相続人の不存在~相続人がいないとき~

□ 民法改正により、相続人不存在の相続財産の清算手続の見直しが行われました(令和5年4月1日施行) 

 改正前民法では、相続人のあることが明らかでない場合における相続財産の清算手続において、①相続財産管理人の選任の公告、②相続債権者等に対する請求の申出をすべき旨の公告、③相続人捜索の公告を順に行うこととしていましたが、それぞれの公告手続を同時にすることができない結果、権利関係の確定に最低でも10か月間を要するなど、 相続財産の清算に要する期間が長期化し、必要以上に手続が重くなっていました。 

 改正により、 選任の公告と相続人捜索の公告を統合して一つの公告で同時に行うとともに、これと並行して、相続債権者等に対する請求の申出をすべき旨の公告を行うことが可能となり(新民法952Ⅱ、957Ⅰ)、 権利関係の確定に最低必要な期間が合計6か月へと短縮されました。 あわせて、その職務の内容に照らして、相続人のあることが明らかでない場合における「相続財産の管理人」の名称が「相続財産の清算人」に改正されました。

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埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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ポイント 関連情報

➤相続人の不存在~相続人がいないとき~

➤ 特別縁故者

1.    相続財産法人

 

 相続人がいるかどうかはっきりしない場合であっても、遺産について帰属を決め、債務があれば弁済しなければなりません。

 そこで、民法は、相続人があることが明らかでないときは、一方では相続人を探す手立てをつくすとともに、他方では相続財産についてこれを法人として法人格を与えて(民法951条)その管理者を置き、相続財産の管理と清算を進めるものとしています。

 

民法951条(相続財産法人の成立)

相続人のあることが明らかでないときは、相続財産は、法人とする。

 

2.    相続財産の清算人の選任

 

 相続財産の管理・清算のため、家庭裁判所は利害関係人または検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任し、遅滞なく清算人の選任を公告しなければならない、としています(民法952条)。

 

民法952条(相続財産の清算人の選任)

1.    前条の場合には、家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、相続財産の清算人を選任しなければならない。

2.    前項の規定により相続財産の清算人を選任したときは、家庭裁判所は、遅滞なく、その旨及び相続人があるならば一定の期間内にその権利を主張すべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、6箇月を下ることができない。

 

3.  相続財産の管理・清算に関する規定

 

 相続財産の清算人が相続財産の管理・清算をするについては、不在者の財産管理人に関する規定が準用されています(民法953条、27条から29条)。

 

民法953条  (不在者の財産の清算人に関する規定の準用)

第27条から第29条までの規定は、前条第1項の相続財産の清算人(以下この章において単に「相続財産の清算人」という。)について準用する。

 

民法27条(管理人の職務)

1.    前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。

2.    不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。

3.    前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる。

 

民法28条(管理人の権限)

管理人は、第103条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。

 

民法29条(管理人の担保提供及び報酬)

1.    家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。

2.    家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる。

 

4. 相続財産の状況報告

 

 相続財産清算人は 相続債権者または受遺者からの請求がある場合には、相続財産の状況を報告しなければなりません(民法954条)。

 

民法954条(相続財産の清算人の報告)

相続財産の清算人は、相続債権者又は受遺者の請求があるときは、その請求をした者に相続財産の状況を報告しなければならない。

 

5. 相続人がいることが判明した場合、清算人のした行為の効力

 

 相続財産の清算手続き中に相続人がいることが判明した場合は、その相続人が、相続開始時(被相続人の死亡時)から相続財産を承継していたことになり、相続財産の清算人は遡って存続しなかったものとみなされます。ただし、相続財産の清算人が権限内でした行為の効力は妨げられません(民法955条)。

 

民法955条(相続財産法人の不成立) 

相続人のあることが明らかになったときは、第951条の法人は、成立しなかったものとみなす。ただし、相続財産の清算人がその権限内でした行為の効力を妨げない。

 

6. 残余財産の国庫への帰属

 

 相続人がいないことが明らかになり、債権者・受遺者に対して弁済するなどして、相続財産の清算が終わったときは、残った財産は最終的には国庫に帰属します(民法959条)。

 

民法959条(残余財産の国庫への帰属)

前条の規定により処分されなかった相続財産は、国庫に帰属する。この場合においては、第956条第2項の規定を準用する。

 

民法956条(相続財産の清算人の代理権の消滅)

1.    相続財産の清算人の代理権は、相続人が相続の承認をした時に消滅する。

2.    前項の場合には、相続財産の清算人は、遅滞なく相続人に対して管理の計算をしなければならない。

 

7. 特別縁故者に対する財産分与制度

 

 国庫に帰属させる前に、家庭裁判所の審判によって、生前に被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者など被相続人と特別の縁故があった者に対して、残存する相続財産の全部または一部を与えることができるとされています(民法 958条の2) 。

 

民法958条の2(特別縁故者に対する相続財産の分与)

1.    前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。

2.    前項の請求は、第958条の期間の満了後三箇月以内にしなければならない。

 

民法958条(権利を主張する者がない場合)

 前条第2項の期間内に相続人としての権利を主張する者がないときは、相続人並びに相続財産の清算人に知れなかった相続債権者及び受遺者は、その権利を行使することができない。

 

民法957条(相続債権者及び受遺者に対する弁済)

1.    第952条第2項の公告があったときは、相続財産の清算人は、全ての相続債権者及び受遺者に対し、2箇月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、同項の規定により相続人が権利を主張すべき期間として家庭裁判所が公告した期間内に満了するものでなければならない。

2.    第927条第2項から第4項まで及び第928条から第935条まで(第932条ただし書を除く。)の規定は、前項の場合について準用する。