遺言を書くにあたって内容面での注意事項

 あいまいな表現をしない、遺言条項間で矛盾・抵触しない、対象物(客体)を「特定」できる、受遺者が遺言者より前に又は同時に死亡した場合のことも考えられている、相続時、実際に財産を分けられる、遺産分割の余地を残さない、などの点に留意しながら、簡潔かつ明瞭に書きます。

 タマムシは背中に虹のようにメタリックな、緑と赤の縦じまが入っています。これは保護色で、天敵の鳥がキラキラする色を怖がる性質があるためともいわれています。

 タマムシの色は見る角度により変わることから、どのようにも解釈できるものごとの例えを玉虫色といいます。外交交渉では玉虫色の解決も見られたりしますが、遺言では厳禁です。


行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

似顔絵

 1. 相続人が解釈に迷うような、あいまいな表現はないか

 

 あいまいな表現だと、遺言者の真意がわからず、遺言が無効となる恐れがあります。

 相続人が解釈に迷うことのないよう、一義的、明快な表現で書くことが重要です。 

 

2. 遺言条項間で矛盾・抵触しないこと(一貫性・整合性)

 

 遺言条項間で矛盾・抵触する場合は、遺言者の真意が確定できないとして、いずれも無効とされるおそれがあります。

 

3. 対象物(客体)を「特定」できるか

 

 不動産、預貯金等については、客観的に特定可能で、解釈上疑義が生じないよう、対象物件を特定する記載が必要です。  

 

 全財産を相続させる遺言や包括遺贈の遺言であっても、不動産、預貯金等については、対象物件を特定する記載をすることによって、遺言執行を円滑に進めることができます。 

 

① 土地や建物等の不動産の場合

 

 土地や建物等の不動産は、特定できる程度に記載すれば、遺言の効力上は問題ありませんが、登記申請に必要となりますので、登記簿全部事項証明書(登記簿謄本)の通りに記載することをおすすめします。( 固定資産評価証明書の表記を転記しないこと) 

 

② 預貯金の場合

 

 預貯金等を複数の者にそれぞれ相続させ又は遺贈する場合は、「金融機関名・支店名」「口座の種類」「口座番号(証書番号)」を書き特定しておきます。「残高」は利息・利子などによって変動の可能性があるので書かないこともあります。

 預貯金を1人に相続させ又は遺贈する場合でも、存在を明らかにしておくため、「預貯金のすべて」と書かないで、金融機関名と支店名を記載し、「〇〇銀行〇〇支店の遺言者名義の定期預金全額」等と記載することもあります。 

 

③ 株券等の場合

 

 株式、公社債については、銘柄、証券番号、株数を書きます。

 株券等を1人に相続させ又は遺贈する場合でも、存在を明らかにしておくため、「株券等のすべて」と書かないで、「株式会社〇〇の株式〇〇株」等と記載することもあります。

 非上場の株式については、商号、本店所在地等を記載し特定します。 

 

④ 自動車の場合

 

 車体番号または登録番号を書き特定します。

 

⑤ 相続させる相手、遺贈する相手、第三者の特定の仕方

 

 相続させる相手については、氏名、遺言者との続柄、生年月日を記載します。 

 遺贈する相手については、氏名、生年月日、住所を記載します。住所は遺言の執行にあたっても有用な情報となります。 ただし、相続人については、遺言者との続柄を記載し、住所は書かないのが一般的です。 

 遺贈する権利の債務者については、氏名、住所を記載します。 

 

4. 受遺者が遺言者より前に又は同時に死亡した場合のことも考えられているか

 

 遺言で財産を相続させる(又は遺贈する)する相手(受遺者)が、遺言者より前に、又は、同時に亡くなった場合は、亡くなった相手にあげる予定だった部分は、代襲相続を除き無効となります。相続人全員で遺産分割協議をやらなければなりません。

 遺言で財産を相続させる(又は遺贈する)する相手(受遺者)が、万が一、遺言者より前に又は同時に死亡した場合に備え、かかる場合に、亡くなった人にあげる予定だった財産を誰に承継させるかを、予備的遺言(補充的遺言)として書くことができます。特に、相続させる相手が自分より年上、または同年齢の時は予備的遺言(補充的遺言)が必要です。    

 

 詳しくは 》予備的遺言(補充的遺言) をご覧ください。

 

5. 法定定遺言事項か付言事項か

 

(1) 法定定遺言事項 

 法定遺言事項(遺言書に書いて強制力即ち法的拘束力があるもの、すなわち相続人は遺言通り実行する義務があるもの)は以下の事項に限定されます。 

  

(ア) 相続人・相続に関すること

①相続人の廃除、相続人の廃除の取消

②相続分の指定、相続分の指定の第三者への委託

③遺産分割方法の指定、遺産分割方法の指定の第三者への委託

④遺産分割の禁止 

⑤遺産分割における相続人間の担保責任の指定

⑥負担付遺贈の受遺者が放棄した場合の指示

⑦負担付遺贈の目的物の価値が減少した場合の指示

⑧遺贈が遺留分を超えるときの「遺留分減殺方法の指定」 

 

