遺言文、正しい用語の使い方

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埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 「相続させる」と「遺贈する」の違い

 

 》》「相続させる」と「遺贈する」との違い をご覧ください。 

 

2. 「与える」「譲る」「遺贈する」について

 

 財産を「与える」「譲る」は、多くの場合、「相続させる」と解することができますが、「遺贈する」は、例え相続人が受取人であっても、判例では遺贈としか解釈できないとされています。 

 なお、疑義が生じないよう「与える」「譲る」は、なるべく使わないようにしましょう。   

 

3. 「『有する』一切の財産」と「『所有する』一切の財産」の違い

 

 「『有する』一切の財産を相続させる(遺贈する)」は、全財産を相続させる遺言(又は包括遺贈)であることを明確にした表現です。

 

 これに対し、単に、「『所有する』一切の財産を相続させる」と表記した場合は、特定遺贈と解釈される余地があります。(特定遺贈には債務は含まれないから。)

 

「遺言者の所有する財産」は、形式的には遺言者の有する、所有権の対象となるプラスの財産のみを指すこととなり、適切でありません。(出典:日本公証人連合会(2017)『 新版 証書の作成と文例 遺言編[改訂版]』立花書房.64頁)  

 

「遺言者の所有する」と記載する例もあるが、承継される財産には積極財産のみならず消極財産(債務)も含まれるから、適切でない。(出典:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版。147頁)  

 

4. 相続開始時に「有する一切の財産」について  

 

  「相続開始時に有する一切の財産」の文言は、遺言作成後に取得する財産も含むことを明確にした表現です。 

 ただし、「相続開始時に有する」の文言は、なくても解釈上問題はありません。   

 

5. 「より前に」と、「以前にの違い

 

 「以前に」と「より前に」の違い についてですが、 「以前に」は、基準時を含みますが、 「より前に」は、基準時を含みません。 

 

 「死亡以前に」は、死亡時を含みますが、 「死亡より前に」は、死亡時を含みません。「死亡より前に」では、遺言者と受遺者が同時に死亡した場合は、停止条件の不成就により、遺贈の効果が生じないことになります。「死亡以前に」では、遺言者と受遺者が同時に死亡した場合についても停止条件は成就し、遺贈の効果が生じます。  

(出典:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.164頁)    

 

(ご参考)

 遺言者と受遺者が同時に死亡したときを含む場合については、より分かりやすい表現として、当職は次の文言をお勧めしています。

 

 妻〇〇〇〇が、遺言者より前に又は遺言者と同時に死亡した場合には、

 

 

6. 「以上」「以下」「以前」「以後」の「以」の意味

 

 「以」には、時間的前後関係を表わす言葉として、「そこを起点(基準となる時点)として」という意味があります。

 「以前」、「以後」及び「以降」いずれも起点を含みます 。

 起点を含まない場合には、「より前に」「より後に」といった表現が用いられます。 

 また、「以」には、一定の数量を基準として多寡関係を表わす言葉として、「それを基準値として」という意味もあります。「以上」や「以下」いずれも基準値を含みます 。 

 基準値を含まない場合には、「超える」若しくは「未満」「満たない」「達しない」といった表現が用いられます。

 

 基準点(令和3年4月1日)を含むときは、「令和3年4月1日以前に」又は「令和3年4月1日以後に」と表記し、基準点(令和3年4月1日)を含まないときは、「令和3年3月31日より前に」又は「令和3年4月2日より後に」と表記します。

 

 「令和3年4月1日以前に」は令和3年4月1日を含みますが、 「令和3年4月1日より前に」は令和3年4月1日は含まれません。

「 令和3年4月1日以後に」は令和3年4月1日を含みますが、 「令和3年4月1日より後に」は令和3年4月1日は含まれません。   

 

 

 「以上」「以下」「以前」「以後」の使い方

起算点となる数量や日時などを含む場合に用いる。

例)100 人以上/以下=100 人を含んで、100 人より多い/少ない人数

5月1日以前/以後=5月1日を含んで、それより前/後への時間的広がり

 

ただし、「昭和期以前」「第一次世界大戦以前」のように、時間に幅があるものについては、「昭和期」「第一次世界大戦」を含めず、その始まりの時点よりも前をいうことが多い。一方、「昭和期以後」「第一次世界大戦以後」は、「昭和期」「第一次世界大戦」を含んで使われることが多い。このようなものは「大正時代が終わるまで」「第一次世界大戦の始まる 1914 年より前」「昭和に入って以降」「第一次世界大戦が始まった 1914 年以降」のように、分かりやすく表現するとよい。

