□ 遺贈とは、遺言により、財産の全部または一部を、相続人又は相続人以外の他人若しくは法人に無償譲渡することをいいます。
( 一般に、遺言書では、相続人に無償譲渡する場合は「相続させる」と書き、 内縁の妻、孫、息子の嫁、友人など相続人以外に無償譲渡する場合は「遺贈する」として使い分けています。ただし、財産の種類によっては例外があります。)
□ 遺贈は受遺者が遺言者より先に又は同時に死亡した場合は効力が生じません。その場合、遺贈は無効となり、相続財産に戻ります。
□ 包括受遺者は、相続人以外の他人であっても、相続人と同等の権利義務を有します。
□ 遺贈の場合、受遺者単独では、不動産の所有権移転登記はできません。受遺者と相続人全員とで共同申請するか、又は、遺言で指定した遺言執行者が申請する必要があります。
□ 遺贈の目的たる権利は、原則として、遺言者に属する権利であることが必要とされています。
1. 遺贈とは
遺贈とは、遺言により、財産の全部または一部を、相続人、又は相続人以外の他人若しくは法人に無償譲渡することをいいます。
民法964条(包括遺贈及び特定遺贈)
遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。
① 遺贈と贈与の違い
遺贈は契約である贈与と異なり、単独行為、死後処分であり、撤回自由です。
② 包括受遺者の権利義務
包括受遺者は、相続人以外の他人であっても、相続人と同等の権利義務を有します。
③ 遺贈と遺留分侵害額請求
遺贈により遺留分を侵害された相続人は、自分が遺産から受けた利益が遺留分額を下まわる価格を限度として、遺留分侵害額請求ができます。
④ 相続人が受けた遺贈と法定相続分の関係
相続人が遺贈を受けた場合、遺贈された財産は法定相続分とは別に受け取れるわけではありません。法定相続分から差し引かれます(特別受益として持戻される)。
⑤ 遺言者の死亡の時において所有権を有しない物を遺贈できるか
遺贈の目的たる権利は、原則として、遺贈者に属する権利であることが必要です。(ただし、相続財産に属するかどうかにかかわらず遺贈の目的としたものと認められるときは、遺言者の死亡の時において所有権を有しない物を遺贈できる)
民法996条(相続財産に属しない権利の遺贈)
遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
⑥ 「相続させる」と「遺贈する」の使い分け
遺言書では、相続人に無償譲渡する場合は「相続させる」と書き、 内縁の妻や孫、息子の嫁、友人など、相続人以外に無償譲渡する場合は「遺贈する」と書きます。(ただし、財産の種類によっては例外がある)
⑦ 受遺者が遺言者より先又は同時に死亡した場合はどうなるか
遺贈は受遺者が先又は同時に死亡した場合は効力が生じません。無効となり、相続財産に戻ります。
ただし、相続人への遺贈については、法定相続分に限り、孫等代襲相続人が代襲相続します。
なお、法定相続分を超える部分も含めて孫等に代襲相続(*)させたいときは、例えば、「長男が先に又は同時に死亡した場合は長男の子○○○○に代襲相続させる」等と遺言に明記する必要があります。
* 代襲相続とは、相続人(子又は兄弟姉妹)が、被相続人の死亡前に又は同時に死亡し相続権を失ったときに、代襲相続人(被相続人の孫等又は甥・姪)が代わって相続人になることをいいます。
民法994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)
1.遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
2.停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
民法995条 (遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
⑧ 遺贈に伴う所有権移転登記の申請をすることができる者
相続に伴う所有権移転登記の申請は受遺者である相続人単独で申請できます(又は遺言執行者が申請する)が、遺贈の場合は、受遺者単独ではできません。受遺者と相続人全員とで共同申請するか又は遺言執行者が申請する必要があります。
なお、平成15年から、遺贈と相続との登録免許税の差はなくなっています。
⑨ 遺贈と相続税の扱い(贈与税か相続税か)
相続税の扱いについては、受遺者が相続人以外であっても、贈与税ではなく相続税が課税されます。
2. 遺贈の分類
遺贈の分類方法には、包括遺贈と特定遺贈、単純遺贈と負担付遺贈などがあります。
(1) 包括遺贈と特定遺贈
① 包括遺贈
包括遺贈とは、遺贈の目的物を特定せずに、遺産全体に対する分数的割合によって目的物財産を特定の者に承継させることをいいます。
例えば、「財産全部をBに贈与する」、「全財産の3分の1をBに贈与する」といったように 遺言します。(「不動産の何分の1を贈与する」は包括遺贈ではなく特定遺贈です)
(包括遺贈と債務(借金)の承継)
包括遺贈の受遺者は、特定遺贈と異なり、債務(借金)も承継し、指定の割合で引き継がなければなりません。
(包括受遺者の相続上の身分)
包括受遺者の相続上の身分は相続人と変わりません。相続人以外の他人(法人を含む)であっても、相続人と同等の権利義務を有し、互いに共同相続の関係になります。遺産分割協議に加わります。
