遺贈は個々の物件ごとに受け取る(承認)又は、受け取らない(放棄)の選択ができます(民法986条1項)が、「特定財産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)」は相続財産一括で判断することになります。又、受け取りを拒否する場合は相続放棄の手続きが必要です(民法915条、938条)。
民法986条(遺贈の放棄)
1.受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
2.遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
民法915条(相続の承認又は放棄をすべき期間)
1.相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3箇月以内に、相続について、単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。ただし、この期間は、利害関係人又は検察官の請求によって、家庭裁判所において伸長することができる。
2.相続人は、相続の承認又は放棄をする前に、相続財産の調査をすることができる。
民法938条(相続の放棄の方式)
相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1. 遺贈と「特定財産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)」とでは、受け取る(承認)・受け取らない(放棄・辞退)の方法が違います
(1)特定遺贈の放棄・辞退
「特定遺贈の放棄」は個々の物件ごとに受け取る(承認)又は、受け取らない(放棄)の選択ができ(民法986条1項)、遺言者の死亡後、いつでもすることができ、受遺者から、他の相続人や、遺言執行者に通知するだけです。
受遺者が遺贈を放棄したときは、遺贈は相続財産に帰属します。
なお、他の相続人や遺言執行者等の遺贈義務者、その他の利害関係者は、受遺者に対して、「遺贈を承認するか放棄するか」相当の期間を定めて督促することができます。
(2)「特定財産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)」による相続の放棄・辞退
「特定財産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)」による相続を受ける(承認)か、受けない(放棄)かの選択は、個々の物件ごとにではなく、一括で判断することになります。
「特定財産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)」による相続を受けない(放棄)する場合は、「相続放棄」をすることが必要です。(遺言による相続があったことを知ったときから3ヵ月以内に家庭裁判所に申述書を提出する。)
(3)包括遺贈を放棄・辞退 (参考)
包括遺贈の放棄は相続放棄と同じ手続きが必要です。
包括受遺者が包括遺贈を放棄した場合は、その遺贈分は相続人に帰属します。なお、他に、包括受遺者がいても包括受遺者には帰属しません。
2. 「特定遺贈」と「特定財産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)」法的効力の違い
(1)遺贈
遺言で特定の財産の全部又は一部を贈与することを遺贈と言います。
遺贈は物権的効力を有し、目的物が遺言者の所有に係る特定物である場合は、その所有権は相続開始(遺言者の死亡)と同時に直接受遺者に移転します。ただし、不動産の場合、登記をしなければ、債権者など第三者に対しては、所有権取得を主張できません。たとえば、登記をしない間に債権者など第三者がその不動産を差し押さえた場合は権利取得を第三者に主張できません(法定相続人は、法定相続分については主張できます)。
(2)特定の財産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)
遺言で特定の財産の全部又は一部を贈与する場合、共同相続人の一人(又は数人)への贈与については「相続させる」と書くことがあります。「相続させる」と書く意味は、遺言の効力発生時(通常は相続開始時)に、遺産分割協議(又は家庭裁判所の審判)を経ずに、特定の財産を特定の相続人に承継させることにあります。
不動産を相続させる旨の遺言は、登記をしなくても債権者など第三者に対し権利取得を主張できますが、2018民法改正により、法定相続分を超える部分については登記をしなければ権利取得を第三者に主張できないこととなりました(※))。
※ 不動産登記関係に関し、2018民法改正前は、相続させる旨の遺言による不動産の遺贈については、法定相続分を超える部分についても登記をしなくても第三者に対抗できるとされていたが、改正後は、法定相続分を超える部分については登記をしなければ第三者に対抗できないこととなった。
(参考) 債権の承継に伴う対抗要件の具備
