□ 法定遺言事項=遺言書に書いて強制力即ち法的拘束力があるもの(相続人は遺言通り実行する義務があるもの)は以下の事項に限定されます。
(1)相続人及び相続に関すること
①相続人の廃除、相続人の廃除の取消 *生前行為でもできます。
②相続分の指定、相続分の指定の第三者への委託
③遺産分割方法の指定、遺産分割方法の指定の第三者への委託
④遺産分割の禁止
⑤遺産分割における相続人間の担保責任の指定
⑥負担付遺贈の受遺者が放棄した場合の指示
⑦負担付遺贈の目的物の価値が減少した場合の指示
⑧遺贈が遺留分を超えるときの「遺留分減殺方法の指定」
(2)相続以外の財産処分に関すること
①遺贈
②財産の寄付、財団法人設立のための寄付行為 *生前行為でもできます。
③信託の設定 *生前行為でもできます。
④生命保険の死亡保険金受取人の指定・変更 *生前行為でもできます。
(3)身分に関すること
①子どもの「認知」 *生前行為でもできます。
②未成年後見人の指定、未成年後見監督人の指定、財産管理のみの未成年後見人の指定 ※ 遺言でのみ指定することができます。
(4)遺言の執行に関すること
①遺言執行者の指定
②遺言執行者の指定の委託
③遺言執行者の報酬
④遺言執行者の復任権等
(5)解釈上遺言できるとされている事項
①特別受益の持ち戻し免除
②無償譲与財産を親権者に管理させない意思表示と管理者の指定
③祭祀主宰者の指定 ※ 親族以外の者を指定することもできます。
行政書士は街の身近な法律家
埼玉県行政書士会所属
行政書士渡辺事務所
行政書士・渡邉文雄
1. 相続人及び相続に関すること
(1) 相続人の廃除及び相続人の廃除の取り消し
ア、相続人の廃除
暴力をふるう、暴言を吐くなど素行の悪い者は、遺言で相続人から廃除できます。ただし、遺言者の死後、家庭裁判所で認められた場合のみ廃除となります。
必ずしも遺言書に相続人廃除の理由の記載をしなくてもよいとされていますが、審判では相続人廃除は簡単には認めらない情況がありますので、相続人廃除が客観的に正当とみなされるよう、遺言書に廃除理由を要約して具体的に書く必要があります。
審判例の多くは、相続人廃除の理由について、家庭的共同生活関係を破壊する行為に該当するか否か、もしくは現に家庭的共同生活関係が破壊されているか否かを基準にしています。
遺言書の廃除の理由の記載は、暴力を伴う虐待でケガをして病院で治療を受けたこと、暴力や侮辱を受けた年月日、暴力や侮辱の詳しい内容、その事実を知っている人の住所・氏名など具体的に書くことをおすすめします。
廃除された場合、その者の子が 》 代襲相続 します。
イ、相続人の廃除の取り消し
相続人廃除は被相続人の意思でいつでも取り消すことができます。理由は一切問われません。「相続人の廃除の取り消し」は、家庭裁判所に「相続人廃除取消請求の申し立て」を行います。
生前に家庭裁判所に申し立て「相続人の廃除」をしていた(生前廃除)が、事情が変わったので、遺言で相続人に戻すこともできます。
遺言で相続人から廃除したが、事情が変わったので、新たな遺言で廃除を取り消すものは、相続人の廃除の取り消しではなく、遺言の撤回です。
□ 詳しくは、》 遺言で相続人を廃除する をご覧ください
(2) 「相続分の指定」・「相続分の指定の第三者への委託」
ア、相続分の指定
相続人の相続分は民法で定められており、この相続割合を 》「法定相続分」 といいます。
ただし、遺言で相続割合(誰にどのくらい遺産をあげるか)を指定できます。遺言で指定した相続割合のことを 「指定相続分」といいます。
遺言による指定相続分は法定相続分と同じにしても変えても自由です。遺言による指定相続分は法定相続分に優先します。
遺言による相続分の指定の方法として、相続財産の種類(不動産、動産、株式など)を指定したり、特定の相続財産を指定しても、それが相続財産全体に対する割合を表していれば「相続分の指定」とみなされます。
特定の相続人について「相続財産」と「指定した相続財産」を合わせた価格が当該相続人の法定相続分を超えるときは、「相続分の指定を含む遺産分割方法の指定」と解されています。