(包括遺贈の遺言の書き方)
包括遺贈の遺言は、「包括して遺贈する」と記載すべきとされています。
単に「一切の財産を〇〇〇〇に遺贈する」では、積極財産、消極財産を包括して承継させる趣旨であるか、それとも積極財産の遺贈の趣旨であるのかについて疑義が生じる恐れがある。包括遺贈の趣旨である場合、明確に「包括して遺贈する」と記載すべきである(参照:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.160頁)
② 特定遺贈
特定遺贈とは、遺言で特定した目的物財産を特定の者に承継させることをいいます。
(特定遺贈の分類)
特定遺贈は、目的物の種類に応じて、特定物遺贈と不特定物遺贈の2つに分類できます。不特定物遺贈はさらに、種類物遺贈と金銭の遺贈の2つに分類できます。
特定遺贈 ①特定物遺贈
②不特定物遺贈 (ⅰ)種類物遺贈
(ⅱ)金銭の遺贈
(特定遺贈の目的物たりうるもの)
特定遺贈の目的物は、有体物でも無体物(債権)でもよいとされています。
また、債務免除や、相続財産に属しない権利も特定遺贈の対象とすることができます。
(特定遺贈の目的物の特定の仕方)
目的物の特定は、財産の個物若しくは種類が指定されることを要します。 自宅土地建物といった財産の個物、株式又は不動産といった種類若しくは金銭によって指定することもあります。
「不動産の何分の1をBに遺贈する」、「A社の株式の2分の1をBに遺贈する」、「所有不動産の全部をBに遺贈する」というように、不特定物の種類物の一定量の指定をすることも、遺贈の目的物が確定できれば特定遺贈とされます
(遺贈の目的物が、①一定額の金銭の場合、②一定量の有価証券の場合、③一定量の不特定物の場合、③相続財産に属しない権利の場合の遺言執行)
遺贈義務者は、遺贈の目的物が一定額の金銭の場合、一定量の有価証券の場合、一定量の不特定物の場合、もしくは相続財産に属しない権利の場合は、遺産の換金を行うなどして受遺者に支払ったり、物件を調達し受遺者に引き渡したり、特定したりすることなども行う必要があります。
(特定遺贈と債務(消極財産、借金)の承継)
特定遺贈の受遺者は、包括遺贈の受遺者と異なり、債務(消極財産、借金)は承継しません。
(特定遺贈の遺言の書き方)
「A社の株式を全てBに遺贈する」といったように 記載します。
(2) 単純遺贈と負担付遺贈
単純遺贈とは、遺贈の効力の発生、消滅又はその履行につき、全く制限が付されていない遺贈です。
負担付遺贈とは、例えば、「土地・建物を遺贈する代わりに妻が死亡するまで扶養すること」といったように、受遺者に一定の法律上の義務(負担)を課す遺贈です。
負担付遺贈を受けた受遺者は、「受遺」財産の価格を超えない限度でその負担を履行すればよい、とされています。
□ 負担付遺贈については、詳しくは 》》負担付遺贈 をご覧ください。
3. 遺贈の効力
遺贈は物権的効力を有し、遺贈の目的物が遺贈者の所有に係る特定物であるときは、当該特定物の権利は、遺贈者の死亡と同時に直接に受遺者に移転します。また、遺贈者に帰属する特定の債権であるときは、遺贈者死亡の時から当然に債権移転の効力を生じます。遺言執行者による債権譲渡の意思表示を必要としません。
不特定物(種類物遺贈、金銭の遺贈)についての権利を遺贈の目的としたときは、遺言執行者が、遺贈義務の履行として目的物を特定したときに、権利が受遺者に対し物権的に移転します。
(遺贈による所有権の取得と対抗要件)
包括遺贈の受遺者は、相続開始と同時に、当然に所有権を取得しますが、受遺財産が不動産の場合、法定相続分を超える部分については、登記をしなければ、権利取得を第三者に対抗できません。
特定遺贈の受遺者も、包括遺贈の受遺者と同じく、相続開始と同時に所有権を取得しますが、特定遺贈については、受遺財産が不動産の場合、登記をしなければ第三者に対抗できません。
(参考文献:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.100-101頁)
4. 農地の遺贈
農地の「包括遺贈」が行われた場合については、農業委員会の許可は不要です。
農地の「特定遺贈」が相続人に行われた場合については、かつては農業委員会の許可を停止条件とする停止条件付遺贈でしたが、平成24年に農地法施行規則が改正され、農業委員会の許可は不要となりました。
農地の「特定遺贈」が法定相続人以外に行われた場合については、農業委員会の許可を停止条件とする停止条件付遺贈となり、登記には許可指令書(農業委員会の許可書)の添付が必要です。
農地法3条の許可申請は、受遺者と相続人全員とで共同申請を行う必要があります。(又は遺言執行者が申請する)
したがって、相続開始時に相続人の協力が得られないことが予想されるときは、あらかじめ遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
農地法3条(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)
1項 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可(これらの権利を取得する者(政令で定める者を除く。)がその住所のある市町村の区域の外にある農地又は採草放牧地について権利を取得する場合その他政令で定める場合には、都道府県知事の許可)を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第5条第1項本文に規定する場合は、この限りでない。
