遺言による遺産配分のポイント

□ 遺言による遺産配分のポイントは、①遺族間に争いが起こらない ②実際に財産を分けられる ③節税 ④相続税納税資金を確保する ⑤相続の手続きが簡単 ⑥状況変化を想定する、です。 

 

 その他、①遺留分は基本的に侵害しない ②残された家族の生活を考慮する ③その遺産はどう使われるのがベストかを考え配分する ④具体的に分割方法まで指定する、が挙げられます。 

 

□ 遺産分割の指定は、可能であれば、「相続分の指定」にとどめず、具体的に遺産分割の実行まで指定します(遺産分割の実行の指定とは「どの財産を誰に相続させるか指示すること」)

 

□ 遺産の分割が不可能、あるいは分割によって価値が著しく減少する場合は、「換価分割」を指示します。

 

□ 不動産の共有は、相続後、①すぐ売却する場合②居住用の土地に適用される相続税の特例の要件を満たすため配偶者と子に共有で相続させる場合などを除き避けます。 

 

□ 相続人の間に争う余地を残さないため、遺産分割で相続財産に漏れがないように遺言する。 

 


行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1⃣ 遺族間に争いが起こらない遺産配分

 

1. 遺留分は原則として侵害しない

 

 遺留分とは、遺言で遺贈した財産を、相続人が、法定相続分の一定の割合まで取り戻すことができる権利です。

 民法改正(30.7.13公布、この部分は令和元年7月1日施行)により、遺留分減殺請求権から遺留分侵害額請求権に変更されました。遺留分減殺請求によって生ずる権利は金銭債権となりました(遺留分減殺請求によって対象財産が共有状態になるとされていたものが、遺留分侵害額に相当する金銭債権を生ずることに改められた)

 なお、遺留分侵害額請求権は遺留分減殺請求権と同じく形成権であるとされています(権利者の一方的な意思表示により法律関係の変動を生じさせる権利)

 遺留分侵害額請求権は、一方的な意思表示だけで遺留分侵害額に相当する金銭債権を生ずる法的効力があるので、遺留分を侵害しないよう遺言を書く必要があります。

 ただし、主な財産が住んでいる土地建物の場合は、夫が亡くなった後も妻がそこに住むときは遺留分侵害もやむを得ません。 こうした場合は、対策をよく検討し遺言することが必要です。 

 

 注意事 項 民法改正(30.7.13公布)により、「配偶者居住権」が創設されました。「配偶者居住権」とは、配偶者が相続開始のときに住んでいる建物に、亡くなるまで無償で住み続けることができる権利です。遺産分割において、自宅は配偶者が「配偶者居住権」を取得して引き続き住み、子どもは負担付所有権を取得する、という分け方ができるようになります。配偶者居住権は遺言で遺贈することもできます。

 これまでは、配偶者は、家を相続すると預貯金などはあまり相続できませんでしたが、これからは、住んでいる家を「配偶者居住権」で取得させることによって、配偶者居住権は所有権よりも評価額が低いことから、その分預貯金を多く相続することができます。 合わせて 「配偶者短期居住権」も創設され、配偶者が相続開始の時に居住していた建物に遺産分割が終了する(最低6か月間は保障)まで無償で使用できます。

 

*:配偶者居住権は相続する権利ではなく、遺言や、遺産分割協議による法定相続人の合意、家庭裁判所による遺産分割の審判によって、被相続人の配偶者が取得する法定債権です。配偶者に一身専属的な権利であり、譲渡はできません。配偶者居住権(長期)では、存続期間が長期間に及ぶことから、第三者対抗要件としての登記が定められています。(施行;令和2年4月1日以降に開始した相続、遺言による遺贈は遺言書作成日付が令和2年4月1日以降のものについて適用されます。) 

 

 また、結婚期間が20年以上の夫婦間で行った居住用不動産の生前贈与・遺贈については、遺産分割の対象から除かれ、相続時に遺産として計算しなくてもよい(特別受益の持ち戻しをしない)ことになりました(これまでは、相続の時にこれも遺産に加えて相続分を計算する必要があった) (施行;令和元年7月1日以降に行った生前贈与、遺言による遺贈は遺言書作成日付が令和元年7月1日以降のものについて適用されます。) 

 

ポイント 詳しくは 》 遺留分を侵害する遺言をするとき をご覧ください。

 

 

2. 相続人間で公平な相続にする~子どもの間で差をつけたいとき

 

