遺産分割協議書条項例(遺産分割以外の取り決め事項の書き方)

1. 遺産分割後に新たな遺産が見つかった場合の取り扱いについて

 

 遺産分割後、分割された遺産以外に新たな遺産が見つかった場合の取り扱いは次の3つになります。

 

① 何も定めなかったときは、法定相続分で取得します。 

② 改めて遺産分割協議を行うこともできます。 

③ あらかじめ、遺産分割協議書に新たに見つかった財産を取得する者を決めておくことができます。

 

(例1)   

 

 後日、本書に記載されていない相続財産(負債を含む)が判明した場合は、A、B及びCで協議し分配する。

 

(例2)  

 後日、本書に記載されていない相続財産(負債を含む)が判明した場合は、相続人 Aがすべて取得する

 

 (例3)     

 後日、本書に記載されていない相続財産(負債を含む)が判明した場合は、法定相続分に従って取得する。 

 

 法定相続分で取得する場合も、その旨定めておくこともケースによっては有益です。 

 

2. 共同相続人が負担する債務がある場合、債務の負担について

 

 ①債務の内容、②共同相続人が負担する債務を引き継いで支払いをする者、③事情により、「求償しない」旨について記載します。

 

 遺産分割協議書で債務の負担に関する取り決めをしても、債権者はこれに拘束されません。法定相続分に従って請求することができます。ただし、法定相続分に従って請求された相続人は、支払った金額を、取り決めをした本来支払うべき相続人に請求できます。

 

(例1)

 相続人Aは、被相続人の債務を全て負担する。

 

(例2)

 相続人A及び相続人Bは、被相続人の全ての債務を、それぞれ2分の1の割合で負担する。

 

 (例3)

 相続人Aは次の債務を負担する。

  ➀ 被相続人の未払租税公課、医療費及びその他の債務

  ② 〇〇〇〇銀行〇〇〇〇支店に対する借入金債務全て 

  ③ 債権者 〇〇〇〇株式会社  金100,000円 

 

  (例4)

 (1)相続人Aは、下記に記載の被相続人の債務を負担する。

 

          記

 

   借受年月日 令和〇年〇月〇日

   借受金額  金 100,000円   

   債権者   〇〇〇〇(住所             )

   返済期限  令和〇年〇月〇日

   利息    年〇パーセント

 

 (2)相続人Aは、本遺産分割協議成立後すみやかに前項の債務を返済

  する。 

 

3. 相続人以外への包括遺贈がある場合、遺贈分額の支払について

 

 (例)

 (1)相続人Aは、被相続人の遺言に記載の包括遺贈に関わる遺贈分額

  を負担する。

 

 (2)相続人Aは、本遺産分割協議成立後すみやかに前項の遺贈分額を

  支払う。 

 

 相続人以外への包括遺贈がある場合は、その遺贈分額を、誰が支払うか、その金額や支払方法を書いておくことが望ましい。  

 

 

4. 「委任」について

 

 登記の申請や預金の払戻請求を相続人の代表にやってもらう場合は、委任の規定を入れておくと便利です。

 

  (例)

 相続人 A(妻)、 B(長男)及びびC(長女)は、Dを代理人と定め、この遺産分割協議書の内容を実現するために必要な手続きをする一切の権限を委任する。  

 

5. 祭祀承継者について

 

 お墓や仏壇等祭祀の承継は、本来、遺産分割協議の内容ではありませんが、後日もめやすい問題問題ですので、「祭祀承継者」を明記することをおすすめします。  

 

 (例) 

〇〇家の祭祀承継者を Aとし、仏壇、墓碑等祭祀用財産一切を承継する。  

 

6. 被相続人に きょうだい(またはその子) がいる場合、相続放棄で相続人の一人に財産をすべて相続させたいとき

 

 この場合は「他の相続人がなにも相続しない」という趣旨の遺産分割協議書を作ることをおすすめします。

 

 相続放棄の方法をとってはいけません。相続放棄しても被相続人の きょうだい のところに行ってしまいます。  

 

7. 相続分の無い旨の記載

 

 遺産分割協議書に「相続分なし」と記載し、「相続分の放棄」をしても、「相続放棄」とは効果が異なります。負債や連帯保証人の地位は法定相続分に応じて引き継ぎます。注意が必要です。  

 債務を引き継がないためには「相続放棄」をすることが必要です。

 

8. 寄与分について 

 

 寄与分についてもきちんとしておくことが、後日の紛争回避につながります。

 

9. 特別受益持ち戻し免除の意思表示(遺言によるものを除く)について 

 

 特別受益持ち戻し免除の意思表示(遺言によるものを除く)についてもきちんとしておくことが、後日の紛争回避につながります。

 

10. 生命保険金の受取人について 

 

 生命保険金を受け取る権利は、被保険者の死亡により発生するものであり、被相続人が一旦取得したのち相続されるものではないので、基本的には相続財産には属さないと解されています。

 ただし、被相続人が自分自身を受取人として指定している場合は、保険金請求権は相続財産に属すると解されています。

 その他、以下をご参照ください。

 

 

 生命保険金は民法903条の遺贈には当たらないが、相続人間の不公平が民法903条の趣旨に照らして是認できないほど著しい事情があるときは持ち戻しの対象になる、としている。(最決平成16年10月29日)  

 

 過去の裁判例から言えば、相続財産総額(死亡保険金を除く)の半分を超える額の死亡保険金は特別受益にあたり、持ち戻しの対象となる可能性があります。(出典:佐山和弘( 2018)『相続で絶対モメない遺産分割のコツ 言葉・空気・場の読みまちがいが命取り!』家の光協会.137頁)