□ 遺言信託(遺言による信託)により、遺言で希望する遺産分配をしたうえで、遺産の受取人が抱える事情に応じた財産管理の仕組みを設定することが可能です。
□ 遺言で「後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託」を設定することができます。ただ、「後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託」は、数次にわたる資産承継の指定をすることで親族間に紛争を起こす恐れがあります。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
関連情報
➤遺言信託(遺言による信託)
1. 遺言信託(遺言による信託)とは
信託法(信託法3条2号)に基づく「遺言信託」は、遺言で信託を設定することによって、相続開始時に「受託者に」相続財産を移転し受益者(信託された財産から利益を受ける者)の為に管理・処分させる遺産承継方法です。
信託法第3条 (信託の方法)
信託は、次に掲げる方法のいずれかによってする。
一 (略)
二 特定の者に対し財産の譲渡、担保権の設定その他の財産の処分をする旨並びに当該特定の者が一定の目的に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべき旨の遺言をする方法
三 (略)
2. 遺言信託(遺言による信託)の効果
~信託財産の名義は受託者に変更される~
ただし、信託財産は受託者の固有財産と一緒になるわけではありません。信託財産の管理は受託者が行いますが、受託者の固有財産からは独立し管理運営されます。
3. 遺言信託の効力の発生
遺言による信託の効力は遺言者の死亡により発生します(信託法第4条第2項)。ただし、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生じます(信託法第4条第4項)。
信託法第4条 (信託の効力の発生)
前条第1号に掲げる方法によってされる信託は、委託者となるべき者と受託者となるべき者との間の信託契約の締結によってその効力を生ずる。
2 前条第2号に掲げる方法によってされる信託は、当該遺言の効力の発生によってその効力を生ずる。
3 前条第3号に掲げる方法によってされる信託は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、当該各号に定めるものによってその効力を生ずる。
一 公正証書又は公証人の認証を受けた書面若しくは電磁的記録(以下この号及び次号において「公正証書等」と総称する。)によってされる場合 当該公正証書等の作成
二 公正証書等以外の書面又は電磁的記録によってされる場合 受益者となるべき者として指定された第三者(当該第三者が2人以上ある場合にあっては、その1人)に対する確定日付のある証書による当該信託がされた旨及びその内容の通知
4 前三項の規定にかかわらず、信託は、信託行為に停止条件又は始期が付されているときは、当該停止条件の成就又は当該始期の到来によってその効力を生ずる。
4. 遺言信託の活用方法
遺言信託は遺言者の死亡後に遺された、自ら財産管理ができない者の財産管理や生活保障の仕組みとして活用することができます。(成年後見制度と併用すると効果的です。)
たとえば、財産管理が困難な配偶者又は未成年の子を受益者として指定し、遺言者の死後に受託者(親族等)に財産を移転し管理してもらったり、配偶者に定期的に生活費を支給してもらうことや、介護や療養等の費用を支払ってもらうことや未成年の子の生活・教育・医療等に係る費用を支払ってもらうことが考えられます。 その他、孫に大学入学から卒業まで、例えば、毎年150万円を支給してもらうといったこともできます。
なお、ここで言う遺言信託は、金融機関が行う、いわゆる遺言信託は異なりますのでご注意ください。金融機関が行う遺言信託は金融機関が、遺言書の作成・保管・執行の一連の手続きについてサポートするサービスのことです。
5. 遺言による信託の設定の方法
遺言による信託の設定は、遺言で、信頼できる人(又は法人)に対し、遺言者の遺産を遺言者が定める目的にしたがって管理・給付・処分等を行うよう定めます。
なお、受託予定者に承諾の意思を確認しておく必要があります。
遺言信託は公正証書遺言により作成することをお勧めしますが、自筆証書遺言で作成することもできます。
