遺留分侵害額の計算の仕方

2018民法改正前は、相続人が受けた「特別受益」に該当する生前贈与については、無期限で過去にさかのぼって遺留分算定の基礎となる財産に算入するとされていたが、改正により、被相続人の死亡前10年間に贈与されたものに限定された。

遺留分侵害額=[遺留分算定の基礎となる財産 − 相続債務] × 遺留分割合 × 遺留分権利者の法定相続分 − 遺留分権利者が実際に受け取った相続財産 − 同じく特別受益+同人が負担すべき相続債務

 

遺留分算定の基礎となる財産=相続開始時における相続財産+相続人が受けた生前贈与(相続開始前10年以内) +相続人以外の第三者が受けた生前贈与((相続開始前1年以内) 

 注意事 項 民法改正(平成30.7.13公布)により、改正前は、相続人への生前贈与(特別受益)については、「遺留分算定の対象財産(みなし財産)」の価額に原則として無制限に算入する(特別受益持戻)こととされていました、改正後は、死亡前10年間にされたものに限り、遺留分算定の対象財産(みなし財産)の価額に算入することとされました。(令和元年7月1日施行。改正法は令和元年7月1日以降に行った生前贈与、遺言による遺贈は遺言書作成日付が令和元年7月1日以降のものについて適用される。) 

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1.遺留分侵害額の計算

 

遺留分侵害額=[遺留分算定の基礎となる財産 − 相続債務(*1)] × 遺留分割合 × 遺留分権利者の法定相続分 − 遺留分権利者が実際に受け取った相続財産(*2) − 同じく特別受益+同人が負担すべき相続債務(*3 

 

*1 相続発生時の債務の全額(相続開始時の貨幣価値に換算)を差し引きます。税金なども差し引きます。

 保証債務、連帯保証債務は除きます。 

 相続税や葬式費用などは控除すべきでないとされています。

  

民法1021条(遺言の執行に関する費用の負担)

遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。  

 

*2 寄与分・特別寄与料による修正は考慮しない。  

 

*3 同人が負担すべき相続債務の加算について、一人の相続人に財産を全て相続させる遺言の場合は、債務も全部その人に承継するので加算しない。(最高裁判例 H21.3.24) 

 

* 財産の価額の評価の基準時は、全て相続開始時の時価です。

 

民法1043条(遺留分を算定するための財産の価額)

 

1.遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。 

 

 

2遺留分算定の基礎となる財産の計算

① 相続開始時における相続財産※1 ② 相続人が受けた生前贈与(原則、相続開始前10年以内)※2
       
③ 相続人以外の第三者が受けた生前贈与(原則、相続開始前1年以内)※3   (寄与分、特別寄与料)  
       
       

➀ 相続開始時における相続財産

・ 被相続人が相続開始時に有していたプラスの財産の価額。低額譲渡はその差額を相続開始時の貨幣価値に換算し算入します。

・ 遺言で特定の相続人や第三者にした遺贈及び死因贈与を含む。

 

➁ 相続人が受けた生前贈与

ⅰ)「特別受益」に該当する生前贈与を遺留分算定の基礎となる財産に算入することについては、民法改正前は遡及期間は無制限だったが、改正より、被相続人の死亡前10年間に贈与されたものに限定された。(死亡10年前の日より過去に贈与されたものは算入しない。) 

 ただし、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合は無期限で過去にさかのぼって算入する。

 

ⅱ)特別受益に該当しない生前贈与及び「不相当な対価による有償行為(低額譲渡)」)を遺留分算定の基礎となる財産に算入することについては、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合は「相続開始から10年前」までに贈与されたものに限定された。(死亡10年前の日より過去に贈与されたものは算入しない。)

 当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知らなかった場合は「相続開始から1年前」までの期間になされたものに限り算入する。

2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用される。)

 

※不相当な対価による有償行為(低額譲渡)については、目的物の価額から実際に支払った対価を控除した残額が贈与として算入される。

 

※ 遺言で、「特別受益分の持戻をしない」旨の指示をした場合も、遺留分制度の趣旨から、遺留分の算定の基礎となる財産には、特別受益分を算入することができます。 

 

※ 遺産分割において、特別受益者本人以外の相続人全員が「特別受益分は考慮しない」と認めた場合も、遺留分制度の趣旨から、遺留分の算定の基礎となる財産には、特別受益分を算入することができます。

 

ⅲ)「生命保険の死亡保険金」については遺産ではなく、また、被相続人に属していた財産を贈与したものでもないことから、遺留分算定の基礎となる財産には算入しない。

 ただし、財産の過半を保険料として一時払いしていた場合は、遺留分を侵害する意図のある保険契約(遺留分権利者に損害を与えることを知って行った生前贈与)とみなされるおそれがある。

 

③ 相続人以外の第三者が受けた生前贈与

 相続人以外の第三者が受けた、生前贈与及び「不相当な対価による有償行為(低額譲渡)」については、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知らなかった場合は「相続開始から1年前」までの期間になされたものに限り算入し、当事者双方が遺留分権利者に損害を与えることを知っていた場合は無期限で過去にさかのぼって算入する。 

 すなはち、相続人以外の第三者に対する1年以上前の生前贈与、低額譲渡については、当事者双方が遺留分権利者の利益を害することを知っていたこと、即ち悪意が要件となります。

 ただし、遺留分権利者の利益を害することを知っていたとしても、贈与者に将来再び財産を増やす可能性があったとすれば悪意とはならない場合が多いとされている。

 

 なお、悪意の立証責任は遺留分侵害額請求権を行使する側にあります。

 

* 相続開始前1年以内になされたというのは、贈与契約がその間に締結されたことを意味します。贈与契約が1年より前になされているときは、その履行が1年内になされても、これに含まれないと解されています。(出典:小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識』日本加除出版.169頁) 

 

民法1030条(遺留分の算定)

贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。 

 

 

(寄与分・特別寄与料) 

 

 寄与分・特別寄与料は、遺留分計算の基礎には入りますが(1029条)遺留分侵害額請求の権利行使の対象者(遺留分負担者)にはならないことに注意が必要です(1031条)。