指定相続分が他の相続人の 》 遺留分 を侵害しているときは、他の相続人は 》 遺留分減殺請求 ができます。
相続分の指定は一部の相続人に対してだけ指定することもできます。(指定を受けなかった相続人は法定相続分となります)
※ 遺言の趣旨の解釈に疑義が生じないよう、全員に対し指定することをおすすめします。
「相続分の指定」文例
「遺言者は、その所有する財産全てを次の割合で次の者たちに相続させる。
妻 ○○○○ (昭和△△年△月△日生) 4分の3
長男○○○○ (昭和△△年△月△日生) 4分の1
イ、相続分の指定の委託
相続人同士の話し合いでは遺産分割がスムーズにゆきそうもないと思われるときは、遺言で配分方法の指定を委託(相続分の指定を委託)することができます。
相続分の指定の委託を受けることができるのは、相続に利害関係を持たない者のみです。相続人、包括受遺者は、相続分の指定の委託を受けることができません。 (大高決S49)
受託者が相続分を指定する場合、遺留分を侵害することはできません。
指定された者が委託を拒絶した場合及び、指定できないときは指定の委託は効力を失います。(その場合、相続分は法定相続分の規定に従います)
(3) 「遺産分割方法の指定」・「遺産分割方法の指定の第三者への委託」
ア、遺産分割方法の指定
遺言で、「土地Aは長女に、土地Bは次女に」 というように、どの遺産を誰にあげるか、あげる物とあげる人を指定することができます。
生命保険金は、被相続人(契約者)が自分を被保険者とし、受取人に「相続人」を指定していた場合は、保険金は受取人の固有財産とされます。この場合、遺言による遺産分割方法の指定(遺産の分け方の指定)の対象財産にはなりません。「遺言者(被相続人)」が保険金受取人でありかつ被保険者である場合に限り、遺言による遺産分割方法の指定(遺産の分け方の指定)の対象になります。
損害保険金の死亡事故保障保険金につきましても、生命保険の死亡保険金に準ずると思いますが、損害保険会社にご確認ください。
死亡退職金は、会社の規定で受取人の指定がある場合は、もらう人の固有財産になり、相続財産にはあたらないと判断されています。この場合、遺言による遺産分割方法の指定(遺産の分け方の指定)の対象財産には当たりません。会社の規定に受取人の指定がない場合限り、遺言による遺産分割方法の指定(遺産の分け方の指定)の対象になります。
遺言による遺産分割方法の指定(遺産の分け方の指定)の対象財産には当たらなくても遺言することはできます。ただし、強制力即ち法的拘束力(相続人は遺言通り実行する義務があるもの)はありません。
遺産分割方法の指定(遺産の分け方の指定)にあたっては、二次相続を含めた相続税や税優遇制度との関係を考えて指定することが重要です。
イ、遺産分割方法の指定の第三者への委託
相続人同士の話し合いでは遺産分割がスムーズにいかないと思われるときは、遺言で遺産分割方法の指定(どの遺産を誰にあげるかの指定)を専門家等に委託することができます。
遺産分割方法の指定の委託を受けることができるのは、相続に利害関係を持たない者に限られます。相続人や包括受遺者には委託できません。 (大高決S49)
指定の委託をした者が委託を拒絶した場合、若しくは指定できないときは指定の委託は効力を失います。
(4)遺産分割の禁止
遺言で5年を超えない期間を上限として、遺産分割の禁止を定めることができます。
例えば、農地の場合、分割すると家業の継続が困難になるとき、遺産分割の禁止を定めることがあります。ほかにも、相続人が若年であることから、一定期間遺産分割を禁止するといったこともあります。
ただし、遺言に遺産分割の禁止を定めても、相続人全員の合意があれば遺産分割できます。
なお、遺産分割の禁止を定める場合は、相続税との関係や、税優遇制度との関係に注意する必要があります。
また、遺言に遺産分割の禁止を定める場合、相続人の理解を得る必要があるときは、付言事項に遺産分割を禁止する理由を記載します。
