遺言・正しい用語の使い方

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埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 「相続させる」と「遺贈する」の違い

 

 推定相続人(法定相続人)に、現物で財産を譲る場合は「相続させる」と表現し、推定相続人(法定相続人)以外に対するものは「遺贈する」と書きます。

 

 なお、推定相続人(法定相続人)以外に、現物で財産をあげる場合に「相続させる」と書いた場合も、「遺贈する」と置き換えて捉えることとなります。 

 相続の効力は生じないが、遺贈の効力が生じます(平成3年最判)。 

(出典:『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』23頁) 

 

□ 「相続させる」と「遺贈する」との法的効果の違いについては 》》「相続させる」旨の遺言(特定財産承継遺言) をご覧ください。 

 

2. 「与える」、「譲る」、「遺贈する」について

 

 財産を「与える」・「譲る」は、多くの場合、「相続させる」と解することができますが、「遺贈する」は、例え相続人が受取人であっても、判例では遺贈としか解釈できないとされています。  

 

 なお、疑義が生じないよう「与える」「譲る」もなるべく使わないようにしましょう。   

 

3. 「『有する』一切の財産」と「『所有する』一切の財産」の違い

 

 「『有する』一切の財産を相続させる(遺贈する)」は、全財産を相続させる遺言(又は包括遺贈)であることを明確にした表現です。単に、「『所有する』一切の財産を相続させる」と表記した場合は、特定遺贈と解釈される余地があります。(特定遺贈には債務は含まれません。)

 

「遺言者の所有する財産」は、形式的には遺言者の有する、所有権の対象となるプラスの財産のみを指すこととなり、適切でありません。(出典:日本公証人連合会(2017)『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』立花書房.64頁)  

 

「遺言者の所有する」と記載する例もあるが、承継される財産には積極財産のみならず消極財産(債務)もむくまれるから、適切でない。(出典:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版。147頁)  

 

4. 相続開始時に「『有する』一切の財産」について  

 

  「相続開始時に『有する』一切の財産」の文言は、遺言作成後に取得する財産も含むことを明確にした表現です。 なお、「相続開始時に有する」の文言は、なくても解釈上問題はありません。   

 

5. 遺言者の死亡『より前』に受遺者が死亡したときはと、死亡『以前』に受遺者が死亡したときはの違い  

 

 「死亡以前に」は、死亡時を含みますが、 「死亡より前に」は、死亡時を含みません。「死亡より前に」では、遺言者と受遺者が同時に死亡した場合は、停止条件の不成就により、遺贈の効果が生じないことになります。

 「死亡以前に」では、遺言者と受遺者が同時に死亡した場合についても停止条件は成就し、遺贈の効果が生じます。    

 

(出典:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.164頁) 

 

6. 以前、以後、以上、以下の「以」の意味

 

 「以」には、時間的前後関係を表わす言葉として、「そこを起点(基準となる時点)として」という意味があります。「以前」、「以後」及び「以降」いずれも起点を含みます 。

 起点を含まない場合には、「より前に」や「より後に」といった表現が用いられます。

 

 また、「以」には、一定の数量を基準として多寡関係を表わす言葉として、「それを基準値として」という意味もあります。「以上」や「以下」いずれも基準値を含みます 。 

 基準値を含まない場合には、「超える」若しくは「未満」「満たない」「達しない」といった表現が用いられます。

 

 基準点(令和3年4月1日)を含むときは、「令和3年4月1日『以前』に」又は「令和3年4月1日『以後』に」と表記し、基準点(令和3年4月1日)を含まないときは、「令和3年3月31日より『前』に」又は「令和3年4月2日より『後』に」と表記します。

 

「令和3年4月1日以前に」は令和3年4月1日を含みますが、 「令和3年4月1日より前に」は令和3年4月1日は含まれません。

「令和3年4月1日以後に」は令和3年4月1日を含みますが、 「令和3年4月1日より後に」は令和3年4月1日は含まれません。  

 

7. 「ただし」と「なお」と「しかし」の違い 

 

 「ただし」は「例外」について説明するとき、「なお」は念のために「付け加えて」説明するとき、「しかし」は「相反する」事柄を説明するときに用います。

 

 8. 「及び」と「並びに」の使い方 

 

(1) 「AB」2つのものを「and」でつなげる(AとBの両方)ときは、A及びB」といった表現が用いられます。 

 

