相続法改正~民法等改正(2018年(平成30年)7月13日公布)

1. 「配偶者居住権」及び「配偶者短期居住権」の新設(2020年4月1日施行) 

2. 婚姻20年以上の自宅贈与は持戻し免除~持戻し免除の意思表示の推定~ 

 婚姻期間20年以上の夫婦相互間における自宅の贈与は持戻し計算を免除されることとなり、生前贈与又は遺贈した自宅は遺産分割の対象から除かれることとなった。 (2019年7月1日施行 ※生前贈与は2019年7月1日以降におこなわれたものについて適用。遺贈は遺言書等作成日付が2019年7月1日以降のものについて適用)  

3. 「預貯金の仮払制度」の創設(2019年7月1日施行※相続開始が施行日前であっても適用される) 

・ 遺産分割前、預貯金の凍結がされても一定額の預貯金の払い戻しができるようになった。 

4. 相続開始後、一部の相続人が、遺産の分割前に遺産を独断で使ったり処分した場合、それらの財産を遺産分割の対象に含めることができるようになった。

に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

5. 遺留分制度に関する改正

① 遺留分減殺請求権の金銭債権化(2019年7月1日施行)

・ 遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権に変更され、遺留分減殺請求は金銭で支払うことに限定された。 

② 相続人への生前贈与の「みなし相続財産」への算入(特別受益持戻)は、死亡前10年間にされたものに限定された。

6. 相続の効力等に関する見直し~「相続させる」遺言による不動産登記関係~(2019年7月1日施行)

・  不動産の相続に関し、法定相続分を超える部分については登記をしなければ第三者に対抗できないことになった。 

7. 遺言執行者の権限の明確化等がなされた。  

8. 長男の妻が無償で介護をしていれば「特別の寄与」を請求できる(2019年7月1日施行※改正法は原則として施行日以降に開始した相続に適用される)

・ 「特別の寄与」の制度の創設され、相続人以外でも療養看護等を行った場合は金銭を請求できることになった。 

9. 自筆証書遺言の一部をワープロ等で作成可になった(2019年1月13日施行)  

10. 自筆証書遺言を保管する制度が創設された(遺言書の保管等に関する法律(2020年7月10日施行) 

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 配偶者居住権の新設

 

「配偶者居住権」が新設されました。

 配偶者居住権とは、配偶者が相続開始のときに住んでいる建物に、亡くなるまで無償で住み続けることができる権利です。

 

 配偶者居住権は相続する権利ではなく、遺言や、遺産分割協議による法定相続人の合意、家庭裁判所による遺産分割の審判によって、被相続人の配偶者が取得する法定債権です。配偶者に一身専属的な権利であり、譲渡はできません。配偶者居住権(長期)では、存続期間が長期間に及ぶことから、第三者対抗要件としての登記が定められています。

 

 遺産分割において、自宅は配偶者が「配偶者居住権」を取得して引き続き住み、子どもは負担付所有権を取得する、という分け方ができるようになりました。

 これまでは、配偶者は、家を相続すると預貯金などはあまり相続できませんでしたが、これからは、住んでいる家を「配偶者居住権」で取得させることによって、配偶者居住権は所有権よりも評価額が低いことから、その分預貯金を多く相続することができます。

 配偶者居住権は遺言で遺贈することもできます。

 

 合わせて 「配偶者短期居住権」も創設され、配偶者が相続開始の時に居住していた建物に遺産分割が終了する(最低6か月間は保障)まで無償で使用できます。

 

 配偶者居住権は売却できません。自宅に住まなくなったときは放棄することになります。配偶者が自宅を売却して有料老人ホーム等に住み替えるといったことはできなくなります。

 

 配偶者居住権は配偶者の死亡により消滅しますので、2次相続は配偶者の金融資産のみとなり、相続税が軽減となります。

 

 配偶者居住権の設定された物件の固定資産税の納税義務者は所有者と考えられています。ただし、改正法で居住建物の通常の必要経費は配偶者が負担するとされており、配偶者に求償することができると考えられています。

 

 改正法は原則として施行日(2020年(令和2年)4月1日)以降に開始した相続に適用されます。

 遺言による遺贈の場合は遺言書作成日付が2020年(令和2年)4月1日以降のものについて適用されます。 

 

2. 婚姻20年以上の自宅贈与は持戻し免除~持戻し免除の意思表示の推定~

 

 婚姻期間20年以上の夫婦相互間における自宅の贈与は、持戻し計算を免除されることとなり、生前贈与又は遺贈した自宅は遺産分割の対象から除かれることとなった。(相続時に遺産として計算しなくてもよい。これまでは、相続の時にこれも遺産に加えて相続分を計算する必要があった)。  

 

改正法は 2019年(令和元年)7月1日以降に行った生前贈与、遺言による遺贈は、遺言書作成日付が 2019年(令和元年)7月1日以降のものについて適用されます。 

 