5. 遺贈義務者
(1) 遺贈義務者の責務
遺贈を履行する人を遺贈義務者といいます。遺言で遺言執行者が指定されていれば遺言執行者が遺贈義務者となり、指定されていなければ相続人全員が遺贈義務者となります。
この相続人全員には包括受遺者も含まれます。相続人が不存在のときは相続財産管理人が遺贈義務者となります。
遺贈義務者は、遺贈を完全に実現するために、所有権移転登記等、対抗要件の具備その他を行います。
遺贈義務者は、遺贈の目的物が一定額の金銭の場合、一定量の有価証券の場合、一定量の不特定物の場合、もしくは相続財産に属しない権利の場合は、遺産の換金を行うなどして受遺者に支払ったり、物件を調達し受遺者に引き渡したり、特定したりすることなども行う必要があります。
遺贈義務者は、遺贈財産が指名債権のときは、債権者に対し通知をするか、債権者の承諾を得るかしなければなりません。
(2) 不動産の遺贈と遺贈義務者
遺贈に伴う不動産の所有権移転登記申請は、包括遺贈によるもの及び特定遺贈によるもの、いずれも受遺者単独ではできません。受遺者と相続人との共同申請によらなければなりません。(又は、遺言で指定した遺言執行者が行う)
したがって、将来、受遺者が登記申請しようとする場合に、相続人の協力が得られないことが予想されるときは、あらかじめ遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
※民法改正により、改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされていたが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更された。 (令和元年7月1日施行。令和元年7月1日以降に開始した相続について適用)
不動産の遺贈(法定相続分を超える部分)は、登記を経なければ第三者に対抗できません。
※民法改正により、相続させる旨の遺言による不動産の贈与については登記をしなくても第三者に対抗できるとされていたものが改められ「法定相続分を超える部分については」、遺産分割、遺贈、相続させる旨の遺言の類型に関係なく、登記をしなければ第三者に対抗できないこととされた。 (令和元年7月1日施行。令和元年7月1日以降に開始した相続について適用)
詳しくは 》》相続させる旨の遺言と遺贈 をご覧ください。
6. 遺贈と遺留分侵害
2018民法改正前は、遺留分減殺請求によって当然に物権的効果が生じ、遺贈は無効となり、対象財産は共有状態になる、とされていましたが、改正により、遺留分減殺請求は遺留分侵害額請求に改められ、相続人が遺留分侵害額請求をしても遺贈そのものは無効とはならず、対象財産が共有状態になることもなく、遺留分侵害額に相当する金銭債権を生ずるだけとすることに改められました(※)。なお、遺留分侵害額請求は各相続人が個別に意思表示することができます。
※民法改正により、遺留分減殺請求権は遺留分侵害額請求権に変更され、遺留分侵害額請求は金銭で支払うことに限定されました。
改正前は遺留分減殺請求によって当然に物権的効果が生じ、遺贈は無効となり対象財産は共有状態になるとされていましたが、改正後は遺留分減殺請求によって生ずる権利は金銭債権とされ、遺留分侵害額に相当する金銭債権を生ずるだけとされました。
なお、遺留分侵害額請求権は遺留分減殺請求権と同様に形成権であるとされ、権利者の一方的な意思表示により法律関係の変動を生じさせます。
(令和元年7月1日施行。令和元年7月1日以降に開始した相続について適用。)
7. 遺贈の放棄
(1)包括遺贈の放棄
包括遺贈の放棄は、相続の承認・放棄に準じて取り扱われます。包括受遺者は、相続人と同じく、相続があったことを知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に申し出なければなりません。
(2)特定遺贈の放棄
特定遺贈の受遺者は、包括遺贈の放棄と異なり、遺言者の死亡後「いつでも」放棄することができます。特定遺贈の放棄は、受遺者から相続人(又は遺言執行者)に通知します。
遺贈義務者(相続人又は遺言執行者)その他の利害関係者は、受遺者に対して、「遺贈を承認するか放棄するか」について、相当の期間を定めて督促することができます。
特定遺贈の受遺者が遺贈を放棄したときは、遺贈は相続財産に帰属します。
包括遺贈の受遺者が遺贈を放棄したときは、その遺贈分は相続人に帰属します。(他に割合による包括受遺者がいてもその包括受遺者には帰属しません)
【参考】 》》相続放棄 をご覧ください。
8. 遺言による債務免除
遺言で「相続人に貸与した金銭の支払債務を免除」してあげることは「遺贈」にあたります。
遺言による債務免除は相続税の課税対象となります。
(参考)
生活費貸与分の債務免除は、「生計の資本として」の贈与として特別受益にあたるとされる。(出典:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版 81頁)
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