□ 離婚によって旧姓に戻ると生活に支障が出ることがあります。「離婚の際に称していた氏を称する届」(「婚氏続称届」)を提出することで、結婚していたときの姓を使い続けることができます。
□ 離婚したとき「婚氏続称届」を提出して夫の姓のままにしたものの、あとで困っている人があります。そのようなことがないよう、一旦、旧姓に戻り、熟慮して、必要ならば「婚氏続称届」を提出する(3か月以内)ことをおすすめします。
□ 3か月経過後は姓を変更するには、家庭裁判所に「氏の変更許可申立書」を提出し許可を得る必要があります。また、この場合、「やむを得ない事由」が必要となります。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1. 離婚後の自分の戸籍と姓
離婚すると、以下のいずれかになります。
(1) 旧姓に戻り、親の戸籍に戻る
親が存命のとき(※)は、親・子ども・孫が同一戸籍となり、「3代戸籍の禁止」に反するため、子どもと一緒に親の戸籍に入ることはできません。
子どもを引き取り自分の戸籍に入れたい場合は、新しく自分を筆頭者とした戸籍をつくる必要があります。(下記の②または③になります)
※父母ともすでに亡くなっているなど、婚姻前の戸籍が除籍されている場合は、以下の②又は③のとおり、新しく自分を筆頭者とした戸籍をつくります。
(2) 旧姓に戻って、新しく自分を筆頭者とした戸籍をつくる
子どもを引き取り「自分の戸籍に入れる」場合は、家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出し許可(審判)を受けます。
家庭裁判所の「子の氏の変更許可審判書謄本」を添付し、市役所に「入籍届」を提出します。
※ 旧姓に戻った場合は職場での呼称を変えることになり、離婚の事実をカミングアウトすることになります。旧姓に戻っても、結婚時の姓を通称として使う方法もあります(公的文書は旧姓となります)。
(3) 結婚時の姓を継続して名乗り、新しく自分を筆頭者とした戸籍をつくる
この場合、離婚の日から3か月以内に、「婚氏続称届」(離婚の際に称していた氏を称する届)を市役所に提出します(理由も相手側の許可も不要です)。
しかし、このままでは、子と母親は、氏の呼称は同じですが子どもと同じ戸籍になるわけではありません(子どもは今までどおり父親の戸籍に入ったままです)。
子どもと同じ戸籍になるためには、家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出し許可(審判)を受ける必要があります。
家庭裁判所の「子の氏の変更許可審判書謄本」を添付し、市役所に入籍届を提出します。
(4) 婿養子の場合など、離婚した相手が自分の両親と養子縁組をしていた場合は、養子縁組を解消すれば離婚した相手は前の姓に戻ります。ただし、養子縁組から7年以上経過しているときは、離婚した相手は3か月以内に届ければそのままの姓を使うことができます。
離婚したとき、訳があって相手の姓のままにしたい方は注意が必要です。一旦、婚姻時の姓のままにする(「婚氏続称届」を提出する)と、あとで前の姓に戻りたいと思っても、余程のことがない限り許可されません(*) 。迷っているときは、いったん旧姓に戻り、あとで「婚氏続称届」(離婚の日から3か月以内)を出すことをおすすめします。
*「氏の変更許可の申し立て」が必要となり、やむを得ない理由がないと許可されない。
2. 子の戸籍と姓
(1)戸籍と親権は連動していない
離婚届に母親を親権者として記載し、母親が夫の戸籍から抜けても、子どもの戸籍や姓に変更はありません。
(2)結婚前の実家の戸籍に戻り、子どもの「姓」も変更したいとき
結婚前の実家の戸籍に戻り、子どもの「姓」も変更したいときは、母親が新しく自分を筆頭者とした戸籍を作る必要があります(結婚前の実家の戸籍に戻っただけでは、子どもの姓は変わりません)。
親権者であっても、子どもの戸籍が別れた相手の戸籍にあると生活上不都合が生ずる場合もあります。
家庭裁判所に「子の氏の変更許可申立書」を提出し許可(審判)を受けます。家庭裁判所の「子の氏の変更許可審判書謄本」を添付し市役所に「入籍届」を提出します(子どもも同じ戸籍に入ります)。
(3))母親が「婚氏続称届」を提出し、子どもの戸籍を母親の戸籍に変更するには
母親が「婚氏続称届」を提出し結婚時の姓を継続して名乗れば子どもと「姓」の呼称は同じです。しかし、子どもと同じ戸籍になるわけではありません。子どもは今までどおり父親の戸籍に入ったままです。母親が結婚時の姓を名乗ったとしても、子どもの姓とは別の姓として取り扱われます。子どもの戸籍を母親の戸籍に変更する必要があります。
子どもの戸籍を母親の戸籍に変更するには、呼称としての姓を変更するわけではありませんが、家庭裁判所に「子の氏の変更許可」を申し立てます。
この許可を得たのちに、市役所に、家庭裁判所の「子の氏の変更許可審判書謄本」を添付して「入籍届」を提出し、子どもを同じ戸籍に入れます。
3. 子の氏の変更許可申立書
「子の氏の変更許可申立書」の申立人は子ども自身ですが、子どもが15歳未満の場合は親権者が法定代理人として申し立てます(親権者と監護権を分離した場合、監護権者は申し立てできません)。15歳以上の場合は子ども自身で申し立てます。申し立て期間の制限はなく、提出はいつでもできます。
子どもは、成人後、成年に達した時から1年以内に「入籍届」を市役所に届け出て、父親の戸籍に戻ることもできます。
戸籍法99条
1. 民法第791条第4項の規定によって従前の氏に復しようとする者は、同条第1項から第3項までの規定によって氏を改めた年月日を届書に記載して、その旨を届け出なければならない。
2. 前項の者に配偶者がある場合には、配偶者とともに届け出なければならない。
民法791条(子の氏の変更)
1. 子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。
2. 父又は母が氏を改めたことにより子が父母と氏を異にする場合には、子は、父母の婚姻中に限り、前項の許可を得ないで、戸籍法 の定めるところにより届け出ることによって、その父母の氏を称することができる。
3. 子が15歳未満であるときは、その法定代理人が、これに代わって、前二項の行為をすることができる。
4. 前三項の規定により氏を改めた未成年の子は、成年に達した時から1年以内に戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、従前の氏に復することができる。