家族信託、任意後見、遺言など類似制度の比較

□ 信託は、財産管理のためだけ、の制度です。療養看護や日常取引事務も頼みたいときは「任意後見契約」を結ぶ必要があります。  

□ 信託契約は、委託者の死亡後も信託を継続させることができます。配偶者第2受益者)は委託者の死後、毎月生活費を受け取ることができます。一方、任意後見契約の場合は本人の死亡により終了します。 

□ 財産管理委任契約(任意代理契約)は、委任者が認知症になると委任契約の効力はなくなります。信託契約(停止条件付信託)は、委託者が認知症になっても有効です。 

□ 信託契約の場合、信託財産の名義は、契約締結後は受託者に変更されます。遺言による信託(遺言信託)の場合は、遺言者の死後に、遺言による受託者に変更されます。 

□ 遺言による信託(遺言信託)の場合、財産の引き渡し(信託の設定)には遺言執行手続きが必要です。一方、信託契約の場合は遺言執行手続きは不要であり、受益者は速やかに給付を受けることができます。 

□ 信託契約及び遺言による信託(遺言信託)は、両者とも、受益権者(配偶者等)の死後、信託財産をどうするかについて指定しておくことができます。(配偶者の生存中は配偶者に自宅を利用させ、配偶者の亡くなった時点での自宅の帰属者を指定することができる)。

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

似顔絵

 1. 信託契約と任意後見契約

 

 (1)身上保護

 

 信託は財産管理のためのしくみであり、信託の対象となるのは財産です。身上保護に関する事項は含まれません。

 入院などの療養看護の手配や利用料等の支払い (医療契約、介護施設入所契約、介護サービスの利用契約)や年金の受け取りなど生活の支援を受けることはできません。

 近くに家族が住んでいる場合はやってくれるので不都合ありませんが、近くに家族が住んでいない場合は、信託契約に加え任意後見契約が必要です。 

  

 (2)代理権付与の範囲

 

 信託契約は、特定の財産を選び信託財産とすることができます。

 任意後見契約は、制度上は代理権付与の範囲は委任者が自由に設定できることになっていますが、実際上は全ての財産について管理を委ね、包括代理に近いことが多いようです。

 

 信託は、譲渡制限がある財産は信託財産とならないので、農地や年金受給権は信託財産とすることができません(農地法3条2項三号、厚生年金保険法41条、国民年金法24条)。

 これに対して、任意後見契約ではこれらの財産も管理対象財産に含めることが可能です。

 

(3)財産の移転

 

 信託契約の場合、信託財産は受託者に移転します。受託者の裁量により、受託者の名で、排他的な管理・処分が可能です(※)。 

 一方、任意後見の場合は、財産管理は依頼しても所有は本人のままです。また、後見人が不動産の処分をするには家庭裁判所の許可が必要です。

 

※ ただし、受託者は自身の財産と信託財産を区分して管理する義務があります。信託財産に現金や預貯金がある場合は信託契約書に信託専用口座の口座番号を記載し、「信託専用の口座」にお金を移す必要があります。 

 

(4)預金の引き出しや解約

 

 信託で受託した預金は、受託者名義の預金口座(信託口口座)で管理しますので、 預金の引き出しや解約は、受託者が受益者の必要に応じて、当然にできます。  

 なお、任意後見契約でも、任意後見監督人が選任された後は、預金の引き出しや解約に応じているようです。 

 

(5)財産の積極的活用

 

 信託契約は、財産の積極的活用(信託財産を担保に銀行から借り入れをする。投資のために不動産(信託財産)を売買する)ができます。

 任意後見契約は、財産の積極的活用は困難です。

 

(6)家族信託は本人が亡くなったあとも配偶者等が毎月生活費を受け取ることができる

 

 信託契約は、委託者本人が亡くなったあとも、配偶者等が毎月生活費を受け取るようにすることができます(*)。

 一方、任意後見契約の場合は、本人(被成年後見人)の死亡により契約は終了し、その後の配偶者等の生活を保障するための財産管理を委託することはできません。(ただし、併せて死後事務委任契約を結ぶことによって、死後事務として委任することはできる。) 

 

* 停止条件付信託の場合は、受益者死亡後の受益者(第2受益者)も定めておきます。

 始期付き信託の場合は、本人(委託者)が死亡したときに信託契約を発効させます。( 本人が受益者となることはありません。) 本人の死亡の時以後、本人の配偶者等(受益権者)が信託財産に係る給付を受けます。

 

(7)財産の承継

 

 信託契約は、信託財産の帰属権利者を定めておくことにより、財産の承継も可能となります。

 任意後見契約で財産の承継を定めることはできません。財産の承継を定めておきたいときは、任意後見契約に加え、信託契約が必要です。 

 

 

(8)受託者を監督する制度

 