(2) 「ABC」3つ以上のものを「and」でつなげる(AとBとCの全て)ときは、A、B及びC」といった表現が用いられます。(最後に及び」を使い、それ以外のところは「、」を使う。) 

 

(3) 大きなグループと小さなグループがある場合は、一番大きなグループ分け(一次分類)に「並びに」を、それより小さなグループ分け(二次分類)に「及び」を使います。 

 

具体例(民法974条2号)のように用います。

 

 推定相続人「及び」受遺者「並びに」これらの配偶者「及び」直系血族(以下略)  

 

(参考)

(and)

■ 「A及びB」は、AとBの両方という意味です。3つ以上のものについて並列で規定する場合は、「A、B及びC」と記載します。 

 

(or)

■ 「A又はB」は、AかBのどちらかという意味です。3つ以上のものについて並列で規定する場合は、「A、B又はC」と記載します。 

 

 (and)

■ 大きなグループと小さなグループに分ける場合(一次分類と二次分類をする場合)は、大きなグループ分けに(一次分類)に「並びに」を、小さなグループ分けには(二次分類)「及び」を使います。 

 

 例えば、「A及びBの引き渡し並びにCの受領」のように用います。 

 

(出典:淵邊善彦(2017)『契約書の見方・作り方』日本経済新聞出版社.46-50頁)

 

9. 「又は」と「若しくは」の使い方 

 

(1) AB」2つのものを「or」でつなげる(AかBのどちらか)ときは、A又はB」といった表現が用いられます。 

 

(2) 「ABC」3つ以上のものを「or」でつなげる(AかBかCのいずれか)ときは、A、B又はC」といった表現が用いられます。(最後に又は」を使い、それ以外のところは「、」を使う。) 

 

(3) 大きなグループと小さなグループがある場合、一番大きなグループ分け(一次分類)に又は」を、それより小さなグループ分け(二次分類)に「若しくは」を使います 

 

 「又は」で結びつけられた大きなグループ(一次分類)のなかで、より小さなグループ分け(二次分類)を行う場合は、一次分類は又は」を使い、二次分類は「若しくは」を使う。 

 

具体例(民法111条1項2号)のように用います。

 

 代理人の死亡「又は」代理人が破産手続開始の決定「若しくは」後見開始の審判を受けたこと。 

 

(参考)

■ 「又は」「若しくは」についても、大きなグループ分けに(一次分類)「若しくは」を、小さなグループ分けに(二次分類)に「又は」を使います。  

 

 例えば、「A又はBの引き渡し若しくはCの受領」のように用います。

 

(出典:淵邊善彦(2017)『契約書の見方・作り方』日本経済新聞出版社.46-50頁)

 

10. 「A、B、Cその他のD」と「A、B、Cその他D」の違い 

 

 「A、B、Cその他のD」は、A、B、CがDに含まれる関係(包含関係)にある場合に用いられます。つまり、A、B、CはDの例示です。

 

 

 「A、B、Cその他D」は、A、B、C、Dが並列関係にある場合に用いられます。つまり、A、B、CとDは包含関係にありません。  

 

 

 

 

 

 11. 「価格」と「価額」 

 

■ 「価格」は、一般的・抽象的に物の金銭的価値を表すときに用いられる場合が多い。一方、「価額」は、具体的に特定した物や財産の金銭的価値を表すときに用いられる場合が多い。 

 

民法1042条(遺留分の帰属及びその割合)

1.兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。 

 一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一 

 二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一 

 

民法1043条(遺留分を算定するための財産の価額)  

1.遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。  

 

12. 「漢字」で書くべきか、「ひらがな」にすべきか

 

① 「法令における漢字使用等について」では、「副詞」については原則として漢字で書くものとされ、「接続詞」についてはひらがなで書くことになっています(ただし、「及び」、「並びに」、「又は」、「若しくは」については漢字で書くこととされている)。

 

➁ 「とき」と「時」

 

 法令用語としての「とき」は仮定的条件を示す言葉を表すときに用います。(「場合」と同じ意味です。同じ文中に仮定的条件が二つ出てくる場合は、大きな条件に「場合」を、小さな条件に「とき」を用いるのが一般的です。)

 法令用語としての「時」は時点や時刻を表すときに用います。

 

③ 「もの」と「者」  

 

 一般的に、法律上の人格を有するもの(自然人及び法人)を指す場合は「者」が用いられます。法律上の人格を有しないもの(混在を含む)を表すときは「もの」を用います。

 

 「もの」は、

①「者」又は「物」にあたらない抽象的なものを指す場合、

②あるものにさらに要件を加えて限定する場合、 

 

③ある行為の主体として、人格のない社団又は財団を指す場合、あるいは、これらと個人・法人とを合わせて指す場合で用いられます。

 

④ 「もの」と「物」

 

 有体物である物件を表すときは「物」を用います。有体物でないもの(混在を含む)を表すときは「もの」を用います。  

 

(参考文献:吉田利宏(2020)『新法令用語の常識』日本評論社.)  

