遺言信託(遺言による信託)について。

□ 遺言信託により、遺言で遺言者の希望する遺産分配をしたうえで、遺産の受取人が抱える事情に応じた財産管理の仕組みを設定することができます。 

□ 遺言信託(遺言による信託)で「後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託」を設定することができます。後継ぎ遺贈型受益者連続信託の場合は、数次にわたる資産承継の指定をすることで、親族間に紛争を起こす恐れがあります。

1. 遺言信託(遺言による信託)とは

 

  信託法(信託法3条2号)上の「遺言信託」とは、遺言により信託を設定することによって、相続開始時に受託者に相続財産を移転し、受益者(信託された財産から利益を受ける者)の為に管理・処分させようとするものであり、遺産の承継方法の一つです。

 

2.「遺言信託」はどのような場合に用いられているか

 

  遺言信託は、遺言者の亡き後にのこされた、自分だけでは財産管理できない遺族等の財産管理や生活保障の仕組みとして活用されます(成年後見制度と併用すると効果的です)。

  遺言信託により、たとえば、財産管理が困難な配偶者や未成年の子等を受益者として、遺言者の死後、受託者(親族等)に財産を移転し管理してもらい、受託者から受益者に定期的に生活費を支給してもらったり、介護や療養等の費用を支払ってもらうことや、未成年の子の生活・教育・医療等に係る費用を支払ってもらうことが考えられます。 

 その他、遺言者の死後、遺言者の孫に大学入学から卒業まで、例えば、毎年150万円を支給してもらうということもできます。   

 

信託法第3条 (信託の方法)

信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。

一  (略)

二  特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法 

三  (略)

 

  金融機関が行う、いわゆる「遺言信託」とは異なりますのでご注意ください。金融機関が行ういわゆる「遺言信託」とは、金融機関が遺言書の作成、保管、執行の一連の手続きについてサポートするサービスのことです。

 

2.     遺言信託の効力の発生 

 

  遺言による信託の効力は遺言者の死亡により発生します(信託法第4条第2項)。

  ただし、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる(信託法第4条第4項)。

 

信託法第4条 (信託の効力の発生)

前条第1号に掲げる方法によってされる信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。

2 前条第2号に掲げる方法によってされる信託は、当該遺言の効力の発生によってその効力を生ずる。

3 前条第3号に掲げる方法によってされる信託は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものによってその効力を生ずる。

一 公正証書又は公証人の認証を受けた書面若しくは電磁的記録(以下この号及び次号において「公正証書等」と総称する。)によってされる場合 当該公正証書等の作成

二 公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合 受益者となるべき者として指定された第三者(当該第三者が2人以上ある場合にあっては、その1人)に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨及びその内容の通知

4 前三項の規定にかかわらず、信託は、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる。

 

3.     遺言による信託の設定の方法

 

  遺言による信託の設定は、遺言で、信頼できる人(又は法人)に対して、遺言者の遺産を遺言者が定める目的にしたがって管理、給付あるいは処分等を行うよう定めます。 

  受託予定者については、承諾の意思を確認しておく必要があります。 

 

 

  遺言信託は公正証書遺言により作成することをお勧めしますが、自筆証書遺言で作成することも可能です。

 

 

3. 遺言信託条項(例) 

 

  遺言信託(遺言による信託)は、遺言に、「信託を設定する旨」と以下に掲げる「信託の内容」を書きます。契約による信託(信託契約)と同じです。

 

(1)信託の目的 (必須)

 

  信託の目的は、信託財産の管理・運用方法、受益者に与える利益の内容等の基本的な基準となるものです。 

 

(例)「妻に生活資金を支払うこと」、「子供に学費を支給すること」 

 

(2)受益者(お世話をしてもらう人等) (必須)

 

  受益者としては、認知症になった配偶者、未成年の子、後妻、内縁の妻などが考えられます。受益者は特定されている必要があります。

 

(3)信託財産(預ける財産) (必須)

 

  信託財産(預ける財産)としては、不動産、金融資産などがあります。預貯金の場合は払戻して受託者名義の口座(信託専用・信託口)に預け入れます。

  信託財産(預ける財産)は、遺言者の死亡時には確定されていなければならず、かつ、積極財産でなければなりません。

 

 (例)不動産、現金、株式

 

(4)受託者(受益者のお世話をお願いする相手)と受託者への指示

 

  受託者には、自分の子どもや兄弟姉妹、甥・姪など、親族の中から堅実で信頼できる人を選任することをおすすめします(第三者(※に依頼することもできます)

 

 ・受託者を一人ではなく複数人選任することも可能です。

 ・受託者は、信託事務の処理を第三者に委託することもできます。

 ・遺言作成前に受託者と信託内容について話し合い、確認しておく必要があります。 

 

※信託業法では「信託の引き受けを業として行う者は、免許を受けた信託会社でなければならない」旨の定めがあります。 

 

  遺言により受託者を指定しても拒絶することもあり得ます。拒絶した場合、利害関係人の申立によって裁判所が受託者を選任することになります(信託法6条1項)。 

 

(5)第二受託者(受託者が死亡した場合の後継受託者)

 

   受託者が死亡した後、新たな受託者がいない状態が一年間続くと信託は終了します。 ただし、第二受託者が定められている場合は、その第二受託者が信託事務を行います。 

 

(6)受益者に対する給付とその時期

 

(7) 受益者代理人

 

   受益者代理人を指定しておくことにより、受益者が認知症などで適切な意思決定や受託者の監督ができない場合に対応することができます。

 

(8) 同意権者

 

  受託者による信託財産の管理・処分等についての同意をする者を指定しておくことができます。  

 

(9)信託監督人  

 

