遺言による遺産分割方法の指定

□ 遺言による遺産分割方法の指定とは、「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有」を遺言で指示することです。これらの いずれによるのかを指示するのが、遺言による遺産分割方法の指定の本来の意味ですが、「自宅不動産を妻○○○○に相続させる」「農地を長男○○○○に相続させる」のように、どの財産を誰に相続させるかを指示する、いわゆる「遺産分割の実行の指定」も含まれると解されています。 

□ 遺言による遺産分割方法の指定があった場合は、遺産分割協議等において、可能な限り尊重されなければならないとされています。 

□ 遺言による遺産分割方法の指定で「現物分割」を指定する場合、相続開始後、遺産分割協議を経ずに直ちに物権的承継効果を生じさせることを望む場合は、「相続させる旨の遺言」とするのが明解です。 

□ 遺言で遺産分割方法の指定を第三者に委託することができます。

民法908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)

被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

1. 遺産分割方法の指定とは 

 

 遺言による遺産分割方法の指定とは、「現物分割」「代償分割」「換価分割」「共有」を遺言で指示することです。

 これらの いずれによるのかを指示するのが、遺言による遺産分割方法の指定の本来の意味ですが、「自宅不動産を、妻○○○○に相続させる」「農地を、長男○○○○に相続させる」のように、どの財産を誰に相続させるかを指示する、いわゆる「遺産分割の実行の指定」も含まれると解されています。

 

 法定相続分の範囲を超えて遺産分割方法が指定される場合は、相続分の指定(相続分割合の指定)が含まれていると解される場合が多い。

 

(1) 「現物分割」を指示する

 

 相続人一人ひとりに現物のまま分配する方法です。

 たとえば、自宅及び現金は妻に、農地は長男にというふうに、一つひとつの財産について取得者を決めます。

 なお、土地を分筆して分ける場合についても現物分割と呼びます。

 

 遺言による遺産分割方法の指定で「現物分割」を指定する場合、相続開始後、遺産分割協議を経ずに直ちに物権的承継効果を生じさせることを望む場合は、「相続させる旨の遺言」とするのが明解です。 

 

 この方法はとても分かりやすい方法ですが、財産の価値がそれぞれ異なるので、分けることが難しく、不公平が出てしまうという欠点があります。

 相続人それぞれに渡したい財産があるや、他人に渡したくない財産がある場合、それぞれの相続分に応じうまく分けられれば最良の方法です。   

 

(2) 「代償分割」を指示する

 

 代償分割は、不動産の場合にみられますが、現物は相続人の一人に取得させ、他の相続人に不足分を代償金として金銭で支払わせる方法です。  

 相続財産が居住する不動産、農地、事業用不動産の場合はこの方法が適しているケースが多いと言えます。 また、不動産など物理的に切り分けることによって価値が下がってしまう場合もこの方法が適しているケースと言えます。  

 代償分割をするときの不動産の評価額は、時価(実勢価格)でするのが原則です。

 ただし、現に取得者が住んでおり、これからも住み続ける予定の家の敷地の評価は、時価ではなく路線価を基準として財産評価します。理由は売らない限り現金にはならないからです。 

 代償分割は柔軟な分割をすることができますが、取得者に代償金を支払う資力があることが必要です。 

 

 不動産などを多めに相続させた相続人に対し、他の相続人に見返りとして現金を払うよう指示する場合は、①代償金を支払うべき者、②代償金を受ける者、③何の代償か、④代償金の金額、⑤支払方法、⑥支払い期限について記載します。 

 

(3) 「換価分割(価格分割)」を指示する

 

 換価分割(価格分割)は、相続財産を未分割のまま売却して現金化して分ける方法です。

 換価分割の指示を行うことによって、遺贈の実質的な効果を変えることなく、相続手続きや不動産の売却手続きの手間や費用を軽減できます。 

 現物分割が困難であり、代償分割もできない場合は、換価分割の指示を検討します。 

 換価分割は公平に分けることができますが、問題点として、対象財産に住んでいる人がいる場合は新たに住まいを探さなければなりません。

 また、処分費用がかることや、売却益に所得税が課せられるなどの欠点があります。  

 

(4) 「共有分割」を指示する

 

 共有分割(共有)は、土地などを共有にし、持分で分ける方法です。現物分割の一種です。

 共有は、自己の所有権である「持分の範囲」であれば、自らの持分を自由に譲渡、処分することができます。また、自らの持分を他の共有者または第三者に売却することも自由です。

 

