相続の放棄・辞退の方法

□ 相続の放棄・辞退の方法には、①「相続放棄」(家庭裁判所に申述書を提出する)、②「相続分の放棄」(遺産分割協議書に「相続分なし」と記載する)、③「相続分のないことの証明書」・「相続分譲渡証明書」により事実上の相続放棄を行う、④遺言」(特定の相続人に一切相続させないことにする)があります。 

□ 遺産分割協議書に「相続分なし」と記載する「相続分の放棄」や、「相続分のないことの証明書」・「相続分譲渡証明書」により相続の放棄・辞退をしても、負債や連帯保証人の地位は法定相続分に応じて引き継ぎます。債務を引き継がないためには「相続放棄」をすることが必要です。

 

注意事 項  「相続放棄」の申し立て期限は、相続があったことを知ったときから3ヵ月です。ただし、3か月を過ぎてから負債があることが分かった場合は、債務の存在を知ったときから3か月以内です。 

注意事 項  負債の存在を知らなかったとしても、預貯金の払い戻しをするなど、相続財産を処分すると、相続放棄・限定承認はできなくなります。

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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ポイント 関連情報  

➤ 相続の放棄・辞退の方法 

➤ 相続放棄

➤ 相続土地国庫帰属制度

➤ 限定承認

➤ 単純承認

➤ 財産分離

➤ 相続分の譲渡  

➤ 相続分なきことの証明書

1. 「相続放棄」

 

□ 別掲 》相続放棄 をご覧ください 

 

2. 「相続分の放棄」

 

 特定の相続人が相続財産を何ももらわないという遺産分割協議書も有効とされていることから、特定の相続人だけに遺産を集中したい場合は、「相続放棄」ではなく、遺産分割の際に意思表示する「相続分の放棄」で足りる場合があります。

 「相続分の放棄」をする方法は、遺産分割協議書に「特定の相続人がすべてを相続する」旨記載します。

 

□ 「相続放棄」をしなくてもで「相続分の放棄」で足りる場合

 

① 家業を継ぐ者にすべてを相続させる場合

 遺産分割の話し合いで家業を継ぐ者にすべてを相続させることに決めたら、遺産分割協議書に「家業を継ぐ者がすべてを相続する」旨記載すれば足ります。

 家業を継ぐ者は、この遺産分割協議書で登記や預金の名義変更等ができます。

 

② 相続人が被相続人の妻と子で、被相続人に きょうだい (代襲相続の甥・姪を含む)がいるとき

 このケースで被相続人の妻にすべてを相続させたい場合に子は「相続放棄」してはいけません。「相続放棄」ではなく「相続分の放棄」の意思表示をする必要があります。

 その理由は、子が「相続放棄」すると、遺産の4分の1が被相続人の きょうだい (代襲相続の甥・姪を含む)のところにいってしまうからです。

 なお、「相続分の放棄」の方法は、遺産分割協議書に「被相続人の妻がすべてを相続する」旨記載すれば足ります。

 

③ 子どものいない夫婦で、被相続人である夫に きょうだい がいる場合

 このケースで被相続人である夫の義父母に「相続放棄」してもらっても、夫に きょうだい がいると、夫の きょうだい が相続人に繰り上がり、遺産の4分の1が被相続人の きょうだい (代襲相続の甥・姪を含む)のところにいってしまいます。

 このケースでは、義父母には「相続放棄」ではなく「相続分の放棄」してもらう必要があります。

 

④ 新たな相続人が現れる可能性のあるとき

 

 

 注意事 項  注意すべき点として、「相続分を放棄」しても、「相続放棄」と異なり、債務は、法定相続分の範囲で弁済しなければならないことがあげられます。  

 

3. 相続分のないことの証明書(相続分皆無証明書)」による事実上の相続放棄

 

 「相続分のないことの証明書」とは、相続財産があるにもかかわらず「事実上の相続放棄」をする書類です。

 「相続分のないことの証明書」があれば不動産の相続放棄ができるため、煩瑣な遺産分割協議や相続放棄の手続きをとることなく、事実上の相続放棄をすることできます。

 

注意事 項  注意すべき点として、相続分のないことの証明書」で相続分を放棄しても、「相続放棄」と異なり、債務は法定相続分の範囲で弁済しなければならない点が挙げられます。

 

□ 詳しくは、》相続分のないことの証明書 をご覧ください。 

 

4. 相続分譲渡証明書による事実上の相続放棄

 

 相続開始後、遺産分割までの間に、その相続分を他の相続人又は第三者に、有償無償を問わず譲渡できます。 

 相続分譲渡は「相続人たる地位の譲渡」であり、個々の財産の持ち分の譲渡ではありません。

 「相続譲渡証明書」による無償譲渡で、事実上の相続放棄をすることできます。

 

□ 詳しくは、》相続分譲渡 をご覧ください。 

 

5. 遺言で、特定の相続人に一切相続させない方法

 

 遺言で、特定の相続人に一切相続させない方法は、遺言で全財産を他の相続人等に相続または遺贈します。

 そのうえで、 被相続人の生存中に、一切相続させないこととする相続人に「遺留分を放棄」してもらいます。なお、「遺留分の放棄」は家庭裁判所の許可が必要です。

 

 注意事 項  注意すべき点として、遺産分割協議書に「相続分なし」と記載する「相続分の放棄」をしても、「相続分のないことの証明書」による事実上の相続放棄をしても、相続分譲渡」をしても、「相続放棄」と異なり、債務は法定相続分に応じて引き継ぎ、法定相続分の範囲で弁済しなければならないことがあげられます。 

 

6. 遺贈の放棄 

 

(1)包括遺贈の放棄

 

 包括遺贈の放棄」は相続放棄と同じ手続きが必要です。相続があったことを知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に申述しなければなりません。 

 遺贈義務者その他の利害関係者は、受遺者に対して、「遺贈を承認するか放棄するか」相当の期間を定めて督促することができます。

 包括受遺者が遺贈を放棄した場合、その遺贈分は相続人に帰属します。他に、包括受遺者がいてもそこには帰属しません。

 

(2)特定遺贈の放棄

 

 「特定遺贈の放棄」は、遺言者の死亡後、いつでもすることができます。受遺者から、他の相続人や、遺言執行者に通知するだけです。 

 他の相続人や遺言執行者等の遺贈義務者、その他の利害関係者は、受遺者に対して、「遺贈を承認するか放棄するか」相当の期間を定めて督促することができます。 

 受遺者が遺贈を放棄したときは、遺贈は相続財産に帰属します。