  受益者が年少者・高齢者等の場合、受益者に代わって受託者を監督するために信託監督人を指定することができます。  

 

(10) 信託財産の管理・運用方法   

 

(11) 信託の登記  

 

  登記をしなければその権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記をしないと、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができません(信託法14条)。

 

(12) 信託事務の処理の委託、信託事務処理代行者

 

  信託行為に信託事務の処理を第三者に委託する旨又は委託することができる旨の定めをしておくことにより、信託事務の処理を信託事務処理代行者に委託することができます(信託法28条)。

 

(13) 信託費用の負担 

 

(14) 信託報酬  

 

  受託者は信託契約で規定された場合は、信託財産から報酬を受けることができます(信託法54条1項)。 

 

(15) 信託の終了、残余財産の帰属権者 

 

  信託終了(清算終了)時の残余財産の帰属すべき者の定め方は次の二通りの方法があります。

 

① 「残余財産受益者(残余財産の給付を内容とする受益債権に係る受益者)として指定された者」を残余財産の帰属権者とする方法 

 

② 「残余財産帰属権利者(残余財産の帰属すべき者)として指定された者」を残余財産の帰属権者とする方法

 

※ 「残余財産受益者」と「残余財産帰属権利者」の違い

 

  残余財産受益者は、その受益債権の内容が残余財産の給付である点を除けば、通常の受益者と異なるところはなく、信託終了前から受益者としての権利を有する。

  一方、残余財産帰属権利者は受益者ではなく、信託の清算中のみ受益者とみなされる(信託法183条1項、6項)  

 

(16)遺言執行者 

 

  遺言信託(遺言による信託)は、契約による信託(信託契約)と異なり、受託者の事前同意は必要とされていません。また、遺言信託(遺言による信託)によって受託者に指名された者は、就任を拒否することが認められています。

 

  遺言執行者は、遺言信託(遺言による信託)により受託者に指定された者に対して、信託の引き受けをするかどうか確答すべき旨を催告することができます。 

  受託者が就任を拒否した場合は、申立てにより裁判所が受託者を選任します。

  信託開始後、受託者の就任拒否によるトラブルを防ぐため了承を得ておくことをお勧めします。

 

4. 遺言信託(遺言による信託)の効果

 

~信託財産の名義は受託者に変更される~

 

 

   ただし、信託財産は受託者の固有財産と一緒になるわけではありません。信託財産の管理は受託者が行いますが、受託者の固有財産からは独立し管理運営されます。   

 

 

5. 信託と遺留分

 

  遺言信託(遺言による信託)で遺留分を侵害した場合、遺留分侵害額請求権が発生します。遺留分を侵害する「遺言信託」の設定は、遺留分侵害額請求の対象になります。

 

6. 信託と成年後見

 

  介護施設との各種契約や医療契約等は、後見制度で対応する必要があります。成年後見制度と併用の場合は信託受託者と成年後見人との連携が必要です。

 

7. 遺言信託利用上の注意点

 

(1)受託者として指定する者に対して引き受ける意思を確認する

 

  受託者として指定された者就任を引き受ける義務はありません。事前に、遺言で受託者として指定する者に対して引き受ける意思を確認しておく必要があります。

 

(2)信託報酬について

 

  受託者に親族以外の第三者を指定する場合は、「信託報酬」を支払うことは信託業法に抵触する恐れがあります。

 

(3) 委託者の地位の相続

 

  相続人は、信託行為に別段の定めがない限り、委託者の地位を相続により承継しません(信託法第147条)。  

 

(4)贈与税、相続税

 

  相続であれば相続税は課税されないケースであっても、遺言信託の場合は信託の受益者を誰にするかにより贈与税が課税されることがあります。 

  後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用した数次受益者の設定は、その都度相続税の課税対象となります。

 

(5)遺言信託(遺言による信託)は公正証書遺言が望ましい

 

  遺言信託(遺言による信託)は公正証書で作成しなければならないと定められているわけだはありませんが、信託は不動産や預貯金等の多額の財産を信託財産に組み入れ、死亡後の資産承継を長期的なスパンで実行していくことから、家族や親族間でトラブルになることもあり得ます。偽造や改ざんの恐れのない公正証書で作成することをおすすめします。また、財産管理や受益者の生活支援等は、被相続人の死亡後すみやかに開始する必要があることからも、検認の必要がない公正証書遺言が望ましいと考えます。 

 

8. 後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託

 

  遺言信託(遺言による信託)で後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託を設定することができるようになりました。(信託法第3③)

   後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託により、後継ぎ遺贈と同じ効果が期待できます。

  後継ぎ遺贈による紛議の余地をなくしたい場合は、遺言信託(遺言による信託)で、「後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託」を設定することおすすめします。。  

 

□ 詳しくは、》》後継遺贈型信託(受益者連続型信託)をご覧ください。 

 

9. 遺言信託(遺言による信託)と負担付遺贈の違い

 

  遺言信託(遺言による信託)は、受益者等は、受託者の任務違反行為に対して、差し止め請求解任をすることができます。  

  一方、「負担付遺贈」は、受遺者が義務を果たさないときは、他の相続人は、期限を定めて履行の催告をしたうえで、裁判所にその負担付遺贈にかかる遺言の取り消しを求めることができます。取り消された場合、対象財産は相続人に帰属します。

 

 

 


ポイ ント参考 

□ 信託銀行の財産承継信託

・ 信託銀行の財産承継信託は、信託銀行が財産の管理運用を受託し、被相続人の死後、残された相続人等が安定した生活がおくることができるよう信託財産を管理運用し、収益を受益者に計画的に配分する制度です。

 信託銀行の財産承継信託は財産の多い方の利用が多い制度と言われています。

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