遺贈と「相続させる」旨の遺言の違い

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埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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ポイント 関連情報

1. 遺贈と「相続させる」旨の遺言との効力の違い

 

(1)遺贈の効力

 

 遺言で特定の財産の全部(又は一部)を贈与することを遺贈と言います。

 遺贈は物権的効力を有し、目的物が遺言者の所有に係る特定物である場合は、その所有権は相続開始(遺言者の死亡)と同時に直接受遺者に移転します。

 ただし、不動産の場合、登記をしなければ、債権者など第三者に対しては、所有権取得を主張できません。たとえば、登記をしない間に債権者など第三者がその不動産を差し押さえた場合は、権利取得を第三者に主張できません。(法定相続人は、法定相続分については主張できる)

 

(2)「相続させる」旨の遺言の効力

 

 遺贈のうち、共同相続人の一人(又は数人)への贈与については、「相続させる」と書くことがあります。

 この場合において「相続させる」と書く意味は、遺言の効力発生時(通常は相続開始時)に、遺産分割協議(又は家庭裁判所の審判)を経ずに、その遺言どおりに、特定の財産を特定の相続人に承継させることにあります。

 不動産を相続させる旨の遺言は、登記をしなくても債権者など第三者に対し権利取得を主張できます(ただし、法定相続分を超える部分については登記をしなければ権利取得を第三者に主張できない(※))。

 

※ 不動産登記関係に関し、2018民法改正前は、相続させる旨の遺言による不動産の遺贈については、法定相続分を超える部分についても登記をしなくても第三者に対抗できるとされていたが、改正後は、法定相続分を超える部分については登記をしなければ第三者に対抗できないこととなった。

 

(参考)

 債権の承継に伴う対抗要件の具備

 

 2018相続法改正で、遺言で法定相続分を超えて債権を承継した相続人が、その遺言の内容を明らかにして(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)、債務者に「承継の通知」をすることで、対抗要件を備えたことになるとされました。 

 

2. 相続人でない者に「相続させる」とした遺言の効力

 

 遺言で相続人でない者に「相続させる」と書いた場合は、相続の効力は生じませんが遺贈の効力が生じます。(平成3年最判)。

 

3. 遺贈と「相続させる」旨の遺言、登記申請方法の違い

 

 「相続させる」旨の遺言の場合、不動産所有権移転登記申請は、受遺者である相続人単独でできます。(遺言執行者を指定している場合は、遺言執行者が単独で申請できる(※1))。

 

(※1)2018民法改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされ、受遺者本人からの申請のみ可能であったが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更された。

 

民法1014条2項

遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

 

 一方、遺贈の場合は、受遺者単独で行うことはできず、受遺者と相続人全員とで共同申請する必要があります。

 なお、共同申請は受遺者と相続人全員の署名・捺印と印鑑証明書が必要です。(遺言執行者を指定している場合は、遺言執行者のみが申請できます(※2))。

 

(※2)遺贈の履行は、遺言執行者がある場合には、遺言執行者のみが行うことができる。(令和1年7月1日より前に発生した相続でも、同日以後に遺言執行者となる者にも適用される。)

 

民法1012条(遺言執行者の権利義務)

1. 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2. 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

3. 第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

 

4. 遺贈と相続、債務の承継の違い

 

 相続はプラスの財産だけでなく、債務(消極財産、借金)も承継します。

 遺贈は相続と異なり、債務承継しません。ただし、包括遺贈の場合は、相続と同様、債務を承継します。

 

5.  賃借権の遺贈と賃借権を「相続させる」旨の遺言、「賃貸人の同意が必要かどうか」の違い

 

(賃借権の相続)

 

 土地・建物を借りていた場合には、賃借人が死亡した場合でも、賃貸借契約が当然に終了するわけではありません。賃借権(賃借人としての権利)も相続の対象となります。

 

(賃借権の遺贈)

 

 賃借権を譲渡する場合には、賃貸人の同意が必要なため、賃借権を遺贈されたときは、賃貸人の同意を得る必要があります。

 なお、法定相続人に対し賃借権を「相続させる」旨の遺言は、「譲渡」ではなく「相続」であり、相手方の同意は不要です。

 

(借家権の相続)

 

 一般法上の借家権は財産権として相続されます。特別法上のものは、その法規に従って決まります(借地借家36条等)。

 

 公営住宅の入居者が死亡した場合、その相続人は、その使用権を当然に承継するものではないとされています(最判平2.10.18)。

 

6.  遺贈と相続、放棄・辞退する方法の違い

 

(1)特定遺贈を放棄・辞退する方法

 

 「特定遺贈の放棄」は、遺言者の死亡後、いつでもすることができます。受遺者から、他の相続人や、遺言執行者に通知するだけです。

 他の相続人や遺言執行者等の遺贈義務者、その他の利害関係者は、受遺者に対して、「遺贈を承認するか放棄するか」相当の期間を定めて督促することができます。

 受遺者が遺贈を放棄したときは、遺贈は相続財産に帰属します。

 

(2)相続を放棄・辞退する方法

 

 相続の放棄・辞退の方法には、①「相続放棄」(相続があったことを知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に申述書を提出する)、②「相続分の放棄」(遺産分割協議書に「相続分なし」と記載する)、③「相続分のないことの証明書」・「相続分譲渡証明書」により事実上の相続放棄を行う、④「遺言(特定の相続人に一切相続させないことにする)」があります。

 ただし、遺産分割協議書に「相続分なし」と記載する「相続分の放棄」や「相続分のないことの証明書」、「相続分譲渡証明書」により相続の放棄・辞退をしても、負債や連帯保証人の地位は法定相続分に応じて引き継ぎます。

 債務を引き継がないためには「相続放棄」をすることが必要です。

 

(3)包括遺贈を放棄・辞退する方法

 

 相続放棄と同じ手続きが必要です。包括受遺者が包括遺贈を放棄した場合、その遺贈分は相続人に帰属します。他に、包括受遺者がいてもそこには帰属しません。

 

7.  農地の遺贈と農地を「相続させる」旨の遺言、「農地法上の許可が必要かどうか」の違い

 

 農地法3条は、農地について所有権を移転する場合には、農業委員会の許可を受けなければならないことを定めています。

 

 ただし、相続人が相続する場合及び相続人以外が「包括遺贈」を受遺した場合は農業委員会の許可は不要です。

 

 また、農地の「特定遺贈」が法定相続人に行われた場合についても、平成24年に農地法施行規則が改正され、農業委員会の許可は不要となりました。

 

 農地の「特定遺贈」が法定相続人以外に行われた場合については、農業委員会の許可が必要です。(遺言執行者は単独で申請することができます)。

 農業委員会の許可を停止条件とする停止条件付遺贈となります。登記には許可指令書(農業委員会の許可書)の添付が必要です。 

 

 農地法3条の許可申請は、受遺者と相続人全員とで共同申請する必要があります。(又は受遺者と遺言執行者とで申請します)。

 したがって、相続開始時に相続人の協力が得られないことが予想されるときは、あらかじめ遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。

 

8.  遺贈と相続、登録免許税、相続税の違い

 

(1)登録免許税

 

 平成15年から、相続と遺贈との登録免許税の差はなくなっています。

 

(2)相続税

 

 相続税については、孫、息子の嫁、友人など相続人以外であっても、贈与税ではなく相続税が課税されます。 ただし、2割加算になります。


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