遺産分割協議書(冒頭書き・前文、後文・相続人署名欄)の書き方

 1. 前文・後文の書き方

 

(1) 前文の文例

 

  被相続人○○○○の遺産について、相続人全員(後記相続人署名欄記載のとおり)で遺産分割協議をした結果、本日、下記のとおり分割し取得することに合意した。  

 

(2) 後文の文例

 

 以上のとおり、遺産分割協議が成立したので、これを証するため本協議書を3通作成し、署名捺印の上、各自1通ずつを保管する。

 

(3) 「相続人全員で協議し合意した」という趣旨の文言  

 

 遺産分割協議書には、後日の紛争を予防するため、「相続人全員で協議し合意した」という趣旨の文言を前文又は後文のどこかに必ずいれることをおすすめします。 

 

(4) 最後の住民票の住所」と「不動産の全部事項証明書に記載されている住所」が一致しないとき 

 

 相続登記の際には亡くなった方の最後の住民票の住所と不動産の全部事項証明書に記載されている住所が一致する必要があります。   

 一致の確認ができない場合は、遺産分割協議書に下記例のような文言を書き加える必要があります。  

 

なお、上記不動産につき、被相続人の最後の住所は○○○○で登記上の住所は○○○○ですが、住民票の除票や戸籍の附票を取得しても一致を確認できませんでした。しかしながら、上記不動産は被相続人の所有に相違なく、これにつき何か問題がおきましても相続人全員で責任を負うことを申述いたします。  

 

(5) 遺言書と異なる内容の遺産分割協議書を作成する場合の文言 

 

なお、被相続人〇〇〇〇は、令和○○年○○月○○日付け自筆証書遺言を残しているが、同遺言の内容と異なる相続財産の分割をすることについて、同人の相続人全員が合意した。 

 

 

 遺言書と異なる内容の遺産分割協議書を作成するときは、後日の紛争を予防するため、遺言の存在にかかわらずこれと異なる遺産分割をする趣旨の文言をどこかにいれます。  

 

2. 「取得する」と「相続させる」の違い

 

 遺言で遺産分割方法の指定をするに際し、「○○(特定の不動産)を○○○○(特定の相続人)に相続させる」と書くと、判例により、相続開始後、直ちに物権的承継効果を生じさせるとことができます。(不動産の承継を受けた相続人は、登記なくして第三者に対抗できる) 

 しかし、遺産分割協議書の場合は、遺言による遺産分割方法の指定と異なり、「相続する」としても、直ちに物権的承継効果を生じさせるとことはできません。したがって、「取得する」が簡明と考えます。

 

3. 「合意した」と「決定した」

 

被相続人○○○○の遺産について、相続人全員(後記相続人署名欄記載のとおり)で遺産分割協議をした結果、本日、下記のとおり分割し取得することに合意した 

 

 遺産分割について合意したことを確認する定めです。確認事項については、「決定した」ではなく、「合意した」と書きます。 

 

4. 印鑑について

 

(1)実印にすべきか認印でもよいか

 

 遺産分割協議書を不動産登記の原因証書として使う場合や、預貯金や有価証券の名義変更に使用する場合は、「実印」で押印する必要があります。

 

(2)捨て印について

 

 署名の後に実印を2か所並べて捺印することをおすすめします。押印2ケのうち1ケは捨印として押印するものです。誤字脱字等軽微な訂正に備えるもので遺産分割協議書を作り直す手間が省けます。ただし、なくても遺産分割協議書の効力に関係ありません。

 

 (3)印鑑登録証明書を添付しておく

 

 相続登記をするときには印鑑証明書が必要です。遺産分割協議書には、各通とも印鑑登録証明書を添付しておくことをおすすめします。

 

5. その他、書き方の注意点

 

(1)  遺産分割協議書は自筆による必要はありません。ワープロなどで作

 成できます。

 

(2) 財産の価格を表す数字は、改ざんを防ぐため、漢数字(大字(だい 

 じ))をおすすめします。 

 

(3) 訂正する場合は訂正箇所の欄外に全員が訂正印を押印します。

 

(4) 2枚以上になる場合は、ホッチキス又は糊で長辺綴じにし、中心線

 上に、2ページにまたがるように、相続人全員が実印で「契印」を押印

 します。 契印はページとページをつなぐ印です。   

 

(5) 参考 

 

(給付内容について)  

 代償分割をする場合は、誰が、誰に対して、いつまでに、いくらを支払うかを明確に記載する必要があります。

 

(給付の対象について)  

 給付の対象物を特定する表現で記載する必要があります。不動産の場合は、登記簿謄本(登記事項証明書)のとおりに記載する必要があります。

 

(確認事項について)  

 確認事項は、特定の権利もしくは法律関係の存在または不存在を確認する合意を内容とする条項です。対象を特定する表現で記載する必要があります。

 

(形成条項について)  

 形成条項とは、新たな権利の発生、変更、消滅の効果を生ずる合意をすることを内容とする条項です。

 

(道義条項について)   

 道義条項とは、道義的な責任を認め合い、今後の紛争を予防するために記載する条項で、強制執行することはできません。給付条項と解釈されないよう「約束する」などといった表現で記載する必要があります。

 

 (給付文言について)  

 作為義務(何かをなすべきこと)を内容とする合意を記載する場合は「〇〇する」という表現にします。「支払う」「明け渡す」「引き渡す」というような表現です。

 「支払うものとする」「明け渡すこととする」「引き渡すこととする」といった表現は強制執行をすることができる給付文言にはならないとされています。  

 不作為義務(何かをしないこと)を内容とする合意の場合は「〇〇をしない」という表現で記載する必要があります。

 「〇〇をするものとする」「〇〇をしないものとする」といった表現は強制執行をすることができる給付文言にはならないとされています。