離婚に伴う養育費のルール

□ 養育費の負担者は親権者とは全く別、とされています。どちらに親権があるかに関係なく、親である以上は子どもを養育する義務があります。 

□ 民法改正で、協議離婚では、養育費について協議し定めなければならないこととなりました。 

□ 養育費の金額は、父親、母親双方の年収、子どもの人数・年齢によって違ってきます。 

 子ども1人の場合は、月額3万円~5万円程度が多く、子ども2人の場合は、6万円~8万円程度が多いようです。  (出典:安達敏男・吉川樹士(2017)『第2版 一人でつくれる契約書・内容証明の文例集』日本加除出版.296頁)  

□ 将来分まで一括して支払いを受けた場合は、贈与税が課税される恐れがあります。

□ 離婚協議書を公正証書で作成する場合は、強制執行認諾条項の関係があるので、「支払いの終期」を確定的な期限で明確に記載する必要があります。

□ 養育費について合意できないときは、「調停」を申し立て、決めてもらうことができます。

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 養育費の支払い義務

 

(1) 養育費とは?

 

 養育費とは、子どもが成人するまでに必要な、養育にかかる費用のことです。

 具体的には ①食費、衣服費、住居費 ②学校の教育費 ③医療費・保険料 ④最低限度の文化費・娯楽費、交通費、お小遣い、塾などの費用が養育費に含まれるとされています。 

 

(2) 養育費の負担義務者

 

 どちらに親権があるかに関係なく、親である以上は子どもを養育する義務があると考えられています。 子どもを引き取らなかった親も、養育費を支払う義務(生活保持義務(※))があります。

 なお、親権者となった者が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組した場合は、養親の扶養義務が実親の扶養義務に優先すると考えられています。 

 

(※)生活保持義務:自分の生活と同程度の生活を保持すべき義務

 

(参考)生活扶助義務:自分の生活を犠牲にしない限度で、最低限の生活扶助を行う義務。

 

2. 養育費の額

 

(1) 養育費の相場

 

 養育費の金額は、父親、母親双方の年収、子どもの人数・年齢によって違ってきます。 養育費の相場は、

 

 子ども1人の場合は、月額3万円~5万円程度が多く、子ども2人の場合は、6万円~8万円程度が多いようです。(出典:安達敏男・吉川樹士(2017)『第2版 一人でつくれる契約書・内容証明の文例集』日本加除出版.296頁)

 

注意事 項 養育費 月1~2万円増 経済情勢を反映 16年ぶり新基準 最高裁の司法研修所が23日、離婚訴訟などで使われる養育費の新しい算定基準を公表する。・・・子どもの年齢が「14歳まで」は生活費分が増えた一方、「15歳以上」は・・・、増額幅は小さくなっている。・・・、旧基準で合意した夫婦が新基準の適用を求める声も想定される。・・・、増額されるかは個別の判断となる。(出典:2019.12.23朝日新聞1頁)

 

□ 詳しくは裁判所ホームページ・養育費婚姻費用算定表(令和元年度版) 》 裁判所・婚姻費用 をご覧ください。 

 

(2) 養育費の額の定め方

 

 一人当たり5万円というように定めます。 

 

※ 複数の子がいる場合に合計額で定めると、一人について支払いが終わったときに、残った子どもの金額を改めて協議し決めなければならず、面倒です。 

 

□ 家庭裁判所の養育費の算定式 (父親の支払い分)

■ 子の生活費 ×(父の基礎収入÷(父の基礎収入+母の基礎収入)) 

 

3. 養育費の支払い方法

 

(1) 毎月定期的に払うのが基本

 

 養育費は毎月必要な費用なので定期的に払うのが基本です。 

 将来の支払いに不安がある場合は、将来分まで一括して支払いを受けた方がよいと思います。その場合は夫側に一括支払いの同意を求めます。ただし、その場合は、贈与税が課税される恐れがあります(下記 10-(2)参照)。

 

(2) 養育費支払いの始期と終期  

 

① 養育費はいつからもらえるか?

 

 養育費は相手に扶養義務を果たすよう請求したときの分から請求できます。 

 養育費について話し合いができないまま離婚した場合は、後で養育費の支払いを求めて「調停」を申し立てることができます。この場合、 養育費は離婚時に遡って請求できます。 

 

② 養育費はいつまでもらえるか? 

