離婚時、年金分割制度

□ 年金の分割制度の対象となるのは、「厚生年金」の保険料納付記録(平成27年10月1日前の共済年金を含む)に限る。  

□ 夫婦双方が婚姻期間中ずっと厚生年金に入っていた場合は、婚姻期間におけるご夫婦双方の厚生年金保険料納付実績(報酬比例部分)を合算して、その2分の1を限度として、妻(*)が受け取ることができる。

□ 平成20年4月1日以降の3号被保険者であった期間(専業主婦等扶養になっていた期間)については、合意の有無にかかわりなく、夫の年金保険料の納付実績(報酬比例部分)の一律2分の1を妻が受け取ることができる。  

□ 事実婚でも年金分割は認めらる。 

□ 分割請求した年金を受給できる条件として、基礎年金(国民年金)の受給権があることが必要。 

※ 3号被保険者期間(専業主婦等で扶養になっていた期間)を含め、通算10年以上基礎年金(国民年金)を納めていること。なお、昭和61年(1986年)以前に専業主婦等で扶養になっていた人は、その期間は基礎年金を納めたものとみなされるので、この期間を足して通算し10年以上あれば請求できる(平成29年4月、25年から10年に短縮された)。 

注:強制分割(3号分割)は、平成20年4月1日(当日を含む。)以降に3号期間(夫の扶養となっていた期間)がある場合に適用される(平成20年5月1日以降の離婚から適用)。

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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 1.    年金分割制度とは

 

 年金分割制度は、離婚にあたって、厚生年金保険料の納付実績(報酬比例部分)を給料の多い者から少ない者へ移転する制度です。分割の対象となる保険料納付実績は婚姻期間中のものに限ります。 

 対象となる年金は、厚生年金保険(*)に限ります(平成27年10月1日前の共済年金を含む)。

 

 国民年金、厚生年金基金、国民年金基金、企業年金は対象外です。

 なお、企業年金、国民年金基金やその他の私的年金は、支給額の一定割合に相当する金額を「財産分与」として請求することはできます。

 

* 厚生年金は、基礎年金、報酬比例部分、厚生年金基金の三階建て構造になっていますが、年金分割の対象となる部分は報酬比例部分だけです。 

 平成27年10月1日前の「共済年金」は、基礎年金、報酬比例部分、職域加算部分の三階建て構造になっていますが、年金分割の対象となる部分は報酬比例部分と職域加算部分です。  

 

2. 年金分割制度の種類

 

 年金分割制度には、「3号分割(強制分割)」と「合意分割(協議分割)」があります。  

 

(1) 年金の「3号分割(強制分割)」

 

① 3号分割(強制分割)の対象者

 

注:当ホームページでは、扶養になっていた配偶者(3号被保険者)を「妻」と仮定し記述してあります。

 

 3号分割(強制分割)の対象者は、平成20年5月1日以降に離婚した夫婦で、「平成20年4月1日以降に夫の扶養になっていた期間」のある妻(3号被保険者)です。

 

 夫が3年以上行方不明の場合にも3号分割が認められます。

 

② 3号分割(強制分割)の対象となる期間

 

 3号分割(強制分割)の対象となる期間は、平成20年4月1日から離婚までの期間中で、かつ、妻が3号被保険者であった期間です。この期間について、相手の同意なしかつ単独で年金分割の請求ができます。 

 

 ③ 3号分割(強制分割)で妻が受け取ることができる年金

 

 3号分割(強制分割)は、「夫の厚生年金保険料の納付実績(報酬比例部分)」を、合意の有無にかかわりなく、一律2分の1に分割する制度です。  

 3号分割(強制分割)で妻が受け取ることができる年金は、「夫の厚生年金保険料の納付実績(報酬比例部分)の2分の1」であり、夫が受給する厚生年金の2分の1を妻がもらえるということではありませんので注意が必要です(正確には、夫の保険料の算定の基礎となった、「標準報酬月額及び標準賞与額の納付実績(婚姻期間中に限る)の2分の1」を妻が受けとれます)。

 

 ④  3号分割(強制分割)の請求手続 

 

 》》離婚時年金分割の手続き(3号分割=強制分割) をご覧ください。  

 

(2) 年金の「合意分割(協議分割)」

 

注:当ページでは、給料の少ない配偶者(第2号改定者)を「妻」と仮定し記述してあります。

 

① 合意分割(協議分割)とは

 

 合意分割(協議分割)は、夫婦双方の厚生年金保険料納付実績(報酬比例部分)を合計し、夫婦で話し合って決めた按分割合(*)を妻が取得する制度です。

 

(*):按分割合とは給料の低い方の取得割合のことです。按分割合の限度は2分の1です(情報通知書に上限と下限が記載されています) 。  

 

② 合意分割(協議分割)の対象者及び対象となる期間

 

 合意分割(協議分割)の対象者は、平成19年4月1日以降に離婚した夫婦で、婚姻期間中にご夫婦双方が厚生年金に入っていた期間のある方です。

 

③  合意分割(協議分割)で妻が受け取ることができる年金 

 

ア、ご夫婦双方が婚姻期間中ずっと厚生年金に入っていた場合

 

 婚姻期間におけるご夫婦双方の厚生年金保険料納付実績(報酬比例部分(※))を合算し、その2分の1を限度として、妻が受け取ることができます(按分割合については、夫婦で話し合いをし、妻の取り分を最大で2分の1までとして自由に決めることができます)。