(5)遺産分割における相続人間の担保責任(*)の指定
遺言でもらった財産に問題があるときは、他の相続人に相続分に応じて穴埋めを求めることができます。他の相続人には穴埋めをする義務があります。
遺産分割における相続人間の担保責任の指定とは、遺言でこの穴埋めをする義務(相続人間の担保責任)を排除、変更し、穴埋めする人(担保責任の負担者)を指定し、あるいは特定の者の負担を免除する意思表示です。
(*) 担保責任とは、次のような場合に他の相続人が補償をしなければならない責任をいいます。
①遺言である相続人が財産をもらったが、遺言者の所有でないことが判明した、②数量が不足している、③消滅していた、④破損などキズのある財産だった、⑤価値がなくなっていた、⑥債権をもらったものの債務者が無資力で支払い不能であることが判明した。
(6)負担付き遺贈の受遺者が放棄した場合についての指示
遺言で遺産を負担付きであげたが、受遺者が「いらない」と言って放棄した場合は、負担の利益を受ける者が自ら受遺者となることができます。
しかし、遺言で、これと異なる意思表示をしておくことができます。
(7)負担付き遺贈の目的の価値が減少した場合についての指示
負担付きであげた遺産の価値が、限定承認や遺留分を返せと言う請求などによって減ってしまった場合は、減少割合に応じて負担も減少しますが、遺言でこれと異なる指示をすることができます。
(8)遺贈が遺留分を超えるときの「遺留分減殺方法の指定」
遺留分割合の財産(法律で保証されている遺産の取り分)を貰えなかった相続人は、他の相続人に対して遺留分を要求できます( 》 遺留分減殺請求 )が、遺言で、遺留分を請求された場合はどの財産から支払うかについて指示をしておくことができます。つまり、遺言で、遺留分減殺を特定の者に免除してあげることができます。(遺留分減殺先の指定)。遺留分減殺を免除した者からは取り戻すことができません。
また、価格による弁償(*)にする、あるいは遺留分減殺の順序を預金や現金を先にするという定めもできます。
ただし、生前贈与と遺贈の順序を逆にするなど、民法の定める遺留分減殺の順序(遺贈→死因贈与→生前贈与の順)と異なる順序にはできません。
また、遺言で、価格による弁償にする、あるいは遺留分減殺の順序を定めることができます(例えば、預金や現金を先にするという定め)。ただし、民法の定める遺留分減殺の順序(遺贈→死因贈与→生前贈与の順)と異なる順序にはできません。
なお、遺留分減殺方法の指定をする場合は、その理由を、遺言の 》 付言事項 として書いておくなどの配慮が必要です。
(*) 価格による弁償;特定の財産を返す代わりに、お金で支払うこと(1041条))
2. 財産処分に関すること
(1)遺贈
遺贈とは、遺言で財産を、内縁の妻、孫、息子の嫁、友人など相続人以外にあげることをいいます。
遺贈により遺留分が侵害され、相続人が遺産から受ける利益の価額が遺留分額を下まわる場合は、遺留分を侵害された相続人は、その差額を限度として「遺留分減殺請求権」を行使できます。
なお、遺言で「相続人に貸与した金銭の支払債務を免除」してあげることは「遺贈」にあたります。
生活費貸与分の債務免除は、「生計の資本として」の贈与として特別受益にあたるとされる。(出典:NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版 81頁)
ア、負担付き遺贈
「負担付き遺贈」とは、遺贈をするにあたり、受遺者に法律上の義務を負担させることを言います。
遺贈をしないで、遺言で負担だけを課しても法的拘束力はありません。
なお、負担の履行がなくても遺贈の効力は生じます。ただし、相続人に取消請求権が発生します。
負担付き遺贈の例として、「 葬儀費用や遺言執行にかかる費用の負担者とその割合を指定」、「相続税の負担者を指定」、「債務、連帯保証人の相続」などがあります。
また、「配偶者の世話をすること」や「ペットの飼育」を負担とすることも可能です。
