□ 法定後見制度は、既に判断能力が低下している方が対象です。法定後見は、本人の状態によって、後見、保佐、補助の三段階があります。「後見」は、自分では買い物もできない程度の人が対象です。
□ 親族等の申し立てにより、家庭裁判所が後見開始の審判を行い、後見人を選任をします。通常、審判がおりるまでに約2か月から6か月かかる、という問題点があります。
□ 法定後見では親族が自ら後見人になりたいと望んでも、本人に預貯金が1,200万円以上あると弁護士等が後見人に選任されるか、弁護士等が後見監督人としてつけられることが多いと言われています。
1. 法定後見の種類
法定後見制度は、既に判断能力が低下している方が対象です。本人の状態によって、後見、保佐、補助の三段階に分かれます。
配偶者や親族等の申し立て(*)により、家庭裁判所が後見開始の審判を行い、後見人を選任し、後見が始まります。
家庭裁判所は、精神科の医師の診断に基づく本人の判断能力の状態により、後見、保佐、補助の三段階のどれにするか判断します。
*申し立てできる人は、本人、配偶者、4親等内の親族、検察官、市町村長などです。
(1) 後見
「後見」は、判断能力がなく、一人では買い物もできない程度の人が対象です。
(後見人の仕事)
後見人は、就任後財産の調査を行い、一か月以内に財産目録を作成しなければなりません。
後見人は、ほぼすべての財産上の行為についてハンコを押すなどして代理します。
本人のした行為は無条件で取り消しができます。後見人が事前に同意を与えていたとしても取り消しができます。(この点、「保佐」「補助」と異なります)。ただし、食料品の購入など日常生活に関する行為については取り消すことはできません。
(2) 保佐
「保佐」は、判断能力が著しく不十分で、日常の買い物程度はできるものの、重要な契約などはサポートが必要な人が対象です。
(保佐人の仕事)
借金、保証、不動産売却、遺産分割など重要な財産上の行為や、家庭裁判所が決めた特定の取引など、重要な行為をするには保佐人の同意のハンコが必要です。保佐人の同意のない行為は取り消しができます。
また、必要に応じ、保佐人に代理権を付与することができます。
(3) 補助
「補助」は、判断能力が不十分な人が対象で、日常生活は自分でできるが、不動産や車の売買など重要な行為を一人でするには不安が残る程度の人が対象です。
補助人は、家庭裁判所が決めた特定の取引について同意、代理します。また、同意のない行為の取り消しができます。
2. 後見人・保佐人・補助人
後見人・保佐人・補助人は家庭裁判所が選任します。後見人・保佐人・補助人に資格は不要です。
家族がなるのが一般的ですが、近くに家族がいない場合や、家族はいるが多額の借金を抱えている場合、親族間でトラブルがある場合、現金で1千万円の財産がある場合は専門職が選任されることがあります。
法定後見制度は信頼できる人が後見人に選任される保証はありません。任意後見制度では、原則として、あなたが決めた人が任意後見人になります。
相続人のうちのひとりが保佐人あるいは補助人になっている場合、遺産分割では同意や代理はできません。家庭裁判所に保佐監督人、臨時保佐人等を選任してもらうことになります。
3. 法定後見で後見人にやってもらうこと
後見人は、財産の維持管理、「療養・看護、介護、生活面に必要な手配」をする権限と義務があります。
(1)財産の維持管理に関すること
全面的な財産管理権、代理権を持ちます。日常生活に関する行為を除き本人のしたすべての行為を取り消すことができます。
① 印鑑、預貯金通帳・カードの保管管理
※ 出し入れが頻繁な預貯金については、名義を「成年被後見人〇〇〇〇後見人〇〇〇〇」に変更します。
② 年金、保険金などの収入の受取りと保管管理
③ 現金、有価証券(株式等)の保管管理
④ 金融機関での預け入れ、引き出し、振り込み
⑤ 税金や電気、ガス、水道代等公共料金の支払い、家賃、施設利用料、入院費などの支払い、ローンやクレジットの返済
⑥ 生活資金捻出のための自宅等不動産など重要な財産の維持・管理及び処分(売買、賃貸借契約の締結・解除)
後見人が土地・建物の売却などの処分をするには、家庭裁判所の許可が必要です。
⑦ 遺産相続における遺産分割協議への参加
(2)「介護、療養・看護、生活面」の手配に関すること
① 「介護、医療、リハビリ」の手配に関すること
要介護認定の申請手続きなど、介護保険を含む福祉サービスの受給・変更手続き。
介護施設への入所の手配や契約手続き。介護サービス費用の支払い、介護保険のケアマネージャーとケアプランを作成するなど。
入院手続きや入院中、退院時の手続き、入院費用の支払いなど医療関連の手続きや費用の支払い。
② 住居の確保に関すること
③ 生活維持に関すること
本人の心身の状態、生活の状況に応じ、配慮する義務があります。
介護、看護、掃除など実際の労働は後見人の仕事ではありません。必要な場合は、介護保険制度を利用しヘルパーさんなどにやって頂くか、民間の制度を使って家事代行や介護のサービスを手配する必要があります。
手術の同意書へのサインは、重大な医療行為にかかわる同意であり、現状では、後見人は同意することはできないとされています。
4. 法定後見の手続きの流れ
手順 審判開始の申し立て
家庭裁判所に後見等審判開始の申し立てをします(家庭裁判所に「申立の手引きがあります)。
□ 提出書類
「後見開始申立書」と添付書類 ①申し立て事情説明書 ②後見人等候補者事情説明書 ③財産目録 ④親族関係図など
※ 用紙は家庭裁判所にあります。
■ (本人の) ①戸籍謄本 ②戸籍の附票 ③本人に成年後見等に関する登記がされていないことを証明する登記事項証明書 ④診断書(通常かかりつけ医に記載してもらいます。2週間程度かかります)
■ (申立人の) 戸籍謄本
■ (後見人候補者の) ①戸籍謄本 ②住民票 ③身分証明書 ④成年後見登記についての登記事項証明書
□ 申立手数料(収入印紙800円分)、登記手数料(収入印紙2,600円分)、連絡用の郵便切手
手順 即日事情聴取
家庭裁判所で申立人、成年後見人候補者等の事実関係の確認、成年後見人候補者等の判断を行います
医師による精神鑑定が行われます。(鑑定費用は5~10万円)
手順 親族等の意向照会
家庭裁判所から、親族あてに、申し立て内容や成年後見人候補者を書面で伝え、確認します。
可能な場合は、家庭裁判所から、本人の意向を確認します。
手順 審理・審判書謄本の送付
家庭裁判所は、鑑定、親族への意向照会、本人調査の結果から検討判断し、その審判内容を申立人と成年後見人等に送ります。
手順 後見開始
二週間経過すると審判が確定し、法定後見が開始されます。
成年後見人は登記事項証明書を取得して各種手続きに使用します。
4. 後見監督人
財産が多い場合(預貯金が1,200万円以上)は、家庭裁判所が専門家(弁護士・司法書士が多い)の「後見監督人」を選任し、後見人をチェックします。実務としては、監督というより、後見人に指導・助言することが主な任務です。
後見監督人には、本人の財産の中から報酬を払います。額は家庭裁判所が決めます。
5. 法定後見が開始後の任意後見契約
法定後見が開始している者であっても、法定後見人の同意又は代理によって、任意後見契約を締結することができます。