農地を非農業従事者に遺贈する遺言の書き方

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

似顔絵

1. 農地の遺贈については農業委員会の許可が必要です。ただし、下記の受遺者については、農地法3条1項16号、農地法施行規則15条により許可は不要です。

 

(1)法定相続人:法定相続人は被相続人の地位を引き継ぐので許可は不要です。

(2)包括受遺者:法定相続人以外の者に対する包括遺贈については、受遺者は相続人と同じく被相続人の地位を引き継ぐので許可は不要です。

 

  ただし、(1)(2)いずれについても、相続開始後、農業委員会に届出をする必要があります。

 

2. 特定遺贈と包括遺贈

 

 (1)特定遺贈:遺産のうちの特定の財産を遺贈すること。

 

(特定遺贈の遺言文例)

  下記の土地建物は、妻○○○○(生年月日)に遺贈する。

           (下記省略)

 

(2)包括遺贈:遺産全体(消極財産を含む。)に占める遺贈の割合を示し、その割合によって遺贈すること

 

(包括遺贈の遺言文例 )

  一切の財産を、妻○○○○(生年月日)、甥○○○○(生年月日、住所)に各2分の1の割合で遺贈する。 

 

 

3. 「包括遺贈」 の遺言

 

(遺言文例)

  遺言者の有する全ての財産を、妻〇〇〇〇(生年月日)、長男〇〇〇〇(生年月日)、甥〇〇〇〇(生年月日、住所)に各3分の1の割合で包括遺贈する。  

 

  この方法は、相続開始後の遺産分割の協議により、非農業従事者(例、甥〇〇〇〇)が農地を取得するもので、遺言で農地を取得させるものではありません。

  相続開始後、受遺者及び法定相続人全員の合意で、「農地は非農業従事者(例、甥〇〇〇〇)が取得する。」趣旨の遺産分割協議書を作成することによって、農地を非農業従事者(例、甥〇〇〇〇)に所有権移転登記することができます。

 

注意:農地を取得するのは、受遺者及び法定相続人全員の合意によるものであることから、農地を取得できる保証はありません。  

 

  また、相続開始時に法定相続人全員が亡くなっている場合は、遺産分割協議ができないことから、この遺言で農地を取得することはできないとされています。 

 

4. 「包括遺贈」と「遺産分割方法の指定」を組み合わせる遺言 

 

 (遺言文例)

1. 遺言者の有する全ての財産を、妻〇〇〇〇、甥〇〇〇〇(生年月日、住所)に各2分の1の割合で包括遺贈する。

2. 遺産分割協議において次により分割するよう、分割の方法を指定する。           

 

  下記の農地は、甥〇〇〇〇が取得する。

      (下記省略)

 

  「包括遺贈」と「遺産分割方法の指定」を組み合わせる遺言によって、相続開始後、相続人全員(包括受遺者を含む。)の合意で遺産分割協議書を作成すれば、確実に、農地を非農業従事者に所有権移転登記することができます。 

 

「割合的包括遺贈をした遺言者の意思は、受遺者に対し、財産全体からその指定した割合による価値相当額を取得させることを企図し」(出典:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.145頁)) ているだけであり、農地を確実に遺贈する為には、当該農地について「遺産分割方法の指定」をすることが効果的です。

 

注意:相続開始時に法定相続人全員が亡くなっている場合は、遺産分割協議ができないことから、この遺言で非農業従事者(例、甥〇〇〇〇)は農地を取得することはできないとされています。

 

(遺産分割方法の指定)

 

  遺産分割の方法の指定とは、法定相続人(包括受遺者を含む)に対し、相続開始後、遺産分割協議においては、指定した方法で遺産分割するよう、遺言で分割の方法を指定することを言います。

 

(遺言文例)

  妻○○○○(生年月日)に、下記の土地建物を取得させる。

        (下記省略)

 

民法908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)  

1.被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から5年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。

 

(遺産分割方法指定の効果)

 

遺産分割方法の指定があると、その趣旨は遺産分割の協議・・・を通じて可能な限り尊重されなければならない。(出典:日本公証人連合会(2017)『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』立花書房.79頁) 

 

5.   特定遺贈と包括遺贈の併存による遺言 

 

(遺言文例)

1.     下記の土地(農地)は、甥〇〇〇〇(生年月日、住所)に包括遺贈する。

           (下記省略) 

2.     上記「1」の財産を除く、遺言者の有する全ての財産を、妻〇〇〇〇、甥〇〇〇〇(生年月日、住所)に各2分の1の割合で包括遺贈する。

 

 

 (特定遺贈と包括遺贈の併存)

 

  特定遺贈とその特定遺贈を除く包括遺贈の組み合わせによる遺言についても、相続全体としてとらえれば、特定遺贈も遺産全体に占める遺贈の割合を示していることから包括遺贈とみなすことができると考えられています。(下記のイメージ図参照)

 

包括遺贈と特定遺贈の併存については、消極説もあるが、通説は併存を認めている(例えば、新版注釈民法(28)[補訂版]219頁〈阿部徹〉は、「特定遺贈がされている場合は、包括受遺者も特定受贈者対する遺贈義務者となる」としており、これは、包括遺贈と特定遺贈が併存し得ることを前提としている。)。この点に関する詳細については、公証101号286頁以下を参照されたい。