特定遺贈の場合は債務を承継しないので、遺言で負担を指定する必要があります。(包括遺贈では、受遺者は遺贈を受けた割合に応じて遺言者の債務を承継します)
イ、補充遺贈(予備的遺言)
「補充遺贈(予備的遺言)」は、遺贈の効力が発生しないことを停止条件とする第2の遺贈です。
遺贈する相手が遺言者より先(又は同時)に亡くなってしまうと、あげる予定の遺贈については無効となり(代襲相続がある場合を除く)、相続人による共有財産となりますが、誰に承継させるかについて予備的遺言(補充遺贈)をしておくことができます。
遺贈する相手が遺言者より先に亡くなってしまった場合は、遺言を書き直すのが基本ですが、遺言者が認知症になってしまった場合には書き直すことができません(書いても無効)ので、事情により、予備的遺言(補充遺贈)が必要です。
ウ、後継ぎ遺贈
後継ぎ遺贈とは、例えば、相続人である配偶者が亡くなった後、配偶者の相続人は、この財産を長男に移転しなければならない、といった、「負担付の遺贈」です。
後継ぎ遺贈には、この他に、例えば、配偶者の死亡を終期とする「期限付遺贈」あります。「期限付遺贈」の場合、後継ぎは相続人の行為を介せず当然に遺贈を受られます。
後継ぎ遺贈については、その有効性について確定判例がなく、また、批判的な見解が有力なところであるから、その効力が否定されるおそれがあることに留意されたい。(出典;NPO法人 遺言・相続リーガルネットワーク( 2017)『改訂 遺言条項例300&ケース別文例集』日本加除出版.168頁)
なお、仮に後継ぎ遺贈が民法上無効であるとしても、そのことは二次相続人が遺産分割を請求することができるということにとどまります。二次相続人が承認すれば遺言者の意思は実現できます。
「後継ぎ遺贈型遺言信託」
後継ぎ遺贈型遺言信託により、例えば、「自宅の敷地と建物を妻に相続させるが、妻が死亡したら子が受け継ぐこととする」といったように「順次財産を受け継ぐ者を指定する遺言」をすることができるようになりました。
上記のような紛議の余地をなくした遺言をしたい場合は、後継ぎ遺贈型遺言信託をおすすめします。これにより後継ぎ遺贈と同じ効果が期待できます。
(2) 「財団法人設立のための寄付行為」・「財産の寄付」
ア、一般財団法人の設立
遺言で定款の絶対的記載事項を定め、一般財団法人を設立する意思示ができます。
遺言により一般財団法人を設立する場合、遺言の効力発生後、遺言執行者が定款を作成し、公証人の認証を受け、財産の拠出の履行を行わなければなりません。したがって、遺言で遺言執行者を指定することが不可欠です。
イ、公的機関へ「寄付」
寄付とは、地方公共団体、学校、宗教団体、慈善施設その他の各種福祉団体等に対し、公益ないし公共の目的のために財産を譲渡することです。
相続に伴う税については、通常は、寄付を受けた者がが払います。個人であれば相続税が、法人であれば法人税が課税されます。ただし、国・地方公共団体、公益法人、認定NPO法人などは、相続税・法人税とも非課税です。
団体の正式名称、主たる事務所の所在地、法人格の有無、代表者等を調べ、寄付先の特定に欠けることのないよう注意します。
相続人がいる場合は、トラブルを防ぐため、遺留分への配慮が必要です。
土地や株式など現物財産を寄付する場合の注意
① 土地や株式など現物財産を寄付した場合、その寄付が公益の増進に著しく寄与するものであるなど一定の条件を満たさないときは時価で売却したとみなされ、寄付者(被相続人)に譲渡所得税が課されます。納税しなければならないのは相続人です。
② 不動産を含む全部遺贈の場合には、換価処分や維持管理費の問題があることから寄付の受領を拒否されるケースがあります。事前に寄付先に確認することが必要です。
③ 権利能力なき社団名義での不動産登記はできません。
(3)遺言信託(信託法)
遺言信託とは、遺言により信託を設定することであり、具体的には、遺言信託により信頼できる人に財産を移転し、信託目的に沿ってその財産の管理や処分などを行ってもらうことです。
