遺留分侵害額請求(旧遺留分減殺請求)

□ 2018民法改正前は、遺留分減殺請求権の行使による物権的効果(現物弁償)により対象財産が共有状態になるとされていたが、改正後は、遺留分侵害額の請求権の行使により、遺留分侵害額に相当する金銭債権を生ずると改められた。 (2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用される)

 

□ 遺産分割協議において、遺留分未満の財産の取得に同意した場合は、遺留分侵害額請求はできません。

 

□ 遺留分侵害額請求権は、遺留分を侵すものであることを認識したときから、短期消滅時効(1年)で消滅します。  (混同しやすいものとして、相続放棄の申し立て期限(3ヵ月)がある

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埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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ポイント 関連情報

➤ 遺留分

➤ 遺留分の計算の仕方

1. 遺留分侵害額請求権とは

 

 「遺留分侵害額請求権」とは、被相続人が特定の相続人や第三者に、相続・遺贈や死因贈与、生前贈与で与えた財産について、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求する相続人の権利です。

 亡くなった人が相続や遺贈、死因贈与、生前贈与で財産をあげすぎたため、ある相続人の相続額が遺留分額を下まわる場合は、その差額を限度として、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができます。 

 

(改正後)

民法1046条(遺留分侵害額の請求)

1.遺留分権利者及びその承継人は、受遺者(特定財産承継遺言により財産を承継し又は相続分の指定を受けた相続人を含む。以下この章において同じ。)又は受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる。

2遺留分侵害額は、第1042条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。

一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第903条第一項に規定する贈与の価額

二 第900条から第902条まで、第903条及び第904条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額

三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第899条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額

 

2. 遺留分侵害額請求権の法的性質

 

 遺留分侵害額請求権形成的効力を有します。一方的な意思表示により法的効力を生じさせます。 

 裁判外でも行使できる強力な権利なので、遺留分の侵害はないか、よく調べてから遺言を書く必要があります。

 なお、あえて遺留分を侵害する遺言をする場合には、対策をよく検討し、遺言することが肝要です。 

 

3. 遺留分の計算の仕方(侵害された額の計算)

 

 》》遺留分の計算の仕方 をご覧ください。  

 

4. 遺留分侵害額請求先(遺留分侵害額負担者)の順序

 

 民法では、受遺者・受贈者が複数いるときは、その目的の価額の割合に応じて負担することを基本としていますが、 遺言で遺留分侵害額請求先(遺留分侵害額負担者)の順序を指定することができます(遺留分侵害額請求をされた場合はどの遺留分侵害額負担義務者が支払うかを指示する)。遺言で遺留分侵害額請求の負担を特定の者に免除することができます。

 

 遺言で、受遺者の遺留分侵害額請求に対する支払い額を加重、軽減、排除したときは、それに従います。 

 遺言で遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを免除した者からは遺留分を取り戻すことができません。

 

 遺留分侵害額を遺贈、死因贈与、生前贈与のどれから支払うかの優先順位は、遺贈→死因贈与→生前贈与の順になります。(遺贈が複数あるときは、その価格の割合に応じて支払います) 

 遺贈・死因贈与では遺留分額に達しないときは、「生前贈与」が対象となります。 「遺贈」より「生前贈与」を先に侵害額請求の対象にすることはできません。(「生前贈与」が複数個あれば、新しいものから古いものへと順次対象となります。「新しい生前贈与」より「古い生前贈与」を先に侵害額請求の対象にすることはできません。 同じ日になされたものは、按分します。契約日を基準とします。)

 特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)により取得した財産は、遺贈と同順位とされています。

 

(改正前) 

民法1034条(遺贈の減殺の割合)

遺贈は、その目的の価額の割合に応じて減殺する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 

 (改正後)

民法1047条(受遺者又は受贈者の負担額)

1.受遺者又は受贈者は,次の各号の定めるところに従い,遺贈(特定財産承継遺言による財産の承継又は相続分の指定による遺産の取得を含む。以下この章において同じ。)又は贈与(遺留分を算定するための財産の価額に算入されるものに限る。以下この章において同じ。)の目的の価額(受遺者又は受贈者が相続人である場合にあっては,当該価額から第千四十二条の規定による遺留分として当該相続人が受けるべき額を控除した額)を限度として,遺留分侵害額を負担する。

一 受遺者と受贈者とがあるときは,受遺者が先に負担する。

二 受遺者が複数あるとき,又は受贈者が複数ある場合においてその贈与が同時にされたものであるときは,受遺者又は受贈者がその目的の価額の割合に応じて負担する。ただし,遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは,その意思に従う。

三 受贈者が複数あるとき(前号に規定する場合を除く。)は,後の贈与に係る受贈者から順次前の贈与に係る受贈者が負担する。

 

2.第九百四条,第千四十三条第二項及び第千四十五条の規定は,前項に規定する遺贈又は贈与の目的の価額について準用する。 

 

