相続人が複数いる場合には、相続財産は相続人全員の共有状態となります。
遺産分割によって、財産の確定的承継帰属が定められ、共有状態は解消されます。
遺産分割の方法には、遺言による指定分割、共同相続人による協議分割及び家庭裁判所による分割があります。
遺産分割の効力は、相続開始の時に遡って生ずるとされており、相続開始の時に承継したものとして取り扱われます。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
関連情報
1. 遺産分割協議の流れ
STEP 1 各相続人に遺産分割の実施を知らせる
(1)遺産分割に参加できる者
① 共同相続人、包括受遺者、相続分の譲受人
共同相続人、包括受遺者、相続分の譲受人は、いつでも遺産分割を要求することができます。「相続分の譲受人」は相続人と同じ地位に立ち、遺産分割に参加します。譲受人をはずした遺産分割は無効です。
無断譲渡の場合は本来の相続人に取戻権があります。本来の相続人は譲渡された相続分を買い戻し、「相続分の譲受人」の遺産分割に対する干渉を排除することができます。
② 「代襲相続人」「認知された子」
「代襲相続人」「認知された子」は遺産分割に参加できます。
「遺言で認知した子」が参加しない遺産分割の場合は、無効とはならず、価格による請求ができるにとどまるとされています。
遺産分割に参加できる者以外の者が入って行った遺産分割や、相続人が一人でも参加しない遺産分割は無効とされ、やり直しとなることがあります。
(2)特別な手続き等が必要な相続人
① 認知症の相続人 、② 未成年の相続人 、③ 胎児の相続人、④ 海外に住んでいる相続人 、⑤ 行方不明の相続人(普通失踪の状態が7年未満、生死不明の不在の状態が7年以上 )
詳しくは、》》特別な手続き等が必要な相続人 をご覧ください。
STEP 2 相続人全員が集まり遺産分割の協議を行います
》》遺産分割の協議で話し合うこと をご覧ください。
転送し合うなどして遺産分割協議書を作ることができます。
(1)転送し合って遺産分割協議書を作る
相続人が遠方にいて一堂に会して話し合うことが困難な場合、あるいは、会いたくない人がいるときは、代表相続人が遺産分割協議書(案)を作り、書面の持ち回りで(転送しあって)遺産分割協議書に署名捺印(又は記名押印)することができます。
この場合、代表相続人は、送る前に必ず電話しましょう。丁寧な電話をすることがスムーズに行く秘訣です。 電話番号が分からない場合は、まず、手紙で電話番号を聞いてからにしましょう。
(2)遺産分割証明書
遺産分割協議書は必ずしも同じ紙に全員連名で作る必要はありません。相続人の人数分(人数分 × 人数分)の「遺産分割証明書」を作り、1人ひとりに相続人の人数分を渡し、各相続人が相続人の人数分に署名・捺印します(結果的に相続人一人ひとりが相続人全員分を揃える)。効力は同じです。登記に使うことができます。
この場合も、代表相続人は、送る前に必ず電話しましょう。丁寧な電話をすることがスムーズに行く秘訣です。 電話番号が分からない場合は、まず、手紙で電話番号を聞いてからにしましょう。
STEP 3 遺産分割協議書の作成
遺産分割協議書に各相続人から署名捺印をしてもらい、印鑑証明書も提出してもらいます。併せて、相続手続に必要な他の書類にも署名捺印をしてもらっておきましょう。
遺産分割協議「書」の作成は義務ではありません。ペーパーにしなくても「協議分割」は成立します。
ただし、次の場合は、遺産分割協議「書」が必要です。
① 不動産の登記手続き
② 預貯金の名義変更・解約手続き(場合による)
③ 相続税の申告で、配偶者の税額軽減の特例等、相続税の特例を受けるとき
また、また、相続人が多い場合などは、後で問題が起こらないよう、証拠として遺産分割協議「書」を作っておくことをおすすめします。
①「祭祀承継者を決めた」場合、②「相続人が多い」場合、③「相続人同士が疎遠」な場合、④「複雑に相続」する場合、⑤「数次相続」のとき
詳しくは、》》遺産分割協議「書」が必要な場合 をご覧ください。
(1)遺産分割は一部の遺産を先に分割することもある
遺産分割協議書は一度に作成するのが原則ですが、相続人全員が合意すれば、不動産など一部を別に作成することができます。
また、預貯金など遺産が相続人の生活に欠かせない場合や、一部の遺産を先に売却し債務の支払いに充てなければならないといった事情のある場合は先に分割することもあります。
遺産の分割は、遺産全部について一度で済ませてしまうのが簡明ですが、一部のみについて行うこともできます。(出典;小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識』日本加除出版.67頁)
(2)遺産分割協議書は相続人の人数分を作る
遺産分割協議書は相続人の人数分作成し、各自1通ずつ保管します。 そのほかに、金融機関への提出分も作っておくと便利です。
2. 遺産分割の期限
以上を3ヶ月以内を目標に行います。
遺産分割には期限はありませんが、相続税の申告(10か月以内)までに協議をまとめないと、配偶者の税額軽減の特例や居住用財産売却の特例等の、相続税の各種税額控除が受けられなくなります。
(相続税がかからないときは、二次相続時にまとめて行うことも選択肢です。)
一般的には、遺産分割協議は遅くとも四十九日頃には始め、相続税の申告期限(10ヶ月以内)を目標に遺産分割協議の結果を出しているようです。
10か月以内に遺産分割を終わらせることができなかったときは、法定相続分通りに相続したものとして相続税の申告・納付を行い、遺産分割がまとまり次第、修正申告します。
(*) ①贈与税額控除 ②配偶者の税額軽減 ③未成年控除 ④障害者控除 ⑤相次相続控除 ⑥外国税額控除 ⑦相続時精算課税制度に係る贈与税額控除
3. 遺産分割がまとまらない場合
(1) 家庭裁判所の調停
遺産分割がまとまらないときは、相続人の誰かが、家庭裁判所に調停の申し立てをすることができます。
調停による遺産分割は、通常、法定相続分で分割されることとなります。
分割案に相続人全員が合意すると調停調書が作成され、調停の内容を強制的に実現することになります。
なお、熟慮期間中(3か月間)は調停の申し立てはできません。
(2) 家庭裁判所の審判
調停でもまとまらない場合は、自動的に審判手続きが開始され、家庭裁判所の審判により遺産分割します。
詳しくは、》》遺産分割調停 をご覧ください。
4. 遺産分割までの間、財産の扱い
土地・建物 | 相続人の共有 |
借地権 | 〃 |
預貯金・現金 | 相続人全員の合意で使用 |
有価証券 | 相続人の共有 |
生命保険金(受取人の指定のないもの) | 〃 |
自動車 | 〃 |
未払いの税金 | 相続人全員の合意で納付 |
借入金 | 相続人全員の合意で返済 |
※ 相続人の共有となっている財産は相続人により遺産分割協議が終わるまで原則として処分することはできません。
(出典:比留田薫・岡田茂朗 監修(2003)「葬儀後の手続き・相続のすべてがわかる本」主婦の友社.107頁)