「相続させる」旨の遺言の執行は、不動産については、承継を受けた相続人は単独で所有権移転登記の申請をすることができます(遺言執行者が指定されているときは、遺言執行者が単独で所有権移転登記の申請をすることができます)。一方、遺贈の場合は、所有権移転登記の申請は相続人全員で共同で行う必要があります(遺言執行者が指定されているときは、遺言執行者が単独で所有権移転登記の申請をすることができます)。
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埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1 「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)の執行
「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)の執行は、その財産が不動産であれば、承継を受けた相続人は単独で所有権移転登記の申請をすることができます。
なお、遺言執行者が指定されているときは、遺言執行者が単独で所有権移転登記の申請をすることができます。
民法1014条(特定財産に関する遺言の執行)
1. 前三条の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。
2. 遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為(*所有権移転登記等)をすることができる。
3. 前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。
4. 前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
平成30年民法改正(2018.7.13公布)により、特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言がされた場合には、遺言執行者は、原則として、単独で相続による権利の移転登記の申請をする権限を有することとされました。
平成30年民法改正(2018.7.13公布)前は、特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言に関し、相続開始時に、遺産分割協議等何らの行為を要せずして、その遺言どおりに特定の財産が特定の相続人に承継されると解されることから、遺言執行の余地はなく、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされていました。
しかし、改正により、遺言執行者を「相続人の代理とみなす」規定が削除され、遺言執行者は遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有することととされました。
その結果、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、「相続人」に対して直接その効力を生ずることとなり、特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)に関して、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限があると変更になりました。
遺言執行者は遺言者の意思を実現するため、場合によっては相続人の利益に反することを行う必要があることから、このような改正がなされたものです。
(参考)
従前、「相続させる」旨の遺言に基づく登記については、遺言執行者が指定されていてれば、遺言執行者も相続登記を申請することができるとされていましたが、上記最高裁平成3.4.19判決を受け、「相続させる旨の遺言は被相続人の死亡と同時に当該不動産上の権利を当然に当該相続人に承継させることから遺言執行の余地はなく、遺言執行者が指定されていても相続登記を申請する代理権限はない」との取り扱いに変更されてきました。
しかし、2018民法改正(2018.7.13公布)により、遺言執行者を「相続人の代理とみなす」規定が削除され、遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、「相続人に対して直接その効力を生ずる」と変更されました。
また、遺産分割方法の指定がされた場合の対抗要件を備える行為も遺言執行者ができるとされ、「相続させる」旨の遺言がなされた場合には、遺言執行者は、原則として、単独で相続による権利の移転登記の申請をする権限や、預貯金の払戻しをする権限(預貯金以外の金融商品は適用されない(遺言で権限を付与した場合を除く))を有することとされました(令和元年7月1日施行。令和元年7月1日以降に開始した相続について適用される)。(出典:『これだけは知っておきたい 相続の知識-』155-156頁)
(不動産の遺贈の遺言の執行)
一方、不動産の遺贈の場合、所有権移転登記の申請は相続人全員で共同申請します。ただし、遺言執行者が指定されているときは、遺言執行者は単独で所有権移転登記の申請をすることができます。
(分数的割合により相続させる遺言の執行)
相続財産の全体について、各相続人に分数的割合により相続させる遺言は、相続分の指定をしたにすぎないとして、権利関係の確定のために遺産分割協議が必要になることがあります。
2. 「相続させる」旨の遺言と異なる遺産分割の可否
「相続させる」旨の遺言と異なる遺産分割、あるいは「遺産分割方法の指定(特定の遺産を特定の相続人に取得させる「遺産分割実行の指定」)の遺言」と異なる遺産分割はできるか?
特定の遺産を特定の相続人に相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)があったときは、相続人間でこの遺言と異なる遺産分割をすることはできません。
民法では、被相続人が遺言により、相続人に対し、自己の財産を承継させる方法として、遺贈(964条)、相続分の指定(902条)、遺産分割方法の指定(908条)等があるが、最高裁平成3.4.19判決(*)により、相続させる旨の遺言は、「遺産分割方法の指定」がなされたものと解すべきであるとされ、遺産分割協議を経ることなく、被相続人の死亡と同時に、当該遺産についての権利を移転させる効力を有するとされた。
*特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、・・・、当該遺産を当該相続人をして他の相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものであると解すべきであり、・・・、遺産分割の方法が指定されたものと解するのが相当・・・(最高裁平成3.4.19判決)
(出典;『これだけは知っておきたい 相続の知識 -』日本加除出版.154・155頁)
※「相続させる」旨の遺言による分け前が法定相続分を超えている場合は、「遺産分割の指定」とともに当該遺産を代償無くして相続するに足りるだけの「相続分の指定」がされたものと解される(出典:『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』25頁)
3. 「相続させる」旨の遺言と相続債務の承継
➀ 相続人間内部では、 遺産の分配、遺贈、贈与を含めた現実に取得したプラスの相続分に応じて債務を負担します。
② 対債権者では、法定相続分に応じて債務を承継します。
□ 詳しくは、》》遺言による債務の継承 をご覧ください。
4. 「相続させる」旨の遺言と借地権・借家権
対象財産が借地権・借家権の場合、「遺贈」は、権利の移転に貸主の承諾が必要と考えられています。
一方、「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言)は、権利の移転に貸主の承諾を要しないと考えられています。
5. 「相続させる」旨の遺言と農地
農地の場合、「遺贈」は権利の取得に農業委員会(又は、都道府県知事)の許可が必要です(平成24年から、相続人に対する特定遺贈の場合は、権利の取得に農業委員会(又は、都道府県知事)の許可は不要となりました)。
一方、相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)は、一般承継であるため、権利の取得に農業委員会(又は、都道府県知事)の許可は不要です。
参考 民法改正(2018.7.13公布)
(1) 相続の効力等に関する見直し
「相続させる」遺言による不動産については、登記をしなくても第三者に対抗できるとされていたものを改め、法定相続分を超える部分については、登記をしなければ第三者に対抗できないこととしました。
改正の理由は、遺言の有無及び内容を知り得ない相続債権者・債務者等の利益や第三者の取引の安全を確保するため、法定相続分を超える部分については登記をしなければ債務者及び善意の第三者に対抗できないとしたものです。
(令和元年7月1日施行。令和元年7月1日以降に開始した相続について適用されます)
法改正前に作成した遺言による相続であっても、改正法施行後の相続には適用されます。
(2)遺言執行者の権限の明確化等
① 遺言執行者を「相続人の代理とみなす」規定が削除され、遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、「相続人に対して直接その効力を生ずる」とされました。
遺言執行者は遺言者の意思を実現するため、場合によっては相続人の利益に反することを行う必要があることから、このような改正がなされたものです。
② 遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる旨の判例の明確化がなされました。(共同相続人は遺贈の履行義務を負わない。)
③ 遺産分割方法の指定がされた場合の対抗要件を備える行為も遺言執行者ができるとされ、「相続させる遺言」がされた場合には(遺贈には適用されません)、遺言執行者は、原則として、単独で相続による権利の移転登記の申請をする権限や、預貯金の払戻しをする権限(預貯金以外の金融商品は適用されない(遺言で権限を付与した場合を除く))を有します。
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