 

 養育費の支払い終期は、判決で支払いを命じる場合には、「子が成人に達する月まで」とされるのが通常です。

 ただし、養育費の支払い義務は扶養義務に基づくものであり、対象者が就職した場合は養育費の支払い義務がなくなる場合があります。

 

 養育費の終期を「大学を卒業する月まで」等、未確定な事実の成就にかからしめる例もありますが、この場合、高校を卒業してすぐ就職した場合どうするか、大学に入るまでに浪人をするなどしてブランクが生じた場合どうするか、大学を留年した場合どうするかなど、いろいろな問題がでてくるおそれがあります。

 養育費の終期を定める場合は「子どもが満〇〇歳に達した最初の3月まで」というように、確定的な期限を切ったほうが明確で問題が生じにくいと考えます。  

 

 離婚協議書を公正証書で作成する場合は、強制執行認諾約款の関係があるので、「支払いの終期」を確定的な期限で明確に記載する必要があります。

 

4.  養育費支払い保証制度

 

 民間の保証会社が、養育費請求権者と保証契約を、養育費支払義務者と保証委託契約を結び、養育費の支払いが滞った場合に保証会社が支払義務者に代わって支払う制度です。

 契約時に保証料の支払いが必要ですが、一部の市町村では、これを補助している所があります(養育費の支払いに関する公正証書の作成費用を補助する市町村もあります)。

(出典:日本行政書士会連合会『 月刊日本行政(2022.9)№.598』34頁) 

 

5. 養育費の減額・増額

 

 病気や怪我による入院や、進学先が私立になることによって養育費が増大することがあります。 逆に、支払う側の病気、倒産、リストラ、再婚相手との間に子どもが生まれた、等によって支払いが困難になることがあります。 

 そうした事態に備え、離婚協議書に養育費の増額又は減額の請求ができる旨の条文を入れておくことが必要です。 

 

【養育費増額の理由】 

① 進学に伴う入学金・学費 

② ケガや病気で入院した 

③ 受け取る側が、病気や失職で収入が低下した 

 

【減額の理由】 

① 支払う側が、病気や失職で収入が低下した 

② 受ける取る側が、収入が大幅に増えた  

 

 注意事 項 【養育費と再婚】 

 養育費支払い義務者は、再婚しても養育費の負担義務はなくなりません。 また、子どもを引き取った側が再婚したからといって、それを理由に一方的に支払いを拒否することはできません。

 ただし、子どもを引き取った側が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組したときは、養親の扶養義務が実親の扶養義務に優先すると考えられています。 

 

6. 養育費が支払われないとき、養育費の支払いが滞ったときの対処法

 

□ 別掲 》養育費が支払われないときは をご覧ください。 

 

7. 養育費の時効

 

① 「毎月払いでいくらと金額を定めて取り決めた場合」は5年で時効となります。

 

② 「養育費の金額を定めていない場合」は、金額だけではなくどのくらい遡るのかも含めて、家庭裁判所が現実の支払能力などを考慮して決めます。

 

8. 一度「いらない」と言った養育費を後になって請求できるか?  

 

 裁判では、一度「いらない」と言った場合、後になって請求できるのは、子どもに大きな不利益をもたらす場合などに限る、との考え方が主流です。 

 

 請求できる、とする見解もあります(参照:第一東京弁護士会人権擁護委員会[編](2016)『離婚を巡る相談100問10答 第二次改定版』ぎょうせい.114頁) 

 

9.  養育費に関し離婚協議書に記載すべき事項

 

・ 毎月の養育費の額 

・ 支払い方法 

・ 毎月の支払日 

・ 子どもがいくつになるまで支払ってもらうか  

・ 進学や事故・病気等で出費が増えた場合はどうするか 

 

10. 養育費と税

 

(1) もらった養育費に対する税金

 

 離婚の際に受け取る養育費は、子に対する扶養義務の履行であり贈与ではありません。したがって、社会的に見て妥当な額である限り、贈与税は課税されません(※)。

 

(※)民法上の扶養義務者相互間で教育費や生活費に充てるための贈与があった場合、贈与税は課税されない(相続税法21条の3第1項2号)。

 

(2) 養育費の一括払いと贈与税 

 

 養育費を将来分まで一括して支払いを受けた場合は、贈与税が課税される恐れがあります。

 

 養育費の一括払いと贈与税については、未だ具体的に発生していない将来の養育費を一括払いすることは贈与税の課税対象になるというのが国税庁の見解です。 

 養育費を将来分まで一括して支払いを受ける場合、信託銀行と信託契約を締結して継続的に受け取るようにすることによって、非課税扱いとなります(ただし、契約の解除について、父と母の両者の同意を必要とするものに限られる)。

(出典:第一東京弁護士会人権擁護委員会[編](2016)『離婚を巡る相談100問10答 第二次改定版』ぎょうせい.220-221頁) 

 

(3) 養育費を支払う者と扶養控除を受ける者の関係 

 

 税務上の扱いでは、二重に扶養控除がされていない限り、父親、母親どちらからの控除も認めているようです(出典:第一東京弁護士会人権擁護委員会[編](2016)『離婚を巡る相談100問10答 第二次改定版』ぎょうせい.218頁)。

 

 離婚協議書等で扶養控除を受ける者を明確にしておくことが望ましいと考えます。