任意後見契約には代理権目録を付けます。任意後見契約の登記では、任意後見人の代理権の範囲が登記されます(後見登記等に関する法律5条4号)が、実際にはこの代理権目録の記載事項が登記されているようです。
1. 代理権目録に記載できる事項
(1) 「法律行為」に限られる
任意後見契約は委任に係る事務について代理権を付与する「委任契約」であり、代理権目録に記載できる事項は「法律行為」に限られます。
(2)株式会社の議決権の行使
管理対象財産として、会社及び株式を特定して議決権を行使することを代理権目録に記載することは可能です。
2. 代理権目録に記載できない事項
(1)準委任契約
介護等の「事実行為」は代理権目録に記載できません。
ただし、介護等の「事実行為」を委託する旨の「準委任契約」を締結し、任意後見契約と一緒に一つの公正証書にすることは可能です
(2)死後の事務の委任契約
任意後見契約は本人の死亡により終了しますので、死後事務委任事項は代理権目録に記載できません。
別途、死後事務委任契約を締結する必要があります。
なお、任意後見人、任意後見受任者は、死亡届出を提出することができるとされています(戸籍法87条2項)。
(3)一身専属権に属するもの
遺言、婚姻、認知、嫡出否認など、一身専属権に属するものは代理に馴染まないので代理権目録に記載することができません。
(4)手術についての決定権限
手術や身体組織の一部切除など重大な医的侵襲についての決定権限は代理権目録に掲げることはできません。
3. 白紙委任的な記載は認められない
代理権目録の記載事項は登記事項であることから、ある程度の特定性が要求されます。
例えば、「日常生活一般」、「生存に必要な一切の行為」、「療養看護に関する事務の全部」、「療養看護」、「虐待の予防及び監視」、「役員を務める法人に関する全て」、「株式会社○○の代表取締役としての職務の全て」などといった白紙委任的な記載は認められません。
(本稿の出典:日本行政書士会連合会『月刊日本行政(2025.4) №.629』.49-50頁)