□ 遺産分割協議書は財産を何も取得しない相続人も署名捺印します。
財産を何も取得しない相続人も遺留分減殺請求はできます(
遺産分割協議で遺留分は放棄していない)
遺産分割協議書に「相続分なし」と記載し「相続分の放棄」をしても、「相続放棄」とは効果が異なることに注意が必要です。負債や連帯保証人の地位は法定相続分に応じて引き継ぎます。債務を引き継がないためには「相続放棄」をすることが必要です。
□ 遺産分割協議書には、後日の紛争を予防するため、「相続人全員で協議した」という趣旨の文言をいれます。
□ 後日新たな遺産が見つかったときの対応についても記載しておきます(でないと、新たな遺産が見つかると再分割が必要となります)
□ 相続人が遠方にいて一堂に会して話し合うことが困難な場合は、書面の持ち回りで(転送しあって)遺産分割協議書に署名捺印(又は記名押印)することができます。
□ 遺産の分割は、遺産全部について一度で済ませてしまうのが簡明ですが、一部のみについて行うこともできます。(出典;小池信行(監修)・吉岡誠一(著)( 2015)『これだけは知っておきたい 相続の知識』日本加除出版.67頁)
1 遺産分割協議書の形式
① 遺産分割協議書は自筆による必要はありません。ワープロなどで作成できます。
② 遺産分割協議書には、作成年月日、被相続人の氏名・死亡年月日を記載します。
③ 相続人全員の住所(*1)、氏名(自署)(*2)を記載します。署名の後に実印(*3)を2か所並べて押印します。
各通とも印鑑証明書を添付します(相続登記をするときに必要)
*1 遺産分割協議書を不動産登記の原因証書にする場合は相続人の住所の記載が必要です(住民票・印鑑証明書のとおり記載します)
*2 氏名は自書でなくともよい(記名押印)とされていますが、証拠力の強い自署をおすすめします。
*3 印鑑は認印でも有効とされていますが、遺産分割協議書を不動産登記の原因証書にする場合は実印で押印する必要があります(印鑑登録証明書を添付) 押印2ケのうち1ケは捨印です。
④ 財産の価格を表す数字は、改ざんを防ぐため、漢数字(大字(だいじ))をおすすめします。
⑤ 財産を何も取得しない相続人も署名捺印する必要があります。
⑥ 2枚以上になる場合は、ホッチキス又は糊で長辺綴じにし、見開き状態にして中心線上に、2ページにまたがるように、相続人全員が実印で契印を押します。
⑦ 訂正する場合は訂正箇所の欄外に全員が訂正印を押します。
⑧ 遺産分割協議書は相続人の人数分作成し、各自1通ずつ保管します。
2. 遺言書と異なる内容の遺産分割協議書を作成するとき
遺言書と異なる内容の遺産分割協議書を作成するときは、後日の紛争を予防するため、「遺言の存在にかかわらずこれと異なる遺産分割協議をする」という趣旨の文言をどこかにいれます。
(例)
「なお、被相続人 ○○○○は、令和○○年○○月○○日付け自筆証書遺言を残しているが、同遺言の内容と異なる相続財産の分割をすることについて、同人の相続人全員が合意した。」
3. 代償分割があるとき
不動産などを多めに相続する人が他の相続人に現金を払う場合(代償分割)は、①誰が、②誰に、③何の代償として、④その金額、⑤支払方法、⑥いつまでに支払うか、⑦違反した場合の処置(ペナルティー)について記載します。
4. 相続人以外への包括遺贈があるとき
「相続人以外への包括遺贈」がある場合は、その遺贈分額を、誰が支払うか、その金額や支払方法を明確に書いておきます。
5. 最後の住民票の住所と不動産の全部事項証明書に記載されている住所が一致しないときだどうするか
相続登記の際には亡くなった方の最後の住民票の住所と不動産の全部事項証明書に記載されている住所が一致する必要があります。
一致の確認ができない場合は、遺産分割協議書につぎのような文言を書き加える必要があります。
(記載例)
『なお、上記不動産につき、被相続人の最後の住所は○○○○で登記上の住所は○○○○ですが、住民票の除票や戸籍の附票を取得しても一致を確認できませんでした。しかしながら、上記不動産は被相続人の所有に相違なく、これにつき何か問題がおきましても相続人全員で責任を負うことを申述いたします。』
6. 後日新たな遺産が見つかった場合に備える
