「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)

□ 2018民法改正(2018.7.13公布)で「相続させる」旨の遺言は「遺産分割方法の指定として遺産に関する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる遺言(特定財産承継遺言)」と表記することとされた。

 

□ 2018民法改正前は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言によって不動産の承継を受けた相続人は、登記なくして第三者に対抗できると解されていたが、2018民法改正により、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことに改められた 。 

1. 相続させる旨の遺言の法律効果(権利の移転)

 

 特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)は、遺言の効力発生時(通常は相続開始時)に、遺産分割協議等何らの行為も要せずして、その遺言どおりに特定の財産が特定の相続人に承継されます。

 

 かつては、「相続させる」旨の遺言は、遺産分割の協議(審判)を経たうえではじめて権利承継を生ずるとする学説も有力に主張され、下級審の裁判例も分かれていました。しかし、最高裁平成3.4.19判決は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は 、当該遺産を(他の相続人と共にではなく、)当該相続人をして単独で相続させる「遺産分割方法の指定」であり、(遺言書の記載から遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情が無ければ、)何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時に、(遺産分割の協議、審判を経ることなく、)直ちに相続により承継される、 としました。

(参考文献:『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』20-21頁) 

 

2. 相続させる旨の遺言の法律効果権利の移転)に関する改正

 

 2018民法改正(2018.7.13公布)前は、特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言によって不動産の承継を受けた相続人は、登記なくして第三者に対抗できると解されていましたが、同改正により、法定相続分を超える部分については、登記等の対抗要件を備えなければ第三者に対抗することができないことと改められました (*) 

 この改正の理由は、登記がされていないにもかかわらず、法定相続分以外についても第三者に対抗できるのでは、登記による公示を信頼して取引をした第三者が不測の不利益を被ったり取引の安全を害したりする恐れがあることからです。

 なお、この改正は、2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続についてのみ適用となります。同日より前に、すでに開始していた相続については、従前どおり、対抗要件を備えなくても、承継した相続分の全部を第三者に対抗できます。 

 また、法改正前に作成した遺言による相続であっても、改正法施行後の相続にはこの改正が適用されます。 

 

*民法899条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)

1.相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。 

2.前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。 

 

3.相続させる旨の遺言と登記等( 対抗要件具備の要否)に関する改正に伴う問題点 

 

 この改正により次のような問題が生ずる恐れがあります 。

 不動産を事業承継者に単独で相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)をしても、他の相続人が自分の法定相続分相当持分を先に登記し、善意の第三者に売却してしまうと、(事業承継者が)第三者に対抗できなくなります。  

 また、他の相続人の債権者が、(事業承継者の)登記がまだ済んでいない間に、他の相続人の法定相続分相当持分に対し、債権者代位によって登記を行い仮差押えをすると、(事業承継者は)対抗できなくなります。  

 

4.相続させる旨の遺言と登記等( 対抗要件具備の要否)に関する改正に伴う問題点の解決方法

 

①  死因贈与契約

 

 「死因贈与契約」を結び、所有権移転の仮登記をしておくことにより順位保全ができます。他の相続人がやその債権者が、(事業承継者より)先に登記を行うことを阻止することができます。

 

② 遺言代用信託

   

 「遺言代用信託(遺言の代用としてする信託契約)」を結び、、信託の登記をすることにより、他の相続人がやその債権者が、(事業承継者より)先に登記を行うことを阻止することができます。  

 

5.相続させる」旨の遺言により相続するべき相続人が被相続人より先に死亡した場合(相続させる」旨の遺言と代襲相続)

 

 遺贈は、民法994条で、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力は生じないとされていることから、代襲相続はできません。 

 「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)も「遺贈」が類推適用され、遺言者の死亡以前に相続させるべき者が死亡したときは、その効力は生じないとされ、代襲者に相続させる旨の意思を有していたとみるべき特段の事情のない限り、代襲相続はできません(最判平成23.2.22 )。財産は相続財産となり、相続人に帰属します。 

 つまり、相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)で代襲者に相続させる旨の意思表示をすれば代襲相続させることができることになります。 

 

 「遺産を相続するべき相続人が被相続人より先に死亡した場合には、その代襲相続人に相続させるとの意思があったと解される場合を除いて、当然に失効する。」(東京地判平成6.7.13) 

 

6 相続人でない者に「相続させる」とした遺言の効力

 

 相続の効力は生じないが、遺贈の効力が生じる(平成3年最判)。

(出典:『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』23頁)

 

7.相続させる」旨の遺言は負担付でできます。負担を不履行のときはどうなるか?  

 

 負担付相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)で負担を不履行のときは、負担の不履行については、「遺贈」の規定を準用します。(裁判所に取消の請求ができる)。相続人は一人で請求できます。     

 

8. 「一切の財産を包括して相続させる」遺言は可能か? 

 

 包括遺贈と混同される恐れがあるので、このような文言は避けるべきです。

(出典:『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』28頁)

 

 

 注意事 項  民法改正(2018.7.13公布)

 

(1) 相続の効力等に関する見直し  

 「相続させる」遺言による不動産については、登記をしなくても第三者に対抗できるとされていたものを改め、法定相続分を超える部分については、登記をしなければ第三者に対抗できないこととされました

 改正の理由は、遺言の有無及び内容を知り得ない相続債権者・債務者等の利益や第三者の取引の安全を確保するため、法定相続分を超える部分については登記をしなければ債務者及び善意の第三者に対抗できないとしたものです。

(令和元年7月1日施行。令和元年7月1日以降に開始した相続について適用されます) 

 

 法改正前に作成した遺言による相続であっても、改正法施行後の相続には適用されます。

 

(2)遺言執行者の権限の明確化等 

 

 遺産分割方法の指定がされた場合の対抗要件を備える行為も遺言執行者ができるとされ、「相続させる遺言」がされた場合には(遺贈には適用されません)、遺言執行者は、原則として、単独で相続による権利の移転登記の申請をする権限や、預貯金の払戻しをする権限(預貯金以外の金融商品は適用されない(遺言で権限を付与した場合を除く))を有することとされました 

 

※民法改正(2018.7.13公布)前は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)に関し、相続開始時に、遺産分割協議等何らの行為を要せずして、その遺言どおりに特定の財産が特定の相続人に承継されると解されることから、遺言執行の余地はなく、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされていた。

 しかし、改正により、遺言執行者を「相続人の代理とみなす」規定が削除され、遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することととされた。

 その結果、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、「相続人」に対して直接その効力を生ずることとなり、特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)に関して、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限があると変更になった。

 

 遺言執行者は遺言者の意思を実現するため、場合によっては相続人の利益に反することを行う必要があることから、このような改正がなされたものです。  


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