(イ) 相続以外の財産処分に関すること

①遺贈

②財産の寄付、財団法人設立のための寄付行為

③信託の設定

④生命保険の死亡保険金受取人の指定・変更

 

(ウ) 身分に関すること

①子どもの「認知」

②未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定、財産管理のみの未成年後見人の指定

 

(エ) 遺言の執行に関すること

①遺言執行者の指定

②遺言執行者の指定の委託

③遺言執行者の報酬

④遺言執行者の復任権等

 

(オ) 解釈上遺言できるとされている事項

①特別受益の持ち戻し免除

②無償譲与財産を親権者に管理させない意思表示と管理者の指定 

③祭祀主宰者の指定(親族以外の者を指定することもできます) 

 

詳しくは 》 法定遺言事項 をご覧ください。 

 

(2) 付言事項とその活用

 

 法定遺言事項以外の事項については法的拘束力はありません。これを遺言中に記載する位置はその内容により異なります。

 相続人に対する指示等を内容とするものは本文中に条項として記載し、家族に対するメッセージ等は、遺言の末尾に付言の見出しを付けて記載するのが一般的です。

 

 相続手続きで相続人に一定の協力をお願いしなければならない場面もあります。不動産の移転登記や預貯金の払い戻しには、実印や印鑑証明が必要になる場合があります。自筆証書遺言の場合(法務局に保管した場合を除く) 、検認の申立には相続人全員の戸籍謄本が必要です。

 相続人の一部に不利な遺言をする場合は、その理由を付言事項に述べ、心情に配慮しておくことが円滑な相続のため必要です。 

 

 付言事項には相続人の気持ちに配慮し、相続人すべてに最後のメッセージを書きましょう。ただし、中傷、非難、人格攻撃はやめましょう。いたずらに相続問題を複雑にするだけです。   

 

詳しくは、 》 付言事項 をご覧ください。  

 

6. 相続時、実際に財産を分けられるか

 

 複数の相続人に対し割合を定めて相続させる遺言(相続分の指定)だと、相続時に相続人同士で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を取得するかを決める必要があります。預金相続の場合、遺産分割協議書が必要となることがあります。 

 遺産分割の指定は、実際に財産を分けられるよう、相続分の指定(あげる割合だけを指定)にとどめず、「誰々に何々を相続させる」といったように、具体的に「遺産分割の実行」まで指定することをおすすめします。 

 

 「相続人以外への包括遺贈」をする場合は、その遺贈分額を、誰が支払うか、その金額や支払方法を指示しておくことも必要です。 

 

 遺産の分割が不可能な場合(例えば、不動産が一か所のみで物理的に分けられない)や分割によって価値が著しく減少する場合は、代償分割*1もしくは換価分割*2を指示しておく必要があります。土地などを共有にして持ち分で分ける「共有」の指示が適当な場合もあります。

 

*1 代償金分割:相続人の一人に相続財産を未分割のまま取得させ、他の相続人には不足分を代償金として金銭で支払うこと。

*2 換価分割:相続財産を未分割のまま売却して現金で分けること。

 

 遺言で「換価分割の指示」や「代償金分割の指示」を行うことによって、遺贈の実質的な効果を変えることなく、相続手続きの軽減や不動産の売却手続きの手間や費用を軽減することが期待できます。 

 

詳しくは 》 遺言による遺産分割の指定 をご覧ください。  

 

7. 財産に漏れはないか、遺産分割の余地を残さない か

  

 財産の一部のみを相続させる遺言を作成することはできますが、記載されていない財産をめぐって争いになることが多い、と言われます。

 また、遺言書に記載がない遺産があると、未分割の遺産として、誰がどの財産を取得するか遺産分割協議する必要がでてきます。   

 

8. 「遺留分」は原則として侵害しない

 

 生きているうちは親の重しで抑えられていた不満が、親が亡くなった途端に噴出し、きょうだい間の争いに発展する、というのはよくある話しです。

 遺留分とは、遺言で遺贈した財産を、相続人が、法定相続分の一定の割合まで取り戻すことができる権利です。

 遺留分侵害額請求権は、一方的な意思表示だけで、遺留分侵害額に相当する金銭債権を生じさせる法的効力があるので、客観的にやむを得ないと思われる事情がある場合以外は、遺留分を侵害しない遺言を書く必要があります。

 

 民法改正により、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権に変更され、遺留分減殺請求によって生ずる権利は金銭債権となりました。(遺留分減殺請求によって対象財産が共有状態になるとされていたものが、遺留分侵害額に相当する金銭債権を生ずることに改められた) 

 

 ただし、事業承継の場合などでは、遺留分侵害もやむを得ません。 こうした場合は、法的な効力はありませんが、付言事項で理由を述べ、遺留分の放棄を促すなど、対策をよく検討し遺言することが必要です。 