(出典:文化庁ホームページ⦅新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告)18頁⦆)

 

 

※ 注意 「以外」の意味

 

 「〇〇以外」は、〇〇の外側、若しくは、〇〇を除く他のものという意味です。例えば、日本以外の国は日本を除いた国という意味です。

 

 前記、「以上」「以下」「以前」「以後」の「以」の意味のように、「以」には、一定の数量を基準として多寡関係を表わす言葉として、「それを基準値として」という意味もありますので、混同しないように注意しましょう。

 

7. 「・・・の場合、」と「・・・の場合は、」と「・・・の場合には、」の違い

 

 いずれも同じ意味ですが、強いて言えば、特定のケースだけに限定する趣旨で「・・・の場合は、」を、例外的な場合であることを強調したいときに「・・・の場合には、」を使うことがあります。 

 

8. 「ただし」と「なお」と「しかし」の違い 

 

 「ただし」は「例外」について説明するとき、「なお」は念のために「付け加えて」説明するとき、「しかし」は「相反する」事柄を説明するときに用います。

 

9. 「及び」「並びに」andの使い方 

 

(1) 「AB」2つのものを「and」でつなげる(AとBの両方)ときは、及びB」といった表現が用いられます。 

 

(2) 「ABC」3つ以上のものを「and」でつなげる(AとBとCの全て)ときは、及びC」といった表現が用いられます。(最後に及び」を使い、それ以外のところは「、」を使う。) 

 

(3) 大きなグループと小さなグループがある場合は、一番大きなグループ分け(一次分類)に「並びに」を、それより小さなグループ分け(二次分類)に「及び」を使います。 

 

具体例(民法974条2号)のように用います。

 

 推定相続人「及び」受遺者「並びに」これらの配偶者「及び」直系血族(以下略)  

 

(参考)

(and)

■ 「A及びB」は、AとBの両方という意味です。3つ以上のものについて並列で規定する場合は、「A、B及びC」と記載します。 

 

(or)

■ 「A又はB」は、AかBのどちらかという意味です。3つ以上のものについて並列で規定する場合は、「A、B又はC」と記載します。 

 

 (and)

■ 大きなグループと小さなグループに分ける場合(一次分類と二次分類をする場合)は、大きなグループ分けに(一次分類)に「並びに」を、小さなグループ分けには(二次分類)「及び」を使います。 

 

 例えば、「A及びBの引き渡し並びにCの受領」のように用います。 

 

(出典:淵邊善彦(2017)『契約書の見方・作り方』日本経済新聞出版社.46-50頁)

 

10. 「又は」と「若しくは」or)の使い方 

 

(1) AB」2つのものを「or」でつなげる(AかBのどちらか)ときは、A又はB」といった表現が用いられます。 

 

(2) 「ABC」3つ以上のものを「or」でつなげる(AかBかCのいずれか)ときは、A、B又はC」といった表現が用いられます。(最後に又は」を使い、それ以外のところは「、」を使う。) 

 

(3) 大きなグループと小さなグループがある場合、一番大きなグループ分け(一次分類)に又は」を、それより小さなグループ分け(二次分類)に「若しくは」を使います 

 

 「又は」で結びつけられた大きなグループ(一次分類)のなかで、より小さなグループ分け(二次分類)を行う場合は、一次分類は又は」を使い、二次分類は「若しくは」を使う。 

 

具体例(民法111条1項2号)

 

 代理人の死亡「又は」代理人が破産手続開始の決定「若しくは」後見開始の審判を受けたこと。 

 

(参考)

・A若しくはB又はC若しくはD

 

例)「英語若しくは中国語又は数学若しくは理科を選択し受験する。」 →次のアとイのどちらか一方の方法を選択し、さらにそのうちで選んだ1科目を受験する。

 ア 英語か中国語のどちらかを受験する。 イ 数学か理科のどちらかを受験する。

(出典:文化庁ホームページ⦅新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告)23頁⦆) 

 

11. 「A、B、Cその他のD」と「A、B、Cその他D」の違い 

 

