離婚協議書・条項別文例とポイント

□ 離婚協議書は、① 離婚の合意 ② 親権者・監護権者の定め ③ 子どもの養育費 ④ 子どもとの面会交流 ⑤ 離婚慰謝料 ⑥ 離婚による財産分与 ⑦ 住所変更等の通知義務 ⑧ 清算条項 ⑨ 強制執行認諾条項 の中から必要性に応じて書きます。

■ 養育費の取り決めをしても、約8割が支払いをしていないとも言われています。 強制執行認諾条項が必要です。

■ 面会交流についても協議し定めるよう民法に定められた。(「面会交流は認めない」と離婚協議書に定めても無効。)

■ 慰謝料を確実に受け取るためには一括払いにする方法がおすすめです。分割払いにするときは初回の支払額をできるだけ多く設定してもらいます。

■ 慰謝料を分割払いにするときは、期日までに支払いを怠った場合の取り決めが必要です(遅延損害金)。

■ 慰謝料がない場合は「甲と乙の間に、慰謝料の支払いは存在しないことを確認する。」と明記し、後日のトラブルを防止しましょう。 

■ 将来受給する予定の退職給付金を財産分与する場合、退職給付金の金額が一定額でないと強制執行認諾条項の適用はありません(執行力がない)。 

■ 債務を履行しない場合でも期限の到来した部分しか強制執行できません。また、分割払いの場合、「期限の利益喪失条項」がないと強制執行できません。

強制執行認諾条項は、「金銭の一定額の支払い又はその他の代替物・有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」についてのみ効力を有し、不動産の引き渡し等には効力はありません。注意を要します。(出典:安達敏男・吉川樹士(2017)『第2版 一人でつくれる契約書・内容証明郵便の文例集』日本加除出版.295頁)  

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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Step1 離婚の合意の定め

 

 合意により協議離婚をする旨を記載します。どちらが離婚届を提出するかも記載します。   

 

(文例)

 

第1条 夫○○○○(以下、「甲」という。)と妻○○○○(以下、「乙」という。)は、離婚について協議した結果、本日、協議離婚することに合意し、つぎの通り確認する。離婚届は乙が速やかに提出する。

 

step2 子どもの「親権者」・監護権者」の定め

 

 親権は、子どもと一緒に住み、一人前になるように身の回りの世話と教育、しつけを行うとともに身分行為の代理人になる「身上監護権」と、子ども名義の財産の管理や、財産に関する法律行為についてその子を代理する「財産管理権」とからなります。 

 

 親権から身上監護権を切り離して、親権者とは別に「監護者」を定めることもできます。

 

 監護者を定める場合は、父親が親権者として子どもの「法定代理人」となって財産管理などの行為を行い、母親はこどもを引き取って監護者となって身の回りの世話や教育、しつけを行うのが一般的です。

 

※ 監護者を親権者とは別に定めた場合は必ず離婚協議書に明記します。 なお、親権者と監護者を分けない場合も、養育費の支払い義務者を明確にするため、監護者を明記することをおすすめします。

 

 子どもが複数いる場合には、それぞれに親権者を定め、明記します。

  

※ 全員の年齢が低い場合は、きょうだいが一緒に生活したほうが人格形成の面からも好ましいと考えられており、一方の親に親権を統一することが原則とされています。 

 

※ 民法改正により、2022年4月から成年年齢が変更されたことに伴い、親権は子が18歳になるまでに変更されました。満18歳以上の子は親権者を決める必要はありません。

 

(文例)

 第〇条 甲・乙間の長男(令和日生、以下「丙」という。)及び、二男(令和日生、以下「丁」という。)の親権者を乙と定め、同人において監護養育する。 

 

step3 子どもの養育費」の定め 

 

 養育費とは、衣食住の費用、学校などの教育費、医療費、娯楽費等、子どもが成人するまでに必要な養育にかかる費用のことです。

 

 養育費の支払い義務は、原則として、子どもが満20歳になるまでとされています。

 

