遺言代用信託(信託契約)について。

□ 遺言代用信託は遺産承継を遺言の代わりに信託契約で行う信託です。生前に信託契約を結ぶことにより遺言と同様の効果を実現できます。 

□ 遺言代用信託(遺言の代用としてする信託契約)は、信託の登記をすることにより、他の相続人がやその債権者が、事業承継者より先に登記を行うことを阻止することができます。

 

□ 民法改正により、改正前は、「相続させる」旨の遺言による不動産の贈与については、登記をしなくても第三者に対抗できるとされていたが、改正後は、法定相続分を超える部分については登記をしなければ第三者に対抗できないこととなった。 その結果、次のような問題が生ずる恐れがあります。

① 不動産を事業承継者に単独で相続させる旨の遺言をしても、他の相続人が自分の法定相続分相当持分を先に登記し善意の第三者に売却してしまうと、事業承継者は第三者に対抗できなくなる。 

② 他の相続人の債権者が、事業承継者の登記が未了の間に、他の相続人の法定相続分相当持分に対し債権者代位によって登記を行い仮差押えを行ってしまうと、事業承継者は対抗できなくなる。

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

似顔絵

ポイント 関連情報  

遺言信託(遺言による信託)

➤遺言代用信託(遺言の代用としてする信託契約) 

後継遺贈型信託(受益者連続型信託)

1. 遺言代用信託とは

 

 遺言代用信託は遺産承継を遺言(相続)の代わりに信託契約で行う信託です。

 生前に信託契約を結ぶことにより、遺言者自身を委託者兼受益者として信託を設定し、遺言者が死亡した時点で信託契約で指定した者に受益権を取得させることにより、相続手続き外で遺言(相続)と同様の目的を実現できます。

 

信託法第90条

1 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

① 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託

② 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託

 

2 前項第2号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 

2. 遺言代用信託(遺言の代用としてする信託契約)の類型

 

(1) 1号類型

 

 委託者(遺言者)が死亡した時点で受益者になるべき者として指定した者に「受益権を取得させる」信託契約。

 

(2) 2号類型

 

 委託者(遺言者)の死亡時以後に受益者が「信託財産に係る給付を受ける」信託契約。

 

3. 受益者の変更の特例

 

 遺言代用信託(遺言の代用としてする信託契約)は、通常の信託契約と異なり、信託契約に別段の定めがない限り、いつでも受益者を変更できます。

 

4. 委託者(遺言者)死亡前の受益者の権利の制限(2号類型の場合)について

 

 通常の信託契約では契約の締結により効力が生じます(信託法4条1項、3条1号)。これに準ずれば、2号類型の遺言代用信託(遺言の代用としてする信託契約)の場合は、受益者は委託者(遺言者)の死亡する前から受益者であり、信託財産に係る給付を受ける権利を除く、その他の受益権(*)に関しては、委託者の死亡する前から受益権を有することになってしまいます。

 この問題を解決するため、信託法90条2項は、遺言代用信託(遺言の代用としてする信託契約)では、当該の信託契約に別段の定めがない限り、「委託者が死亡するまで、受益者としての権利を有しない」と規定しています。

 

* 信託財産に対する強制執行等に対する異議の主張、受託者破産の場合の取戻権、信託の内容変更又は終了に対する同意等。 

 

5. 遺言代用信託(遺言の代用としてする信託契約)での、死亡前の委託者(遺言者)の権利について

 

 通常の信託契約では契約の締結により効力が生じます(信託法4条1項、3条1号)。したがって、原則としては、2号類型の遺言代用信託(遺言の代用としてする信託契約)の場合は、受益者は委託者(遺言者)の死亡する前から受益者となり、信託財産に係る給付を受ける権利を除く、その他の受益権(*)に関しては、委託者の死亡する前から受益権を有することになってしまいます。 

 この問題を解決するため、信託法148条(*1)は、死亡前の委託者(遺言者)の権利について、委託者(遺言者)は、受益者の定めのない信託(信託法260条1項)(*2)と同様に、当該の信託契約に別段の定めがない限り、信託法145条2項各号(*3)に定める権利を有し、受託者は信託法145条4項各号(*4)に定める義務を負う、と規定しています

 

*1 信託法148条(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)

 第90条第1項各号に掲げる信託において、その信託の受益者が現に存せず、又は同条第2項の規定により受益者としての権利を有しないときは、委託者が第145条第2項各号に掲げる権利を有し、受託者が同条第4項各号に掲げる義務を負う。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。 