 子には公平に分けるのが原則です。子どもの間で相続分に差をつけると相続開始後感情的な対立が起こりがちです。先妻の子と後妻の子がいる場合は特に注意を要します。 

 ただし、介護をするなどやさしく世話をしてくれた人に多めに遺産をあげることは不平等とは言えません。祭祀主宰者に多めに遺産をあげることも不平等ではなく、真の公平といえましょう。

 また、後妻の子は、後妻が夫から相続する財産をいずれ相続することを考慮すれば、先妻の子と後妻の子の相続分が実質的に平等となるような遺言は合理的と言えます。 

 いずれにしても、子どもの間で財産の分け方に差をつけるときは、「付言事項」に理由を書くなど、子どもの心情に配慮することが必要です。子どもが本当に欲しているのは平等な遺産ではなく平等な愛情だ、とも言われます。付言により事情が判れば理解してくれることと思います。

 

 

 3. 遺産分割の余地を残さない遺言~相続財産の漏れをなくする~

 

(1)すべての遺産について遺産分割方法を指定する 

  

 遺言に漏れている財産があると、それは原則として「法定相続」となり、場合によっては、誰がどの財産を取得するか、遺産分割協議する必要があります。

 財産の一部のみを相続させる遺言を作成することはできますが、記載されていない財産をめぐって争いになることが多く、そのような遺言書は避けましょう。

 遺産分割で相続人の間に争う余地を残さないため、遺言ですべての遺産について遺産分割方法を指定します。

 

ポイント 遺言(文例)

 

 遺言者は、遺産を次の割合で分割するよう定める。

  妻 ○○○○ (昭和△△年△月△日生) 全不動産

  長男○○○○ (昭和△△年△月△日生) AB銀行の預金債権全て

  長女○○○○ (昭和△△年△月△日生) CD銀行の預金債権全て

  次女○○○○ (昭和△△年△月△日生) EF銀行の預金債権全て

 

 その余の財産は、妻〇〇〇〇に相続させる。 

 

 (あるいは)

 本遺言に記載がない一切の財産は妻〇〇〇〇に相続させる。

 

 

(2)特別受益(生前贈与)があるとき

 

 特別受益(生前贈与)については、相続人の間でも誰が何を贈与されたのか分からないことがあります。したがって、遺言者の意向として、遺産分割に際しては生前贈与を特別受益者の相続分から差し引いて欲しくないときは、遺言に「特別受益の持ち戻しを免除する」と明記する必要があります。

 これによって、生前贈与を、遺留分に反しない範囲内に限り、不問にすることができます。

 逆に、遺産分割時に、生前贈与を特別受益者の相続分から控除して欲しいときは、遺言に「生前贈与を相続財産に加える旨」明記する必要があります。

 

 ポイント 詳しくは 》 生前贈与があるときの遺言 をご覧ください。

 

 

(3)寄与分があるとき

 

 寄与分は遺産分割協議によってのみ決められるものであり、遺言に書いても法的拘束力はありませんが、遺言に書くことによって相続人同士の協議における判断材料となり、 争いを防ぐ心理的効果が期待できます。

 付言事項として、寄与の内容や経過をできるだけ具体的に記載すればより効果的でしょう。

 なお、遺言で確実に財産をあげたいのであれば、寄与分を考慮した遺贈をすべきです。

 

 民法改正(30.7.13公布)により、特別の寄与」制度が設けられ、「特別寄与料」として金銭を請求できるようにようになりました。しかし、特別寄与料を遺産分割協議で申し出るのは心理的に負担がある場合もあります。また、申し出ても認められるかどうかは不確実です。

 確実に財産をあげたいのであれば、遺言で寄与分を考慮した遺贈をすることが必要です。

 

注意事 項 現行では被相続人の息子の嫁等、相続人以外の親族が被相続人に対し無償の療養看護や労務の提供を行っても「寄与分」の請求はできませんでした(ただし、被相続人の息子が存命であれば、その寄与分として請求できた)

 民法改正(30.7.13公布)により「特別の寄与」制度が設けられ、「特別寄与料」として金銭を請求できるようになりました。具体的には、戸籍上の親族(配偶者、6親等内の血族、3親等内の姻族であり、子の配偶者はこの中に含まれる)が介護してきたときなどが該当します。 (施行;令和元年7月1日以降に開始した相続について適用)  

 

ポイント 詳しくは 》 寄与分・特別寄与制度 をご覧ください。

 