 養育費の支払い義務は親権があるか否かに関係ありません。親である以上は親権に関係なく子どもを養育する義務があります。 子どもを引き取らなかった親も養育費を支払う義務があります。また、再婚しても養育費の負担義務はなくなりません。(どちらが再婚してもです。) 

 

□ 離婚協議書の養育費に関する記載事項

 

 ①毎月の養育費の額、②支払い方法、③毎月の支払日、④子どもがいくつになるまで支払ってもらうか、⑤進学や事故・病気等で出費が増えた場合はどうするか。

 離婚協議書を公正証書で作成する場合は、強制執行認諾条項の関係があるので、養育費の支払いの終期を明確に記載する必要があります。

 

※ 養育費に財産分与の意味合いも含まれている場合は、離婚協議書にその旨を明記します。

 

※ 養育費の取り決めをしても、約8割が支払いをしていないとも言われています。 「強制執行認諾条項」を記載することをおすすめします。

 

(文例)

 

 第条 甲は乙に対し、丙及び丁の養育費として、令和月(*)から丙・丁、それぞれが満20歳に達する日の属する月まで、毎月一人につき金万円を、毎月末日限り、乙の指定する、銀行支店の乙名義の預金口座(口座番号)に振込する方法により支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。 

2 前項に定めるほか、丙及び丁の進学にともなう費用については甲が全額負担する。 

3 甲と乙は、養育費の支払い期間中の丙又は丁の病気等にともなう費用の負担については別途協議のうえ増減できるものとする。  

4 将来、甲又は乙の失職、その他の事情の変更が生じたときは、甲と乙は、丙及び丁の養育費の変更について、誠実に協議し円満に解決するものとする。

 

* 養育費は離婚届の受理と関係なく発生します。 

 

※子どもの病気やケガによる入院や、進学先などによって養育費が増大することも考えられます。支払う側の病気、倒産、リストラ、再婚相手との間の子ども等により支払いが困難になることもあり得ます。

 そうした事態に備え、離婚協議書に養育費の減額・増額を定める条文を入れておくことをおすすめします。  

 

step4 子どもとの面会交流の定め

 

 面会交流権とは、子どもを引き取れなかった側の親が、子どもと会ったり、一時的に一緒に過ごしたりする権利のことです。

 「 面会」とは子どもと触れ合うこと、「交流」は食事や宿泊などで一緒に過ごすことをさします。

 面会交流の方法としては、ほかに電話や学校行事への参加等があります。 

 

 面会交流は子どもの幸福や福祉のためのものです。危害が及ぶことが想定される場合や子どもが嫌がる場合は拒否することができるとされています。

 その例として、アルコール依存症、性格破綻、暴力、お金があるのに養育費を払わないなどがあります。

 なお、面会交流は子どもの精神的・肉体的な負担にならないよう配慮することが必要です。

 

 離婚に伴うトラブルになかで、面会交流にかかわるものは少なくありません。離婚協議書の文面に面会交流の方法を具体的かつ柔軟に定めることが求められます。

 

ア、面会・交流の方法、頻度;例えば「月に1回程度」、「年に5回程度」、こどもの夏休み、誕生日など 

イ、1回あたりの面会時間の長さ;例えば「何時間程度(あるいは何日間程度)」 

ウ、宿泊の有無 

エ、日時を決める者 

オ、面会・交流の場所 

カ、子どもが小さいときは、受け渡しの方法 

キ、日時・場所の変更の可否について  

ク、連絡方法 

 

(文例)

 

条 乙は、甲が丙と1か月に1回程度を基準として面会交流をすることを認める。面会交流の具体的な日時、場所及び方法については、別途、甲と乙が、丙の福祉に十分配慮しながら、その都度協議して決定する。

 

※ 平成23年民法改正(平成24年4月1日施行)により、子どもとの面会や交流について協議で定めるよう民法に定められ、離婚届の用紙に、面会交流、養育費の分担について、取り決めをしているか、まだ決めていないかをチェックする欄が設けられています(「まだ決めていない」でも離婚届は受理されます)。