 

*2 信託法260条1項

 第3条第1号に掲げる方法によってされた受益者の定めのない信託においては、委託者(委託者が二人以上ある場合にあっては、そのすべての委託者)が第145条第2項各号(第6号を除く。)に掲げる権利を有する旨及び受託者が同条第4項各号に掲げる義務を負う旨の定めが設けられたものとみなす。この場合においては、信託の変更によってこれを変更することはできない。 

 

*3 信託法145条(委託者の権利等)

2 信託行為においては、委託者も次に掲げる権利の全部又は一部を有する旨を定めることができる。

一 第23条第5項又は第6項の規定による異議を主張する権利

二 第27条第1項又は第2項(これらの規定を第75条第4項において準用する場合を含む。)の規定による取消権

三 第31条第6項又は第7項の規定による取消権

四 第32条第4項の規定による権利

五 第38条第1項の規定による閲覧又は謄写の請求権

六 第39条第1項の規定による開示の請求権

七 第40条の規定による損失のてん補又は原状の回復の請求権

八 第41条の規定による損失のてん補又は原状の回復の請求権

九 第44条の規定による差止めの請求権

十 第46条第1項の規定による検査役の選任の申立権

十一 第59条第5項の規定による差止めの請求権

十二 第60条第3項又は第5項の規定による差止めの請求権

十三 第226条第1項の規定による金銭のてん補又は支払の請求権

十四 第228条第1項の規定による金銭のてん補又は支払の請求権

十五 第254条第1項の規定による損失のてん補の請求権  

 

*4 信託法145条4項

 信託行為においては、受託者が次に掲げる義務を負う旨を定めることができる。

一 この法律の規定により受託者が受益者(信託管理人が現に存する場合にあっては、信託管理人。次号において同じ。)に対し通知すべき事項を委託者に対しても通知する義務

二 この法律の規定により受託者が受益者に対し報告すべき事項を委託者に対しても報告する義務

三 第77条第1項又は第184条第1項の規定により受託者がする計算の承認を委託者に対しても求める義務 

 

6. 信託契約書条項について 

 

 (1) 信託の目的

 

 信託の目的条項は、信託財産の管理・運用方法、受益者に与える利益の内容等の基本的な基準となるものです。

 

(2) 信託期間

 

 受託者と委託者の合意で信託期間の変更ができる旨の規定を設けることができます。(信託法149条4項)

 

* 通常の信託契約は、原則として、信託の変更は委託者、受託者及び受益者の三者の合意が必要です。(信託法149条1項) 

 

* 信託法149条(信託の変更 関係当事者の合意等)

1 信託の変更は、委託者、受託者及び受益者の合意によってすることができる。この場合においては、変更後の信託行為の内容を明らかにしてしなければならない。

2 (略)

3 (略)

4 前三項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

5 (略) 

 

(3)受託者 

 

 受託者には、自分の子どもや兄弟姉妹、甥・姪など、親族の中から堅実で信頼できる人を選任することをおすすめします。(第三者に依頼することもできます )

 受託者と信託内容について話し合い、確認しておく必要があります。 

 

(受託者の不適格事由 )

①成年被後見人、被保佐人 

②破産手続き開始決定を受けた者(信託行為に別段の定めがあるときを除く)

 

* 信託法56条1項 

 受託者の任務は、信託の清算が結了した場合のほか、次に掲げる事由によって終了する。ただし、第三号に掲げる事由による場合にあっては、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

一 (略)

二 受託者である個人が後見開始又は保佐開始の審判を受けたこと。

三 受託者(破産手続開始の決定により解散するものを除く。)が破産手続開始の決定を受けたこと。

四 (略)

五 (略)

六 (略)

七 (略)

 

(4) 信託の登記

 

 登記をしなければその権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記をしないと、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができません(信託法14条)。

 

* 信託法14条(信託財産に属する財産の対抗要件)

 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない。

 

(5) 信託財産  

 

 遺言信託(遺言による信託)の信託財産(預ける財産)としては、不動産、金融資産などがあります。

 

(6) 信託財産の管理・運用方法 

 

(7) 信託事務の処理の委託

 

 信託契約で信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めをすれば、受託者は、信託事務の処理を第三者に委託することができます(信託法28条)。