 配偶者より収入が多かった妻は、分割の要求はしないほうが有利といえます。

 

 (※)共済年金の職域加算部分を含みます。

 

イ、専業主婦等扶養になっていた期間がある場合

 

 婚姻期間中に、専業主婦等扶養になっていた期間がある場合は、合意分割(協議分割)と3号分割(強制分割)の通算 が行われます。

 

 合意分割(協議分割)の請求をすることにより、婚姻期間中に3号分割(強制分割)の期間が含まれているときは、3号分割(強制分割)の請求もあったものとみなされます。

 

(イー1) 平成20年4月1日以降において、専業主婦等扶養になっていた期間については、合意の有無にかかわりなく3号分割(強制分割)となり、夫の厚生年金保険料の納付実績(報酬比例部分)の一律2分の1を妻が受け取ることができます。

 

(イー2) 平成20年4月1日より前の、妻が専業主婦等扶養になっていた期間については、夫婦で話し合いをし、合意分割(協議分割)することができます。

   

 例えば、婚姻期間が25年あり、平成20年4月以降離婚までの期間中は妻が3号被保険者であり、平成28年9月に離婚したと仮定すると、16年7か月分が合意分割(協議分割)、8年5か月分が3号分割(強制分割)で支給となります。 

 

④   合意分割(協議分割)の請求手続

 

 》》離婚時年金分割の手続き(合意分割=協議分割) をご覧ください。 

 

3. 事実婚の年金分割

 

 事実婚(同棲を除く のカップルも、被扶養者として第3号保険被保険者であった期間については、合意分割(協議分割)及び、3号分割(強制分割)の請求ができます  

 世帯全員の住民票、健康保険証により事実婚を証明する必要があります。

 

4. 外国人の年金分割 

 

  日本国籍を持っていなくても、年金分割を受けることができます

 妻自身が基礎年金(国民年金)の受給権を得ることが必要です(後述、6-(1)  参照)

 

5. 年金分割のための情報通知書

 

》》離婚時年金分割の手続き(合意分割=協議分割) をご覧ください。 

 

6. 合意分割について夫婦で話合いがまとまらない場合や、話合いができない場合 

 

 (1)「調停」による厚生年金の分割

 

 話合いがまとまらない場合や話合いができない場合には、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に「調停」を申し立てることができます。

 

 家庭裁判所に調停を申し立てる場合は、現住所を管轄する年金事務所(共済組合員の場合は共済組合)で「年金分割のための情報通知書」をもらい提出します。 

 

 「離婚調停」に付随して厚生年金分割の分割割合を定めることができます。離婚調停の申立てに伴って年金分割の割合について話し合いたい場合には「夫婦関係調整調停(離婚)」の手続をします。

 

 離婚成立後でも、年金の分割割合を定める調停の申立をすることができます。

 

・ 調停の申立てに必要な費用  収入印紙1,200円分、郵送料

 

(2)「審判」による厚生年金の分割

  

 年金の分割割合を定める調停が不成立で終了した場合には審判手続に移行します。

 

(3)審判や調停で分割割合が定められた場合の年金分割の請求手続

 

 審判や調停で分割割合が定められた場合は、当事者のいずれか一方から、年金事務所(共済組合員の場合は共済組合)の窓口に行き、年金分割の請求手続を行う必要があります。

 

 年金分割の請求にあたっては、「審判書謄本」及び「確定証明書」(調停の場合は、「調停調書謄本」)のほか、戸籍謄本などの提出が必要です。 

 

(4)離婚訴訟における附帯処分  

  

 離婚訴訟において附帯処分というかたちで付随して厚生年金分割の分割割合を決定するよう請求することができます。 

 

7. 分割した年金を「受給できる条件」と 「受給手続き」 

 

(1) 分割した年金を受給できる条件

 

 妻自身が基礎年金(国民年金)の受給権を得ることが必要です。すなわち、専業主婦等で扶養になっていた期間(3号被保険者になっていた期間)を含めて、通算10年(※)以上基礎年金(国民年金)を納めていることが必要です。  

 ただし、昭和61年(1986年)以前に専業主婦で扶養になっていた人は、その期間は基礎年金を納めたものとみなされますので、この期間を足して通算して10年(※)以上になれば請求できます。 

 

(※)年金機能強化法(平成29年4月施行)で25年から10年に短縮された。

 

(2) 分割した年金の受給手続き

 

 分割した年金は、受給開始年齢になった時に年金事務所に行き、「支給の請求」をしなければ支給されません。

 

 妻であった者は、再婚しても分割された年金の支給に影響ありません。 

 

 元夫が先に亡くなっても、妻であった者は、分割された年金を自分が死ぬまでもらうことができます。  

(参考1)離婚に伴う、年金の切り替え手続き

専業主婦等会社員の被扶養配偶者だった方は、夫の勤務先から「資格喪失証明書」を取り寄せ、市区町村の年金課に提出します。

(参考2) 加給年金・振替加算と離婚 

 加給年金は、妻が65歳になり老齢基礎年金を受給するようになると、妻の老齢基礎年金に加算して支払われるようになります。一旦振替加算となって妻名義になると、その後離婚しても妻が生涯受け取ることができます。ただし、振替加算前に離婚した場合は、加給年金は受け取れません。