住宅ローン付き不動産の財産分与(分割)等

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

似顔絵

1. 不動産の財産分与(分割)

 

 家などの不動産は、登記名義がどちらになっているかにかかわらず、結婚後に取得したものであれば、財産分与(分割)の対象となります(実質的共有財産) 。

 実質的共有財産とされるものであっても、生活費を折半で負担していた場合は、自分で蓄えた財産については分与の対象に含めなくてもよいとされています。

 財産分与の対象には、住宅ローンなどのマイナスの財産(債務)も含まれます。

 プラスの財産からマイナスの財産を差し引くとマイナスになってしまう場合は財産分与請求権は生じません。

 

 財産分与(分割)の方法は、当事者の話し合いによって自由に決めることができます。  

① 一方が所有し、他方に按分割合の現金等を支払う(代償金分割)

② 現物で分与する(現物分割)

③ 売却して現金等で分割する(換価分割)

④ 不動産を利用権を設定する形で分与する(代物分割)

⑤ 不動産を按分率に応じ共有する(共有分割)  

 

2. 住宅ローン付き不動産の分与額を算定するための「財産の価額の評価」

 

 住宅ローン付き不動産の分与額を算定するための財産の価額は、不動産の時価(又は査定価格)(※)から残っている住宅ローンなどの債務の全額を控除した額とするという考え方が一般的です 。

 

(※)土地については路線価、建物については固定資産税評価額を使用する場合もあります。

 

3. 住宅ローン付き不動産の財産分与の方法

 

(1)不動産の時価がローン残高を上回る場合(アンダーロー

  ン) 

 

① 不動産を売却し精算する

 

 不動産の時価(又は査定価格)がローン残高を上回る場合(アンダーローン)は、不動産を売却した価額から残っている住宅ローンなどの債務の全額を控除した額を現金等で精算することができます。  

 

② 妻が「住宅の使用権」の分与を受けて住み、ローンを払い続

 け、ローン完済後に名義変更を行

 

 妻が住宅の使用権の分与を受けて無償で住み、内部的にローンの支払いを引き受け、ローン完済後に名義変更を行う方法があります。

 この方法による場合は、調整金として、「分与額を算定するための不動産の価額」に按分率(夫)を乗じた価額を妻の分与価額総額から控除します。 

 離婚時には「所有権移転請求権保全の仮登記」のみ行い、ローン完済後に所有権移転登記を行います。

  離婚協議書に、所有権移転登記をローン完済後に行う旨の取り決めや、光熱費等管理費・修繕積立金等の支払者および支払い方法についての取り決めを記載します。

 

③ 妻が住宅の分与を受け名義変更を行う。残っている住宅ローンについては、妻が免責的債務引き受けにより新たに名義人となって払い続ける

 

 免責的債務引き受けについて金融機関の承諾を得ることができれば、妻が新たに住宅ローンの名義人となり、離婚時に所有権移転登記をすることができます。妻の返済能力によっては、金融機関が債務引き受けを承諾しないことがあります。

 

 妻が抵当権がついている住宅の分与を受け名義変更を行う。ローンは夫が払い続ける

 

 不動産に抵当権がついている場合、抵当権は分与後も残ります。分与を受けた者は物上保証人となります。

 

 なお、抵当権がついている住宅の分与は、ローンは夫が払い続けるとしても金融機関の承諾が必要な場合が多いので注意が必要です。

 

⑤ 住宅の所有名義人である夫が住みローンを払い続ける

 

 この方法による場合は、「分与額を算定するための不動産の価額」に按分率(妻)を乗じた価額を夫から妻に分与します。

 

(2)ローン残高の方が不動産の時価(又は査定価格)より多額

  の場合(オーバーローン)

 

 ローン残高の方が不動産の時価より多い場合(オーバーローン)は、不動産を売却してもローンが残るだけなので、どちらかが住み続けてローンの支払いを続けるのが一般的です。

 この場合、「分与額を算定するための不動産の価額」がマイナスなので、調整金等の支払いはありません。 

 

① 妻が「住宅の使用権」の分与を受けて住み、ローンを払い続

 け、ローン完済後に名義変更を行

 

 妻が住宅の使用権の分与を受けて無償で住み、内部的にローンの支払いを引き受け、にローン完済後に名義変更を行う方法があります。 

 離婚時には「所有権移転請求権保全の仮登記」のみ行い、ローン完済後に所有権移転登記を行います。  

 所有権移転登記をローン完済後に行う旨の取り決め、光熱費等管理費・修繕積立金等の支払者および支払い方法についての取り決めを離婚協議書に記載します。

 

 オーバーローンの不動産を財産分与した場合、分与者である夫は、時価で譲渡したこととなり、譲渡損が発生することになります。

 したがって、一定の要件に該当すれば、住宅ローンの残額から不動産の時価を控除した譲渡損を、給与所得等他の所得と損益通算し、確定申告(還付)をすることができます。

 

 妻が「住宅の使用権」の分与を受けて住み、ローンは夫が払い続ける

 

 通常、住宅の使用権の分与を受け無償で住み続ける場合は ローンの支払いも引き受けますが、事情によっては、住宅の所有名義人である夫がローンを払い続ける場合もあります。この方法は、 ローンの支払いが滞り、居住できなくなるリスクがあります。 

  

 光熱費等管理費・修繕積立金等の支払者および支払い方法についての取り決めを離婚協議書に記載します。 

 

③ 住宅の所有名義人である夫がローンを払い続け、住み続ける 

 

 「分与額を算定するための不動産の価額」がマイナスなので、調整金等の支払いはありません。

 

4. 住宅ローン付き不動産の名義変更 

 

 住宅ローン付不動産を財産分与する場合は、離婚協議書に、「所有権移転登記はローン完済後に行う」 等の取り決めをしておく必要があります。  

 

 不動産を財産分与で取得した者が所有権移転登記をするとき、「登録免許税(不動産価格の2%)」が必要です。どちらが支払うか、離婚協議書に取り決めをしておく必要があります。

 

 銀行は名義変更を期限の利益喪失事由とする約款を定めているのが一般的です(名義変更の時点で残債を一括返済しなければならなくなります)。  

 

財産分与により不動産の名義変更をする場合には、銀行の承諾を得る必要がありますが、一般に銀行は、当事者に資力がある場合等でない限り、承諾をしない場合が多いようです。(出典:安達敏男・吉川樹士(2017)『第2版 一人でつくれる契約書・内容証明の文例集』日本加除出版.299頁)  

 

5. 借地上に立つ建物の財産分与 と注意点 

 

 借地上の建物を財産分与する場合は、借地権も譲渡することとなります。トラブル防止のため、地主の了解を事前に得ておきましょう。