財産分与

離婚に伴う財産分与のルール~熟年離婚、夫の退職金・年金分割はどうなる?~ 

□ 財産分与請求権の内容

①夫婦の財産関係の清算、②後扶養(のちふよう)的要素、③慰謝料的要素、④過去の婚姻費用(別居中の生活費等)

※上記のうち、夫婦の財産関係の清算、後扶養的要素、過去の婚姻費用(別居中の生活費等)は、離婚に至った責任は関係ないとされています。

 

□ ここがポイント 

・ 離婚の話し合いをするまでに、財産分与の対象になる財産を大まかにつかんでおきます。  

・ 普通の給与所得者では、財産分与と慰謝料を合わせて200万~500万円が相場と言われています。

・ 住宅ローン付不動産の財産分与の場合、離婚協議書に「所有権移転登記はローン完済後に行う」旨の取り決めをする必要があります。

 

注意事 項 「今後、名目のいかんを問わず、財産上の請求を一切しない」との一筆を入れると、貰えるものももらえなくなる恐れがあります。


行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

似顔絵

1. 離婚に伴う財産分与

 

□ 財産分与とは結婚後、夫婦の協力によって築いたた財産を、離婚に際し清算することです。 

 法律で認められた権利で、どちらに離婚原因があるか否かには関係なく、原則として財産形成への貢献度に応じて公平に分与します。 

 離婚原因を作ってしまった有責配偶者からも請求することができます。財産分与は不倫した妻からも請求できます。

 

※財産分与請求権の内容のうち、夫婦の財産関係の清算、後扶養(のちふよう)的要素、過去の婚姻費用(別居中の生活費等)は、離婚に至った責任は関係ないとされています。

 

□ 専業主婦の場合など、結婚後、夫婦の協力によって築いたた財産がないときでも、離婚後自活できるまでの間は生活できるよう、後扶養(のちふよう)的要素による財産分与の請求が可能になる場合があります。

 

 

2. どの財産が財産分与の対象となるのか、見分け方 

 

□ 財産分与の対象となるのは、「共有財産」と「実質的共有財産」です。

 

(1) 「共有財産」 は財産分与の対象です

 

□ 共有財産とは、婚姻期間中に夫婦の協力により形成・維持されてきた共有名義財産(名義の無いものを含みます)です。 

 例えば、マイホームなどの不動産、家具・電化製品、タンス預金やヘソクリなど家庭内の現金など「結婚後に取得した財産」は共有財産であると推定されます。 

 別居後に取得した財産については、財産分与の対象とはなりません。

 

(2) 片方の名義になっていても、「実質的共有財産」は財産分与の対象です 

 

□ 実質的共有財産とは婚姻期間中に夫婦の協力によって蓄えられ、維持されてきたが、片方の名義になっている財産のことです。 

 家などの不動産は、名義がどちらになっているにかかわらず、結婚後に取得したものであれば財産分与の対象となります 。

 

※ ローンの残債があるときは、「不動産の時価から残っている住宅ローンなどの金額を差し引いた額」が財産分与の対象となるという考え方が一般的です 。

 

□ 生命保険金については、既に支払われた「満期保険金」は財産分与の対象になります。 

 「離婚後に満期となる保険金」は財産分与の対象になりません。保険契約の内容により、解約時に戻ってくる返戻金、もしくは、離婚時まで払った保険金総額が清算の対象となります。

 

□ その他、預貯金個人年金国債などの有価証券、こどもの学資保険などです。

 

※ ただし、第三者との関係では、名義人の特有財産です。

 

□ 結婚期間中に貯金等したものでも、親等からそれぞれに贈与されたものは財産分与の対象とはなりません。

 

□ 生活費を折半で負担していた場合は、自分で蓄えた財産は分与の対象に含めなくてもよい、とされています。

 

□ こどもの名義の預貯金

 夫婦で子どもの将来のためにしたこどもの名義の預貯金で、子ども名義が形式にすぎないときは財産分与の対象になる、とされています。 

 

 

3. 財産分与の対象とならない財産

 

(1) 「特有財産」(固有財産)

 

① 結婚後に相続や贈与で親・兄弟等第三者からからもらった財産、結婚するときに実家からもらった財産(嫁入り道具) 

 

② 独身時代からそれぞれが持っていた預貯金

 

③ 衣服、スポーツ用品、アクセサリーなど、日常生活で一方が使っているもの 

 

※ 名義が自分であること、結婚後共同で蓄えたものと明確に区別できることが必要です。 

 

※ これらでも、結婚後に夫婦が協力したことによって価値が維持されたといえる場合や、価値が増加したのは夫婦の貢献があったからといえるような特別な事情がある場合には、貢献度の割合に応じて財産分与の対象とされる場合があります。