 

※ 「面会交流を認めない」と離婚協議書に定めても無効です。 

 

step5 離婚慰謝料 の定め 

 

 離婚の慰謝料とは、暴力や不貞など離婚の原因を作った側(有責配偶者)が、離婚の原因に責任のない配偶者に支払う、「精神的な苦痛」に対する損害賠償金です。

 離婚の原因が、「単に性格の不一致である場合」や、「双方に同じくらい離婚の原因について責任がある場合」は、慰謝料の請求はできません。

 

 慰謝料の支払金額、支払方法、支払の期間、回数について具体的に記載します。

 

(文例1)

 

条 甲は乙に対し、本件離婚による慰謝料として、金万円の支払義務のあることを認め、これを令和月から令和月まで、毎月金万円ずつを毎月末日限り、前記乙名義の普通預金口座に振込送金する方法で支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。 

 

2 甲が、前項の分割金を、乙の了解を得ずに支払いを怠り、その額が2回分に達したときは直ちに期限の利益を失い、甲は乙に対し、前項の未払い残額及び、これに対する期限の利益を失った日の翌日から支払い済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

 

(文例2)

 

条  甲は乙に対し、本件離婚による慰謝料として、金万円の支払い義務のあることを認め、これを支払う。支払い方法は下記のとおりとし、毎月末日限り、前記乙名義の普通預金口座に振込送金する方法で支払う。なお、振込手数料は甲の負担とする。 

 

              記

 

(1)令和月から令和月まで 毎月金万円

(2)令和月から令和月まで 毎月金万円

 

2 甲が、前項の分割金を、乙の了解を得ずに支払いを怠り、その額が2回分に達したときは直ちに期限の利益を失い、甲は乙に対し、前項の未払い残額及び、これに対する期限の利益を失った日の翌日から支払い済みまで年3パーセントの割合による遅延損害金を支払う。

 

※ 慰謝料については相手方に支払い能力が無ければ分割で支払ってもらうこともやむをえません。ただし、その場合は、支払いを怠ったりする事態も予想されますので、文例のように、期日までに支払わなかった場合の遅延損害金の取り決めを記載します。(特約条項:過怠約款)

 

(文例3) 

 

条 甲と乙の間に、慰謝料の支払いは存在しないことを確認する。

 

※ 慰謝料がない場合も、離婚後のトラブルを防止するため、このように記載することをおすすめします。

 

※ 慰謝料は現実には財産分与と合算し処理することが多いといわれています。 

 

step6 離婚による財産分与」の定め 

 

 財産分与とは、婚姻期間中に夫婦の協力によって蓄えた財産を、離婚に際し清算することです。 

 法律で認められた権利で、どちらに離婚原因があるかに関係なく、原則として公平に分与されます。 

 離婚の原因を作った側(有責配偶者)も請求できます。

 

 財産分与の定めは、①対象となる財産、②財産分与の額、③財産分与の方法(現物を分与するのか、売って現金を分与するのか)を明確に記載します。 

 

(1) 金銭の財産分与

 

(文例)

 

条 甲は乙に対し、離婚に伴う財産分与として、金万円を支払う。支払い期限は令和日までとし、乙指定の銀行支店の乙名義の預金口座(口座番号)に振込送金する。なお、振込手数料は甲の負担とする。

 

(2) 不動産の財産分与

 

① 所有権移転登記手続きや登記手続きの費用を負担する者を必要に応じ記載します。

 

② 財産分与した不動産について所有権移転登記をするときには「登録免許税(不動産価格の2%)」が課税されます。

 「登録免許税をどちらが支払うか」について、あとでもめないよう必要に応じ記載します。

 

③ マンションの場合は、「所有名義をどうするか、光熱費等管理費・修繕積立金等の支払者および支払い方法について」、必要に応じ記載します。

 

④ 文例1 

 

第〇条 甲は乙に対し、本件離婚に伴う財産分与として、甲所有名義の下記不動産を給付することとし、令和月末日までに、財産分与を原因とする所有権移転登記手続きをする。なお、登記手続き費用は甲の負担とする。

