遺言執行者の指定

□ 遺言の執行とは、不動産の移転登記・引渡等、遺言の内容を実現するために必要な特別の手続きをする行為です。

 遺言執行者の指定が必要な場合とは、遺言を執行するために財産の換価処分が必要な場合、遺言による不動産の移転登記・引渡等がある場合などです。 

 

注意事 項 民法改正により、改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされていたが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更された。(注:下記③)

 

民法改正(遺言執行者の権限の明確化等) 

① 遺言執行者を「相続人の代理とみなす」規定が削除され、遺言執行者は、遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有し、遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、「相続人に対して直接その効力を生ずる」とされました。

 遺言執行者は遺言者の意思を実現するため、場合によっては相続人の利益に反することを行う必要があることから、このような改正がなされたものです。  

② 遺贈の履行は遺言執行者のみが行うことができる旨の判例の明確化がなされました。(共同相続人は遺贈の履行義務を負わない。) 

③ 遺産分割方法の指定がされた場合の対抗要件を備える行為も遺言執行者ができるとされました。

 「相続させる遺言」がされた場合には、遺言執行者は、原則として、単独で相続による権利の移転登記の申請をする権限を有します。(遺贈には適用されない。)

 また、預貯金の払戻しをする権限を有します。(遺贈には適用されない。)なお、預貯金以外の金融商品は、遺言で権限を付与した場合を除き、適用されません。 

④ 復任権について「やむを得ない事由」が削除された。 

2019年(令和元年)7月1日施行。2019年(令和元年)7月1日以降に開始した相続について適用されます。

民法1006条(遺言執行者の指定)

1.遺言者は、遺言で、一人又は数人の遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託することができる。

2.遺言執行者の指定の委託を受けた者は、遅滞なく、その指定をして、これを相続人に通知しなければならない。

3.遺言執行者の指定の委託を受けた者がその委託を辞そうとするときは、遅滞なくその旨を相続人に通知しなければならない。


行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 遺言の執行

 

 遺言の執行とは、遺言による不動産の所有権移転登記(対抗要件の具備)・引渡など遺言の内容を実現するために必要な特別の手続きをする行為です。

 遺言の執行は、相続人自身が実行できる(相続人が複数の場合は共同で遺言を執行する)ほか、遺言執行者によって実行されます

 遺言の内容を実現するために特別の手続きをする必要がある場合や、遺言執行者を必ず指定しなければならない場合で遺言に定めていないときは、家庭裁判所に定めるよう申し立てをすることができます。

 遺言執行者が遺言で指定されている、または家庭裁判所から選任された場合は、相続人は相続財産の管理処分はできず、遺言の執行を妨げる行為をしてはなりません。

 

2. 遺言事項と遺言の執行

 

 遺言事項には、遺言者の死亡と同時に自動的に内容が実現され何ら手続きをする必要がないものと、遺言の内容を実現するために特別の手続き(遺言の執行)をする必要があるものとがあります。

 

(1) 遺言者の死亡と同時に遺言の内容が実現され、特別の手続きが要らないもの(遺言執行行為が不要

 

① 未成年後見人、後見監督人の指定

② 財産管理のみの未成年後見人の指定

③ 「相続分の指定」「相続分の指定の第三者への委託」「相続分の指定の取り消し」

④ 特別受益の持ち戻し免除

⑤ 「遺産分割方法の指定」「遺産分割方法の指定の第三者へ委託」

⑥  5年以内の「遺産分割の禁止」 

⑦ 遺産分割における相続人間の担保責任の指定

⑧ 負担付遺贈の受遺者が放棄した場合の指示

⑨ 負担付遺贈の目的物の価値が減少した場合の指示

 

⑩ 遺贈が遺留分を超えるときの「遺留分減殺方法の指定」 

⑪ 「遺言執行者の指定」「遺言執行者の指定の委託」

⑫ 「遺言執行者の報酬」

 

⑬ 「遺言執行者の復任権等」

⑭ 無償譲与財産を親権者に管理させない意思表示と管理者の指定

 

⑮ 「祭祀主宰者の指定」

 

(2) 遺言の内容を実現するために特別の手続き(遺言の執行)をする必要があるもの 

 