 

(2)第三者名義の財産

 

□ 法人名義などの第三者名義の財産は、財産分与の対象とはなりません。ただし、実態が個人経営と変わらない場合は財産分与の対象とされる場合があります。

 

 

4. 財産分与における注意点

 

(1) 不動産(土地、住宅)を財産分与されたときの手続き

 

□ 土地、住宅をもらうことになったら、「登記済権利証」(所有権の登記済証)または、登記識別情報通知(パスワード)を確実に受け取っておき、所有権移転登記を確実に済ませます。 

 

□ 詳しくは 》財産分与による不動産の名義変更 をご覧ください

 

□ マンションをもらうことになったら、 所有名義をどうするかや、光熱費等管理費・修繕積立金等の支払者および支払い方法について協議しておく必要があります。

 

□ マンションをもらうことになったがローンが残っている場合は、ローンをすべて引き受け、相手に払う調整金を少なくします。

 

□ 財残分与により不動産の名義変更をする場合には、銀行の承諾を得る必要がありますが、一般に銀行は、当事者に資力がある場合等でない限り、承諾をしない場合が多いようです。(安達敏男・吉川樹士(2017)『第2版 一人でつくれる契約書・内容証明の文例集』日本加除出版.299頁)

 

※ 債務者の変更について金融機関の同意が得られない場合は、不動産の名義はそのままにし、ローンの支払いを引き受ける方法をとらざるをえません。

 

□ 借地上の建物を財産分与される場合は、借地権の譲渡となります。トラブル防止のため事前に地主の了解を得ておきます。

 

 

(2) 「退職金の財産分与」に関して 

 

□  》退職金の財産分与 をご覧ください

 

 

(3) 生命保険の取り扱いに関して 

 

□  》生命保険の取り扱い をご覧ください

 

 

(4) 医師、会計士、弁護士等の資格と財産分与について

 

□ 相手の収入に支えられて資格を取った場合、これを財産とみなして分与の対象とします。 

 

 

5. マイナスの財産をどうするか 

 

□ 財産分与の対象には、借金や住宅ローンなどの債務も入りますから、注意が必要です。 

 ただし、もっぱら自分のために借り入れた個人的な借金は、連帯保証をしていない限り、財産分与の対象になりません。 

 実務においては、プラスの財産と夫婦の共同生活を営むために生じたマイナスの財産がある場合には、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた残額を分配するというのが一般的です。

 

※ プラスの財産からマイナスの財産を差し引いたらマイナスとなったときは、財産分与請求権は生じません。(債務の負担割合について協議し、合意することはできます。)

 

 

6. マイホーム、住宅ローンはどうするか、保証人をどうするか、不動産は誰の名義にするか 

 

□ オーバーローンの場合は財産分与の対象にしないのが裁判所の考え方です。 

 オーバーローンの場合は不動産を売ってもローンが残るだけですから、どちらかが住み続けてローンの支払いを続けるのが一般的です。 

 

※ ただし、その場合、保証人をどうするかなど、決めておかなければならないことがあります。  

 

□ 住宅ローン付不動産の財産分与の場合で名義変更を銀行が承諾しないときは、離婚協議書で、所有権移転登記はローン完済後に行う取り決めをしておく必要があります。

 

□ アンダーローンの場合には、プラス部分が財産分与の対象となります。

 

□ 所有権はそのままにして、使用権を財産分与としてもらう(無償で使わせてもらう)方法もあります。

 

 

7. 財産分与率財産分与の割合、按分率) 

 

□ 2分の1ルール  

 財産分与の割合は、財産の形成や維持への貢献度に応じて按分します。 

 専業主婦の場合、按分率は、かっては、共有財産の3割から5割が相場とされていましたが、最近では、特別の事情が無い限り、2分の1が裁判実務上一般的になっています。 

 共働きの場合も、医師等の専門的職業は別として、一般的に2分の1とされています。 

 

※ 医師等の専門的職業や会社経営者などであって、個人の特殊な能力や努力によって高額な資産形成がなされた場合は、2分の1ルールが適用されないときがあります。

 

※ 専業主婦、共働き、いずれの場合も、夫婦の片方の特殊な努力や能力によって高額な資産形成がなされた場合には、按分の割合が修正されることもあります。  

 

 

8. 財産分与の方法

 

□ 当事者の話し合いによって自由に決めることができます。 

 

□ 不動産、株券、会員権、家財道具などの分与の方法例

・ 現物で分与する

・ 売却して代金を分与する

・ 債務を負担する形で分与する

 

(不動産)①分ける割合に応じ共有にする、②一方が所有し、分与する割合のお金を払う、③利用権を設定する形で分与する

 

