相続財産の評価の仕方

 遺産分割における財産の評価は、分割の協議をする時点の時価(実勢価格)でするのが原則です。ただし、現に家族が住みこれからも住み続ける予定の場合、敷地の評価は時価ではなく路線価を基準として財産評価します(理由;売らない限り現金にはならないから)

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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 1. 不動産等の評価

 

 遺産分割における不動産の評価額は、分割の協議をする時点の時価(実勢価格)でするのが原則です。  

 ただし、現に家族が住みこれからも住み続ける予定の家の敷地の評価は、時価ではなく路線価を基準として財産評価します。(理由;売らない限り現金にはならないから)

 

* 相続税や贈与税の計算における土地の評価額は、路線価があれば路線価、路線価地域以外は固定資産税評価額に地域ごとの倍率を掛けたものとなります。

 計算方法は、路線価図の数字に土地の形状による補正率をかけ、複数の道路に面した土地は加算率を加えます。 建物は固定資産税評価額です。

 

(参考)土地の評価額の種類

 

① 時価(実勢価格)・・・業者を通じての通常の不動産の売買価格

 

② 公示価格・・・地価公示は、毎年1月1日における標準地を選定して「正常な価格」を判定し公示するものです。公共事業用地の取得価格の算定等の規準とされます。

 

③ 路線価・・・路線価は相続税及び贈与税の財産を評価する場合に適用されます。時価(実勢価格)の70%程度とされています(公示価格の80%程度)

 路線価は道路に付され、その道路に面している標準的な宅地の1平方メートル当たりの価格は路線価を基に計算されます。ただし、南側道路や北側道路など土地が接する道路の方位、旗竿地などの増減価要因(*)、環境条件を考慮していませんので注意が必要です。

 

*:土地の評価額の減価要素 

・ 間口が狭い宅地、奥行きが長大な宅地、がけ地にある宅地、斜面、不整形地、無道路地。100分の30の範囲で控除する。

 

・「地積規模大地評価」 :路線価 × 各種補正率 × 規模格差補正率 × 地積

(対象土地)

 地積規模:三大都市圏は500㎡以上、その他は1000㎡以上

 路線価で定める地区区分:普通住宅地区又は普通商業・併用住宅地区に存すること

 用途地域:市街化調整区域(宅地分譲開発可能土地を除く)及び工業専用地域以外に存すること

 容積率:400%(東京23区は300%)以上の土地でないこと

 

・「貸し宅地」の評価 自用地評価から借地権割合(路線価図に記号で表示;30~90%)を引く。宅地の価格ー借地権の価格

 

・「私道」の評価 ①不特定多数が通行:0円。②自己通行のみ:通常評価額。③特定複数が通行:通常評価額×0.3

・「セットバック部分」の評価 :通常評価額×0.3

・「貸家の評価 固定資産税評価額ー(固定資産税評価額×借地権割合)

・「借地権の評価 宅地の価格×借地権の割合

・「借家権の評価 家屋の価格×借家権の割合(一般的には評価しないことが多い)

・「定期借地権」の評価 宅地の価格×(借地契約時の定期借地権の評価額÷借地契約時の宅地の時価)×逓減率

・「貸家建付地(賃貸アパート・マンションの敷地)」の評価(賃貸建物が立っている土地の評価)自用地評価 ×(1−借地権割合(路線価図に記号で表示;30~90%)× 借家権割合(30%)× 賃貸割合)

 

④固定資産税評価額・・・公示価格の70%程度、時価(実勢価格)の60%程度とされます。固定資産税、都市計画税、登録免許税、不動産取得税の課税の際に適用されます。   

 

2. 預貯金

 

 預貯金は残高です。定期預金は預入額に既経過利子(20%源泉徴収後)を加えます。分からないときは金融機関で残高証明をとり確認します。金融機関と支店がわかっていれば照会できます。その際、通常は照会する人と被相続人の関係がわかるように戸籍を提示することが必要です。 

 

3. 株券

 

(1)上場株式

 

 上場株式であれば株価の時価(*)を調べて株数を乗じた金額で算定します。

 

* ①相続開始日の終値、②相続開始日が属する月の終値の平均値、③相続開始日が属する前月の終値の平均値、④相続開始日が属する前々月の終値の平均値、以上のうち最も低い価格。 

 

(2)上場されていない株式

 

 上場されていない株式の場合、株式の価格の算定方式として、純資産価額方式、収益方式、配当還元方式、類似会社(又は類似業種)比準方式、取引先例価格方式、併用方式などがあります。

 被相続人がその株式について大株主だったか小株主だったかによって評価方法が変わります。大株主とは、会社の経営を支配していた場合です。小株主とは、株式の配当からのみ利益を得ていたか経営者一族以外だった場合です。

 大株主の場合にはその会社の規模によって評価方法が異なります。大きな会社の場合は、類似会社(又は類似業種)比準方式を採用します。個人商店のような小さな会社の場合は、純資産額で株価を評価する純資産価額方式を用います。中規模の会社は、類似会社(又は類似業種)比準方式と純資産価額を組み合わせて評価を行ないます。 

 小株主の場合は、配当還元方式を用います。配当還元方式とは、株式を所有することで受け取る1年間の配当金額を、一定の利率(10%)で還元して元本である株式の価額を評価する方法です。

 

「非上場株式等評価ガイドライン」参照  

 

4. 生命保険

 

 生命保険金は死亡保険金の額です。被相続人が保険金受取人でありかつ被保険者である場合に限り遺産分割の対象になります。

 被相続人(契約者)が自分を被保険者とし、相続人の一人を受取人に指定していた場合は指定された受取人の財産になります。この場合、保険金は遺産には当たらず遺産分割の対象になりません。 

 

5. 公社債、タンス預金、金やプラチナの地金、ダイヤの指輪、駐車場、事業用財産(商品、原材料、設備、売掛金など)、立木、果実、特許権・著作権 

 

・ゴルフ会員権:通常取引価格×1.7

・電話加入権:通常取引価格

・書画骨董:売買実例価格

 

6 借金、保証債務、連帯保証債務、未納税、未払医療費 

 

※ 財産の評価時点

 

 遺産分割の対象となる財産の範囲の確定は現実に分割する時点とするのが原則です。 また、遺産分割の対象になる財産の算定の基準時も、同様に、現実に分割する時点とするのが原則です。

 ただし、相続人間で合意できればそれでよいとされています。 

 

【参考】『遺産分割のための相続財産評価は、(相続の時ではなく)分割の時を標準としてなされるべきものである』(札幌高裁昭和39・11・21)