① 特定遺贈 

 不動産 所有権移転登記手続き及び引き渡し

 動産 引き渡し    

    「一定量の不特定物」の場合は、遺産の換金を行うなどして物件を

    調達し受遺者に引き渡します。

    現金 預金の払い戻し、又は遺産の換金を行うなどして受遺者に支払

    います。

 預金 通帳その他証書の引き渡し。債務者への通知。

 手形 裏書及び引き渡し

 株式 引き渡し 株主姪御記載事項を株主名簿に記載することを請求(株

    券不発行会社)

    「一定量の有価証券」の場合は、遺産の換金を行うなどして調達

    し、受遺者に引き渡します。

 

 遺贈の目的物が「相続財産に属しない権利」の場合は、遺言の内容を実現するために必要な手続きをしなければなりません。

 遺贈の目的物が「指名債権」のときは、債権者に対し通知をするか、債権者の承諾を得るかしなければなりません。

 

② 財産の寄付、財団法人設立のための寄付行為

③ 信託の設定 

 

④ 生命保険の死亡保険金受取人の指定・変更  

 

3. 遺言執行者

 

(1)遺言執行者とは

 

 遺言執行者とは、遺言の内容を実現するするために、遺言によって指定され、または家庭裁判所から選任されて権利を与えられた者をいいます。

 遺言執行者は遺言の執行及び、執行に必要な行為をする権限を有します。

 遺言者は、遺言執行者の職務権限を限定できるとされています。遺言執行者を専門家以外に指定するときは、遺言執行者の権限について具体的に記載しておくと銀行関係等の手続きがスムーズに進むことが期待できます

 また、遺言執行者が遺言者と年齢が近いなど、遺言執行に困難が想定される場合は「遺言執行の第三者への委任事項」記載しておくと安心です。 

 遺言執行者に専門家等第三者を指定する場合は、氏名、生年月日、住所・職業を記載します。職業は法定の記載事項ではありませんが書いておくと便利です。 

 

(2) 遺言執行者の任務と権利

 

① (検認の申し立て) 遺言執行者は、遺言書を保管しているときは家庭裁判所に検認の申し立てを行います(公正証書遺言を除く)。

 

② (相続財産目録調製義務) 遺言執行者は、財産目録を作り、受遺者や相続人に交付します。

 

③ (相続財産の管理義務)遺言執行者は、不動産の特定遺贈の移転登記と引渡を行います。不動産の名義変更は、基本的には遺言執行者ひとりでできます。 

 財産目録に記載された遺産の管理、処分その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有します。 

 

 相続による所有権移転の登記は相続人単独で申請することができますから、当該不動産の所有名義が被相続人名義である限り、遺言執行の余地はなく、遺言執行者には登記申請権限がないものと解されています。(出典:小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識 』日本加除出版.156頁)  

 

注意事 項 民法改正により、改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされていたが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更された。

 

④ 「認知する遺言」の場合、就任後10日以内に戸籍届け出を行います。

 

⑤「相続人廃除」、「相続人廃除の取消」の遺言の場合、家庭裁判所に申し立てを速やかに行います。審判手続きも遂行しなければならない。

 

⑥ 遺言執行者は必要に応じて訴えを提起し、または応訴することができます。

 遺言無効確認訴訟の相手方や、遺産についてなされた誤った登記の抹消請求訴訟の原告になります。

 

⑦ 遺言執行者は報酬請求権、費用償還請求権などを有します。 

 

(3) 相続人は遺言執行者の遺言の執行を妨げる行為をすることができない

 

民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止)

1 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。

2 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

3 前2項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

 

(4)遺言執行者の条件

 

 遺言執行者は、未成年者、破産者以外は、原則、誰でもなれます。

 

(5)遺言執行者の指定 

  

 遺言で、配偶者、こども(成人の場合)、第三者を遺言執行者に指定できます。相続人を遺言執行者に指定することについては、相続人廃除や認知など利益が直接衝突する遺言の遺言執行者には指定できないとされています。

 遺言執行者は1名に限定されません。専門家にふさわしい遺言執行を職務権限を限定して弁護士等を指定し、それ以外は親族を遺言執行者に指定することも可能です。 

 

 (6)遺言執行者の指定の委託

 

 指定した遺言執行者が死亡等により職務執行ができなくなった場合に備えて、条件付きで遺言執行者の指定を第三者に委託しておくことができます。

 

(7)遺言執行者の就任・辞任・解任

 

