遺言執行者の任務(義務)と権限(権利)について教えてください。

 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。 

 「遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる(民法1012条2項)」とされ、遺言者の意思と相続人の意思が対立する場合にも、遺言執行者は遺言に従って職務を行うべきことが明確となりました。 

民法1012条(遺言執行者の権利義務)

1.遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2.遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。 

3.第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

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埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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  1. 任務開始義務、相続人及び利害関係者への通知義務、相続財産目録調製義務

 

 遺言執行者の任務は、遺言の内容を実現することです。

 

 遺言執行者は、就任にあたっては、相続人に被相続人の遺言があることを知らせ、遺言書の写しを送付するなどして、遺言の内容を相続人に通知しなければなりません。遺言の内容の実現は、原則として、遺言執行者がある場合には遺言執行者が、遺言執行者がない場合には相続人がすべきこととなるため、相続人としては、遺言の内容及び遺言執行者の存否については重大な利害関係を有するからです。

 

 そのうえで、遺言執行者は、財産目録を作り、受遺者や相続人に交付します。

 

民法第1007条(遺言執行者の任務の開始)

1. 遺言執行者が就職を承諾したときは、直ちにその任務を行わなければならない。 

2. 遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならない。

 

民法第1011条(相続財産の目録の作成)

1. 遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。 

2. 遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

 

民法第1014条

 前三条(民法第1011条(相続財産の目録の作成)・民法第1012条(遺言執行者の権利義務)・民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止) の規定は、遺言が相続財産のうち特定の財産に関する場合には、その財産についてのみ適用する。 

 

※ 委任に関する規定の準用 

民法1012条(遺言執行者の権利義務)

3. 第644条、第645条から第647条まで及び第650条の規定は、遺言執行者について準用する。

 

第 644条(善管注意義務)、第645条(報告義務)、第646条(受取物の引き渡し義務)、第647条(補償義務) 、第650条(費用償還請求権)

 

2. 検認の申し立て 

 

 遺言執行者は、遺言書を保管しているときは家庭裁判所に検認の申し立てを行います(公正証書遺言を除く)。 

 

3. 受遺者に対する意思確認 

民法第986条(遺贈の放棄)

1. 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。

2. 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。 

 

4. 遺言の執行

 

 遺言の執行とは、遺言による不動産の所有権移転登記(対抗要件の具備)・引渡など、「遺言の内容を実現する」ために必要な特別の手続きをする行為です。

 

詳しくは、 》》遺言の執行 をご覧ください 

 

5. 相続財産の管理

 

 遺言執行者は、財産目録に記載された遺産の管理、処分その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。  

 

※ 遺言で遺言執行者が指定されている場合の相続人の相続財産処分行為について

 

 遺言で遺言執行者が指定されている場合、相続人は遺言執行者の遺言の執行を妨げる行為をすることができない。 

 違反行為の効果について、2018民法改正前は絶対的無効と考えられていた(大判昭和5.6.16、最判昭和62.4.23)が、令和1.7.1以降は、相続人による妨害行為は無効、ただし、善意の第三者に対抗できない、となった。

 

民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)

1 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。 

3 前2項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。 

 

6. 認知する遺言

 

 就任後10日以内に戸籍届け出を行わなければなりません。

 

7. 相続人廃除、相続人廃除の取消の遺言

 

 家庭裁判所に申し立てを速やかに行います。審判手続きも遂行しなければならない。

 

8 遺言執行者は必要に応じて訴えを提起し、または応訴することができる

 

 遺言無効確認訴訟の相手方や、遺産についてなされた誤った登記の抹消請求訴訟の原告になります。

 

(遺言の取消し請求)

 

 受遺者が負担を履行しないときの遺言の取消し請求は遺言の執行行為そのものではないため、遺言執行者がある場合にも、相続人は独自に取消し請求することができます。

 

9. 遺言執行者の復任

 

