遺言による推定相続人の廃除について教えてください。

□ 推定相続人廃除の方法は、①生前に家庭裁判所に申し立てをする方法と②遺言で行う方法とがあります。 

□ 推定相続人廃除は次の場合にのみ行うことができます。

①被相続人を虐待し続けた。②被相続人にひどい侮辱をした。③浪費、借財、犯罪、不貞行為、遺棄、行方不明著しい非行がある。  

□ 推定相続人から廃除した者の子から、代襲相続人として遺留分侵害額請求をうける恐れがあります。注意が必要です。 

□ きょうだいを推定相続人廃除することはできません(きょうだいに遺産を何もあげたくない場合は遺言で全遺産を第三者にあげれば足りるから)。

 

民法893条(遺言による推定相続人の廃除) 

被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者は、その遺言が効力を生じた後、遅滞なく、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において、その推定相続人の廃除は、被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

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埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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ポイント 関連情報

推定相続人廃除

➤遺言による推定相続人廃除

相続放棄

遺留分の放棄

1. 相続人廃除の意味

 

  財産を相続させない方法として、①推定相続人廃除をする、②相続放棄をさせる、③遺留分の事前放棄と遺言の組み合わせ があります。 

 

 被相続人の意思によって、遺留分を有する「推定相続人」(相続開始前の「法定相続人」のこと)に相続させないことができます。これを「推定相続人の廃除」といいます。推定相続人の廃除は遺留分を否定し、相続させたくない推定相続人の相続権を完全に奪い去るものです。  

 

2. 遺言で推定相続人廃除をする 

 

  推定相続人の廃除の方法は、①生前に家庭裁判所に申し立てをする方法と、②遺言で行う方法とがあります。

 

  遺言で推定相続人廃除をしたときは、遺言者が死亡したときに、遺言執行者は、遺言による相続人廃除の申し立てを家庭裁判所に行います。

  推定相続人廃除の審判確定後、遺言執行者は「推定相続人廃除届」に審判書謄本と確定証明書を添付して住所地又は本籍地の役場に提出します。  

 

3. 相続人廃除の対象者~廃除されるのは遺留分を有する推定相続人に限られる~

 

  推定相続人の廃除は、被相続人の配偶者や子、父母など遺留分を有する推定相続人に対してのみ行うことが認められます。

  被相続人の きょうだい については、遺留分がありませんので推定相続人の廃除を行うことはできません。 きょうだい に遺産を何もあげたくない場合は遺言で全遺産を第三者にあげれば足りることからこのようになっていると説明されています。

 

4. 予備的遺言で被相続人の親や孫を推定相続人廃除する

 

  推定相続人廃除は遺留分を有する推定相続人に対してのみ行うことが認められますから、被相続人に生きている子がいる場合は 被相続人の親や孫を推定相続人廃除の対象にすることはできません。

  ただし、遺言による推定相続人廃除は、将来、その親や孫が推定相続人になる可能性がありますので、その場合に備えた予備的遺言として、被相続人の親や孫を推定相続人廃除することができます。 

 

5. 遺言による相続人廃除が認められるための要件 

 

  遺言による推定相続人廃除については、民法上は、遺言で推定相続人廃除の意思表示が明らかにされていればよいとされていますが、遺言者が死亡したときに遺言執行者が廃除請求しやすいよう、廃除の正当理由を記載しておくことをお勧めします。

 

(1)相続人廃除の意思表示

 

  遺言中に明確に推定相続人の廃除の意思表示がなされていることが必要です。 

 

(2)相続人廃除の正当理由の記載

 

  家庭裁判所で推定相続人の廃除が認められるためには、家庭裁判所の審判で推定相続人の廃除が客観的に正当と判断される必要があります。そのために遺言に推定相続人の廃除の正当理由を要約して具体的に記載することをお勧めします。 

  なお、家庭裁判所の審判では、廃除事由に該当する行為の存否だけでなく、当該行為に至る経緯や原因・理由及び、一時的なものであったか繰り返し継続的であったかといった事情も含めて判断されます。

 

 (3)遺言執行者の指定 

 

  遺言者がなくなったときに、遺言執行者が家庭裁判所に遺言による推定相続人の廃除の申し立てを行いますので、遺言に遺言執行者の指定がなされていることが必要です。 

 

(4)遺言に推定相続人の廃除の意思表示や廃除の理由の記載がないと・・・ 

 

  遺言に推定相続人の廃除の意思表示や廃除の理由の記載がない場合は、家庭裁判所で推定相続人の廃除は認められません(相続人廃除の効果が発生しない)。ただし、遺言のその他の事項は有効です。 