6. 遺言信託の内容(信託行為)
遺言信託(遺言による信託)は、遺言に、「信託を設定する旨」と信託の目的等「信託の内容」を必ず書く必要があります。「信託の内容」は契約による信託(信託契約)と同じです。
7. 信託と成年後見
介護施設との各種契約や医療契約等は、成年後見制度で対応する必要があります。成年後見制度と併用の場合は、信託受託者と成年後見人との連携が必要です。
8. 信託と遺留分
遺言信託(遺言による信託)で遺留分を侵害した場合、遺留分侵害額請求権が発生します。遺留分を侵害する「遺言信託」の設定は、遺留分侵害額請求の対象になります。
9. 遺言信託と遺言執行者
遺言執行者は、遺言信託(遺言による信託)により受託者に指定された者に対して、信託の引き受けをするかどうか確答すべき旨を催告することができます。 受託者が就任を拒否した場合は、申立てにより裁判所が受託者を選任します。
10. 遺言信託利用上の注意点
(1)受託者として指定する者に対して引き受ける意思を確認する
遺言信託(遺言による信託)では、信託契約(契約による信託)と異なり、受託者の事前同意は必要とされていませんが、信託開始後、受託者の就任拒否によるトラブルを防ぐため(受託者に指名された者は、就任を拒否することが認められている。)、遺言信託をするにあたっては、予め、受託者の了承を得ておくことをお勧めします。
(2)信託報酬について
受託者に親族以外の第三者を指定する場合は、「信託報酬」を支払うことは信託業法に抵触する恐れがあります。
(3) 委託者の地位の相続
相続人は、信託行為に別段の定めがない限り、委託者の地位を相続により承継しません。(信託法第147条)
(4)贈与税、相続税
相続であれば相続税が課税されないケースであっても、遺言信託の場合は、信託の受益者を誰にするかにより、贈与税が課税されることがあります。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託を利用した数次受益者の設定は、その都度相続税の課税対象となります。
(5)遺言信託(遺言による信託)は公正証書遺言が望ましい
遺言信託(遺言による信託)は公正証書で作成しなければならないと定められている訳ではありませんが、信託は不動産や預貯金等の多額の財産を信託財産に組み入れ、死亡後の資産承継を長期的なスパンで実行していくことから、家族や親族間でトラブルになることもあり得ます。
偽造や改ざんの恐れのない公正証書で作成することをおすすめします。また、財産管理や受益者の生活支援等は、被相続人の死亡後すみやかに開始する必要があることからも、検認の必要がない公正証書遺言が望ましいと考えます。
11. 後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託
遺言信託(遺言による信託)で後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託を設定することができるようになりました。(信託法第3③)
後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託により、後継ぎ遺贈と同じ効果が期待できます。
「負担付遺贈」による後継ぎ遺贈の有効無効の紛議の余地をなくしたい場合は、遺言信託(遺言による信託)で、「後継ぎ遺贈型(受益者連続型)信託」を設定することおすすめします。。
□ 詳しくは、》》後継遺贈型信託(受益者連続型信託)をご覧ください。
12. 遺言信託(遺言による信託)と負担付遺贈の違い
遺言信託(遺言による信託)は、受益者等は、受託者の任務違反行為に対して、差し止め請求や解任をすることができます。
一方、「負担付遺贈」は、受遺者が義務を果たさないときは、他の相続人は、期限を定めて履行の催告をしたうえで、裁判所にその負担付遺贈にかかる遺言の取り消しを求めることができます。取り消された場合、対象財産は相続人に帰属します。
参考
□ 信託銀行の財産承継信託
・ 信託銀行の財産承継信託は、信託銀行が財産の管理運用を受託し、被相続人の死後、残された相続人等が安定した生活がおくることができるよう信託財産を管理運用し、収益を受益者に計画的に配分する制度です。
信託銀行の財産承継信託は財産の多い方の利用が多い制度と言われています。
ご自分で書かれた遺言書の点検をご希望の方
遺言書の作成サポートをご希望の方