 

 

 不動産の表示

 

(一棟の建物の表示)

 所在     〇〇市〇〇 △△△番地△

 建物の番号  〇〇マンション 

(専有部分の建物の表示)

 家屋番号   〇〇市〇〇 △△番△ の △△△

 建物の番号  △△△

 種類     居宅

 構造     鉄骨鉄筋コンクリート造 壱階建

 床面積    △階部分 △△・△△平方メートル 

(敷地権の表示)

 所在及び地番 〇〇市〇〇△△△番地△

 地目    宅地

 地積    △△△.△△平方メートル

 敷地権の種類 所有権

 敷地権の割合 △△△△分の△△

 

⑤ 文例2 

 

条 甲は甲所有の下記不動産を売却し、売買代金から仲介手数料及び印紙代等必要経費を差し引いた金額の2分の1を、離婚に伴う財産分与として、乙に支払う。支払い期限は令和日までとし、乙指定の銀行支店の乙名義の預金口座(口座番号)に振込送金する。振込手数料は甲の負担とする。

 

  

 

(省略)

 

住宅ローン付き不動産の財産分与については、》》住宅ローン付き不動産の財産分与文例 をご覧ください。

 

(3) 将来受給する予定の、退職給付金の財産分与  

 

 将来受給する予定の退職給付金を財産分与の対象にするのは、退職予定が数年後のものに限るのが一般的です。

 

 将来受給する予定の退職給付金の財産分与の額は、離婚時に退職したと仮定して算定した退職給付金支給額に、婚姻期間を勤続期間で除した数値を乗じ、ライプニッツ係数を用いて現在の額に引き直します。

 

(文例)

 

第〇条 甲は乙に対し、退職金が〇〇会社から支給されたときは、財産分与として、支給された額に勤続年数に対する婚姻期間の割合を乗じて算出した額を中間利息控除を行い現在の価値に換算した額を支払う。支払い期限は、支給を受けた日から10日以内とし、○○銀行○○支店の乙名義の預金口座(口座番号○○○○)に振込み送金により支払う。振込手数料は甲の負担とする。 

 

 注意事 項 この文例による書き方は、金額が一定額でないので、公正証書で離婚協議書を作っても、強制執行認諾条項の適用がなく、執行力はありません。 

 

(4) 生命保険の財産分与

 

 子どもが受取人になっている生命保険については、①離婚後も継続してもらう、又は、②離婚時に解約して解約返戻金を分け合う方法があります。 

 

① 離婚後も継続してもらう

 

(文例1)

 

第〇条  甲は、養育費の支払い期間満了までの間、下記保険契約を継続する。

 

〔保険契約の表示〕 

①   保険証券番号          〇〇〇〇〇〇〇

②   契約締結日            △△年△月△日

③   保険の種類・名称   〇〇生命保険

④   保険者                〇〇生命保険株式会社

⑤   保険契約者         〇〇〇〇 

⑥   被保険者       〇〇〇〇

⑦ 死亡保険金受取人     〇〇〇〇   

 

(文例2)

第○○条 甲は、乙に対して、下記保険契約を継続し、死亡保険金受取人を乙から長男〇〇〇〇に変更する。

 甲は、乙の同意なく当該保険契約を中途解約した場合は、契約を継続していたと仮定した場合に支払われる保険金を乙に支払う。

 

② 離婚時に解約して解約返戻金を分け合う

 

(文例)

 

(5) 学資保険の財産分与

 

 学資保険については、①夫名義の学資保険を離婚後も継続してもらい、保険料は妻が払う、または、②保険契約者を妻に変更したうえで、保険契約を継続する方法があります。

 夫名義の学資保険を離婚後も継続し、夫が満期日まで保険料に支払い、満期金を子どもの学資に充てる方法も考えられます。

 

 (夫名義の学資保険を離婚後も継続してもらい、保険料は妻が払う文例)

 

第〇条 甲と乙は、以下の保険契約について次のとおり合意する。

 