□ 話し合いがまとまらない場合には、離婚調停、離婚審判、離婚訴訟を通して決めていきます。 

 

 

9. 財産分与の時効(財産分与を請求できる期間)

 

□ 離婚したときから2年(除斥期間)です。

 

 

10. 財産分与と「贈与税」「所得税」「不動産取得税」「登録免許税」

 

(1) 財産分与を受け取る側

 

□ 離婚の際に受け取る慰謝料、養育費、財産分与などの「金銭給付」については、夫婦の財産の清算若しくは損害の補てんとしてなされるものであることから、社会的に見て妥当な額であれば「贈与税」も「所得税」も課税されません。

 

※ 過当とされる場合

・・・離婚を手段として・・税の逋脱を図ると認められる場合には、・・・贈与があったものとみなされます。(安達敏男・吉川樹士(2017)『第2版 一人でつくれる契約書・内容証明の文例集』日本加除出版.300頁)

 

□ 「不動産」の財産分与が、婚姻中に取得した夫婦の財産の清算の場合は「不動産取得税」は課税されません。

 

□ 「不動産」を財産分与で取得した者が所有権移転登記をする場合は、「登録免許税(不動産価格の1%)」が課税されます。

 

(2) 財産分与をする側

 

□ 慰謝料、養育費、財産分与などの「金銭給付」を支払う場合は、支払う側にも課税されません。

 ただし、「不動産や株券などの現物の財産分与」は、税法上売却と見做され、購入時より評価額が上がっていると、増加分について、譲渡する側(所有名義人)に「譲渡所得税」が課せられます注意が必要です。

・短期譲渡所得(所有期間5年以下)税率39%

・長期譲渡所得(所有期間5年超)税率20%

 

※ 居住用資産を売却した場合は、譲渡所得税について3000万円の特別控除があります。(居住期間は関係ありません。ただし、親族以外への譲渡が要件となっていることから、離婚後に財産分与等の手続きを行う必要があります。)

 

※ 婚姻期間20年以上であれば、離婚前に配偶者に家を贈与すれば、「贈与税」は、2,110万円までかかりません。

 

 

11. 扶養的財産分与、後扶養(のちふよう) 

 

□ 結婚後に夫婦の協力によって築いたた財産がないときでも、離婚時に「専業主婦」で収入が全く期待できないときや、「病気」である場合などは扶養的財産分与(扶養)として、離婚後自活できるまでの間、財産分与の請求ができる場合があります。 

 離婚後に全く収入が見込めず、働くのも無理で、生活に困窮してしまうのは必至という事情があるが、財産分与として分ける夫婦共有財産がないときは、経済的に強い立場の配偶者が、離婚後も扶養する、という考えによるものです。 

 

 金額や支払期間は、離婚後の収入、子の年齢、有責性、婚姻中の生活態度、婚姻期間、経済的能力等の事情により変わります。

 経済的なメドが立つまでの短期的な支援が目的です。 

 定期金の支払いの場合、一般に1~3年が多いようです(安達敏男・吉川樹士(2017)『第2版 一人でつくれる契約書・内容証明の文例集』日本加除出版.299頁)

 

 自分の固有財産や収入を割いてでも、一定額を定期的に支払うべきとされています。 

 

 

12. 慰謝料的財産分与  

 

□ 慰謝料は、財産分与とは性質が異なり、本来は別々に算定して請求するのが原則です。しかし、慰謝料と財産分与を区別せずに、まとめて「財産分与」として請求、支払をすることがあります。 

 この場合の財産分与は、慰謝料も含むという意味合いがあるので、慰謝料的財産分与と呼ばれています。 

 なお、慰謝料と財産分与は法律上別ものです。両者をきちんと区別して確認しておきましょう。

 

□ 財産分与がなされたのちでも、不法行為を理由として改めて慰謝料の請求をすることは可能です。

 

 

13. 財産分与の支払いを確保するためには

 

□ 離婚協議書を「強制執行認諾約款付きの公正証書」で作っておけば、支払いが遅れたとき、裁判をしないでも裁判所が強制的に金銭等を回収してくれます。 給料を差し押さえる場合、通常の債権は支払い期限が過ぎている分についてしか差し押さえできないとされています。それも4分の1までしか差し押さえできません。これに対し、生活扶養的財産分与については、支払い期限が到来していない将来の分についても、2分の1まで差し押さえできます。

 

※ ただし、財産分与された不動産所有権など、金銭債権でないものは公正証書による強制執行はできません。

 

 

14. 財産分与請求権は相続されません

 

□ 本人が請求せずに亡くなった場合は財産分与請求権は相続されません。