遺言で特別受益(生前贈与)の持戻を免除する


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埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 遺言で、特別受益(生前贈与)の持戻を免除することができます

 

 特別受益(婚姻・養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与)を、遺産分割時に特別受益者の相続分から差し引いて欲しくないときは、「特別受益の持戻の免除」の意思表示を遺言で行うことができます。

 

 遺言で特別受益の持戻を免除することによって、特別受益(生前贈与)を遺留分に反しない範囲内において不問にすることができます。

  ただし、特別受益の持戻の免除の意思表示を行っても遺留分の算定の基礎となる財産には算入しますから、遺留分を侵害する持戻免除は後日否定される恐れがあります。

 

 逆に、遺産分割時に、特別受益(生前贈与)を特別受益者の相続分から「必ず」控除して欲しいときは、 遺言で特別受益(生前贈与)を相続財産に加える旨を明記します。

 

 遺言で特別受益の持戻免除の指示をする場合は、生前贈与については相続人の間でも必ずしも誰が何を生前贈与されたのか分からないことがあるので、特別受益の存在を遺言に書いておくことをおすすめします。(遺留分算定のためにも(*))

 

 *「特別受益」に該当する生前贈与を遺留分算定の基礎となる財産に算入することについては、民法改正前は遡及期間は無制限だったが、改正より、被相続人の死亡前10年間に贈与されたものに限定された。(死亡10年前の日より過去に贈与されたものは算入しない。)

特別受益の持戻の免除

 

 遺産分割をするにあたっては、被相続人から結婚のときの持参金や生計の資本として財産をもらった人は、遺言に何も書いてなければ、特別受益の持ち戻しとして、法定相続分から差し引かれます。 

 一方、特別受益には、生前贈与、遺言による「遺贈」、「相続させる遺言」による財産継承がありますが、遺言で、遺産分割をするにあたっては特別受益をその人の相続分から差し引かないように(特別受益の持ち戻しを免除する)との指示をしておくことができます。

 これにより、特別受益の持ち戻しは不問とされますが、遺留分の計算、遺留分減殺請求には影響しません。特別受益は遺留分減殺請求の対象財産のままです。

 なお、この意思表示は明示でも黙示でも可能とされていますが、相続人間で紛議にならないよう遺言で明示することをおすすめします。 

 また、婚姻期間20年以上の夫婦間で住宅や住宅取得資金の贈与が行われた場合には、2千万円まで非課税とする「贈与税の配偶者控除」の特例規定がありますが、これ適用して贈与した財産でも、贈与者の死亡後は、特別受益となり持ち戻しをします。 

 

 注意事 項 民法改正(30.7.13公布)により、結婚期間が20年以上の夫婦間で行った居住用不動産の生前贈与・遺贈については、遺産分割の対象から除かれ、相続時に遺産として計算しなくてもよい(特別受益の持ち戻しをしない)ことになりました(これまでは、相続の時にこれも遺産に加えて相続分を計算する必要があった)。(令和元年7月1日施行。改正法は令和元年7月1日以降に行った生前贈与、遺言による遺贈は遺言書作成日付が令和元年7月1日以降のものについて適用されます。) 

 

 

民法903条(特別受益者の相続分)

1 共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。

2 遺贈又は贈与の価額が、相続分の価額に等しく、又はこれを超えるときは、受遺者又は受贈者は、その相続分を受けることができない。

3 被相続人が前2項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。 

4 婚姻期間が二十年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、その居住の用に供する建物又はその敷地について遺贈又は贈与をしたときは、当該被相続人は、その遺贈又は贈与について第1項の規定を適用しない旨の意思を表示したものと推定する。

 

2. 特別受益とは

 

  特別受益とは、一部の相続人が受けた「生前贈与」や遺言による遺贈などの利益をいいます。 

 特別受益の持戻とは、遺産分割にあたって、特別受益(生前贈与)を受けた相続人や、遺言による遺贈を受けた相続人の取り分を減らすことをいいます。 

 

(具体的に特別受益には何があたるのか・・・何が特別受益かは民法に定められています)

 

① 結婚や養子縁組のためになされた贈与

 

 高額の新婚旅行費等や、持参金・支度金は、額が少額であり扶養の一部と認められる場合を除いて、一般的には特別受益にあたります。

 

(結婚式・披露宴の費用は除きます)

 結納金・挙式費用は、婚姻のための親からの贈与というよりは、結納の相手方である親に対する贈与、あるいは、挙式に際しての親自らの利益のために支出した契約費用とみるのが相当であるから、一般に特別受益にあたらないと解されています。

 

② 生計の資本としてなされた贈与

 

 遺産の前渡しという意思が推測できるものに限られます。小遣いや誕生祝い程度の贈与や、単に生活の援助を受けた場合は除きます。

 

(ⅰ) 独立開業資金を出してもらう等商売への資金援助 

(ⅱ) 住宅の新築資金や土地の贈与 

    住宅建設のための土地の贈与は特別受益にあたります。

 

(ⅲ) 特定の子だけに対する留学費や多大な高等教育の学費(例:一人だ

   け医学部に進学した)  