民法903条(特別受益者の相続分)

1.共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。  

 

4.婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。 

 

3. 「預金の仮払制度」創設

 

 遺産分割前でも預貯金の払い戻しができるようになりました。 

 これまでは、遺産分割協議が調わなければ預貯金を引き出すことはできませんでしたが、「預金の仮払制度」が創設され、遺産分割前でも、預金の一定額までは、相続人が単独で払い戻せるようになりました。

 

 払い戻せる金額は、預貯金額 × 1/3 × 法定相続分。相続人が単独で払い戻せる。(金融機関ごと、上限あり、150万円)

 

 2019年(令和元年)7月1日施行※相続開始が施行日前であっても適用されます。 

 

4. 「遺産の一部のみの分割制度」創設

 

 共同相続人は、原則として協議によって遺産の一部のみの分割ができることとなりました。これによって、預貯金を先に遺産分割し、葬儀費用や生活費に充てることができるようになりました。

 

5. 「裁判の手続きによる、遺産の一部の仮取得制度」創設

 

 相続債務の弁済や相続人の生活費の支払い等のため、遺産の預貯金の払い戻しが必要な場合は、他の共同相続人の利益を害さない限りにおいて、裁判の手続きにより、預貯金の全部又は一部を払い戻しできることとなりました。(家事事件手続法200条3項)

 

6. 遺産分割前に勝手に預貯金(遺産)を引き出した場合

 

 相続開始後、一部の相続人が、遺産の分割前に遺産を独断で使ったり処分した場合、処分等をした相続人を除く相続人全員の同意があれば、それらの財産を遺産とみなして、遺産分割の対象に含めることができるようになりました。

 

 2018民法改正前は、共同相続のうちの1人が遺産分割前に遺産を不当に処分した場合でも、不当利得の返還請求ができるのは法定相続分にとどまり、全額の返還を求めることはできなかったが、改正により、遺産を不当に処分した者以外の相続人の同意のみで、処分された遺産を遺産分割の対象に含めることが可能となった。

 

民法906条の2(遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲)

1.遺産の分割前に遺産に属する財産が処分された場合であっても、共同相続人は、その全員の同意により、当該処分された財産が遺産の分割時に遺産として存在するものとみなすことができる。

2.前項の規定にかかわらず、共同相続人の一人又は数人により同項の財産が処

 

7. 遺留分制度に関する改正

 

(1) 遺留分減殺請求権の金銭債権化(2019年7月1日施行) 

 

 改正前は、遺留分減殺請求権は現物返還が原則であったため、相続した不動産や株式が共有状態となり、円滑な事業承継の障害になっていましたが、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権に変更され、遺留分減殺請求は金銭での支払いが原則とされたため、そのような問題が生じる可能性が少なくなりました。 

 

(2) 遺留分算定時特別受益持戻遡及期限の変更(死亡前10年間に限定)

 

 遺留分算定の基礎となる財産に算入されるべき「特別受益」に該当する生前贈与の遡及期限の変更がなされた。 

 改正前は、相続人が受けた「特別受益」に該当する生前贈与については、何十年前のものでも無期限で過去にさかのぼって遺留分算定の基礎となる財産に算入するとされていたが、2018民法改正により、被相続人の死亡前10年間に贈与されたものに限定された。(原則として、死亡10年前の日より過去に贈与されたものは算入しない。)

 

□ 詳しくは 》遺留分 をご覧ください。 

 

8. 相続の効力等に関する見直し~「相続させる」遺言による不動産登記関係の変更点~

 

 不動産登記関係に関し、2018民法改正前は、相続させる旨の遺言による不動産の遺贈については、法定相続分を超える部分についても、登記をしなくても第三者に対抗できるとされていたが、改正後は、法定相続分を超える部分については、登記をしなければ第三者に対抗できず、権利を主張できないこととなりました。(法定相続分に関しては、従来通り、登記をしなくても第三者に対抗できる)

 その結果、事業を承継させる者に不動産を単独で相続させる旨の遺言をしていても(遺言執行者を指定)、他の相続人が自らの「法定相続分(法定相続分以外はできません)」を先に登記してしまうと、遺言で不動産を遺贈された相続人といえども、事情を知らずにその不動産を買った第三者には対抗できなくなります。(第三者から不動産を取り戻すことはできない。売却した相続人に対して損害賠償請求するしかなくなります)

 また、登記をしないうちに、他の相続人の債権者が、債権者代位によって登記を行い(法定相続分に限ります)、仮差押えをしてしまうと、不動産を遺贈された相続人といえども、その債権者に対抗できません。(不動産を取り戻すことができない。当該他の相続人に損害賠償請求をするしかありません) 

 なお、法改正前に作成した遺言による相続であっても、改正法施行後の相続には適用されます。

 

  2019年(令和元年)7月1日施行。2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用されます。  

 