 

(民法903条1項の定める相続人に対する贈与と遺留分減殺の対象)

裁判要旨  民法903条1項の定める相続人に対する贈与は、右贈与が相続開始よりも相当以前にされたものであって、その後の時の経過に伴う社会経済事情や相続人など関係人の個人的事情の変化をも考慮するとき、減殺請求を認めることが右相続人に酷であるなどの特段の事情のない限り、同法1030条の定める要件を満たさないものであっても、遺留分減殺の対象となる。 (最判平成10年3月24日、出典;裁判所ホームページ) 

 

注意事 項 民法改正(2018.7.13公布)により、改正前は、死亡前にされた相続人への生前贈与(特別受益)については、遺留分算定の対象財産(みなし財産)の価額に原則として無制限に算入する(特別受益持戻)こととされていたが、改正後は、死亡前10年間にされたものに限り、遺留分算定の対象財産(みなし財産)の価額に算入するようになった。※2019年(令和元年)7月1日施行。2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用されます。 

 

5 価格弁償   

 

 民法改正(2018.7.13公布)により、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権に変更され、遺留分請求によって生ずる権利は金銭債権となりました。※2019年(令和元年)7月1日施行。2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用されます。

 

6 遺留分侵害額請求の相手方 

 

 遺留分侵害額請求の相手方は、利益を受けた受遺者・受贈者又は遺言執行者です。

 遺留分を侵害することを知っていながら譲り受けた人(悪意の譲受人)にも請求できます。 遺留分を超える遺贈を受けた人に対し請求します。

 請求できる金額は、相続人に対しては、その者の遺留分を超える部分です。( 「法定相続分を超える」超える部分の意味ではありません) 

 

 遺言で、遺留分侵害額請求の対象とすることを特定の者に免除してあげることができます。(遺留分侵害額請求先の指定)。遺留分侵害額請求の支払いを免除した者からは、他の遺留分義務者から支払いを受けることができる限り、取り戻すことができません。  

 

7. 遺留分侵害額請求の方法

 

 侵害している相手(受遺者、受贈者、遺言執行者、悪意の譲受人)に、遺留分侵害額請求の意思表示を行います。その意思表示が相手方に到達した時点で権利が請求者に戻ります。

 口頭で行ってもその法的効力は有効ですが、請求期限内に意思表示をしたことの証明のため、内容証明郵便兼配達証明郵便で行うことをおすすめします。内容証明は、いつ、どのような内容の文章を、だれが、だれに差し出したかを証明する制度です。 

 

8. 遺留分侵害額請求権の時効(民法改正による時効の変更はありません)

 

 遺留分侵害額請求権(旧遺留分減殺請求権)は、短期消滅時効(1年)です。(混同しやすいものとして、相続放棄の申し立て期限(3ヵ月)がある)

 また、被相続人の死亡から10年(除斥期間)を経過したときは、遺留分侵害額請求権は消滅します。

 

 被相続人の死亡及び遺留分侵害額請求すべき贈与又は遺贈があったことの両方を知ってから1年以内に、侵害者に対し、請求しなければなりません。

 贈与又は遺贈のあった事実を知っただけでは、この時点から計算を始めることはしません。遺留分を侵害するという事実を知った時から計算を始めます。  

 なお、この遺留分侵害額請求権を行使することにより生じた金銭債権の消滅時効については、民法の一般の債権と同様です。(債権法改正により2020年4月1日からは5年または10年)

 

注意事 項 民法改正((2018.7.13公布)により、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権に変更されましたが、時効は改正前と同じです。(遺留分を侵害するという事実を知った時から1年、又は相続開始の時から10年のいずれかのうち先に到達した日限りで消滅します)

 

9. 遺留分侵害額請求することができないケース

 

① 遺留分侵害額請求先の指定(遺言で、遺留分侵害額請求をされた場合はどの遺留分侵害額負担義務者が支払うかを指示する)

 

 遺留分侵害額請求先の順序(遺留分侵害額請求をどの遺留分侵害額負担義務者からするか)は民法に定められていますが、遺言でこれを変更することができます。遺言で遺留分侵害額に相当する金銭の支払を特定の者に免除することができます。

 遺言で遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを免除した者からは遺留分を取り戻すことができません。  

 

 ただし、「遺贈」→「死因贈与」→「生前贈与」の順序は変更できません。また、「後の贈与に係る受贈者が先」は変更できません。

 

② 遺産分割で寄与分・特別寄与料として取得した財産は、遺留分侵害額請求の対象から免れます。

 

③ 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律による特例

 

 被相続人の死亡前に、推定相続人全員(きょうだい及びその子を除く)の合意に基づいて家庭裁判所の許可を受けると、経営の後継者が受けた株式を、遺留分算定の基礎となる財産に算入しないことができます。(平成21年3月1日施行)