遺言執行者の任務と権限

注意事 項 民法改正により、改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされていたが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更された。(注:下記③)

 

民法改正(遺言執行者の権限の明確化等) 

① 遺言執行者を「相続人の代理とみなす」規定が削除され、遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、「相続人に対して直接その効力を生ずる」とされました。

民法第1015条(遺言執行者の行為の効果) 

遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。 

 

 遺言執行者は遺言者の意思を実現するため、場合によっては相続人の利益に反することを行う必要があることから、このような改正がなされたものです。  

② 遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる旨の判例の明確化がなされました。(共同相続人は遺贈の履行義務を負わない。) 

③ 遺産分割方法の指定がされた場合の対抗要件を備える行為も遺言執行者ができるとされました。

 「相続させる遺言」がされた場合には、遺言執行者は、原則として、単独で相続による権利の移転登記の申請をする権限を有します。(遺贈には適用されない。)

 また、預貯金の払戻しをする権限を有します(遺贈には適用されない)。なお、預貯金以外の金融商品は、遺言で権限を付与した場合を除き、適用されません。 

④ 復任権について「やむを得ない事由」が削除された。 

2019年(令和元年)7月1日施行。2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用されます。


  1.. 遺言執行者任務・義務と権限・権利

 

① 任務開始義務・相続人及び利害関係者への通知義務

 

民法第1007条(遺言執行者の任務の開始)

1.遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。 

2.遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

 

② 相続財産目録調製義務

 

 遺言執行者は、財産目録を作り、受遺者や相続人に交付します。

 

民法第1011条(相続財産の目録の作成)

1.遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。 

2.遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

 

民法第1014条

前三条(民法第1011条(相続財産の目録の作成)・民法第1012条(遺言執行者の権利義務)・民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止) の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。 

 

③ 委任に関する規定の準用

 

民法1012条(遺言執行者の権利義務)

1.遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2.遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。 

3.第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

 

第644条(善管注意義務)、第645条(報告義務)、第646条(受取物の引き渡し義務)、第647条(補償義務) 、第650条(費用償還請求権)

 

④ 検認の申し立て 

 

 遺言執行者は、遺言書を保管しているときは家庭裁判所に検認の申し立てを行います(公正証書遺言を除く)。 

 

⑤ 受遺者に対する意思確認 

民法第986条(遺贈の放棄)

1.受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。2.遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。 

 

⑥ 遺贈における遺言執行者の権限

 

ア、遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。(令和1年7月1日より前に発生した相続でも、同日)以後に遺言執行者となる者にも適用される。

イ、対抗要件の具備

 不動産(登記)、動産(引き渡し)、債権(遺贈義務者から債務者に対する通知、又は債務者の承諾)、地上権・賃借権(賃貸人の譲渡承諾の取得)

 

民法1012条(遺言執行者の権利義務)

1.遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2.遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。

3.第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。 

 

① 特定遺贈、「相続分の指定」(法定相続分をこえるもの)

 

民法1014条2項  

遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

 

(ⅰ)「不動産」 不動産は所有権移転登記手続き及び引き渡しを行います。所有権移転登記申請は、登記権利者(受遺者)と登記義務者(共同相続人又は遺言執行者)による共同申請となります。

 

□ 不動産相続登記手続きについて 

 民法改正前は、不動産相続登記手続きについては、遺言執行者からの申請は認められず、受遺者本人からの申請のみ可能であったが、改正民法施行(令和元年7月1日)後に発生した相続については、遺言執行者による登記申請が認められることとなった。

 

□ 清算型遺贈の場合の遺言の執行について 

 遺言執行者の管理処分権に基づき、遺産の一部または全部を処分して、受遺者に現金等を引き渡します。遺産が不動産の場合、遺言執行者は、いったん相続人名義への相続登記を単独申請し、ついで、相続人から買受人への所有権移転登記を買受人と共同申請します。

 

□ 遺言の不動産の特定が不完全な場合、又は遺言の不動産の表示が誤っている場合の遺言の執行について 

 受遺者を原告、遺言執行者を被告とする、遺贈の目的物であることの確認を求める民事訴訟によります。軽微な誤記は遺言執行者と受遺者の共同申請で登記登記申請が認められるばあいがあります。

 