2018相続法改正で、遺言で法定相続分を超えて債権を承継した相続人が、その遺言の内容を明らかにして(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)、債務者に「承継の通知」をすることで、対抗要件を備えたことになるとされた。
3. 相続人でない者に「特定の財産を相続させる」と書いた遺言の効力
遺言で相続人でない者に「特定の財産を相続させる」と書いた場合は、相続の効力は生じませんが遺贈の効力が生じます。(平成3年最判)。
4. 「特定の財産を相続させる」旨の遺言と遺贈、登記申請方法の違い
「特定の財産を相続させる」旨の遺言の場合、不動産所有権移転登記申請は、受遺者である相続人単独でできます。(遺言執行者を指定している場合は、遺言執行者が単独で申請できる(※1))。
(※1)2018民法改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされ、受遺者本人からの申請のみ可能であったが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更された。
民法1014条2項
遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。
一方、遺贈の場合は、受遺者単独で行うことはできず、受遺者と相続人全員とで共同申請する必要があります。
なお、共同申請は受遺者と相続人全員の署名・捺印と印鑑証明書が必要です。(遺言執行者を指定している場合は、遺言執行者のみが申請できます(※2))。
(※2)遺贈の履行は、遺言執行者がある場合には、遺言執行者のみが行うことができる。(令和1年7月1日より前に発生した相続でも、同日以後に遺言執行者となる者にも適用される。)
民法1012条(遺言執行者の権利義務)
1. 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
2. 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。
3. 第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。
5. 遺贈と特定財産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)、債務の承継の違い
特定財産を相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)は債務(消極財産、借金)も承継します。一方、遺贈は債務は承継しません。ただし、包括遺贈の場合は債務を承継します。
6. 賃借権の遺贈と賃借権を「相続させる」旨の遺言について、「賃貸人の同意が必要かどうか」の違い
(1) 賃借権を「相続させる」旨の遺言
法定相続人に対し賃借権を「相続させる」旨の遺言は、「譲渡」ではなく「相続」であり、相手方の同意は不要です。
なお、土地・建物を借りていた場合、賃借人が死亡した場合でも賃貸借契約が当然に終了するわけではありません。賃借権(賃借人としての権利)も相続の対象となります。
(2) 賃借権の遺贈
賃借権を譲渡する場合には、賃貸人の同意が必要なため、賃借権を遺贈されたときは、賃貸人の同意を得る必要があります。
(3) 借家権の相続
一般法上の借家権は財産権として相続されます。特別法上のものは、その法規に従って決まります(借地借家36条等)。
公営住宅の入居者が死亡した場合、その相続人は、その使用権を当然に承継するものではないとされています(最判平2.10.18)。
7. 農地の遺贈と農地を「相続させる」旨の遺言、「農地法上の許可が必要かどうか」の違い
農地法3条は、農地について所有権を移転する場合には、農業委員会の許可を受けなければならないことを定めています。ただし、相続人が相続する場合及び相続人以外が「包括遺贈」を受遺した場合は農業委員会の許可は不要です。
また、農地の「特定遺贈」が法定相続人に行われた場合についても、平成24年に農地法施行規則が改正され、農業委員会の許可は不要となりました。
農地の「特定遺贈」が法定相続人以外に行われた場合については、農業委員会の許可を停止条件とする停止条件付遺贈となり、農業委員会の許可が必要です。登記には許可指令書(農業委員会の許可書)の添付が必要です。 (遺言執行者は農業委員会の許可を単独で申請することができます)。
農地法3条の許可申請は、受遺者と相続人全員とで共同申請する必要があります。(又は受遺者と遺言執行者とで申請します)。
したがって、相続開始時に相続人の協力が得られないことが予想されるときは、あらかじめ遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。
8. 遺贈と相続、登録免許税、相続税の違い
(1)登録免許税
平成15年から、相続と遺贈との登録免許税の差はなくなっています。
(2)相続税
相続税については、孫、息子の嫁、友人など相続人以外であっても、贈与税ではなく相続税が課税されます。 ただし、2割加算になります。
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