□ 退職金の財産分与額は、「退職金の額に、勤続年数に対する結婚期間の割合を乗じて算出した額」が財産分与の対象となると考えられています。これを夫婦で按分した額が財産分与すべき金額です。
□ 使ってしまい退職金がなくなっている場合は、対象となる財産が存在しないので財産分与の対象にならない可能性が濃厚になります。
□ 支給日が将来の退職金も、受け取れる確率が高い場合は財産分与の対象となる場合があります。
1. 退職金の財産分与額の算定
(1) 支給済みの退職金
退職金の財産分与については、「退職金の額に、勤続年数に対する結婚期間の割合を乗じて算出した額」が財産分与の対象となる、と考えられています。これを夫婦で按分した額が財産分与額となります。
すでに使ってしまい退職金がなくなっている場合は、対象となる財産が存在しないので、財産分与の対象にならない可能性が濃厚になります。(相応の資産が残っているときなどは、お金に色は付いていないので、ケースにより異なる)
(2)まだ支給されていないが、将来受給予定の退職金
まだ支給されていないが、将来受給予定の退職金の場合も、受け取れる確率が高い場合は、財産分与の対象となる場合があります。
ただし、支給予定が10年以上先の場合は、財産分与の対象とならない可能性が高くなります。
ア、 定年まで相当期間あるケース
方法1.離婚する時点で退職したと仮定し分与する
離婚した時点で自己都合退職したと仮定し、支給されるであろう退職金を算定します(*1)。
その金額に勤続年数に対する婚姻期間の割合を乗じ(*2)、算出した額が財産分与の対象となります。この金額を夫婦で按分し、妻への按分額を中間利息控除を行って現在の価値に換算し支払います。
この方法による財産分与は、金額が確定しないので、離婚協議書を公正証書で作っても、強制執行は困難です。
*1 離婚した時に退職したと仮定して算定し支払う方法は、離婚時に財産分与額が確定する利点があります。ただし、夫に支払い能力があることが必要です。
*2 退職金の全額が分与の対象になるわけではなく、勤続年数に対する婚姻期間の割合に応じた金額のみが対象となると考えられています。
方法2.将来退職金が支払われることを条件に、受給時に支払うことを約束する
この方法は財産分与額が確定せず、退職金が支給されない場合は請求できなくなります。
イ、 定年が近いケース
定年退職の退職金が支払われることを条件に、受給時に支払うことを約束します。
財産分与額は、定年退職の退職金の額に、勤続年数に対する結婚期間(別居期間を除く)の割合を乗じて算出した額」を夫婦で按分した額となります。
この方法は財産分与額が確定せず、退職金が支給されない場合は請求できなくなります。また、この方法による財産分与は、金額が確定しないので、離婚協議書を公正証書で作っても、強制執行は困難です。
財産分与額を確定したいなど、事情によっては、ア、の方法1.も選択肢となります。ただし、夫に支払い能力があることが必要です。
2. 離婚協議書文例
第○○条 甲は乙に対し、退職金が〇〇会社から支給されたときは、財産分与として、支給された額に勤続年数に対する婚姻期間の割合を乗じて算出した額を中間利息控除を行い現在の価値に換算した額を支払う。支払い期限は、支給を受けた日から10日以内とし、○○銀行○○支店の乙名義の預金口座(口座番号○○○○)に振込み送金により支払う。振込手数料は甲の負担とする。
上記の文例による書き方は、金額が一定額でないので、強制執行が困難となります。以下のように書くことをおすすめします。
第○○条 甲は乙に対し、本件離婚に伴う財産分与として、退職金が〇〇会社から支給されたときは金300万円を支払う。支払い期限は、支給を受けた日から10日以内とし、○○銀行○○支店の乙名義の預金口座(口座番号○○○○)に振込み送金により支払う。振込手数料は甲の負担とする。