〔保険契約の表示〕

 証券番号

 保険の種類・名称

 保険者

 保険契約者

 

1)甲は、離婚後も子供が満18歳に達する日の属する月までまで契約を継続する。

2)乙は、保険料(月額金万円)を甲に代わって保険者に支払う。 

 

(6) 扶養的財産分与の定め

 

□ 扶養的財産分与とは、離婚後の生活に困ることになる場合に支払われる生活費の援助目的の財産分与です。専業主婦で高齢のため仕事に就くことが難しいケースや、病気で療養が必要なケースなどがあります。

 夫婦間での合意で離婚の条件として扶養的財産分与を定めることがあります。

 

(文例)

 

第〇条  甲は乙に対し、生活費の援助として、令和〇年月から令和月まで、毎月毎月末日限り、金万円を支払う。支払方法は乙指定の銀行支店の乙名義の預金口座(口座番号)に振込送金する方法で支払う。振込手数料は甲の負担とする。  

 

step7 年金分割(合意分割)の定め

 

 年金分割請求をすること及び請求すべき按分割合(*)について合意している旨を記載する必要があります。

 *按分割合とは、給料の低い方の取り分のことです。 

 

 公正証書に年金分割(合意分割)の定めをしておけば、1人で年金分割の請求手続きをすることができます。

 

(離婚協議書文例) 

 

第〇条(離婚時年金分割の合意等)

1 甲(第1号改定者。昭和〇〇年〇〇月〇〇日生。基礎年金番号 〇〇〇〇-〇〇〇〇〇〇)と乙(第2号改定者。昭和〇〇年〇〇月〇〇日生。基礎年金番号 〇〇〇〇-〇〇〇〇〇〇)は、本日、厚生年金分割の対象期間に係る被保険者期間の標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を0.5とする旨合意する。

2 乙は、離婚届提出後2箇月以内に、厚生労働大臣(又は日本年金機構理事長)に対し、前項の請求をする。

 

※ 第1号改定者は対象期間の標準報酬総額の多い者、第2号改定者は少ない者を指します。

 

(離婚公正証書文例)

 

第〇条 甲(第1号改定者)及び乙(第2号改定者)は、本日、厚生労働大臣(又は日本年金機構理事長)に対し、当事者間の令和〇年日情報提供請求の下記「厚生年金情報」に係る対象期間の標準報酬の改定又は決定の請求をすること及び請求すべき按分割合を0.5とする旨合意した。 

               記

情報提供請求日 令和

情報提供請求日までの対象期間(婚姻期間)

平成日から令和

第1号改定者

氏名 〇〇〇〇  

生年月日   昭和〇〇年〇〇月〇〇日

基礎年金番号 〇〇〇〇-〇〇〇〇〇〇

第2号改定者

氏名 〇〇〇〇   

生年月日   昭和〇〇年〇〇月〇〇

基礎年金番号 〇〇〇〇-〇〇〇〇〇〇 

 

第〇条 乙は、離婚届提出後速やかに、厚生労働大臣(又は日本年金機構理事長)に対し、前条の請求をする。  

 

 step8  住所変更等の通知義務の定め 

 

 子どもの「養育費」の定めをした場合は、支払いが終わるまでは相手の住所や連絡先、勤務先を知っておく必要があります。とくに、執行認諾約款付公正証書により給料を差し押さえる場合は、まずは相手方の「勤務先」の情報を裁判所に伝える必要があります。令和2年4月1日以降は、改正民事執行法が施行され、裁判所に申し立てれば、元配偶者の勤務先情報などの財産関連の情報を入手できるようになりましたが、煩雑さを避けるため、住所変更等の通知義務の定めをしておくことをおすすめします。

 面会交流の定めをした場合も、相手の住所や連絡先を知っておく必要があります。お互いに、住所や連絡先が変更になった場合は通知しあうことを定めます。 

 

(文例)

 

第〇条 甲と乙は、丙及び丁が満20歳に達する日まで、それぞれの住所、勤務先又は連絡先電話番号を変更した場合は、お互いが速やかにその旨を相手方に文書等で通知するものとする。  