 「A、B、Cその他のD」は、A、B、CがDに含まれる関係(包含関係)にある場合に用いられます。つまり、A、B、CはDの例示です。 

 

 「A、B、Cその他D」は、A、B、C、Dが並列関係にある場合に用いられます。つまり、A、B、CとDは包含関係にありません。  

 

12. 「価格」と「価額」 

 

■ 「価格」は、一般的・抽象的に物の金銭的価値を表すときに用いられる場合が多い。一方、「価額」は、具体的に特定した物や財産の金銭的価値を表すときに用いられる場合が多い。 

 

民法1042条(遺留分の帰属及びその割合)

1.兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。 

 一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一 

 二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一 

 

民法1043条(遺留分を算定するための財産の価額)  

1.遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。  

 

13. 「漢字」で書くべきか、「ひらがな」にすべきか

 

① 「法令における漢字使用等について」では、「副詞」については原則として漢字で書くものとされ、「接続詞」についてはひらがなで書くことになっています(ただし、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」については漢字で書くこととされている)。

 

➁ 「とき」と「時」

 

 法令用語としての「とき」は仮定的条件を示す言葉を表すときに用います。(「場合」と同じ意味です。同じ文中に仮定的条件が二つ出てくる場合は、大きな条件に「場合」を、小さな条件に「とき」を用いるのが一般的です。)

 法令用語としての「時」は時点や時刻を表すときに用います。

 

 ・「場合」と「とき」

 「場合」は仮定の条件又は既に定まっている条件を示す。「とき」は特定できない時間を表すほ か、「場合」と同様に仮定の条件又は既に定まっている条件を示す。

 例)内閣訓令第2号の「許容」に含まれる場合は 提出を求められたときは 前提となる条件が二つある場合には、大きい条件を「場合」で、小さい条件を「とき」で表す。

 例) 該当する漢字が常用漢字表にない場合であって、代用できる同音の漢字があるときは

 (出典:文化庁ホームページ⦅新しい「公用文作成の要領」に向けて(報告)23頁⦆)

 

③ 「もの」と「者」  

 

 一般的に、法律上の人格を有するもの(自然人及び法人)を指す場合は「者」が用いられます。法律上の人格を有しないもの(混在を含む)を表すときは「もの」を用います。

 

 「もの」は、

①「者」又は「物」にあたらない抽象的なものを指す場合、

②あるものにさらに要件を加えて限定する場合、  

③ある行為の主体として、人格のない社団又は財団を指す場合、あるいは、これらと個人・法人とを合わせて指す場合で用いられます。

 

④ 「もの」と「物」

 

 有体物である物件を表すときは「物」を用います。有体物でないもの(混在を含む)を表すときは「もの」を用います。  

 

(参考文献:吉田利宏(2020)『新法令用語の常識』日本評論社.)  

 

※「者」と「物」

 

 「者」は一般的に、法律上の人格を有するもの(自然人及び法人)を指す場合に用いられます。(法律上の人格を有しないもの(混在を含む)を表すときは「もの」を用います。)

 

 「物」は行為の客体となる、有体物である物件を表すときに用います。(有体物でないもの(混在を含む)を表すときは「もの」を用います。)    

 

14. 助詞「の」の使い方に注意

 

 助詞の「の」は働きには複数の種類があります。異なる解釈が可能であることから、解釈の余地のない、一義的で明解な言い回しをしましょう。

 

「配偶者(妻)に法定相続分を相続させる場合」

 

 ✖  「妻○○○○に法定相続分の2分の1を相続させる」

 〇 「妻○○○○に法定相続分を相続させる」

 

 〇 「妻○○○○に2分の1を相続させる」

 

「配偶者(妻)に法定相続分の半分を相続させる場合」

 

 ✖  「妻○○○○に法定相続分の2分の1を相続させる」

 

 〇 「妻○○○○に4分の1を相続させる」   

 

15. 格助詞「が」と「の」

 

 格助詞(※)「が」と「の」には、双方とも、『主格』及び『連体修飾格』の用法があります。

 『主格』とは、格助詞(「が」、「の」)の付いた語が主語になるということを意味します。

 『連体修飾格』とは、格助詞(「が」、「の」)のすぐうしろに名詞がつながり、格助詞の付いた語がその名詞を説明する、ということを意味します。 

  格助詞は「『主格』の用法として、「が」と「の」双方とも用いることができます。 

 