遺言の記載事項は、契約による信託と同様であり、信託目的、管理処分方法、受益者、受託者などです。
信託目的としては、財産を、未成年の子や障がい者等のために管理してもらい、その財産から未成年の子や障がい者等に定期的に生活費を支給してもらうことなどがあります。
孫に、大学入学から卒業まで毎年150万円を支給してもらう、という信託の設定もできます。
財産管理や受益者の生活支援等はすみやかに行う必要があります。そのためには「遺言信託」は検認の必要がない公正証書遺言で作成することが望ましいと思います。
遺言書の保管等に関する法律(30.7.13公布)が成立し、法務局に自筆証書遺言を保管する制度が創設されます。この制度を使った場合、遺言書の「検認」は必要なくなります。(施行は令和2年7月10日)
(4)後継ぎ遺贈型遺言信託(信託法)
「後継ぎ遺贈型遺言信託」とは、被相続人の死後の受益者(例えば妻)の有する信託受益権(信託財産より給付を受ける権利)が、当該受益者(例えば妻)の死亡により、予め指定された者(例えば長男)に承継される旨の定めをした遺言信託のことをいいます。
後継ぎ遺贈型遺言信託は、遺言による信託でこれを設定することができます。
後継ぎ遺贈型遺言信託により、被相続人の死後、配偶者が亡くなったときの自宅(不動産)の帰属者を指定することができます。
なお、後継ぎ遺贈型遺言信託で遺留分を侵害する信託受益権の承継を定めた場合、受益者の死亡による受益権の承継時に遺留分減殺請求を受ける恐れがあります。
□ 》家族信託 》家族信託と任意後見、遺言の比較 も参考にご覧ください。
(5)生命保険の死亡保険金受取人の指定・変更(保険法)
遺言で「生命保険の死亡保険金受取人の変更」をすることができます。
遺言で保険証券に指定した生命保険の死亡保険金受取人を変更した場合、保険会社への通知をもって受取人変更の対抗要件とするとされています。したがって、被相続人の死後、遺言で変更した受取人が保険会社に連絡する必要があります。(ちなみに、受取人を指定していない場合は、相続人の一人が保険金の請求をします)
受取人変更が確実に行われるために、遺言で「遺言執行者を指定」しておくことをおすすめします。
なお、生命保険の死亡保険金については、遺言で受取人を指定していれば指定受取人の固有の財産となり、相続財産とはなりません。
※ 平成22年4月1日以前に以前に締結した生命保険契約の保険金受取人の変更についてその可否は各生命保険会社にお問合せ下さい。
3. 身分に関すること
(1)認知
子どもの「認知」は遺言でもできます。非嫡出子は父の認知によって父親と法律上の親子関係が生じ、財産を相続できるようになります。
□ 詳しくは、》 認知 をご覧ください。
(2)「未成年後見人の指定」「未成年後見監督人の指定」「財産管理のみの未成年後見人の指定」
未成年の子の後見人は、親権者の遺言で指定されていればその者がなり、指定されていなければ親族や利害関係者の請求によって家庭裁判所が選任します。
未成年後見人の権限が多岐にわたることから、その監視者を設けることができます。 この監視者のことを「未成年後見監督人」と言い、未成年後見人を指定することができる者が、遺言によってのみ指定することができます。
財産管理権を持っている者は、遺言で、「財産管理のみの未成年後見人」を指定することができます。
ただし、指定できるのは、いずれも被相続人が最後に親権を行う者である場合だけです。
親権者は遺言で未成年後見人、未成年後見監督人、財産管理のみの未成年後見人を指定することができます。未成年後見人、未成年後見監督人は遺言でのみ指定できます。
ひとり親の場合など、自分の死後、未成年者の親権者となるべき人がいなくなってしまう場合は、遺言で「未成年後見人」を指定しておくことができます。
ただし、もう一方の親は、家庭裁判所に親権者変更の申し立てを行うことができます。
4. 遺言の執行に関すること
(1)遺言執行者の指定
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する人のことをいいます。