~「相続させる」遺言による不動産登記関係の変更に伴う問題点と対策~

 

 相続による所有権移転登記の申請は、法定相続分については、遺言書や遺産分割協議書がなくても、相続人は、だれでも、1人で申請できます。

 したがって、遺言で不動産をもらっても、ほかの相続人に先に登記をされ、事情を知らない第三者に売却されてしまうと、取り返せなくなる恐れがあります。

 ただし、その場合、売却した相続人に金銭で返還請求することができます。

 対策としては、相続が開始したら、所有権移転登記の申請を速やかに行うほかありません。なお、法定相続分による不動産の相続登記に際しては以下の書類が必要であり、あらかじめ、戸籍や住民票の本人通知制度(*)を利用しておくことは、このような事態を防ぐことに有効と考えます。

①被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、改製原戸籍

②被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)

③法定相続人全員の現在の戸籍謄本

④法定相続人全員の住民票

⑤相続する不動産の全部事項証明書 

 

*戸籍や住民票の本人通知制度とは. 市区町村が住民票の写しや戸籍謄抄本等の証明書を本人等の代理人や第三者に交付した場合に、事前に登録された者に対して、証明書を交付した事実を通知する制度です。

 第三者とは、住民票の写しにおいては、「同一世帯の方」以外の方、戸籍謄抄本や戸籍の附票においては、「戸籍に記載されている方、その配偶者、直系尊属・直系卑属」以外の方です。 

 

9. 遺言執行者の権限の明確化等

 

 遺言執行者の権限の明確化等がなされ、遺言執行者は相続人の代理としてではなく、遺言内容実現のために任務を遂行することとされました。  

 

① 遺言執行者を「相続人の代理とみなす」規定が削除され、遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、「相続人」に対して直接その効力を生ずる、とされました。

 遺言執行者は遺言者の意思を実現するため、場合によっては相続人の利益に反することを行う必要があることから、このような改正がなされたものです。  

② 遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる旨の判例の明確化がなされました(共同相続人は遺贈の履行義務を負わない) 。

③ 遺産分割方法の指定がされた場合の対抗要件を備える行為も遺言執行者ができるとされ、相続させる旨の遺言がなされた場合は、遺言執行者は原則として単独で相続による権利の移転登記申請をする権限を有することとなった(遺贈には適用されない)。また、遺言執行者は預貯金の払戻しをする権限を有します(遺贈には適用されない)。

④ 復任権について「やむを得ない事由」が削除された。

⑤ 遺言執行者は、相続人に対して、遅滞なく任務開始の通知や遺言内容の通知をしなければならばい。

⑥ 遺言内容を実現するため、相続財産の管理や遺言執行に必要な一切の行為の権利義務を有する。

 

 2019年(令和元年)7月1日施行。2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用されます。

 

10. 長男の妻が無償で介護をしていれば「特別の寄与」を請求できる~特別寄与制度の創設~

 

 「特別の寄与」の制度の創設され、相続人以外でも療養看護等を行った場合は金銭を請求できることになりました。 

 改正前は被相続人の息子の嫁等、相続人以外の親族が被相続人に対し無償の療養看護や労務の提供を行っても「寄与分」の請求はできませんでした(*)が、民法改正(30.7.13公布)により「特別の寄与」制度が設けられ、相続人に対して、「特別寄与料」として貢献に応じた金銭を請求できるようになりました。

 

* ただし、被相続人の息子が存命であれば、その寄与分として請求できた。

 

 具体的には、戸籍上の親族(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族であり、子の配偶者はこの中に含まれる)が介護してきたときなどが該当します。

 なお、遺産分割については現行と同じく相続人だけで行うことに変わりありません。

 

 2019年(令和元年)7月1日施行。2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用されます。

 

11. 自筆証書遺言の一部をワープロ等で作成可になった

 

 改正前は、自筆証書遺言は全てを自分で書かなければなりませんでしたが、改正後は、本文を自筆で書けば、財産目録はパソコンで作ったり、不動産の登記事項証明書のコピーの添付もできるようになりました。(ただし、財産目録の全ページに署名押印が必要です。)

 (2019(平成31年)1月13日以降に作成された遺言について適用されます。相続開始が施行日以降であっても、施行日前に作成された遺言には適用されません。)

 

12. 自筆証書遺言を保管する制度の創設

 

遺言書の保管等に関する法律(2018.7.13公布)施行は2020年(令和2年)7月10日。

 

 法務局に自筆証書遺言を保管する制度が創設されました。

 これまでは、自筆証書遺言は紛失、改ざん、焼失などのリスクがありましたが、法務局で保管してもらうことで、そうしたリスクがなくなります。

 また、この制度を使った場合、遺言書の「検認」は必要なくなります。費用は手数料のみです。3,900円です。

 なお、保管時の法務局のチェックは自署、押印、署名など形式面、外観のチェックのみです。