 遺言執行者の復任とは、指定した遺言執行者が第三者に遺言執行者の任務を行わせることをいいます。  

 2018民法改正前は、指定された遺言執行者は、やむを得ない事由がある場合か、遺言者が遺言で復任を許可した場合以外は、第三者にその任務を行わせることはできませんでした。 

 しかし、 民法改正により、指定された遺言執行者は、遺言による復任の禁止がなければ、復任を許可する遺言や、やむを得ない事由がなくても、自己の責任において第三者にその任務を行わせることができることとなりました。

 

 詳しくは、 》》 遺言執行者の復任の許可 をご覧ください。

 

10 遺言執行者に、相続分の指定の委託又は遺産分割方法の指定の委託はできるか 

 

 遺言執行者は、遺言の内容を実現するために必要な行為を行う権利義務を有しますが、遺産の配分は「遺言の内容」そのものであり、遺言執行者の義務に含まれません。

 相続分の指定の委託又は遺産分割方法の指定の委託は、別途、遺言する必要があります。 

 なお、相続分の指定の委託、及び遺産分割方法の指定の委託は、相続人及び包括受遺者にはすることはできません。(相続人及び包括受遺者にかかわりのないものは委託できます。)

 

 》》相続分の指定を委託する

 

 》》遺産分割方法を定めることを委託する

 

 相続分の指定の委託は相続人、包括受遺者には委託できません。相続分の指定の委託を受けることができるのは、相続に利害関係を持たない第三者です。 (大高決S49)

 

(遺産分割方法の指定の委託は、)相続人、包括受遺者には委託できません。第三者に委託します。ただし、相続人、包括受遺者であっても、その相続人に関わりのない遺産分割方法を指定させるのであれば第三者となります。(出典:・日本公証人連合会(2017)『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』立花書房.81頁)   

 

11 遺言で遺言執行者を指定し、その職務権限を明記する

 

 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しますが、遺言でその職務権限を具体的に明記しておくと、金融機関等での手続きをスムーズに行えることが期待できます。

 

民法1012条(遺言執行者の権利義務)

1. 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2.(略) 

3.(略) 

 

12 遺言で遺言執行者を指定し、その職務権限を限定する 

 

 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しますが、遺言者は、遺言で遺言執行者の職務権限を限定することができるとされてます。

 

※ 民法改正による、遺言執行者の権限の明確化等

 

 民法改正により遺言執行者の権限の明確化等がなされ、遺言執行者は相続人の代理としてではなく、遺言内容実現のために任務を遂行することとされました。 

 改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされていましたが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更されました。(注:下記③)

 

① 遺言執行者を「相続人の代理とみなす」規定が削除され、遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、「相続人に対して直接その効力を生ずる」とされました。

民法第1015条(遺言執行者の行為の効果) 

遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。 

 

 遺言執行者は遺言者の意思を実現するため、場合によっては相続人の利益に反することを行う必要があることから、このような改正がなされたものです。  

 

② 遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる旨の判例の明確化がなされました。(共同相続人は遺贈の履行義務を負わない。) 

 

③ 遺産分割方法の指定がされた場合の対抗要件を備える行為も遺言執行者ができるとされました。

 相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)がなされた場合は、遺言執行者は原則として単独で相続による権利の移転登記の申請をする権限を有します(遺贈には適用されません)。

 また、預貯金の払戻しをする権限を有します(遺贈には適用されません)。 

 

④ 復任権について「やむを得ない事由」が削除されました。 

2019年(令和元年)7月1日施行。2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用されます。

 

⑤ 遺言執行者は、相続人に対して、遅滞なく任務開始の通知や遺言内容の通知をしなければならないことが明確化されました。

 

⑥ 遺言内容を実現するため、相続財産の管理や遺言執行に必要な一切の行為の権利義務を有することが明確化されました。

 

 2019年(令和元年)7月1日施行。2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用されます。


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