相続分の譲渡~相続放棄は面倒という人に~

 □ 遺産はいらない、遺産分割協議への参加も希望しないときは、相続譲渡証書で無償譲渡することによって相続分の譲渡をし、事実上の相続放棄をすることできます。  

民法905条(相続分の取戻権)

1. 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。

2. 前項の権利は、1箇月以内に行使しなければならない。

行政書士は街の身近な法律家

埼玉県行政書士会所属

行政書士渡辺事務所

行政書士・渡邉文雄

 

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1. 相続分の譲渡とは

 

 遺産分割前の相続財産は、共同相続人の共有(民法第249条以下)状態となります。ただし、共同相続人は遺産分割前でも、自己の相続分を他の相続人又は第三者に有償無償を問わず譲渡することができます。

 

 例えば、遠隔地に住んでいるなどの理由で遺産分割協議への参加を希望しない場合は、相続人は、相続開始後、遺産分割までの間に、その相続分を他の相続人又は第三者に、有償無償を問わず譲渡できます。 

 又は、遺産分割協議の前にお金が必要だというときは、その相続分を他の相続人又は第三者に有償譲渡できます。

 

 相続分の譲渡は、「相続人たる地位(権利)の譲渡」であり、個々の財産の持ち分の譲渡ではありません。  相続分の譲受人は、相続人と同じ地位に立ち、遺産分割手続きに参加します。 譲受人をはずして行われた遺産分割は無効です。 又、相続分の譲渡により、相続分を譲渡した相続人は、遺産分割当事者の地位を失います。 

 

 相続分の譲渡により相続遺産が確定すると登記ができます。 

 

2. 相続分の譲渡と相続債務

 

 相続分の譲渡は、「相続人たる地位(権利)の譲渡」であることから、「相続分の譲渡」により、譲受人は債務も相続分に応じて負担することになるとされています。

 ただし、債権者との関係では、債権者が承諾しない限り債務者の交代は認められません。

 また、負債や連帯保証人の地位は、相続人が法定相続分に応じて引き継ぐことになります。

 

3. 相続分譲渡財産の買い戻し(相続分の取戻権) 

 

 共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人はその価額及び費用を償還してその相続分を買い戻し、譲り受け人の干渉を排除することができます(民法905条)。

  例えば、共同相続のひとりが他の相続人に無断でその相続分を第三者に譲渡した場合は、他の相続人は譲渡された相続分を買い戻すことができます。  

 買い戻す手続きは、譲り受け人に買い戻す旨を通知し、譲渡した相続分の価額(評価額)と譲受人が譲り受けに際し支出した調査費等の費用を払います。

 譲受人の承諾は不要です。譲受人が受け取らないときは供託します。  

 買い戻しは、共同相続人単独で行使できるとされており、譲渡から一か月以内に行わなければなりません。 

 

4. 共有持分の譲渡の取り戻し

 

 相続人は特定の相続財産について、自分の共有持分を譲渡することができるとされていますが、持分譲渡の場合には、包括的な相続分の譲渡ではないので、相続分譲渡財産の買い戻し制度は適用されません。

 持分の譲渡をやめさせるには、裁判所に持分処分禁止の保全処分を申し立てることが必要です。