格助詞:助詞の一類。口語では「が」「の」「を」「に」「へ」「と」「より」「から」「で」などがあり、文語では、これらのほかに「にて」「して」などがある。

 

16. 指示詞について

 

 代名詞・指示詞(あれ、これ、それ、等)は、本名詞が容易に分かり、かつ、解釈の余地がない場合以外は使わないことをお勧めします。

 

17. 代名詞について

 

 遺言では、解釈の余地を生じさせないため、受遺者・受贈者を表わす場合は人称代名詞を使わないことをおすすめします。 

 

 代名詞には、人を表わすものと、事物・場所・方角を表わすものとがあります。人を表わすものを人称代名詞といい、書き手自身(遺言者)を表わす一人称代名詞(「 私」等)、受け手(受遺者・受贈者)を表わす二人称代名詞(「貴方」「 君」等)、第三者を表わす三人称代名詞(「彼」「 彼女」等)があります。

 

18.  条件を定める文言に、「基本的に」「著しく」「本格的に」など、はっきりしない語句を、使わない。

 

19. 「~と~との「~との違い  

 

 並列助詞の「と」の繰り返しについては省略されることが一般的ですが、入れることにより何らかの効果がある場合もあります。 

 

20. 句読点の打ち方  (読点の位置によって文章の意味が変わることがある)

 

  読点は文章を読みやすくするために打つものなので、過度に神経質になる必要はありません。

 しかし、遺言の場合、読点(「、」)が無いことによって、複数の意味に解釈できる場合があります。また、読点を打つ位置によって意味が変わることがあります。 誤読を避けるために必要な場合は、必ず読点をうちましょう。  

 

➀ 遺言の場合、主語を明確にするために読点(「、」)を打ちます

 

 また、「長い主語」「長い修飾語」のあとには、関係を明確にするために読点を打ちます。(関係が明確であれば特に読点を打つ必要はない)

 

② 節と節の間に読点(「、」)を打ちます。(「重文」の区切り、「複文」の区切りに読点(「、」)を打つ)

 

■「重文」とは、単文(主語と述語のある文)を2つ以上並列させ、結びつけた文章のことです。 

(例)妻に4分の3を相続させ、長男に4分の1 を相続させる。   

 

■「複文」とは、単文の基本となる主語と述語のほかに、修飾語(修飾部)があり、修飾部の中にも主語と述語の文節が含まれている文章のことです。 

 (例)遺言者は、前条項に記載したもの以外に相続財産が見つかったときは、それらを全て妻に相続させる。

 

 また、複文の場合、修飾語・修飾部がどこにかかるか分かり難く、意味が誤解される恐れがあるときは、修飾関係を明確にするため読点を打ちます。

 

 前置きの節や語句、挿入された節や語句を区切るため読点を打ちます。

 

③ 語句や名詞を並べる場合や、漢字やひらがなが連続する場合は、読みやすくするため読点(「、」)を打ちます(中点(「・」)を使うこともあります)

 

④ 逆接の関係や原因と結果の関係を述べる場合は、関係性を明確にするため読点(「、」)を打ちます

 

⑤ 接続詞の前又は後に、ケースバイケースで、読みやすいよう読点(「、」)を打ちます

 

■ 接続詞の直前が、名詞ではなく動詞の場合は、接続詞の前に読点を打ちます。 

 

⑥ かぎ括弧の前後には読点(「、」)を打たなくてよいとされています

 

21. 財産の価格を表す数字

 

 改ざんの恐れがあるときは、漢数字(大字(だいじ))をおすすめします。 

 

22. 金○○○○万円の円の次の「也」 

 

 円の次に「也」という文字を付け加えるのは、円の次に「○○銭」と付け加えられて金額が偽造されるのを防ぐためでしたが、そのおそれがないときは不要です(なお、つけても問題ない) 。

 

23. 「手続き」と「手続」

 

 文化庁の「送り仮名の付け方」(昭和48年内閣告示第2号)・複合の語・通則6では、送り仮名を付ける(「手続き」)を本則とし、読み間違えるおそれのない場合は送り仮名を省くことができるとしています。 

(出典:文化庁ホームページ) 

 

 なお、「公用文における漢字使用等について」(平成22年内閣訓令第1号)の 2「送り仮名の付け方」では、「手続」とするとしています。

ちなみに、学校教育で学ぶ表記は「手続き」です。

 

 


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