遺言と信託との比較

 □ 信託契約の場合、信託財産の名義は、契約締結後は受託者に変更されます。遺言による信託(遺言信託)の場合は、遺言者の死後に、遺言による受託者に変更されます。 

□ 遺言による信託(遺言信託)の場合、財産の引き渡し(信託の設定)には、遺言執行手続きが必要です。一方、信託契約の場合は遺言執行手続きは不要であり、受益者は速やかに給付を受けることができます。 

□ 信託契約及び遺言による信託(遺言信託)は、両者とも、受益権者(配偶者等)の死後、信託財産をどうするかについて指定しておくことができます(配偶者の生存中は配偶者に自宅を利用させ、配偶者の亡くなった時点での自宅の帰属者を指定することができる)。

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 遺言と信託との比較

 

(1)財産の移転

 

  遺言は、遺言者の死後の財産の承継について定めるものであり、本人の生存中は、財産は本人に帰属したままです。したがって、本人が事理弁識能力を失った場合、財産の管理又は処分等の法律行為については、事理弁識能力を失う前にあらかじめ任意後見契約を結んでおくか、法定後見に委ねることになります。

  一方、信託の場合、信託財産は契約の発効時に相続財産から切り離され、信託財産の管理又は処分等の法律行為については、信託契約に基づき受託者が行います。

 

(2)世代を超えた長期的な財産承継

 

  信託であれば受託者を連続させることも可能であるうえ、信託法94条の「後継ぎ遺贈型受益者連続信託」を使えば、30年プラスアルファという期間制限があるもの、信託財産から得られる価値を受益権という形で、世代を超えて次々と連続させていくことが可能となり、長期的な財産承継を実現することができます。

 

  これに対し、遺言では、単に死亡後の財産承継について定めるのみで、承継財産を世代を超えて次々と連続させていくことはできません。(ただし、遺言で、負担付遺贈(民法1002条)により、一定程度、世代を超えて承継させることはできる)

 

(3)遺言は秘密にできるが信託契約は秘密にできない

 

  遺言はその存在や内容を他人に知られることなく秘密にすることができますが、「信託契約」の場合には、登記や信託目録が公示され、第三者に公開されます。  (遺言信託(遺言による信託)の場合、遺言者の死後、登記や信託目録が公示され、第三者に公開されます。) 

 

2. 信託契約と遺言信託(遺言による信託*)

 

 (1)財産の移転

 

 信託契約の場合、信託財産の名義は契約の発効時に受託者に変更されます(信託財産は契約の発効時に相続財産から切り離される)

 

 一方、遺言信託(遺言による信託)の場合は、信託財産の名義は遺言者(委託者)が死亡したときに受託者に変更されます(信託財産は遺言者(委託者)が死亡したときに相続財産から切り離される)

 

 信託財産が「受託者の」固有財産から切り離して管理運営される点は両者とも同じです。

 

(2)2次相続以降の資産承継者の指定

 

 信託契約及び遺言信託(遺言による信託)の両者とも、委託者は、委託者の死後、受益権者(配偶者等)が亡くなったあとの資産承継者を指定することができます。

 

(3)遺言執行手続き(信託財産の引き渡し)

 

 信託契約の場合、信託財産は信託契約の発効時に相続財産から切り離されていますから、遺言執行手続きは不要です。受益権者(配偶者等)は速やかに信託財産に係る給付を受けることができます。

 一方、遺言信託(遺言による信託)の場合、受託者への信託財産の引き渡しは、遺言執行者による信託の設定(遺言執行手続き)が必要とされています。  

 

*信託法3条2号

信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。

一 (略)

二  特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法  

 

(略) 

 

3. 信託契約と遺言(後継ぎ遺贈)との比較 

 

⓵ 信託契約の場合、信託事項の履行について受託者に契約上の義務があります。また、履行の担保のため信託監督人を付けることができます。

 一方、遺言(後継ぎ遺贈)の場合、受遺者に負担履行の義務はありません。受遺者が負担を履行したくなければ、遺贈を放棄し拒否することができます。 

 

③ 信託契約の場合、信託財産は相続財産から切り離されます。(信託していない財産は遺産相続の対象。)

 一方、遺言(後継ぎ遺贈)の場合、財産は全て遺産相続の対象です。 

 

遺言(後継ぎ遺贈)については、所有権は完全・包括・恒久的な権利であるため「受遺者の死亡時期を終期とする期限付きの所有権」を創設する後継ぎ遺贈は民法上認められない等の理由により無効であるとする説があります。(出典;今川嘉文ほか(2011)『誰でも使える民事信託 財産管理・後見・中小企業承継・まつづくりetc.活用の実務』日本加除出版.113頁)


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