 遺言で遺言執行者に指定されても、就任を拒否できます。就任した後でも正当な事由があれば辞任できます。  

 遺言執行者は、就任を承諾した以上、誠実にその任務を遂行する義務があります。  

 遺言執行者は任務を怠った場合は解任されることがあります。  

 遺言者本人が亡くなる前に遺言執行者が死亡したときは、家庭裁判所が選任します。 

 

(8)遺言執行者を必ず指定しなければならないケース

 

① 遺言で認知をする場合

② 遺言で相続人の廃除をする場合

③ 遺言で相続人の廃除の取消をする場合

 

注意事 項 遺言で遺言執行者を必ず指定しなければならないにもかかわらず指定していなかったときは、家庭裁判所で遺言執行者を選定してもらいます。  

 

(9)第三者を遺言執行者に指定しておいた方がよいケース

 

① 相続人間の利害が対立する遺言をするとき 

 相続人間の利害が対立する遺言を相続人に執行させると、感情の対立が生じ、遺言の内容の実現がスムースにいかない恐れがあります。遺言で第三者を遺言執行者に指定することをおすすめします。

 

② 遺言で内縁の妻へ遺贈をするとき 

 

③ 遺言で生命保険金受取人を変更するとき 

 

(10) 遺言執行者に専門家以外を指定するとき  

 

 遺言で遺言執行者を指定する場合で、専門家以外を指定するときは、遺言執行者の権限について具体的に記載しておくと銀行関係等の手続きがスムーズに進むことが期待できます。職務権限を限定し明示することをおすすめします。  

 

 遺言執行者が遺言者と年齢が近いなど、遺言執行できなくなることが想定される場合は、「遺言執行の第三者への委任事項」を記載しておくと安心です

 

(11)事情によっては遺言執行者を指定した方がよいケース

 

① 相続人に認知症になる恐れの人がいるとき

 

 認知症と診断されると、相続に伴う預金の払い戻しを請求しても、原則として、「後見人」がいないと金融機関は応じてくれません。家庭裁判所に後見人の選任の申し立てを行う必要があります。しかし、遺言執行者を指定しておけば、その心配はありません。

 

② 相続人以外の第三者に不動産の遺贈をするとき

 

 不動産の遺贈」の登記は受遺者単独ではできません。 相続人全員と共同でするか遺言執行者がする必要があります。

 遺言で相続人以外に不動産の遺贈をする場合は、相続人の協力がなくても登記できるよう、受遺者又は第三者を遺言執行者に指定しておくことをおすすめします。

 遺言執行者は不動産の名義変更を基本的にはひとりでできます。  

 

③ 遺言で不動産や預貯金、有価証券を複数の人に相続する場合

 

 不動産や預貯金、有価証券を複数の人が相続した場合、相続登記や預貯金の引き出しなどを常にその相続人全員の名義でしなければならなくなります。 

 遺言で相続人のうちの誰か一人を遺言執行者に指定しておくと便利です。

 

④ 遺言で複数の相続人に対し割合を定めて相続させる場合

 

 複数の相続人に対し割合を定めて相続させる遺言の場合、相続に伴う預金の払い戻しを請求をする際、遺言書のほかに遺産分割協議書の提出を求められる場合があります。遺言執行者を指定しておけば、遺産分割協議書は必要ありません。

 

⑤ 相続人や受遺者が多数の場合

 

 相続人や受遺者が多数の場合は、相続手続きをスムーズに進めるため、遺言で遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。

 

⑥ 遺言により一般財団法人を設立する場合、遺言の効力発生後、遺言執行者が定款を作成して公証人の認証を受けたり、財産の拠出の履行を行わなければなりません。

 遺言執行者による執行が不可欠です。 

  

注意事 項 遺言執行者が必要なケースで、遺言で遺言執行者をしていしていない場合は、利害関係人の請求により家庭裁判所が選任します。  

 

 

4. 遺言執行費用  

 

 遺言執行費用は相続財産の負担とされています。(*)遺言執行費用は債務として相続財産から控除することができます。相続財産から報酬等を除いた額を相続人で分配することになります。

 

① 遺言の検認手続きの費用

② 財産目録の作成費用

③ 相続財産管理費用

④ 訴訟費用

⑤ 遺言執行者報酬 

※ 遺言執行者報酬を遺言で指定しておくことができます。

 

*民法第1021条(遺言の執行に関する費用の負担)

遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。  


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