定します。
・18歳未満の未就労者は18~67歳の49年間です。
3⃣ その他の慰謝料
①主婦(夫)の死亡・重度後遺症は、夫(妻)、子、父母に固有の慰謝料あり
②子どもの死亡・重度後遺症は、両親、兄弟姉妹に固有の慰謝料あり
③老人高齢者の死亡・重度後遺症は、同居の親族に固有の慰謝料あり
4⃣ 「過失割合」による減額
□被害者側に過失(落ち度)がある場合は、その「過失割合」で「医療費などを含めた損害賠償額の総額」から減額します。
□過失割合は、「赤い本」・「民事交通事故訴訟における過失相殺率の認定基準」(判例タイムズ社刊)を参照し、「類型」を選択しで「修正要素」で加減します。
□損害保険会社へ損害賠償額請求できる額は、「医療費などを含めた損害賠償額の総額」×「過失割合」です。
Ⅲ.損害額の算定に必要な情報と参照する資料
1.損害額の算定に必要な情報
①「事故から治療終了までの日数」
■「診断書」・「診療報酬明細書(調剤報酬明細書)」に記載があります。
②「入院期間」「通院日数」
■「診断書」・「診療報酬明細書(調剤報酬明細書)」に記載があります。
③「休業日数」
■「休業損害証明書」に記載があります。
④「後遺障害等級」
■「後遺障害等級認定票」に記載があります。
⑤「事故時の年齢」
⑥「事故前年の年収 」
■源泉徴収票等
等
(死亡事故の場合は)
①被害者の立場(ⅰ一家の柱か、ⅱ母親・配偶者か、ⅲ独身、子どもか)
②性別
③扶養家族の人数
④事故時の年齢
⑤事故前年の年収
等
2.参照する資料
①「診断書」・「診療報酬明細書(調剤報酬明細書)」
■「実治療日数」「入院日数」「毎月の症状や治療内容」を確認できます。
■傷害慰謝料の算定や、症状が重いことを理由とする慰謝料増額の主張、入院雑費の算定等のために必要です。
※任意保険会社に開示を求め、コピーを送ってもらいます。
※被害者請求で後遺障害等級認定の申請した場合は手元にあるはずです。
②「後遺障害診断書」・「後遺障害等級認定票」
■「症状固定の日」「後遺障害の内容」「認定された後遺障害等級」を確認できます。
※被害者請求で後遺障害等級認定の申請をする際は「後遺障害診断書」のコピーを撮っておきます。
③請求の目安となる損害賠償額(弁護士基準)の記載されている資料
■「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」いわゆる「赤い本」と、「交通事故損害賠償額算定基準」いわゆる「青本」の二つがあります。「赤い本」は主に関東地方で使用されています)
参考文献;公益財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部(2016)『民事交通訴訟損害賠償額算定基準』.
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