遺言の執行~遺言執行行為が必要な遺言事項・遺言執行の費用の負担者~

遺言の執行とは、不動産の移転登記・引渡等、遺言の内容を実現するために必要な特別の手続きをする行為です。

1. 遺言の執行とは

 

 遺言の執行とは、遺言による不動産の所有権移転登記(対抗要件の具備)・引渡など、遺言の内容を実現するために必要な特別の手続きをする行為です。

 遺言の執行は、相続人自身が実行できる(相続人が複数の場合は共同で遺言を執行する)ほか、遺言執行者によって実行されます。

 

 遺言の内容を実現するために特別の手続きをする必要がある場合や、遺言執行者を必ず指定しなければならない場合で遺言に定めていないときは、家庭裁判所に遺言執行者を定めるよう申し立てをすることができます。

 遺言執行者が遺言で指定されている、または家庭裁判所から選任された場合は、相続人は相続財産の管理処分はできません。また、遺言の執行を妨げる行為をしてはなりません。

 

2. 遺言執行行為が必要な遺言事項と不要な遺言事項

 

 遺言事項には、遺言者の死亡と同時に自動的に内容が実現され、何も手続きをする必要がないものと、遺言の内容を実現するために特別の手続き(遺言の執行)をする必要があるものとがあります。

 

(1)遺言執行行為が「不要」(遺言者の死亡と同時に遺言の内容が実現され、特別の手続き(遺言の執行)が要らないもの)

 

① 未成年後見人、後見監督人の指定

② 財産管理のみの未成年後見人の指定

③ 相続分の指定の第三者への委託、相続分の指定の取り消し

④ 特別受益の持戻免除

⑤ 遺産分割方法の指定、遺産分割方法の指定の第三者へ委託

⑥ (5年以内の)遺産分割の禁止 

⑦ 遺産分割における相続人間の担保責任の指定

⑧ 負担付遺贈の受遺者が放棄した場合の指示

⑨ 負担付遺贈の目的物の価値が減少した場合の指示 

⑩ 遺贈が遺留分を超えるときの 遺留分侵害額請求先(遺留分侵害額負担者)の順序の指定

⑪ 遺言執行者の指定、遺言執行者の指定の委託

⑫ 遺言執行者の報酬 

⑬ 遺言執行者の復任権等

⑭ 無償譲与財産を親権者に管理させない意思表示と管理者の指定 

⑮ 祭祀主宰者の指定

 

(2)遺言執行行為が「必要」(遺言の内容を実現するために特別の手続き(遺言の執行)をする必要がある )

 

① 特定遺贈・相続分の指定(法定相続分をこえるもの) 

ⅰ)不動産  

ⅱ)動産

ⅲ)債権 

ⅳ)相続財産に属しない権利 

② 財産の寄付、財団法人設立のための寄付行為

③ 信託の設定  

④ 生命保険の死亡保険金受取人の指定・変更  

 

3. 遺贈の執行

 

(1)遺贈の履行

 

 不動産(登記)、動産(引き渡し)、債権(遺贈義務者から債務者に対する通知、又は債務者の承諾)、地上権・賃借権(賃貸人の譲渡承諾の取得)

 

 遺贈の履行は、遺言執行者がある場合には、遺言執行者のみが行うことができる。(令和1年7月1日より前に発生した相続でも、同日)以後に遺言執行者となる者にも適用される。

 

民法1012条(遺言執行者の権利義務)

1.遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。

2.遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。 

3.第六百四十四条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。 

 

(2)対抗要件の具備 

 

 遺言執行者は、不動産の移転登記を行います。不動産の名義変更は、基本的には遺言執行者ひとりでできます。

 

民法1014条2項  

遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第899条の2第1項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

 

(ア) 不動産

 不動産は所有権移転登記手続き及び引き渡しを行います。所有権移転登記申請は、登記権利者(受遺者)と登記義務者(共同相続人又は遺言執行者)による共同申請となります。

 

