□ 遺産分割の方法には、①相続人一人ひとりに、財産の形状や性質を変更することなく現物で物理的に分ける「現物分割」、②相続財産を未分割のまま売却し売却代金を分ける「換価分割」、③不動産の場合にみられますが、相続人の一人が取得し他の相続人には不足分を代償金として金銭で支払う「代償金分割」、④土地などを共有にして持ち分で分ける「共有」があります。
□ 遺産分割で不動産を共有にした場合、建て替えや持ち分の売却には相続人全員の合意が必要となります。また、その後の相続で共有者はどんどん増えてゆきます。代償金分割は土地建物等現物の取得希望者がいて共有で相続したくない場合に適しています。
現行では、遺留分減殺請求は、遺留分侵害の現物でしか返還を求めることができません。また、遺留分減殺請求によって遺贈が無効となり、共有関係が当然に生ずることとされていることから、不動産の場合、共有不動産にするしかありませんでした。これらによって事業継承に支障が出ることがありました。
民法改正(30.7.13公布)により、これを回避するため遺留分減殺請求によって生ずる権利は金銭債権とされ、現物ではなく金銭で支払うことができるようになります。事業承継の場合の自社株について、現物ではなく金銭で支払うことができるようになります。また、金銭をすぐに準備できないときは裁判所に支払いの猶予を求めることができます。(施行は令和元年7月1日)
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1. 現物分割
相続人一人ひとりに、形状を変えずに現物のまま、物理的に分配する方法です。たとえば、自宅及び現金は妻に、農地は長男にというふうに、一つひとつの財産について取得者を決めます。
現物分割が原則的な分割方法です。この方法はとても分かりやすい方法で、それぞれが欲しい財産があるや他人に渡したくない財産がある場合は、それぞれの相続分に応じうまく分けられれば最良の方法です。
しかしながら、財産の価値がそれぞれ異なるので相続分どおりに分けることが難しく、不公平が出てしまうという欠点があります。
なお、土地を分筆して分ける場合も現物分割です。
2. 代償金分割
代償金分割とは、全財産を相続人の一人が取得することにして、他の相続人には代償金として金銭を支払う方法です。(代償金の支払いは協議で分割払いにすることもできます)
代償金分割は、相続財産が居住する不動産や農地、あるいは事業用不動産の場合で、その取得希望者がいて共有で相続したくないときこの方法が適しています。 また、物理的に切り分けることによって価値が下がってしまう場合もこの方法を検討します。
代償金分割は柔軟な分割をすることができますが、現物の取得希望者がいて、その人に代償金を支払う資力があることが必要です。
(代償金を分割前の相続財産から支払うことはできません)
遺産分割前の相続財産から、承継債務として、代償金分割の代償金を支払うことはできません。
なお、代償金を支払う者が、遺産分割協議が有効に成立したあとに、遺産分割で取得した財産の中から支払うことは、代償金を相続財産からで支払う」ことにはなりません。
代償金分割では「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を使うことができません。代償金受領者側の譲渡所得税に注意が必要です。
3. 換価分割(価格分割)
換価分割(価格分割)は、相続財産を未分割のまま売却し、売却代金を分ける方法です。現物分割が困難であり、代償金分割もできない場合この方法によります。
この方法は公平に分けることができ、代償金を支払う資力の問題や相続税の納税資金の問題もありませんが、相続財産に住んでいる相続人がいる場合は新たに住まいを探さなければならないという問題があります。
その他、処分費用がかる、売却益に所得税が課せられたり、価格が変わってしまったり、買い手がつかないことがあるといった問題点があります。
4. 共有分割
不動産の所有権を共有にし、不動産の権利を持ち分で分ける方法で現物分割の一種です。
売却、改築、形状変更等の処分・変更行為は共有者全員の同意が必要です。(民法251条)
共有分割は、売却する場合や新しく建物を建てる場合は共有者全員の同意が必要となるので、のちのちトラブルになりやすく、注意が必要です。
自己の所有権である「持分の範囲」であれば、自らの持分を自由に譲渡、処分することができます。また、自らの持分を他の共有者または第三者に売却することも自由です。
持ち分を超えた短期の賃貸借契約などの管理行為は、持ち分の過半数で決定します。(民法252条)
共有物への第三者の不法行為に対し交渉することや提訴することなど保存行為は単独でできます。(民法252条但し書き)
住宅は相続人全員で合意すれば、相続登記をすることなくそのまま住み続けることができます。ただし、相続登記が済んでいないと売却手続きはできません。
5. 共有分割の問題点と対策
(1)住宅共有分割の問題点
住宅を複数の相続人の共有名義にすると、税金の負担に関して、あるいは住宅を補修するときや売却するときにトラブルになりやすいので注意が必要です。
(2)土地共有分割の問題点
売却する場合や新しく建物を建てる場合は共有者全員の同意が必要となります。相続により共有者が増えることがあります。
(3)土地共有を解消する方法
①持ち分割合で分筆する、②他の共有者等に売却する、③共有の土地が複数ある場合は共有持ち分を交換する。
遺産分割で不動産を共有にした場合、建て替えや持ち分の売却には相続人全員の合意が必要となります。また、その後の相続で共有者はどんどん増えてゆきます。
①すぐ売却する予定がある場合、②居住用の土地に適用される相続税の特例の要件を満たすため、配偶者と子が共有で相続する場合などを除き、たとえ多少不平等になっても避けるのが無難です。
6. 遺産分割は一度に全部しなければならないのか
遺産分割は一度に全部するのが原則です。ただし、相続人全員が合意すれば一部を先に分割することもできます。預貯金など遺産が相続人の生活に欠かせない場合や、一部の遺産を先に売却し債務の支払いに充てなければならないといった事情のある場合は、先に分割できます。