□ 未登記不動産の遺言の執行について

 先ず、遺言執行者が「遺言者名義の保存登記」を申請し、その後、遺言執行者と受遺者とで「遺贈登記」を共同申請します。

 

□ 相続人が不存在の場合の遺言の執行について

 遺言執行者と受遺者とで遺贈登記を共同申請します。

 

□ 農地の遺贈の遺言執行について

 農地の「包括遺贈」が相続人又は相続人以外になされた場合は農業委員会の許可は不要です。

 農地の「特定遺贈」が法定相続人以外に行われた場合については、農業委員会の許可が必要です(遺言執行者は単独で申請することができます)。農業委員会の許可を停止条件とする停止条件付遺贈となります。登記には許可指令書(農業委員会の許可書)の添付が必要です。

 農地の「特定遺贈」が相続人に行われた場合については、平成24年に農地法施行規則が改正され、農業委員会の許可は不要となりました。  

 

 農地法3条の許可申請は、受遺者と相続人全員とで共同申請する必要があります(又は受遺者と遺言執行者とで申請する)。したがって、相続開始時に相続人の協力が得られないことが予想されるときは、あらかじめ遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。  

 

(ⅱ)動産  動産は、相続を受けるべき者又は受遺者に引き渡します。     

     「一定量の不特定物」の場合は、遺産の換金を行うなどして物件

      を調達し受遺者に引き渡します。

     「現金(手許現金以外)」の場合は、預金の払い戻し、又は遺産

      の換金を行うなどして、相続を受けるべき者又は受遺者に支払

      います。

(ⅲ)債権  債権は、債権を移転させる手続き。

       遺贈の目的物が「指名債権」のときは、債権者に対し通知を

      するか、債権者の承諾を得るかしなければなりません。

      「預貯金」の場合は、通帳その他証書の引き渡し。

       相続させる旨の遺言の対象が預貯金の場合は、遺言執行者

      は、払い戻しの請求、解約の申し入れをすることができます。

民法1014条(特定財産に関する遺言の執行)

2.遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

3.前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

4.前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 

民法8994条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)

1.相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

2.前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

      「手形」の場合は、裏書及び引き渡し。

      「株式」の場合は、引き渡し。株券不発行会社の場合は、株主

      名簿記載事項を株主名簿に記載することを請求。

      「一定量の有価証券」の場合は、遺産の換金を行うなどして調

       達し、受遺者に引き渡します。  

 

(ⅳ) 遺贈の目的物が「相続財産に属しない権利」の場合は、遺言の内容

   を実現するために必要な手続きをしなければなりません。

 

⑦ 相続財産の管理

 

 遺言執行者は、不動産の特定遺贈の移転登記と引渡を行います。不動産の名義変更は、基本的には遺言執行者ひとりでできます。 

 財産目録に記載された遺産の管理、処分その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。  

 

 相続による所有権移転の登記は相続人単独で申請することができますから、当該不動産の所有名義が被相続人名義である限り、遺言執行の余地はなく、遺言執行者には登記申請権限がないものと解されています。(出典:小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識 』日本加除出版.156頁)   

注意事 項 民法改正により、改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされていたが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更された。

 

⑧ 「認知する遺言」の場合

 就任後10日以内に戸籍届け出を行います。

 

⑨「相続人廃除」、「相続人廃除の取消」の遺言の場合

 家庭裁判所に申し立てを速やかに行います。審判手続きも遂行しなければならない。

 

⑩ 遺言執行者は必要に応じて訴えを提起し、または応訴することができます

 遺言無効確認訴訟の相手方や、遺産についてなされた誤った登記の抹消請求訴訟の原告になります。

 

⑪ 遺言執行者は報酬請求権、費用償還請求権などを有します 

 

2. 遺言執行者の復任権

 

   》 遺言執行者の復任の許可 をご覧ください。

 

3.  遺言で遺言執行者が指定されている場合の相続人の相続財産処分行為

 

 遺言で遺言執行者が指定されている場合、相続人は遺言執行者の遺言の執行を妨げる行為をすることができない。 

 違反行為の効果について、2018民法改正前は絶対的無効と考えられていた(大判昭和5.6.16、最判昭和62.4.23)が、令和1.7.1以降は、相続人による妨害行為は無効、ただし、前二の第三者に対抗できない、となった。

 

民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)

1 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

3 前2項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。 


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