 

※「者」と「物」

 

 「者」は一般的に、法律上の人格を有するもの(自然人及び法人)を指す場合に用いられます。(法律上の人格を有しないもの(混在を含む)を表すときは「もの」を用います。)

 

 「物」は行為の客体となる、有体物である物件を表すときに用います。(有体物でないもの(混在を含む)を表すときは「もの」を用います。) 

 

 

13. 「~と~との「~との違い

 

 

 並列助詞の「と」の繰り返しについては省略されることが一般的ですが、入れることにより何らかの効果がある場合もあります。

 

14. 助詞「の」の使い方に注意

 

 助詞の「の」は働きには複数の種類があります。異なる解釈が可能であることから、解釈の余地のない、一義的で明解な言い回しをしましょう。

 

「配偶者(妻)に法定相続分を相続させる場合」

 

 ✖  「妻○○○○に法定相続分の2分の1を相続させる」

 〇 「妻○○○○に法定相続分を相続させる」

 

 〇 「妻○○○○に2分の1を相続させる」

 

「配偶者(妻)に法定相続分の半分を相続させる場合」

 

 ✖  「妻○○○○に法定相続分の2分の1を相続させる」

 

 〇 「妻○○○○に4分の1を相続させる」   

 

 

15. 句読点の打ち方  (読点の位置によって文章の意味が変わることがある)

 

  読点は文章を読みやすくするために打つものなので、過度に神経質になる必要はありません。

 しかし、遺言の場合、読点(「、」)が無いことによって、複数の意味に解釈できる場合があります。また、読点を打つ位置によって意味が変わることがあります。 誤読を避けるために必要な場合は、必ず読点をうちましょう。  

 

➀ 遺言の場合、主語を明確にするために読点(「、」)を打ちます

 

 また、「長い主語」「長い修飾語」のあとには、関係を明確にするために読点を打ちます。(関係が明確であれば特に読点を打つ必要はない)

 

② 節と節の間に読点(「、」)を打ちます。(「重文」の区切り、「複文」の区切りに読点(「、」)を打つ)

 

■「重文」とは、単文(主語と述語のある文)を2つ以上並列させ、結びつけた文章のことです。 

(例)妻に4分の3を相続させ、長男に4分の1 を相続させる。   

 

■「複文」とは、単文の基本となる主語と述語のほかに、修飾語(修飾部)があり、修飾部の中にも主語と述語の文節が含まれている文章のことです。 

 (例)遺言者は、前条項に記載したもの以外に相続財産が見つかったときは、それらを全て妻に相続させる。

 

 また、複文の場合、修飾語・修飾部がどこにかかるか分かり難く、意味が誤解される恐れがあるときは、修飾関係を明確にするため読点を打ちます。

 

 前置きの節や語句、挿入された節や語句を区切るため読点を打ちます。

 

③ 語句や名詞を並べる場合や、漢字やひらがなが連続する場合は、読みやすくするため読点(「、」)を打ちます(中点(「・」)を使うこともあります)

 

④ 逆接の関係や原因と結果の関係を述べる場合は、関係性を明確にするため読点(「、」)を打ちます

 

⑤ 接続詞の前又は後に、ケースバイケースで、読みやすいよう読点(「、」)を打ちます

 

■ 接続詞の直前が、名詞ではなく動詞の場合は、接続詞の前に読点を打ちます。

 

 

⑥ かぎ括弧の前後には読点(「、」)を打たなくてよいとされています

 

16. 財産の価格を表す数字

 

 改ざんの恐れがあるときは、漢数字(大字(だいじ))をおすすめします。 

 

17. 金○○○○万円の円の次の「也」 

 

 円の次に「也」という文字を付け加えるのは、円の次に「○○銭」と付け加えられて金額が偽造されるのを防ぐためでしたが、そのおそれがないときは不要です(なお、つけても問題ない) 。 


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