(出典:日本公証人連合会(2017)『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』立花書房.69頁) 

 

  また、例えば、NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版146頁は、「特定遺贈がされている場合は、包括受遺者も特定受贈者対する遺贈義務者となる」としており、これは、包括遺贈と特定遺贈が併存し得ることを前提としている。   

 

(包括遺贈の趣旨である場合、明確に「包括して遺贈する」と記載すべきである )

 

  包括遺贈の遺言は、「包括して遺贈する」又は「包括遺贈する」と明記すべきとされています。

 

単に「一切の財産を〇〇〇〇に遺贈する」では、積極財産、消極財産を包括して承継させる趣旨であるか、それとも積極財産の遺贈の趣旨であるのかについて疑義が生じる恐れがある。包括遺贈の趣旨である場合、明確に「包括して遺贈する」と記載すべきである(参照:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.160頁) 

※農地法3条1項、遺産分割の場合の3条1項12号、包括遺贈の場合の3条1項16号及び農地法施行規則15条5号。

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農地法3条(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)

 

1. 農地又は採草放牧地について所有権を移転し、又は地上権、小作権、質権、使用貸借による権利、賃借権若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利を設定し、若しくは移転する場合には、政令で定めるところにより、当事者が農業委員会の許可(これらの権利を取得する者(政令で定める者を除く。)がその住所のある市町村の区域の外にある農地又は採草放牧地について権利を取得する場合その他政令で定める場合には、都道府県知事の許可)を受けなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合及び第5条第1項本文に規定する場合は、この限りでない。

 

①第46条第1項又は第47条の規定によつて所有権が移転される場合

 

②第36条第3項の規定により都道府県知事が作成した調停案の受諾に伴い所有権が移転され、又は賃借権が設定され、若しくは移転される場合

 

③第37条から第40条までの規定によつて第37条に規定する特定利用権が設定される場合

 

④第43条の規定によつて同条第1項に規定する遊休農地を利用する権利が設定される場合

 

⑤これらの権利を取得する者が国又は都道府県である場合

 

⑥土地改良法(昭和24年法律第195号)、農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)、集落地域整備法(昭和62年法律第63号)又は市民農園整備促進法(平成2年法律第44号)による交換分合によつてこれらの権利が設定され、又は移転される場合

 

⑦農業経営基盤強化促進法第19条の規定による公告があつた農用地利用集積計画の定めるところによつて同法第4条第4項第1号の権利が設定され、又は移転される場合

 

⑧特定農山村地域における農林業等の活性化のための基盤整備の促進に関する法律(平成5年法律第72号)第9条第1項の規定による公告があつた所有権移転等促進計画の定めるところによつて同法第2条第3項第3号の権利が設定され、又は移転される場合

 

⑨農山漁村の活性化のための定住等及び地域間交流の促進に関する法律(平成19年法律第48号)第8条第1項の規定による公告があつた所有権移転等促進計画の定めるところによつて同法第5条第7項の権利が設定され、又は移転される場合

 

⑩民事調停法(昭和26年法律第222号)による農事調停によつてこれらの権利が設定され、又は移転される場合

 

⑪土地収用法(昭和26年法律第219号)その他の法律によつて農地若しくは採草放牧地又はこれらに関する権利が収用され、又は使用される場

 

⑫遺産の分割、民法(明治29年法律第89号)第768条第2項(同法第749条及び第771条において準用する場合を含む。)の規定による財産の分与に関する裁判若しくは調停又は同法第958条の3の規定による相続財産の分与に関する裁判によつてこれらの権利が設定され、又は移転される場合

 

⑬農業経営基盤強化促進法第8条第1項に規定する農地保有合理化法人(以下「農地保有合理化法人」という。)又は同法第11条の12に規定する農地利用集積円滑化団体(以下「農地利用集積円滑化団体」という。)が、農林水産省令で定めるところによりあらかじめ農業委員会に届け出て、同法第4条第2項第1号に規定する農地売買等事業(以下「農地売買等事業」という。)の実施によりこれらの権利を取得する場合

 

⑭農業協同組合法第10条第3項の信託の引受けの事業又は農業経営基盤強化促進法第4条第2項第2号若しくは第2号の2に掲げる事業(以下これらを「信託事業」という。)を行う農業協同組合又は農地保有合理化法人が信託事業による信託の引受けにより所有権を取得する場合及び当該信託の終了によりその委託者又はその一般承継人が所有権を取得する場合

 

⑮地方自治法(昭和22年法律第67号)第252条の19第1項の指定都市(以下単に「指定都市」という。)が古都における歴史的風土の保存に関する特別措置法(昭和41年法律第1号)第19条の規定に基づいてする同法第11条第1項の規定による買入れによつて所有権を取得する場合

 

⑯その他農林水産省令で定める場合

 

農地法施行規則15条(農地・・・の権利移動の制限の例外)

 

 

⑤包括遺贈又は相続人に対する特定遺贈により法第3条第1項の権利を設定し、又は移転する場合


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