行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士・渡邉文雄
1. 諾成契約(売買契約等)
売買契約では、「売ります。」と「買います。」という、意思表示の合致のみで契約が成立し、金銭の授受は契約の成立要件とされていません。
このように、金銭の授受を契約の成立要件とせず、意思表示の合致のみで契約が成立するものを諾成契約と言います。
2. 要物契約(金銭消費貸借契約等)
金銭消費貸借契約では、「○○万円貸します。」と「○○万円を借ります。」という意思表示の合致だけでなく、実際に金銭の授受がなされることを契約の成立要件としています。
このように、意思表示の合致と合わせて、金銭の授受を契約の成立要件としているものを要物契約といいます。
なお、要物契約である金銭消費貸借契約は、契約の前に、貸主が借主に金銭を交付する必要があります。
3. 諾成的消費貸借契約
平成29年の債権法改正で民法587条の2が新設され、諾成的消費貸借契約が明文で定められました。これにより、金銭の授受がなくても、金銭消費貸借契約を締結することが可能となりました。
ただし、諾成的消費貸借契約は、書面で行わなければなりませんので注意が必要です(民法587条の2第1項)。
民法587条の2(書面でする消費貸借等)
1. 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
2. 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。
3. 書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。
4. 消費貸借がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その消費貸借は、書面によってされたものとみなして、 前三項の規定を適用する。
4. 使用貸借契約、寄託契約及び代物弁済契約は諾成契約に変更された
平成29年の債権法改正前は、使用貸借契約、寄託契約、代物弁済契約も要物契約とされていましたが、同改正により、これらも諾成契約に変更されました。
5. 金銭消費貸借契約を公正証書で作成する
金銭消費貸借契約は、貸主は事前に借主に金銭を交付していることが必要です。公正証書で作成する際は、公証人がそれを確認することができるよう、振込書や通帳を持参するとよいでしょう。
なお、公正証書を作成する席上において、公証人の面前で金銭が授受されることもあるようです。
6. 諾成的金銭消費貸借契約を公正証書で作成した場合、借主が返済しない場合は公正証書で強制執行ができるか
諾成的金銭消費貸借公正証書は金銭の授受がない段階での契約であることから、その公正証書によって強制執行することはできないというのが執行実務の扱いです。
7. 諾成的金銭消費貸借契約を公正証書で作成後に金銭の授受が行われた場合は、借主が返済しないときは公正証書で強制執行ができるか
諾成的金銭消費貸借契約公正証書を作成後に、貸主から借主に金銭が交付された場合は、貸主は、貸し付けたという事実を証明して、事実到来の執行文(民事執行法27条1項)を付与して強制執行をするという考えがあります。
民事執行法27条
1. 請求が債権者の証明すべき事実の到来に係る場合においては、執行文は、債権者がその事実の到来したことを証する文書を提出したときに限り、付与することができる。
しかし、その場合でも、諾成的金銭消費貸借契約がのちの金銭の授受によって要物契約である金銭消費貸借契約に変わるわけではないという考えから、諾成的金銭消費貸借公正証書に基づく強制執行はできないというのが執行実務の解釈のようです。
8. 諾成的金銭消費貸借契約公正証書を強制執行可能な公正証書にしたい
強制執行が可能な公正証書を作成したいというのであれば、金銭の授受があったのち、もう一度、金銭消費貸借公正証書作成する必要があります。
(出典:日本行政書士会連合会『 月刊日本行政(2023.8)№.609』.39−40)
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