 

詳しくは 》 遺留分を侵害する遺言をするとき をご覧ください。 

 

9. 相続人間で「公平」

 

 「きょうだい間は平等に分けるのが当たり前、同居して少しくらい面倒を見たからといって相続分に差をつける必要はない」と本音では思っている人も結構いるようです。

 また、子どもの間で相続分に差をつけると相続開始後感情的な対立が起こりがちともいわれています。

 しかしながら、介護をするなどやさしく世話をした人に多めに遺産をあげることは不平等とは言えません。むしろ、真の公平というものであると考えます。また、祭祀主宰者に多めに遺産をあげることも不平等ではありません。  

 また、後妻の子は、後妻が夫から相続する財産をいずれ相続することを考慮すれば、先妻の子と後妻の子の相続分が実質的に平等となる遺言は合理的と言えます。 

 ただし、子の間で財産の分け方に差をつけるときは、「付言事項」に理由を書くなどして、子どもの心情に配慮することが必要です。   

 

10. 時間の経過による遺産財産構成等の変化への対応

 

 時間の経過により財産構成は変わります。特に預貯金については、遺言書作成後の残高の変化により相続人間で紛議を招かないよう、遺言状作成時点の残高は書かかず、「全額」または「すべて」と記載することをおすすめします。 

 また、遺言を作った後、家を建て替えるなど財産の大きな変化があったら遺言書を書き直しましょう。

 

 相続させる又は遺贈する相手が、万が一、遺言者より先に亡くなってしまうなど、推定相続人等に変化があったら、遺言書を書き直すことをおすすめします。

 

 財産内容及び財産の評価額の変化、情況の変化や遺言者自身の心情の変化を考え、10年以上経過したら見直しを検討してください。  

 

11. 相続税を考えた遺言

 

(1) 相続税は1次相続2次相続トータルして考える

 

 遺言で遺贈するときは、節税を考え、1次相続と2次相続をトータルして相続税を試算してみましょう。

 特に、相続人に配偶者と同居の子、別居の子がいる場合は注意が必要です。

 「配偶者に対する税額軽減」を適用すべく、配偶者に自宅を遺贈するケースでは、配偶者が亡くなったあと(2次相続後)、同居の子が住み続けることが予想されるときは、同居の子は、2次相続時に別居の子に代償金を支払う必要があります。同居の子には代償金の支払い能力がないことが予想される場合は、配偶者は遺言で別居の子の相続分を減らすなどしておく必要があります。 

 

(2) 収益性の高い財産は配偶者ではなく子どもに遺贈する 

 

 自宅不動産など「値下がりしそうな財産」は、まず配偶者に遺贈しそこから子どもに遺贈する方が有利といえます。

 反対に、資産価値が上がりそうな財産は、直接子どもに遺贈する方が有利といえます。

 駐車場やアパート、上場株式など収益性の高い財産は子どもに相続させます。配偶者に相続させると毎年財産額が増え2次相続での財産額が増加するからです。 

 

注意事 項 ただし、節税よりも実際に財産を分けられるように遺産分割することが優先です

 

(3) 相続税納税資金対策を考える

 

 相続税の申告・納付は、亡くなってから10か月以内です。遺言は相続人の相続税支払いを考え納税資金対策をたてておく必要があります。

 生命保険金は、受取人固有の財産となり、遺産分割の対象財産にはならないことから、相続税納税資金対策としては終身保険が最適といわれています(*)。

 また、保険金は受取人の印鑑証明書と戸籍謄本があれば数日で受け取れるという利点があります。

 なお、生命保険金を相続税の納税資金にする場合は、その旨を遺言に明記しておく必要があります。さもないと、受取人となっている相続人の特別受益と誤解され、争いになる恐れがあります。 

 

* 被相続人(契約者)が自分を被保険者とし、相続人の一人を保険金受取人に指定していた場合。

 

相続税の節税については 》 相続税節税のポイント をご覧ください。

 

(4) その他相続時の税に関し注意すべきこと

 

 兄弟姉妹、甥・姪などへの遺贈は、法定相続人であっても、基本相続税額の二割増しです。 

 孫への遺贈など法定相続人でない者への遺贈も、贈与税ではなく相続税でが、本来の相続税額の二割増しです。  

 

 なお、財産を取得したものが法人の場合は、相続税ではなく法人税です。 

 

12 前に書いた遺言の内容を変える遺言

 

 前の遺言の全部又は一部を生かしたいと思っても、複数の遺言が存在すると、日付の古い遺言は撤回したと解釈される恐れがあります。複数の遺言があると遺族間でもめる原因になります。 

 遺言の内容を変えるときは、新たに遺言を書き直し「前の遺言の内容を取り消す」という趣旨の文言を入れ、古い遺言は処分するのが、一番明快で問題が起きにくい方法です。

 

 詳しくは 》 遺言を変更する をご覧ください。 

 

 


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