後日新たな遺産が見つかり再分割が必要となると相続人に負担です。新たな遺産が見つかった場合の対応についても記載しておくことをおすすめします。
(記載例1)
「本書に記載されていない相続財産が判明した場合は、相続人 ○○○○(配偶者) がすべて取得する。」
(記載例2)
「本書に記載されていない相続財産が判明した場合は、法定相続分に従って分配する。」
7. 相続人全員で協議したという趣旨の文言を入れる
遺産分割協議書には、後日の紛争を予防するため、「相続人全員で協議した」という趣旨の文言を必ずどこかにいれます。
8. 委任の規定について
登記の申請や預金の払戻請求を相続人の代表にやってもらう場合は、委任の規定を入れます。
9. 祭祀承継者について
後日の紛争を予防するため、遺産の承継ではありませんが、「祭祀承継者」を明記することをおすすめします。
10. 債務の負担に関する取り決めについて
遺産分割協議書で債務の負担に関する取り決めをしても、債権者はこれに拘束されません。法定相続分に従って請求することができます。
11. 表記について
(1)「誰が、何を、どれだけ相続するか」を明確に
遺産分割協議書には、「誰が、何を、どれだけ相続するか」を明確に書きます。
(2)分割の客体の表記について
① 不動産は登記簿全部事項証明書(登記簿謄本)の通りに書きます( 固定資産評価証明書の表記を転記しないで登記簿全部事項証明書のの通りに書きます)
土地については所在、地番、地目、地籍を、建物については所在地、家屋番号、種類、構造、床面積を書き特定します。
② 預貯金の場合は「金融機関名・支店名」「口座の種類」「口座番号(証書番号)」を書き特定します。
※ 「残高」は利子などによって変動の可能性があるので書かないことをおすすめします。
③ 株式、公社債については、銘柄、証券番号、株数を書きます。
④ 自動車の場合は、車体番号または登録番号を書き、特定します。
12. 遺産分割協議書を相続人別に作る「遺産分割証明書」
遺産分割協議書は必ずしも同じ紙に全員連名で作る必要はありません。相続人の人数分(人数分 × 人数分)の「遺産分割証明書」を作り、1人ひとりに相続人の人数分を渡し、各相続人が相続人の人数分に署名・捺印します(結果的に相続人一人ひとりが相続人全員分を揃える)。効力は同じです。
13. 遺産分割協議書を公正証書で作るときの注意
遺産分割協議書で強制執行をするためには、きちんとした「債務名義」(強制執行することを許可した公文書)となっていなければなりません。
そのためには、「いつまでに、いくらを支払うか」を明確に記載する必要があります。
(給付文言について)
遺産分割協議書に、作為義務(何かをなすべきこと)を内容とする合意を記載する場合は「〇〇する」という表現にします。「支払う」「明け渡す」「引き渡す」というような表現です。
「支払うものとする」「明け渡すこととする」「引き渡すこととする」といった表現は強制執行をすることができる給付文言にはならないとされています。
不作為義務(何かをしないこと)を内容とする合意の場合は「〇〇をしない」という表現で記載する必要があります。
「〇〇をするものとする」「〇〇をしないものとする」といった表現は強制執行をすることができる給付文言にはならないとされています。
(給付内容について)
遺産分割協議書には、誰が、誰に対して、どのようか給付をすべきなのか、あるいはすべきでないのかを明確に表現し記載する必要があります。
(給付の対象について)
遺産分割協議書には、給付の対象物を特定する表現で記載する必要があります。不動産の場合は、登記簿謄本(登記事項証明書)のとおりに表現する必要があります。
(確認事項について)
確認事項は、特定の権利もしくは法律関係の存在または不存在を確認する合意を内容とする条項です。対象を特定する表現で記載する必要があります。
(形成条項について)
形成条項とは、新たな権利の発生、変更、消滅の効果を生ずる合意をすることを内容とする条項です。
(道義条項について)
道義条項とは、道義的な責任を認め合い、今後の紛争を予防するために記載する条項で、強制執行することはできません。給付条項と解釈されないよう「約束する」などといった表現で記載する必要があります。