➀ 不動産相続登記手続きについて 

  民法改正前は、特定の不動産を特定の相続人に「相続させる」遺言について、遺言執行者には相続登記を申請する代理権限はないとされ、受遺者本人からの申請のみ可能であったが、改正後は、「相続させる」遺言についても、遺言執行者は相続登記の申請権限があると変更された。

 

② 清算型遺贈の場合の遺言の執行について 

 遺言執行者の管理処分権に基づき、遺産の一部または全部を処分して、受遺者に現金等を引き渡します。遺産が不動産の場合、遺言執行者は、いったん相続人名義への相続登記を単独申請し、ついで、相続人から買受人への所有権移転登記を買受人と共同申請します。

 

③ 遺言の不動産の特定が不完全な場合、又は遺言の不動産の表示が誤っている場合の遺言の執行について 

 受遺者を原告、遺言執行者を被告とする、遺贈の目的物であることの確認を求める民事訴訟によります。軽微な誤記は遺言執行者と受遺者の共同申請で登記登記申請が認められるばあいがあります。

 

④ 未登記不動産の遺言の執行について

 先ず、遺言執行者が「遺言者名義の保存登記」を申請し、その後、遺言執行者と受遺者とで「遺贈登記」を共同申請します。

 

⑤ 相続人が不存在の場合の遺言の執行について

 遺言執行者と受遺者とで遺贈登記を共同申請します。

 

⑥ 農地の遺贈の遺言執行について

 農地の「包括遺贈」が相続人又は相続人以外になされた場合は農業委員会の許可は不要です。農地の「特定遺贈」が相続人に行われた場合については、平成24年に農地法施行規則が改正され、農業委員会の許可は不要となりました。  

 農地の「特定遺贈」が法定相続人以外に行われた場合については、農業委員会の許可が必要です(遺言執行者は単独で申請することができます)。農業委員会の許可を停止条件とする停止条件付遺贈となります。登記には許可指令書(農業委員会の許可書)の添付が必要です。 

 

 農地法3条の許可申請は、受遺者と相続人全員とで共同申請する必要があります(又は受遺者と遺言執行者とで申請する)。したがって、相続開始時に相続人の協力が得られないことが予想されるときは、あらかじめ遺言執行者を指定しておくことをおすすめします。  

 

(イ) 動産  

 動産は、相続を受けるべき者又は受遺者に引き渡します。「一定量の不特定物」の場合は、遺産の換金を行うなどして物件を調達し受遺者に引き渡します。「現金(手許現金以外)」の場合は、預金の払い戻し、又は遺産の換金を行うなどして、相続を受けるべき者又は受遺者に支払います。

 

(ウ)債権  

 債権は、債権を移転させる手続き。遺贈の目的物が「指名債権」のときは、債権者に対し通知をするか、債権者の承諾を得るかしなければなりません。

①「預貯金」の場合は、通帳その他証書の引き渡し。相続させる旨の遺言の対象が預貯金の場合は、遺言執行者は、払い戻しの請求、解約の申し入れをすることができます。

 

② 「株式」の場合は、株主名後の名義書き換えを行う必要があります。

 株券発行会社における名義書き換えは株券の提示によって行うこととされています。

 株券発行会社の株式でも振替株式でもない株式の名義書き換えは、相続人と受遺者との共同請求が原則となります。(遺言執行者は単独で行うことができる)

 譲渡制限株式の名義書き換えの場合は、会社に対し、株式を取得することについて承認の請求を行う必要があります。この請求は、相続人と受遺者との共同請求が原則となります。(遺言執行者は単独で行うことができる)

 

③ 「投資信託」の場合は、解約実行請求、解約金の受領を行う必要があります。この請求は、相続人と受遺者との共同請求が原則となります。(遺言執行者は単独で行うことができる)

 

④ 「ゴルフ会員権(預託金会員制)」の場合は、名義書き換え等を行う必要があります。

民法1014条(特定財産に関する遺言の執行)