 

6. 家庭裁判所で推定相続人廃除が認められる、廃除の事由

 

 》》推定相続人廃除 をご覧ください。 

 

7. 推定相続人の廃除事由となる具体的事実を記載するときの注意点

 

  「虐待」や「重大な侮辱」については暴力や侮辱を受けた年月日や当該行為に至った経緯や原因・理由を記載し、繰り返し継続的である場合はその事情を具体的に記述します。

  また、暴力や侮辱の詳しい内容やその事実を知っている人の住所・氏名を記述します。暴力を伴う虐待でケガをし病院で治療を受けた場合は医師の診断書の内容などを具体的に記述し客観的に裏付ける必要があります。 

  「その他著しい非行」については、金額や精神的苦痛の程度、被相続人の生活状況なども具体的に記述する必要があります。 

 

※ 宣誓供述書 (宣誓認証制度)について

 

  詳しく書く必要があるときや親族への配慮から遺言書には書きたくない場合は遺言書は要約のみにし、別途、公証人の「宣誓供述書」を作成する方法があります。 

 

遺言執行手続きにおいて、相続人以外の関係者(例:金融機関の担当者)が読む機会が多い公正証書遺言に廃除事由となる具体的事実を詳細に記載することは、結果的に遺言者や廃除される推定相続人、その他関係者の名誉やプライバシーを侵害する恐れを生じさせることになることから、必ずしも適当とは言えない。そこで、遺言による推定相続人の廃除を行う場合、公正証書遺言では「被相続人を虐待した」、「被相続人に対し重大な侮辱を加えた」等の抽象的な記載にとどめ、廃除事由に該当する具体的事実については宣誓認証(公証人法58条の2)等を活用して記録に残す等の方法を検討すべきである。

(出典:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.87ー88頁)

 

宣誓認証制度は、公証人法58条ノ2の規定の新設により設けられた制度です(平成10年1月1日施行)。公証人が私署証書(作成者の署名、署名押印又は記名押印のある私文書のこと)に認証を与える場合において、当事者がその面前で証書の記載が真実であることを宣誓した上、証書に署名若しくは押印し、または証書の署名若しくは押印を自認したときは、その旨を記載して認証する制度です。宣誓認証を受けた文書を宣誓供述書といいます。

公証人が、私文書について、作成の真正を認証するとともに、制裁の裏付けのある宣誓によって、その記載内容が真実、正確であることを作成者が表明した事実をも公証するものです。

(出所:日本公証人連合会ホームページ<7-3 宣誓認証 | 日本公証人連合会 (koshonin.gr.jp)>)(最終アクセス2021.01.05)

 

※証拠を遺言書に添付しておく

 

  家庭裁判所の審理に備えて、診断書や暴行による傷の写真などを遺言書に添付するなどしておくことも考えられます。

 

8. 遺言による推定相続人の廃除の効力  

 

  相続開始後、家庭裁判所で相続人廃除の審判が確定したときに、相続開始時に遡って相続人資格を失います。相続人廃除の効果は第三者にも及びます。

 

  矛盾するようですが、推定相続人の廃除をされても遺贈は受けることができます。(相続欠格は遺贈も受けられない。) 

 

  「推定相続人の廃除」や「相続欠格」により推定相続人が相続人でなくなっても代襲相続」はできます。したがって、相続人廃除をする相続人に子がいる場合は、推定相続人の廃除をする相続人の子から代襲相続人として遺留分侵害額請求をうける恐れがありますので、注意が必要です。

  なお、推定相続人が「相続放棄」した場合は代襲相続は認められません。 

 

  推定相続人の廃除をしても、親子の縁が切れるわけではありません。扶養の権利義務は存続します。 

  

9. 相続人廃除と登記

 

  家庭裁判所で推定相続人の廃除の審判が確定すると、相続による所有権移転の登記申請が可能になります。  

 

10. 推定相続人の廃除の取消し(遺言の撤回)

 

  遺言で推定相続人の廃除をしたが事情が変わったときは、新たな遺言で推定相続人に戻すことができます。 理由は一切問われません。

 

  事情が変わった事等により、新たな遺言で廃除を取り消すことは、推定相続人の廃除の取消しではなく、遺言の撤回です。

 

民法第894条(推定相続人の廃除の取消し)

1.被相続人は、いつでも、推定相続人の廃除の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

2.前条の規定は、推定相続人の廃除の取消しについて準用する。

 

※ 相続欠格には取消はありません。


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