遺産分割の方法~現物分割、換価分割、代償分割、共有分割~

□ 遺産分割の方法には、①相続人一人ひとりに、財産の形状や性質を変更することなく、現物で物理的に分ける現物分割」、②相続財産を未分割のまま売却し売却代金を分ける「換価分割」、③不動産の場合にみられますが、相続人の一人が取得し、他の相続人には不足分を代償金として金銭で支払う「代償分割」土地などにみられますが、共有にして持ち分で分ける「共有分割」があります。 

□ 代償分割は土地建物等現物の取得希望者がいて、共有分割で相続したくない場合に適しています。

□ 「現物分割」「換価分割」「代償分割」「共有分割」は法令用語ではありません。講学上の分類です。

□ 遺産分割で不動産を共有にした場合、建て替えや持ち分の売却には相続人全員の合意が必要となります。また、その後の相続で共有者はどんどん増えてゆきます。

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

似顔絵

 1. 現物分割

 

 遺産の分割は現物分割が原則的な分割方法とされています。

 現物分割とは、相続人一人ひとりに、形状を変えずに現物のまま、物理的に分配する方法です。たとえば、自宅及び現金は妻に、農地は長男にというふうに一つひとつの財産について取得者を決めます。

 この方法はとても分かりやすい方法です。

 それぞれが欲しい財産がある場合や他人に渡したくない財産がある場合は、それぞれの相続分に応じうまく分けられれば最良の方法です。

 しかしながら、財産の価値がそれぞれ異なるので相続分どおりに分けることが難しく、不公平が出てしまうという欠点があります。

 なお、土地を分筆して分ける場合も現物分割です。 

 

(価格評価の基準時)

 

 現物分割及び代償分割の場合は、遺産の価格評価をする必要があります。その基準時については、通説及び多くの裁判例は遺産分割時説に立っています。

 なお、特別受益、寄与分が問題となる事案においては、価格評価を基準として「みなし相続財産額」を算出しますので、遺産分割時の価格評価に加えて相続開始時の価格評価も必要になります。

 

(出典:小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識 -相続人と相続分・遺産の範囲・遺産分割・遺言・遺留分・寄与分から戸籍の取り方・調べ方、相続登記の手続・相続税まで-』日本加除出版.76−77頁)

 

2. 代償分割 

 

 代償分割とは、全財産を相続人の一人が取得することにして、他の相続人には代償金として金銭を支払う方法です(代償金の支払いは協議で分割払いにすることもできます)。

 

 代償分割は、相続財産が居住する土地建物あるいは農地や事業用不動産の場合などでその取得希望者がいるときは、この方法が適しています。 

 また、現物分割で物理的に切り分けることによって著しく価値が下がってしまう場合もこの方法が適しています。  

 代償分割は柔軟な分割をすることができますが、取得希望者がいてその人に代償金を支払う資力があることが必要です。

 なお、代償分割では「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を使うことができません。また、代償金受領者側の譲渡所得税に注意が必要です。

 

(代償金を分割前の相続財産から支払うことはできない)

 

 遺産分割前の相続財産から、承継債務として、代償分割の代償金を支払うことはできません。

 ただし、代償金支払義務者が、遺産分割協議が有効に成立したあとに遺産分割で取得した財産の中から支払うことは、代償金を相続財産からで支払うことにはなりません。 

 

3. 換価分割(価格分割)

 

 換価分割とは、相続財産を未分割(共同相続人による共有状態のままのまま)売却し、売却代金を分配する方法です。

 換価分割は、現物分割が困難であり、かつ代償分割もできないときにこの方法によります。 

 この方法は公平に分けることができ、代償金を支払う資力の問題や相続税の納税資金の問題もありませんが、現実に相続財産に住んでいる相続人がいる場合は新たに住まいを探さなければならないという問題があります。

 その他、処分費用がかる、売却益に所得税が課せられたり、価格が変わってしまったり、買い手がつかないことがあるといった問題点があります。  

 

(一旦、相続人の一人に「現物分割」により所有権移転登記した後、売却換価し代金を分配する方法)

 

 一旦、相続人の一人に「現物分割」により所有権移転登記した後に売却換価し代金を分配する方法があります。

 この方法は、換価分割と同様の効果を有しますが、換価分割と異なり贈与税の問題点があります。   

 

4. 共有分割

 

 不動産の所有権を共有にし、不動産の権利を持分で分ける方法です。現物分割の一種です。 

 遺産分割で不動産を共有にした場合、建て替えや持分の売却には相続人全員の合意が必要となります(※)。また、その後の相続で共有者はどんどん増えてゆきます。 

 したがって、①すぐ売却する予定がある場合、②居住用の土地に適用される相続税の特例の要件を満たすために配偶者と子が共有で相続する場合などを除き、たとえ多少不平等になっても共有は避けるのが無難です。 

 

※ 売却、改築、形状変更等の処分・変更行為は共有者全員の同意が必要(民法251条)。

 

 民法251条(共有物の変更)

1. 各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

2. 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

 

※ 自己の所有権である「持分の範囲」であれば、自らの持分を自由に譲渡、処分することができます。また、自らの持分を他の共有者または第三者に売却することも自由です。 

※ 持分を超えた短期の賃貸借契約などの管理行為は、持分の過半数で決定します(民法252条)。 

※ 共有物への第三者の不法行為に対し交渉することや提訴することなど保存行為は単独でできます(民法252条但し書き) 。  

 

民法252条(共有物の管理)

1. 共有物の管理に関する事項(次条第1項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第1項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。) は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

2. 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。

(1)共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

(2)共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。

3. 前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

4. 共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。

(1)樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 10年

(2)前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 5年

(3)建物の賃借権等 3年

(4)動産の賃借権等 6箇月

5. 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。 

 

(1)土地の共有を解消する方法

 

 ①持分割合で分筆する、②他の共有者等に売却する、③共有の土地が複数ある場合は共有持分を交換する。  

 

(2)裁判で共有を解消する(共有物分割訴訟) 

 

民法258条(裁判による共有物の分割)

1. 共有物の分割について共有者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、その分割を裁判所に請求することができる。

2. 裁判所は、次に掲げる方法により、共有物の分割を命ずることができる。

①共有物の現物を分割する方法

②共有者に債務を負担させて、他の共有者の持分の全部又は一部を取得させる方法

3. 前項に規定する方法により共有物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

4. 裁判所は、共有物の分割の裁判において、当事者に対して、 金銭の支払、物の引渡し、登記義務の履行その他の給付を命ずることができる。

 

5. 遺産分割は一度に全部しなければならないの?

 

 遺産分割は一度に全部するのが原則です。ただし、相続人全員が合意すれば一部を先に分割することもできます。預貯金など遺産が相続人の生活に欠かせない場合や、一部の遺産を先に売却し債務の支払いに充てなければならないといった事情のある場合は、先に分割できます。