 

(4)死亡退職金があるとき

 

 会社の規程等で、死亡退職金が相続の対象になることを確認したうえで、死亡退職金を相続させる遺言を書くことをおすすめします。

 

ポイント 詳しくは 》 相続財産(遺産分割の対象財産) をご覧ください。

 

 

4. 息子等が親の土地の上に家を建てている

 

 生前に敷地を分筆したうえで敷地を相続させる遺言を書くことをおすすめします。

 

 

5. 付言事項を活用する

 

 他の相続人に相続手続きで一定の協力をお願いしなければならない場面も想定されます(不動産の移転登記や預貯金の払い戻しに実印や印鑑証明が必要になる場合があります。自筆証書遺言の場合、検認の申立には相続人全員の戸籍謄本が必要です)

 不利な遺言をされた相続人がいる場合は、付言事項に不利な遺言をした理由を述べ、不利な遺言をされた相続人の心情に配慮しておくことは、円滑な相続につながることが期待できます。

 

 

6. 遺言書を書いたことを相続人にオープンにしておく

 

 自分に不利な遺言をされた相続人は、理由をさがして無効を主張することがあります。 そのとき理由として使われるものとして、①「筆跡が違う」(遺言書の偽造・変造)、②方式違反、③認知症で遺言できる状況ではなかった(遺言能力の欠如)、④遺言者に対する詐欺・強要(取消事由)などがあげられます。遺言書を「書いたこと」を相続人にオープンにしておくことは、争族の防止につながります。

 


2⃣ ①実際に財産を分けられる、②節税(節税よりも実際に財産を分けられるようにすることが優先です)、③相続税納税資金の確保

 

1. 実際に財産を分けられる遺言~遺産分割の指定は「相続分の指定」にとどめず、具体的に遺産分割の実行まで指定します~

 

 遺言による遺産分割の指定が相続分の指定(あげる割合だけを指定)だと、相続時に相続人同士で遺産分割協議を行い、誰がどの財産を取得するかを決める必要がでてきます。

 遺産分割の指定は「誰に何を相続させる」といったように、具体的に「遺産分割の実行」まで指定しておきます。

 

 複数の相続人に対し割合を定めて相続させようとする遺言は、預金相続で遺産分割協議書が必要となることもあります。

 

 「相続人以外への包括遺贈」をする場合は、その遺贈分額を、誰が支払うか、その金額や支払方法を指示しておくことも必要です。

 

 

2. 実際に財産を分けられる遺言~遺産分割の実施方法の指定~

 

 遺産分割の実施方法の指定とは、代償分割、換価分割、共有を指示することです。①遺産の分割が不可能、②分割によって価値が著しく減少する場合には、換価分割(相続財産を未分割のまま売却して現金で分けることを指示しておく必要があります。 

 その他、代償金分割(相続人の一人に相続財産を未分割のまま取得させ、他の相続人には不足分を代償金として金銭で支払う)の指示や、「共有」の指示が適当な場合もあります。(土地などを共有にして持ち分で分ける場合) 

 遺言で「換価分割の指示」や「代償金分割の指示」を行うことによって、遺贈の実質的な効果を変えることなく、相続手続きの軽減や不動産の売却手続きの手間や費用を軽減することが期待できます。 

 

ポイント 詳しくは 》 遺言による遺産分割の指定 をご覧ください。

 

 

3. 遺言により遺贈する際は、1次相続2次相続をトータルして考える

 

 遺言で遺贈するときは、1次相続と2次相続をトータルして相続税を試算し、節税を考えて遺言します。

 特に、相続人に配偶者、同居の子、別居の子がいる場合は注意が必要です。

 「配偶者に対する税額軽減」を適用するため配偶者に自宅を遺贈するケースでは、同居の子があり2次相続後も住み続けることが想定される場合は、2次相続時に同居の子は別居の子に代償金を支払う必要がでてきます。同居の子に代償金の支払いが困難と予想される場合は、配偶者は、遺言で別居の子の相続分を減らしておく必要があります。

 

 

4. 相続税の節税、納税資金を考える

 

 相続税を試算し、節税や納税資金を考えて遺言します。 

 生命保険金を相続税の納税資金にする場合は、その旨を遺言に明記する必要があります。そうしないと、受取人となっている相続人の特別受益と誤解され、争いになる恐れがあります。 

 

 ポイント 詳しくは 》 相続時の税と節税のポイント をご覧ください。


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