 任意後見の場合は後見監督人を必ず置き、裁判所から選任される任意後見監督人が任意後見人を監督するという制度になっています。

 一方、信託では、受託者を監督する制度は、裁判所の関与について言うと 、ほとんどなく( 信託受託者の解任請求(信託法58条四項)等があるのみ)、信託受託者が自己のために財産を使用するなどの危険もあります。

 なお、信託契約で信託監督人(信託法131条)や受益者代理人(信託法138条)等をおき、信託受託者を監督することはできます。ただし、信託監督人や受益者代理人を置く置かないは自由です。    

 

(9)選挙権・被選挙権等の資格制限 

 

 成年被後見人の選挙権については、かっては、選挙権・被選挙権等の資格制限がありましたが、平成25年5月、成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律が成立、公布され(平成25年6月30日施行)、これにより、平成25年7月1日以後に公示・告示される選挙について、成年被後見人の方は、選挙権・被選挙権を有することとなりました。(出典:総務省ホームページ)

 

 信託契約により委託者本人に選挙権・被選挙権等の資格制限が生じることは一切ありません。  

 

 (参考文献:日本行政書士会連合会『 月刊日本行政(2023.6)№.607』29-30) 

 

2. 信託契約と財産管理委任契約(任意代理契約)

 

(1)財産の移転

 

 信託契約は、契約発効後、財産権は受託者へ移転します。一方、財産管理委任契約(任意代理契約)は、財産権は受任者へ移転しません。

 

(2)契約の発効(財産管理の開始)

 

 停止条件付信託の場合は、委託者本人が認知症などで財産管理ができなくなったときに信託契約を発効させます。信託契約が発効すると、本人の生存中は本人が、本人の死亡後は配偶者など(第2受益者)が受益権を取得します。 

 一方、財産管理委任契約(任意代理契約)は、 判断能力は十分にあるが身体的に厳しいときから財産管理をやってもらいはじめ、認知症になったら、任意後見契約に基づき、任意後見人として、後見監督人の監督のもとで財産管理の事務処理を続けてもらいます。

 

(3)相続

 

 信託では、信託財産は相続財産から切り離されます。委託者本人が亡くなっても信託財産は相続法に服しません。(ただし、信託受益権は遺留分侵害額請求の対象となる。)(なお、信託財産以外は遺産相続の対象となります。) 

 一方、財産管理委任契約(任意代理契約)では、委任者本人が亡くなると、管理委任した財産は遺産相続の対象となります。 

 

3. 信託契約と遺言信託(遺言による信託*)

 

 (1)財産の移転

 

 信託契約の場合、信託財産の名義は契約の発効時に受託者に変更されます。(信託財産は契約の発効時に相続財産から切り離される。)

 一方、遺言信託(遺言による信託)の場合は、信託財産の名義は遺言者(委託者)が死亡したときに受託者に変更されます。(信託財産は遺言者(委託者)が死亡したときに相続財産から切り離される。)

 

 信託財産が「受託者の」固有財産から切り離して管理運営される点は両者とも同じです。

 

(2)2次相続以降の資産承継者の指定

 

 信託契約及び遺言信託(遺言による信託)の両者とも、委託者は、委託者の死後、受益権者(配偶者等)が亡くなったあとの資産承継者を指定することができます。

 

(3)遺言執行手続き(信託財産の引き渡し)

 

 信託契約の場合、信託財産は信託契約の発効時に相続財産から切り離されていますから、遺言執行手続きは不要です。受益権者(配偶者等)は速やかに信託財産に係る給付を受けることができます。

 一方、遺言信託(遺言による信託)の場合、受託者への信託財産の引き渡しは、遺言執行者による信託の設定(遺言執行手続き)が必要とされています。  

 

*信託法3条2号

信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。

一 (略)

二  特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法  

 

(略) 

 

4. 信託契約と遺言(後継ぎ遺贈)の比較 

 

⓵ 信託契約の場合、信託事項の履行について受託者に契約上の義務があります。また、履行の担保のため信託監督人を付けることができます。

 一方、遺言(後継ぎ遺贈)の場合、受遺者に負担履行の義務はありません。受遺者が負担を履行したくなければ、遺贈を放棄し拒否することができます。 

 

③ 信託契約の場合、信託財産は相続財産から切り離されます。(信託していない財産は遺産相続の対象。)

 一方、遺言(後継ぎ遺贈)の場合、財産は全て遺産相続の対象です。 

 

遺言(後継ぎ遺贈)については、所有権は完全・包括・恒久的な権利であるため「受遺者の死亡時期を終期とする期限付きの所有権」を創設する後継ぎ遺贈は民法上認められない等の理由により無効であるとする説があります。(出典;今川嘉文ほか(2011)『誰でも使える民事信託 財産管理・後見・中小企業承継・まつづくりetc.活用の実務』日本加除出版.113頁)


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