    普通教育以上の学資は、親の資産、社会的地位を基準とすれば、そ

   の程度の高等教育をするのが普通だと認められる場合には、そのよう

   な学資の支出は親の負担すべき扶養義務の範囲内に入るものとみな

   し、それを超えた不相応な学資のみが特別受益となると考えられてい

   る(大阪高裁決平成10年12月6日)。

    相続人全員が大学に進学し、ほぼ同額の受益を受けている場合に

   は、特別受益として考慮しないとされる。

 

(ⅳ) 農業者における農地の贈与などの生前贈与 

(ⅴ) 生活のための相当額の現金の生前贈与

    生活のための相当額の現金の生前贈与は、「生計の資本として」の

   贈与として特別受益にあたる。

(ⅵ) 生活費貸与分の債務免除

    生活費貸与分の債務免除は、「生計の資本として」の贈与として特

 

   別受益にあたるとされる。

(ⅶ) 借金の肩代わりをしてもらった  

(ⅷ) 孫に対する大学入学相当額の生前贈与

     孫等、法定相続人でない者に対する生前贈与は特別受益にあたらな

   いが、孫に対する大学入学相当額の生前贈与は、法定相続人である、

   孫の親の扶養義務を援助するする生前贈与として、特別受益にあたる

   とされる。 

 

(参考文献:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.80‐84頁)

 

3. 特別受益の持戻

 

 「特別受益の持戻」とは、遺産分割にあたって、相続人が受けた生前贈与、又は、遺言による遺贈を遺産分割の計算の基となる相続財産に加えることをいいます。(民法903条1項)

 特別受益の持戻によって、生前贈与を受けた相続人や、遺言により遺贈を受けた相続人は、遺産分割による取り分が減少します。 

 

4. 特別受益の持戻しの免除(生前贈与などを遺産に加えないよう指示すること) 

 

 遺産分割時に、特別受益(生前贈与:婚姻・養子縁組のための贈与、生計の資本としての贈与)を特別受益者の相続分から差し引いて欲しくないときは、遺言で「特別受益の持戻免除の指示(特別受益を遺産に加えないことの指示)」をすることができます。(民法903条3項)

 特別受益の持戻の免除によって、特別受益(生前贈与)を、遺留分に反しない範囲内において、不問にすることができます。

 被相続人が遺言で特別受益の持戻免除をしたときは、相続時、遺産分割にあたっては特別受益の持戻はしません。  

 ただし、遺留分制度の趣旨から、特別受益の持戻免除の意思表示を行っても遺留分の算定の基礎となる財産には算入します。(遺留分を侵害する持戻免除は後日否定される恐れがある)

 

 特別受益の持戻免除の指示は、口頭や黙示での意思表示も有効とされますが、相続人間で紛議にならないよう、遺言で明示することをおすすめします。  

 

5. 特別受益の持戻免除の遺言文例

 

【文例1】 生前贈与 

 遺言者は、これまで長男〇〇〇〇、長女〇〇〇〇、次女〇〇〇〇にした生前贈与による特別受益持戻については、これをすべて免除する。 

 

【文例2】生前贈与 

 遺言者は、長男〇〇〇〇(昭和△△年△月△日生)に対し、令和〇年〇〇月〇〇日に行った〇〇〇万円の生前贈与ついて、特別受益としての持戻を免除し、相続財産の算定にあたっては同贈与の価格を相続財産に算入せず、同人の相続分から控除しないものとする。

 

【文例3】 生前贈与 

「遺言者は、長男〇〇〇〇(昭和△△年△月△日生)に、昭和△△年△月に住宅資金として援助した〇〇〇万円については、相続財産の算定に当たっては、長男の家計の状況を考慮し、持戻を免除する。」

 

【文例4】 遺贈 

「遺言者は、長男〇〇〇〇(昭和△△年△月△日生)に対して現金〇〇〇万円を相続させる。 

 遺言者は、遺言者の相続に関し、相続財産の算定に当たっては、長男の家計の状況を考慮し、前条記載の遺贈については持戻を免除する。」

 

【文例5】遺贈 

「遺言者は、長男〇〇〇〇(昭和△△年△月△日生)に対して現金〇〇〇万円を相続させる。  

 遺言者は、遺言者の相続に関し、この相続はその余の遺産分割には影響を与えないものとする。」

 

6. 特別受益の持戻をするように、との指示

 

 逆に、遺産分割時に、特別受益(生前贈与)を特別受益者の相続分から「必ず」控除して欲しいときは、 遺言で特別受益を相続財産に加える旨を明記することをおすすめします。

 

(特別受益の持戻をするように指示する遺言文例)

 

【文例】  

 「遺言者は、これまでに長女〇〇〇〇(昭和△△年△月△日生)の婚姻に際して、〇〇〇万円を援助しているので、この金額を民法第903条による持戻計算をするものとする。」

 

7. 「付言事項」に、特別受益を考慮して遺言を作成したことを明記する 

 

 遺言で特別受益の持戻免除の指示をする場合は、生前贈与については相続人の間でも必ずしも誰が何を生前贈与されたのか分からないことがあるので、付言事項に特別受益を考慮して遺言を作成したことを明記することをおすすめします。

 

8. 当然に、特別受益の持戻が不問となるとき 

 

 生前贈与したものが、天災や他人の行為などでなくなったり、壊れたりした場合には、特別受益の持戻はしません。

 ただし、 もらった者に責任のある行為でなくなったり、壊れたりした場合には、貰ったままの状態で存在するものとして、時価で評価し「みなし相続財産額」に算入します。(民904条)  


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