2.遺産の分割の方法の指定として遺産に属する特定の財産を共同相続人の一人又は数人に承継させる旨の遺言(以下「特定財産承継遺言」という。)があったときは、遺言執行者は、当該共同相続人が第八百九十九条の二第一項に規定する対抗要件を備えるために必要な行為をすることができる。

3.前項の財産が預貯金債権である場合には、遺言執行者は、同項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申入れをすることができる。ただし、解約の申入れについては、その預貯金債権の全部が特定財産承継遺言の目的である場合に限る。

4.前二項の規定にかかわらず、被相続人が遺言で別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

 

民法8994条の2(共同相続における権利の承継の対抗要件)

1.相続による権利の承継は、遺産の分割によるものかどうかにかかわらず、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない。

2.前項の権利が債権である場合において、次条及び第九百一条の規定により算定した相続分を超えて当該債権を承継した共同相続人が当該債権に係る遺言の内容(遺産の分割により当該債権を承継した場合にあっては、当該債権に係る遺産の分割の内容)を明らかにして債務者にその承継の通知をしたときは、共同相続人の全員が債務者に通知をしたものとみなして、同項の規定を適用する。

 

「手形」の場合は、裏書及び引き渡し。「株式」の場合は、引き渡し。株券不発行会社の場合は、株主名簿記載事項を株主名簿に記載することを請求。

「一定量の有価証券」の場合は、遺産の換金を行うなどして調達し、受遺者に引き渡します。  

 

(エ) 遺贈の目的物が「相続財産に属しない権利」の場合は、遺言の内容を実現するために必要な手続きをしなければなりません。

 

(3)財産の寄付、財団法人設立のための寄付行為

(4)信託の設定  

(5)生命保険の死亡保険金受取人の指定・変更    

 

4. 遺言執行の費用

 

① 遺言の検認手続きの費用

 

民法1004条(遺言書の検認)

1遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。

2前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。

3封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。 

 

② 財産目録の作成費用

 

民法1011条(相続財産の目録の作成)

1.遺言執行者は、遅滞なく、相続財産の目録を作成して、相続人に交付しなければならない。

2.遺言執行者は、相続人の請求があるときは、その立会いをもって相続財産の目録を作成し、又は公証人にこれを作成させなければならない。

 

③ 相続財産管理費用

 

④ 訴訟費用

 

⑤ 遺言執行者報酬 

 

ⅰ)遺言執行者報酬を遺言で指定しておくことができます。

ⅱ)遺言に定めがないときは、相続人との協議又は家庭裁判所の審判によります。

 

民法第1021条(遺言の執行に関する費用の負担)  

遺言の執行に関する費用は、相続財産の負担とする。ただし、これによって遺留分を減ずることができない。  

 

民法1018条(遺言執行者の報酬)

1.家庭裁判所は、相続財産の状況その他の事情によって遺言執行者の報酬を定めることができる。ただし、遺言者がその遺言に報酬を定めたときは、この限りでない。

2.第648条第2項 及び第3項 の規定は、遺言執行者が報酬を受けるべき場合について準用する。

 

民法648条条(受任者の報酬)

1.受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。

2.受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第624条第2項の規定を準用する。

3.委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。 

 

5. 遺言執行の費用の負担者  

 

 遺言執行費用は相続財産の負担とされています。遺言執行費用は債務として相続財産から控除することができます。相続財産から遺言執行者報酬等遺言執行費用を除いた額を相続人で分配することになります。

 

6. 遺留分を侵害する遺言の執行

 

 民法改正前は、遺留分減殺請求がなされると、遺贈等は相続時に遡ってその効力を失うとされていました。したがって、遺留分を侵害する遺言執行は遺留分権利者の権利を侵害することとなることから、遺言執行に当たっては、遺留分減殺請求の意思の有無等について調べるなど、慎重に検討の上で執行する必要がありました。

 しかし、民法改正により、遺留分侵害額の請求は金銭的請求権が発生するだけに変更され、遺贈等の効力には影響しないこととされました。(令和元年7月1日より) 

 


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