 持分を超えた短期の賃貸借契約などの管理行為は、持分の過半数で決定します。(民法252条)

 

 売却、改築、形状変更等の処分・変更行為は共有者全員の同意が必要です。(民法251条)

 

 共有物への第三者の不法行為に対し交渉することや提訴することなど保存行為は単独でできます。(民法252条但し書き) 

 

 共有分割(共有)した住宅は、相続人全員で合意すれば、相続登記をすることなくそのまま住み続けさせることができます。ただし、相続登記が済んでいないと売却手続きはできません。 

 

2. 遺言による遺産分割の実行の指定

 

 いわゆる「遺産分割の実行の指定」とは、遺言で、特定の遺産を特定の相続人に取得させる指示をすることをいいます。

 「自宅不動産を、妻○○○○に相続させる」「農地を、長男○○○○に相続させる」のように、どの財産を誰に相続させるかを指示します。

 

3. 遺言による遺産分割方法の指定の効果

 

 遺言による遺産分割方法の指定があった場合、遺産分割協議等において、可能な限り尊重されなければならないとされています。(最一小判平成5年12月16日)

 

 ただし、遺言内容を知ったうえで、これと異なる遺産分割協議を成立させることは可能と解されています。

 詳しくは、》》遺言と異なる内容で遺産分割をする をご覧ください。  

 

4. 「遺産分割方法の指定」が必要なケース

 

① 子のうちの一人と親が同居していて、主な遺産は自宅の土地と建物だけという場合は、遺産分割が難しいケースです。

 

 不動産を共有にするのは、後で問題が起きる可能性が高いといわれています。

 同居している子に自宅の土地建物を相続させ、他の子には法定相続分相当のお金を払う、代償分割の指定の検討をおすすめします。 

 

➁ 遺産分割で不動産を共有にした場合は、建て替えや持分の売却には相続人全員の合意が必要となります。

 また、その後の相続で共有者はどんどん増えてゆきます。たとえ多少不平等になっても共有は避けるのが無難と言われています。

 

5. 「遺産分割方法を指定する遺言」と「相続させる旨の遺言」

 

 「遺産分割方法を指定する遺言」の場合は、遺産分割協議が成立するまでの間は遺産は相続人による共有の状態になると解される余地があります。 

 したがって、遺産分割協議を経ずに直ちに物権的承継効果を生じさせることを望む場合は、相続させる旨の遺言とするのが明解です。

 

遺言で遺産分割協議によって分割すべきことを明確にしていない場合、直ちに物権的承継効果を生じるか否かが問題になり得るので、いずれの趣旨で遺言するのか明らかになるよう定めるべきである。分割協議を経ずに直ちに物権的承継効果を生じさせることを望む場合には、相続させる旨の遺言とすべきである。(出典;NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.71頁)  

 

法定相続分の範囲を超えて分割方法が指定される場合もあり、その場合には被相続人による法定相続分と異なる相続分割合の指定(民902条)が含まれているものと解される場合が多いであろう(出典;NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.70頁) 

 

6. 遺産分割方法の指定を第三者に委託する 

 

 遺言で遺産分割方法の指定を第三者に委託することができます。委託を受けた者は、法定相続分に従って配分しなければなりません。ただし、遺言で相続分の指定も合わせて委託された場合は、法定相続分と異なる内容で遺産を配分できます。

(ご参考)遺言による遺産の清算配分

 

遺産の清算配分の態様には、

①・・・積極財産全部を換価して、債務清算後の剰余金を相続人のみに相続させる型のもののほかに、

②この剰余金を相続人以外の者にも遺贈するもの、

③特定の財産を特定の相続人に相続させ又は特定の者に遺贈た上で、その余の財産について換価、清算配分を指示するもの、

④換価処分すべき財産に順位を付して指定し、換価は債務等の清算に必要な限度にとどめて、その余は他の分割方法を指示するもの

等、種々の態様が考えられる。

(出典:『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』36頁)

 

 遺言者は清算すべき債務を個々に指示する事ができ、指示のない相続債務は・・・各相続人に分属する。・・・、相続財産に関する費用(民885条)、遺言の執行に関する費用(民1021条)は、・・・相続財産の負担である。・・・葬儀費用、納骨費用等は、被相続人の債務ではないが、遺言により相続財産をもって支払うべきものと指示することもできる。

(出典:『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』37頁)。

注意事 項  本文例はあくまでも一例です。遺言者のご希望はもとより、推定相続人や遺贈したい人の状況、相続財産の状況などによって遺言文は違ってきます。

 

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