 

 step9 清算条項

 

 清算条項とは、後日、離婚に伴う財産分与や慰謝料に関し請求の蒸し返しをされること防ぐために定めるものです。 

 

 清算条項を記載すると、当事者間に、他に、婚姻中に生じた何らかの債権債務があることが判明した場合も法律上請求できなくなる恐れがあります。

「財産分与、慰謝料については」というように、限定明示し記載することをおすすめします。 

 

※ 清算条項があっても、子ども自身の親に対する扶養請求権は残ります。

※ 清算条項があっても、「養育費」・「婚姻費用」については、経済状況に関する事情の変更があれば増額を請求できます。  

 

※ 「年金分割請求権」は公法上の請求権であり、放棄することはできません。清算条項があっても、年金分割請求申し立てをすることができます。

 

(文例)

 

第〇条 甲と乙は、本件離婚に伴う財産分与及び慰謝料については、この離婚協議書に定めるところで全て解決したことを確認し、ここに定めるもののほか、今後名義のいかんを問わず、互いに金銭その他一切の請求をしない。 

 

step10の1 強制執行認諾文言付公正証書作成の合意

 

 離婚公正証書に強制執行認諾文言を入れると、養育費・慰謝料などの支払いが滞った場合に、訴訟を起こすことなく、公証役場で執行文の付与を得て、すぐに強制執行(差押え)の手続きに移ることができます。(*) 

 

* 強制執行認諾条項は、「金銭の一定額の支払い又はその他の代替物・有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」についてのみ効力を有し、不動産の引き渡し等には効力がないので、注意を要します。(出典:安達敏男・吉川樹士(2017)『第2版 一人でつくれる契約書・内容証明郵便の文例集』日本加除出版.295頁) 

 

 強制執行認諾条項とは、決めた約束を守らなかったときは、直ちに強制執行を行ってもよいという趣旨の文言のことです。

 離婚協議書の内容を公正証書として残したい場合にこの条項を入れておきます。  

 

(文例)

 

第〇条 甲と乙は、本書作成後、各条項の趣旨による強制執行認諾文言付公正証書を作成することを合意する。

 

(ご参考:公正証書にした場合の文言例)

 

 甲は、〇に定める金銭の支払いを怠ったときは、直ちに強制執行に服する旨認諾した。 

 

step10の2 期限の利益喪失条項

 

 分割払いの場合、一般に金銭債務を履行しないときでも、期限の到来した部分しか強制執行できません。

 そうした事態に備え、「期限の利益喪失条項 」を記載し、残金を一括して強制執行できるようにしておきます。

 

(文例)

 

第〇条 甲が、前条の分割金を、乙の了解を得ずに2回以上支払わなかった場合は、甲は乙に対し、残金を一括してただちに支払う。  

 

step10の3 道義条項

 

 道義条項とは、双方が道義的な責任を認め合い、今後の紛争を予防するために記載する条項です。強制執行することはできません。

 

(文例)

 

第〇条 甲と乙は、本契約上の金銭債務の支払期間中、互いの経済状況に大幅な変化があったときなど特段の事情が生じた場合には、誠実に協議することを約束する。

 

step10の4 裁判管轄(合意管轄)

 

 離婚協議書に定める合意事項に関する訴訟の提起先は、相手方(被告)の住所地を管轄する家庭裁判所又は双方が合意で定める家庭裁判所とされています。

 相手方の住所地を管轄する家庭裁判所以外の裁判所を訴訟の提起先としたい場合は、あらかじめ、離婚協議書にこの条項をもうけることができます。

 

民事訴訟法 第4 条

1 訴えは、被告の普通裁判籍の所在地を管轄する裁判所の管轄に属する。

家事法 第245条 

1 家事調停事件は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所の管轄に属する。

 

(文例) 

 

第〇条 本協議書から発生する一切の紛争の第一審の管轄裁判所を乙の住所地を管轄する裁判所をもって合意管轄とする。