 

* 信託法28条(信託事務の処理の第三者への委託)

 受託者は、次に掲げる場合には、信託事務の処理を第三者に委託することができる。

一 信託行為に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めがあるとき。

二 信託行為に信託事務の処理の第三者への委託に関する定めがない場合において、信託事務の処理を第三者に委託することが信託の目的に照らして相当であると認められるとき。

三 信託行為に信託事務の処理を第三者に委託してはならない旨の定めがある場合において、信託事務の処理を第三者に委託することにつき信託の目的に照らしてやむを得ない事由があると認められるとき。

 

(8) 受益者に対する給付 

 

 受益者としては、認知症になった配偶者、障害のある子、後妻、内縁の妻などが考えられます。

 

(9) 残余財産の帰属権者 

 

 信託終了(清算終了)時の残余財産の帰属すべき者の定め方は次の二通りの方法があります。

 

① 「残余財産受益者(残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者)として指定された者」を残余財産の帰属権者とする方法 

 

② 「残余財産帰属権利者(残余財産の帰属すべき者)として指定された者」を残余財産の帰属権者とする方法 

* 信託法182条(残余財産の帰属)

1 残余財産は、次に掲げる者に帰属する。

一 信託行為において残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者(次項において「残余財産受益者」という。)となるべき者として指定された者

二 信託行為において残余財産の帰属すべき者(以下この節において「帰属権利者」という。)となるべき者として指定された者

2 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又はその相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。

3 前二項の規定により残余財産の帰属が定まらないときは、残余財産は、清算受託者に帰属する。

 

□ 残余財産受益者と残余財産帰属権利者の違い

 

 残余財産受益者は、その受益債権の内容が残余財産の給付である点を除けば、通常の受益者と異なるところはなく、信託終了前から受益者としての権利を有する。

 一方、残余財産帰属権利者は受益者ではなく、信託の清算中のみ受益者とみなされる(信託法183条1項、6項)

 

* 信託法183条(帰属権利者)

1 信託行為の定めにより帰属権利者となるべき者として指定された者は、当然に残余財産の給付をすべき債務に係る債権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

2 (略)

3 (略)

4 (略)

5 (略)

6 帰属権利者は、信託の清算中は、受益者とみなす。  

 

(10) 信託費用の負担 

 

(11) 信託報酬 

 

 受託者は信託契約で規定された場合は、信託財産から報酬を受けることができる(信託法54条1項)。

 

* 信託法54条(受託者の信託報酬)

1 受託者は、信託の引受けについて商法(明治三十二年法律第四十八号)第五百十二条の規定の適用がある場合のほか、信託行為に受託者が信託財産から信託報酬(信託事務の処理の対価として受託者の受ける財産上の利益をいう。以下同じ。)を受ける旨の定めがある場合に限り、信託財産から信託報酬を受けることができる。

2 (略)

3 (略)

4 (略)

 

7. 遺言代用信託活用上の注意点

 

(1) 遺言代用信託は信託契約で受益者を変更しない旨定めても、委託者は受益者を変更できます 

 

 信託契約の効力の発生を委託者の死亡時とする信託は、信託法90条の適用はなく、死因贈与に関する規定が類推適用されるとされています。(死因贈与は遺贈に関する規定が準用され、いつでも撤回することができます。)

 したがって、「委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託」及び「委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託」は、信託契約で受益者を変更しない旨定めても無効であり、委託者は受益者を変更できます。

 

 * 信託法90条(委託者の死亡の時に受益権を取得する旨の定めのある信託等の特例)

 次の各号に掲げる信託においては、当該各号の委託者は、受益者を変更する権利を有する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

一 委託者の死亡の時に受益者となるべき者として指定された者が受益権を取得する旨の定めのある信託

二 委託者の死亡の時以後に受益者が信託財産に係る給付を受ける旨の定めのある信託

2 前項第二号の受益者は、同号の委託者が死亡するまでは、受益者としての権利を有しない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 

(2) 遺言代用信託は、相続法に関する規定が類推適用され、受益権は遺留分侵害額請求の対象となります。

 


ポイント ご自分で書かれた遺言書の点検をご希望の方

遺言書添削

 

ポイント 遺言書の作成サポートをご希望の方

自筆証書遺言作成サポート(法務局保管制度利用を含みます)

公正証書遺言作成サポート

秘密証書遺言作成サポート