特別受益の持戻し免除について。

※婚姻期間20年以上の夫婦間で住宅や住宅取得資金の贈与が行われた場合には、2千万円まで非課税とする「贈与税の配偶者控除」の特例規定がありますが、これ適用して贈与した財産でも、贈与者の死亡後は、特別受益となり持戻しをすることとされていましたが、民法改正(30.7.13公布、民法903条4項)により、結婚期間が20年以上の夫婦間で行った居住用不動産の生前贈与・遺贈については、遺産分割の対象から除かれ、相続時に遺産として計算しなくてもよい(特別受益の持戻しをしない)ことになりました(これまでは、相続の時にこれも遺産に加えて相続分を計算する必要があった)。(令和元年7月1日施行。改正法は令和元年7月1日以降に行った生前贈与、遺言による遺贈は遺言書作成日付が令和元年7月1日以降のものについて適用されます。)

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 特別受益の持戻し

 

 「特別受益の持戻し」とは、遺産分割にあたって、相続人が受けた特別受益となる生前贈与を遺産分割の計算の基となる相続財産に加えることをいいます。(民法903条1項)

 

 特別受益の持戻しによって、特別受益となる生前贈与を受けた相続人は、遺産分割による取り分が減少します。 

 

民法903条(特別受益者の相続分)

1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

 

2. 特別受益の持戻しの免除の意思表示(特別受益となる生前贈与を遺産に加えないよう指示すること) 

 

 遺産分割をするにあたっては、被相続人から結婚のときの持参金や生計の資本として財産をもらった人は、遺言に何も書いてなければ、特別受益の持戻しとして、法定相続分から差し引かれます。  

 ただし、特別受益者の相続分から差し引いて欲しくないときは、遺言で、遺産分割をするにあたっては、特別受益となる生前贈与をその人の相続分から差し引かないようにとの指示(特別受益の持戻し免除の指示(特別受益を遺産に加えないことの指示))をすることができます。(民法903条3項) 

  被相続人が遺言で特別受益の持戻し免除をしたときは、相続時、遺産分割にあたっては特別受益の持戻しはしません。 

 

 特別受益の持戻しの免除の意思表示により、遺産分割をするにあたっては、特別受益の持戻しは不問とされますが、遺留分制度の趣旨から、遺留分の計算にあたっては、特別受益の持戻しの免除の意思表示は遺留分を侵害する限度で失効し、遺留分の算定の基礎となる財産には算入します。

 また、特別受益の持戻しの免除の意思表示があっても、遺留分侵害額請求権に影響せず、請求ができます。 

 

 なお、特別受益の持戻し免除の指示は、口頭や黙示での意思表示も有効とされますが、相続人間で紛議にならないよう遺言で明示することをおすすめします。   

 

民法903条(特別受益者の相続分)

3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。 

 

3. 生命保険金についても特別受益の持戻しの免除の意思表示が必要な場合があります

 

 生命保険金は民法903条の遺贈には当たらないが、相続人間の不公平が民法903条の趣旨に照らして是認できないほど著しい事情があるときは持ち戻しの対象になる、としている。(最決平成16年10月29日) 

 

 生命保険金請求権の取得のための費用である保険料(掛金)は、被相続人が支払ったものであり、保険契約者である被相続人が死亡したことにより保険金請求権が発生することに鑑み、保険金を受け取る相続人と受け取らない相続人の間でに生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいと評価できる特別な事情がある場合には、生命保険金請求権は、民法903条の特別受益に準じて持戻しの対象になるとされています。(出典:みらい総合法律事務所【編著】( 2021)『応用自在!遺言書・遺産分割協議書作成のテクニック』日本法令.544頁)

 

4. 特別受益の持戻し免除の遺言文例

 

 遺言で特別受益の持戻し免除の指示をする場合は、生前贈与については相続人の間でも必ずしも誰が何を生前贈与されたのか分からないことがあるので、特別受益の存在を遺言に書いておくことをおすすめします。(遺留分算定のためにも(*)) 

 

 *「特別受益」に該当する生前贈与を遺留分算定の基礎となる財産に算入することについては、2018民法改正前は遡及期間は無制限だったが、改正より、被相続人の死亡前10年間に贈与されたものに限定された。(死亡10年前の日より過去に贈与されたものは算入しない。)

 

【文例1】 

 遺言者は、これまで長男〇〇〇〇、長女〇〇〇〇、次女〇〇〇〇にした生前贈与による特別受益持戻しについては、これをすべて免除する。 

 

【文例2】

 遺言者は、長男〇〇〇〇(昭和△△年△月△日生)に対し、令和〇年〇〇月〇〇日に行った〇〇〇万円の生前贈与ついて、特別受益としての持戻しを免除し、相続財産の算定にあたっては同贈与の価格を相続財産に算入せず、同人の相続分から控除しないものとする。

 

【文例3】 生前贈与 

「遺言者は、長男〇〇〇〇(昭和△△年△月△日生)に、昭和△△年△月に住宅資金として援助した〇〇〇万円については、相続財産の算定に当たっては、長男の家計の状況を考慮し、持戻しを免除する。」

 

5. 「付言事項」に、特別受益を考慮して遺言を作成したことを明記する 

 

 遺言で特別受益の持戻し免除の指示をする場合は、生前贈与については相続人の間でも必ずしも誰が何を生前贈与されたのか分からないことがあるので、付言事項に特別受益を考慮して遺言を作成したことを明記することをおすすめします。

 

6. 当然に、特別受益の持戻しが不問となるとき 

 

 生前贈与したものが、天災や他人の行為などでなくなったり、壊れたりした場合には、特別受益の持戻しはしません。

 

 ただし、 もらった者に責任のある行為でなくなったり、壊れたりした場合には、貰ったままの状態で存在するものとして、時価で評価し「みなし相続財産額」に算入します。(民904条)  

 

7. 特別受益の持戻しをするように、との指示

 

 逆に、遺産分割時に、特別受益(生前贈与)を特別受益者の相続分から「必ず」控除して欲しいときは、 遺言で特別受益を相続財産に加える旨を明記することをおすすめします。

 

(特別受益の持戻しをするように指示する遺言文例)

 

【文例】   

 「遺言者は、これまでに長女〇〇〇〇(昭和△△年△月△日生)の婚姻に際して、〇〇〇万円を援助しているので、この金額を民法第903条による持戻し計算をするものとする。」

民法903条(特別受益者の相続分)

1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。 

4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

 


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