遺言執行者には、配偶者、子ども(成人に限ります)、第三者のいずれも遺言で指定できます。
遺言執行者は、不動産の名義変更を、基本的にはひとりでできます。
遺言で、認知、相続人廃除、相続人廃除の取消をしようとする場合は、遺言執行者が届を提出するので、必ず指定しなければなりません。
遺言執行者は、遺言者の死亡後、就任を拒否することができます。したがって、遺言で遺言執行者を指定する場合は、予め本人の承諾を得ることをおすすめします。
(2)遺言執行者の指定の委託
遺言で、遺言執行者の指定を第三者に委託できます。
(3)遺言執行者の報酬
(4)遺言執行者の復任権等
5. 解釈上遺言できるとされている、強制力のある遺言事項
(1) 特別受益者の相続分の指示
ア、特別受益の持ち戻しの免除
遺産分割をするにあたっては、被相続人から結婚のときの持参金や生計の資本として財産をもらった人は、遺言に何も書いてなければ、特別受益の持ち戻しとして、法定相続分から差し引かれます。
一方、特別受益には、生前贈与、遺言による「遺贈」、「相続させる遺言」による財産継承がありますが、遺言で、遺産分割をするにあたっては特別受益をその人の相続分から差し引かないように(特別受益の持ち戻しを免除する)との指示をしておくことができます。
これにより、特別受益の持ち戻しは不問とされますが、遺留分の計算、遺留分減殺請求には影響しません。特別受益は遺留分減殺請求の対象財産のままです。
なお、この意思表示は明示でも黙示でも可能とされていますが、相続人間で紛議にならないよう遺言で明示することをおすすめします。
また、婚姻期間20年以上の夫婦間で住宅や住宅取得資金の贈与が行われた場合には、2千万円まで非課税とする「贈与税の配偶者控除」の特例規定がありますが、これ適用して贈与した財産でも、贈与者の死亡後は、特別受益となり持ち戻しをします。
民法改正(30.7.13公布)により、結婚期間が20年以上の夫婦間で行った居住用不動産の生前贈与・遺贈については、遺産分割の対象から除かれ、相続時に遺産として計算しなくてもよい(特別受益の持ち戻しをしない)ことになりました(これまでは、相続の時にこれも遺産に加えて相続分を計算する必要があった)。(令和元年7月1日施行。改正法は令和元年7月1日以降に行った生前贈与、遺言による遺贈は遺言書作成日付が令和元年7月1日以降のものについて適用されます。)
イ、特別受益の持ち戻しをするようにとの指示
前項とは逆に、その財産を「特別受益としてその人の相続分から差し引くようにとの指示」をしておくこともできます。
□ 詳しくは、》 特別受益持ち戻し をご覧ください。
(2)無償譲与財産を親権者に管理させない意思表示と管理者の指定
遺言で孫等未成年者に財産をあげる場合、あげた財産を親に管理させたくないときは、遺言で、無償譲与財産を親権者に管理させない意思表示と管理者の指定をし、親権者以外の者を財産管理者に指定することができます。
(3)祭祀の主宰者(祭祀財産承継者)の指定
祭祀の主宰者とは、葬儀の喪主をつとめたり、仏壇や墓などを引き継いで先祖の供養をする人です。
祭祀の主宰者は被相続人の指定により決まります。遺言で原則として1名指定します。親族以外の者を指定することもできます。祭祀の主宰者の指定は、口頭でも書面でもよいことになっています。 被相続人の指定がない場合は慣習に従います。
第897条(祭祀に関する権利の承継)
系譜、祭具及び墳墓の所有権は、前条の規定にかかわらず、慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者が承継する。ただし、被相続人の指定に従って祖先の祭祀を主宰すべき者があるときは、その者が承継する。
前項本文の場合において慣習が明らかでないときは、同項の権利を承継すべき者は、家庭裁判所が定める。
(4)相続準拠法の適用について
在日外国人が日本で遺言をする場合、成立及び効力とも日本法に従ったものにしたいときには、遺言で、準拠法として日本法を指定することが必要です。